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君がこの手に堕ちるまで。

【番外編】君を拾った夜の話。0日目、夜。

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俺が5年前から借りている賃貸マンションの間取りは2LDKで、築年数もそれほど経ってなくて綺麗だし、リビングと続きの一部屋の仕切りを取ってしまって広く使えているから気に入っている。

収入的には今はもっと家賃が高くてもやっていけるけど、生活に苦労した頃から住んでる愛着がある部屋だからわざわざ引っ越すつもりもない。

3年前に長く付き合った人と別れて同棲を解消した時、ベットやソファーとか少し大きめの家具や家電は俺に全部譲ってくれた。

だから俺の家の家具は全部2人用の少し大きめのサイズで、ダブルベットは寝室にした部屋のほとんどを占領してしまってアンバランスだけど、1人で寝る事にはもう慣れたと思う。

強いて言えば家賃が安い分最寄駅からちょっと遠かったから、そこが少しだけ不満だった。

駅から家までの間、そこそこの繁華街の横をすり抜けて歩かなければならなかったし、仕事の確認事項で電話する事が多く自転車だと危ないからそのうち乗らなくなった。

でも徒歩20分程の道は季節を感じられて気持ち良かったし、運動不足の解消にもなってちょうど良かった。

そろそろ寒くなってきたから初雪ももうすぐかなと思いながら、コートの襟を立てて家路を急ぐ。

忙しい毎日に慣れて、人生に恋愛がなくてもこのまま生きていけるように思えたし、もう2度と傷つきたくなかった。






「おい、大丈夫か……?」

道の端に蹲ってる塊は最初人だと思わなくて素通りしようとしたけど、全然動かないからちょっと心配になって声を掛けた。

子供か?こんな時間に一人で何やってるんだ?

「すいません……迷惑かけちゃって…って、あれ?」

顔だけこっちを向けた男はやっぱりどう見ても子供で、俺の顔を見て完全に固まった。

うっ、コイツ……顔がめちゃくちゃ可愛いんだけど!!やばい。

「うっわああ…お兄さんがさっきよりずっとイケメンになってるんですけど。なんでですかぁ?」

頰を真っ赤に染めて俺の手を掴んだ男は、その手をぶんぶんと振り回してケタケタと笑った。

吐く息は白いのに男は結構な薄着で、よく見ると暑いのかダウンをその辺に脱ぎ散らかしてたらしく拾ってやる。

「風邪ひくぞ?ちゃんと着ろ」

「だって暑いんですもん…」

ちょっと酒臭いから酔っ払いだとピンと来たけど、どう見ても高校生くらいだからこのままここに放置したら警察のお世話になるかも知れない。

何となくそれは可哀想で、しゃがんで少し話し相手になってやろうと思った。

「おい、お前高校生だろ?こんな所いたら補導されるから頑張って家に帰れ」

「やだな、俺、高校生じゃないですよ~?大人ですからだいじょぶです~」

全然大丈夫じゃない喋り方でヘラヘラしてたと思ったら、急に顔を伏せてめそめそ泣き出した。

「お水、買って来てくれるって言ったじゃないですか…のどかわいた…」

誰か一緒に飲んでた奴がいるのかと思って周りを見渡したけど誰もいない。

「連れがいるのか?じゃあ大丈夫なのか?」

「んー?連れは、お兄さんでしょー?一緒に飲んでたじゃないですかぁ」

「……誰と間違ってんのか知らないが人違いだ」

「えー、だって、水飲んで落ち着いたら、休めるとこ連れてってくれるって言ったのに…」

この辺は変な輩も多くてすでに唾をつけられてるらしく、お持ち帰りされそうで放っておけなくてため息をついた。

「馬鹿か、休めるとこなんて連れてかれたら、お前どうなるかちゃんとわかってんのか?」

「だって俺、今日泊まるところない…」

「……仕方ないな。家まで送ってやるから、住所教えろ。教えるの嫌だったら目印になるとこまででもいいから」

「個人情報なんで無理ですぅ。俺、お兄さんの家に行きたいです……」

「そんな簡単に他人の家に上がり込むな。危機管理能力無さ過ぎだ」

そういえばさっき、駅でミネラルウォーターのペットボトルを買ってた事を思い出して鞄から出して手渡す。

「ほら、ちょっと落ち着いてこれ飲め。買ったばっかりだからまだ冷たいぞ」

「お兄さん……めっちゃ優しいんですね…」

ひとくち水を飲んだらまためそめそと泣き出して、俺に抱きつこうと手を伸ばす。

「俺、今日は家に帰りたくないんです……」

その手を安心する様に握ってやって、困ったなと思ってると人の気配を感じて振り返る。

「げ、鷹宮さん……?」

「なんだ、連れってお前か」

ミネラルウォーターを持った男は行きつけのバーの常連で、ショタ専で未成年にばっかり手を出すと良くない噂の男だった。

「未成年に手を出すなってマスターに言われてんだろ。捕まりたいのか?懲りないな」

「いやいや、いつも俺を目の敵にすんの勘弁してくださいよ。やりづらいっすよ」

「ルール守れっつってんだよ。高校生をホテルに連れ込む気なら見逃せないなぁ」

「何か知らないけどそいつ泣いてんじゃないですか…。めんどくさ…。わかりましたよ、でも無理矢理ってわけじゃなかったんですからね?」

「わかったわかった、消えろ」

「ちぇっ、久々に上玉の可愛い子引っ掛けたのに…」

名残惜しそうに見てる男をしっしっと追い払って、俺は蹲ってる男がもう意識が遠のいて来てる事に気づく。

「おーい、こんなとこで寝たら下手したら凍死するぞ?頑張って歩け」

「………うっ、気持ち悪い…」

「おいおい、こんなとこで吐くな。ほら、そっちの草むらで…」

「道端で吐いたら……処理する人に迷惑かけるから…嫌です…」

「何をお上品な事を言ってるのか知らないけど、野ゲロも出来ないなら酒なんか飲むな…馬鹿か」

「じゃあ、トイレ連れてってくださいぃ。公園でもいいから…」

「いや、公園なんか俺の家より遠いんだよ。じゃあ俺の家のトイレならいいのか?」

ぐったりとして動かなくなったその男を背負って家に帰る羽目になった俺は、何故かそんなに嫌じゃないと思ってる事にその時は気がつかなかった。

「くっそ……、重たいし煙草吸いたい、畜生」

「うーーーん、うぇっ、吐きそう…無理…もう、無理…」

「……お前、俺の背中に吐いたらマジで許さないからな?」

思えばこの時から俺はお前に惚れてたんだ。

知れば知るほど可愛いと思えたのは、決してお前が別れた恋人に似てたからじゃなかったんだ。











ちょっと戻って、出会いのお話でした。









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