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いくら仲良しでも適度な距離は必要です。

幼なじみが非常に鈍感なのでそろそろ気づいてもらう事に決めました(晴人視点)

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悠太が階段から落ちた。

いや、正確に言うと俺も一緒に落ちたんだけど、気を失ってしまった悠太を抱えて突き飛ばした女子達を思いっきり冷たい目で睨んだら震え上がっていた。

悠太に変な事されないように適当に相槌を打っていたけれどもう限界だ。

こんなどうでもいい女子にどう思われようが嫌われようがもう知った事か。

牽制しても効かないならもっと悠太を守る為に頭を使わないと。

保健室では特に外傷もなく寝てるだけだろうと言われて目が覚めるのを待っていたけど、悠太の両親に連絡しても仕事で迎えに来られないらしく、俺の家に連れて帰る了承をもらって部屋のベッドに寝かせた。

俺はずっとある不満を抱えていた。

俺の事を腐れ縁だと時々言う俺の幼なじみは、俺がずっとそばにいる意味を全く理解しようとしないからだ。

穏やかな性格だと周りには思われている俺だけれど、本当はそんなに出来た人間でもない。

想いを自覚してからずっと待ち続けて来たから、待つのには慣れているけど。

我慢はかなりしたし、幼なじみで仲良くしてる限りはそのうち俺の事を好きになってもらえるかも知れないと期待してた。

眠ってる悠太の口は少し開いていて、ヨダレでも垂れそうな勢いで爆睡していた。

冷房が強過ぎると風邪を引きやすい悠太が寒くないように、薄手のタオルケットをお腹に掛けてエアコンの温度を上げた。

少し考えた後、起こさないように手をそっと伸ばして唇に指の腹で触れると、こそばかったのか口が閉じたからそっと唇を合わせた。

「…ん、ふ…」

漏れる悠太の可愛い声に思わず下半身が反応してしまいそうになって、唇を離して生まれつき黒くて柔らかくて触り心地の良い髪の毛に指を通して撫ぜて心を落ち着かせる。

こんな風に寝てる悠太の唇を塞いだのは何度目だろうかとため息をついた。

ごめんな、お前はファーストキスもまだだと思ってるかも知れないけど、とっくに俺が奪っちゃってるんだよな。

最低なのは自覚してるけど、寝ると眠りが深くて滅多な事で起きない悠太の体質を前から知ってたから、お泊まりとかでも寝てしまってから何度かこんな事をしていた。

眼鏡を外してる顔を見るのは久しぶりだし、昔の面影を感じられるあどけない寝顔に自然に頰が緩む。

眼鏡をかけてるから周りには地味だと思われてるようだけど全然違って、昔から可愛いし笑ったら陽だまりみたいにあったかい表情をするんだ。

長く一緒にいたから悠太の良さは俺が一番良くわかってるし、周りが悠太の良さに気づかなくても全く構わないし、俺だけが悠太の可愛い性格も顔も知っていればそれでいい。

……ってこれも変な独占欲だとわかってるけど、敵は少ない方がいいに決まってる。

「……こんなにアピールしてるのに、鈍感にも程があるだろ」

最近特に距離を開けられてるような気がするのは気のせいではないんだろう。

俺の気持ちに気がついたから避けられるのかと思ったけど、今まで通り一緒に歩いてくれるし、もう幼なじみじゃなくなるのを怖がって何もしないのは限界なんだよ。

男だとか女だとかそんな事はどうでも良くて、ただ好きになった人がたまたま男だっただけ。

手の届かない所に行ってしまう前に、気持ち悪がられても想いは伝えるべきだと、どうやって言おうか悠太が寝てる間に考え続けた。

俺の気持ちを昔から知ってる姉貴に邪魔されたら困るから「夜まで帰ってくんな」と一言だけLINEを送ると、俺はスマホの電源を落とした。

「…ん、晴人…?あれ、ごめん、俺寝ちゃってた?」

いつの間にか目を覚ました幼なじみの寝ぼけた顔が可愛くて笑ってしまったけど、俺は拳を握りしめて息を吸い込んだ。

「ほら、悠太眼鏡…。サイドテープルに置いてるから。なんか飲むか?」

「あっつい…水でいい…」

寝たままで眼鏡をかけて、何でここに寝てるのか考えてる風の悠太の顔を覗き込んで、やっぱりコイツが好きだなぁと思った。


「俺、考えたんだけど。悠太は俺と付き合ってる事にしよう」


考えてた台詞を思い切って口にして、もう戻れないと心を決めた。

「………え?何言ってんの?」

「もう無理だから。選択肢はないから」

ちょっと強引でもいい、鈍感なお前に気付いてもらう為に勇気を出して距離を縮めるんだ。

どうかその先に、一番大事な人を永遠に失うような事がありませんように。

長く拗らせて来た俺の想いがちゃんと伝わりますように。






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