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君がこの手に堕ちるまで。

触れる。2日目、深夜。② 颯太side

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遼介さんは俺が一緒にいる時いつも余裕があって、何を言っても切り返しが上手くて。

例え俺を傷つけるような台詞を言ったとしてもそこには気遣いがあったし、表情は冷たくなかったから俺はそんなに傷つかなかった。

でも今は、遼介さんは少し怒ってる、間違いなく。

女の子と間違ったわけではないし、俺の下半身が誤作動を起こしてるわけでもなくて。

遼介さんだからなんだと勇気を出して伝えられたら、この人は拒絶はしないかも知れないけど。

でもきっと俺の事、気持ち悪いって思うんだろうな。

男の人をそういう風に意識して、寝顔を見つめて頰を触って、起きなかったら我慢出来ずに唇に触れていたかも知れない。

そんな事をしたら呆れられてしまう、この優しい人に。

「……颯太?」

嫌だった。嫌われたくなかった。

「遼介さん…あの……」

遼介さんは俺の目を逸らさずに真っ直ぐ見つめたまま頷いた。

「じゃんけんしませんか……?」

「……………は?なんでだよ」

一気にその場の雰囲気が変わって、遼介さんは表情を崩して俺を軽く突き飛ばした。

「じゃんけんで、ベット使う方を決めましょう!恨みっこなしで!」

「だから、ベットはお前が使えって言ってるだろ」

「それじゃあ俺が、気になって寝れないんです。働いて疲れてる週末に、ソファーじゃ疲れ取れないでしょ」

「ふざけんな、寝れないとか嘘ばっかりだろ。がっつり寝てただろーが」

ソファーに起き上がった遼介さんは、足を組んでため息をついた。

良かった。遼介さんの雰囲気が若干和らいだみたいで、上手く誤魔化せた気がする。

少し震える手に気づかれないように、オーバーアクションでじゃんけんを仕掛ける。

「ほら、いいから行きますよ?じゃーんけーん……ぽん!」

俺はグーを出して、遼介さんは後出しになるかならないかのタイミングでパーを出す。

「ほら!遼介さんの勝ちです」

「…そうだな」

「決まりなんですから従ってくださいね。遼介さんがベットです」

「違うな。お前がベットで決まりだ」

「………何言ってるんです?」

「勝った方が選ぶのがセオリーだ。俺は、ソファーがいいからソファーで寝る」

はぁ!?なんだよ、その理屈!
それじゃあどんな風にだって俺が勝たない限り遼介さんの思い通りじゃん!

「…っ、じゃあ3回勝負でっ!」

「じゃんけんはやり直しなしだろ。諦めろ」

「ぎゃっ!!ちょっと!遼介さん!?」

俺を左肩に抱え込んで立ち上がった遼介さんは、暴れる俺を物ともせず寝室のドアを開けて俺をベットに降ろす。

「夜中に騒ぐなっての。諦めて大人しく寝ろ」

そう言いながら布団を掛けられて、その上に座った遼介さんは俺の頭を撫でる。

「遼介さん…一生のお願いです。ベットに寝てください」

「こんなとこで一生のお願いを使い果たすんじゃない。もっと切羽詰まった時に使えよ」

まだ一番寒い時間帯に、ひんやりした寝室で布団に入らないでそこにいる遼介さんが気になって寝れそうもないのに。

「あのな…ソファーで寝る事なんてしょっちゅうなんだよ。仕事しながらついって事もよくある。慣れてるから大丈夫なんだってどうやったら伝わる?」

ぽんぽんと俺をあやすように叩きながら、困ったように遼介さんは笑った。

「颯太、さっき…」

「え?」

さっきってどれの事だろうと身構える俺に、遼介さんは俺の好きな低くて優しい声で囁いた。

「言い過ぎた。ごめんな」

「……そんな!遼介さんは間違ってないよ、誤解されるような事した俺が悪くて」

「違うよ。お前は全然悪くないんだ。だから俺を許すと思って、今日はこのままベットに寝てくれ」

な?って困ったように笑う遼介さんは少しだけ寂しそうで何も言えなくなった。

「お詫びに子守唄歌ってやろうか?あんまり上手くないけど」

やっぱりこの人はすごく優しい。
どうしよう、この人に嫌われる事がすごく怖い。

「下手くそな子守唄はいいですから、俺が寝るまでここにいて欲しいです…」

「わかったわかった。仕方ないな。寝るまでだぞ」

俺を子供扱いしてる優しいこの人は、やっぱり俺のお願いを断る事はなかった。






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