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いくら仲良しでも適度な距離は必要です。

【番外編】嘘をついてはいけません②

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駅までの道のりをいつもより少し早く歩いて、手を繋がれないように気を使った。

電車には普通に間に合って上手い事並んで座れたのは良かったんだけど。

こういう時こっそり見えないように手を繋ぎたがる晴人をどうやって回避したらいいのか悩んだ。

電車内は朝早いせいかそこそこ空いていて、隣町までの小一時間を俺はどうやり過ごそうか考えてたらいきなり睡魔が襲って来た。

「…悠太、どうした?眠いのか?」

そう言えば朝、慌てて飲んだ風邪薬が効いて来たのかも知れない。

少し身体も楽になったような気がするし、急激な眠気に瞼が閉じかける。

この電車の中でもたくさん晴人と話したかったのに上手くいかない。

「……うん、でも、大丈夫…」

「着いたら起こすから寝ててもいいぞ」

そんなもったいない事したくないのに、俺は晴人に寄りかかっていつの間にか眠りに落ちていた。

次に起きた時、俺が背負って来たリュックが晴人の膝の上に置かれてて、その下で俺の手はしっかり晴人の手に握り締められてる。

「うわ、ごめ…っ、晴人、俺ずっと寝てた?」

「まぁ。でもよだれは垂らしてなかったぞ。悠太、それよりお前、手が…」

やばい、体温高いのバレた?

「寝てたらほら、体温上がるよな。だからなんか、ちょっとあったかくなっちゃって。うん」

明確に聞かれてもいないのにベラベラと俺が言い訳すると、晴人は何回か瞬きして笑った。

「……可愛いな、悠太は」

今どこに可愛い要素あった?

「え?何言ってんの?」

「いや、こっちの話。あ、着いたな、降りよう」

晴人は俺と繋いでた手を離して、自分の持ってたリュックから薄手のジャンバーを出して俺の背中に羽織らせる。

「え?晴人、いいの?」

「ないよりマシだろ。もっとあったかいの持って来たら良かったんだけど」

電車から降りると吹きっさらしのホームで俺は外の空気に触れて身動いだ。

寝てたせいで余計に寒いし、晴れてるのに思ったより風は冷たく感じて息を吐いた。

晴人と同じ保育園だった時の遠足とか、小学校時代もよく来てた懐かしい動物園だけど、大きくなってから一緒に来た事はなくて俺は密かに楽しみにしていた。

「悠太、お前傘持って来てないだろ。天気予報ではこれから雨降りそうだから動物園じゃなくて、少し移動して水族館にしようか?」

「えっ?ここまで来たのに!?それにこんなに晴れてるじゃん…」

雨なんか降りそうにないのにそう言う晴人に俺はブーブーと文句を言う。

「急に降って来たらこの動物園、屋根がない所多いからな…。それにまた天気がいい日に出直せば良くないか?」

晴人の言う事はもっともで、動物を見たかった俺は意気消沈する。

「…………………でも俺、動物園がいい…」

「随分溜めたな。そんなに残念そうな顔されると俺も胸が痛いんだけど」

晴人はため息をついて、少し難しそうな顔をして考えてる。

「そう言えば、悠太、朝飯食って来た?」

「ううん、食べてない」

「ちょっと早いけどそこで昼飯食べて、それでも雨降って来なかったら動物園に入ろう。降って来たら諦めて水族館。わかった?」

本当に晴人はいつも俺に甘い。

「うん。わかった。早く食べよ!」

俺が笑うと晴人も仕方がないな、というように諦めた顔で笑った。

動物園近くの昔はなかった新しいお蕎麦屋さんに2人で入って、あまり食欲の無い俺でも麺なら何とか食べれたけど、正直味覚は死んでたから美味しいとかはあまり感じなかった。

「降って来なかったぞ、晴人。ね、動物園、入る?」

「……雨、降ると思ったんだけどな。当てが外れたな…」

晴人がすごく不安そうに空を見上げて呟いて、それから俺の顔をじっと見た。

晴人は俺よりずっと背が高いから、上から見下げられるとこっちも見上げる感じになる。

「ん?何?」

「いや、悠太が眼鏡してないから、変な感じだなって思って」

「また眼鏡のが好きって言うんだろ?」

俺はただ眼鏡を外して近づいた時、晴人の綺麗な顔が裸眼だとはっきり見えなくて嫌だから、コンタクトにしただけなのに。

いつも奢りたがる晴人を遮って2人できっちりレジで割り勘で支払いをして、店を出ようとしたら晴人が手招きした。

「悠太、外寒いから一度トイレ借りてから出よう」

「あ、そうだな、うん…」

蕎麦屋のトイレに2人で入ると誰もいなくて、俺がトイレを使おうとすると晴人が腕を引っ張って個室に入った。

「あ、え?何?」

混乱して2人で密着した状態で晴人の顔を見上げると、晴人が俺の後ろ頭を固定して唇を塞いだ。

「んんーーーっ!?」

今日はまだ一回もキスされてなかったけど、外だから油断した!

でもでもトイレは無くない?新しいお店だからトイレも綺麗だけど、でも無くない?

唇を離した晴人は俺の顔を覗き込んでもう一回触れるだけのキスをちゅっとして抱きしめた。

「眼鏡がないと、キスしやすいな」

「ば、馬鹿…っ、こんなとこでする事じゃないじゃん…」

「あのさ、さっきの嘘だから」

「え?何が?」

「眼鏡を掛けた悠太の方が好きなんじゃなくて、眼鏡を外した悠太もどっちも同じ位好き」

う、と思って赤面してると、俺を抱きしめたまま晴人は耳元で囁いた。

「眼鏡を外した悠太はめちゃくちゃ可愛いよ。だから外に出したくないんだ」

相変わらず晴人は俺に優しくて甘くて、そしてもっと熱が上がりそうなキスをもう一度されてしまう。

「雨降って来たらすぐ帰るからな?」

何度も念を押されて頷いて、やっとの思いで蕎麦屋を後にした。

ごめん、晴人…。
風邪、今ので移った、ほぼ間違いなく。
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