いとしの生徒会長さま

もりひろ

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ヤキモチ

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 遠くで数人が動き回っている音を聞いた。なにかを話し合う声も。
 だから早く起きたいのに、俺の目は一向に覚めない。体が言うことをきかない。
 ──維新、ごめんね。
 もっと、ちゃんとそう言わなきゃなんだ。
 あんなに苦しそうで、血もいっぱい出てた。
 もしかしたら、病院に運ばれていって、もしかしたら、生死の境をさまよっているかもしれない。
 どうしよう。このまま、一生、維新に会えなくなったら。
 だって、俺。
 俺……。

「まだなにも言ってねえじゃんかよ!」

 そう叫んだ自分の声で目が覚めた。
 こめかみに伝う涙を、天井を眺めながら拭った。
 そこは見慣れない色をしていたけど、この部屋がどこなのか、俺はなんとなくわかっていた。
 たぶん、農業部の寮だと思う。
 ゆっくりと起き上がり、体にかかっていたタオルケットを掴む。
 ──維新が血を吐いた。
 そのことを思い出し、俺はうなだれ、頭を抱えた。
 すると、障子戸が鳴って、だれかが入ってくる気配もあった。
 ジョーさんだろうか、奥芝さんだろうか。俺のいる布団のそばへ腰を下ろすような音もした。

「卓、目が覚めたんだな」

 声を聞いて顔を上げると、ほっとした表情の維新がいた。
 その口元は生々しく腫れ上がっている。けれども、俺が心配するような重傷を負っている感じはなく、ちょっぴり安心した。

「よかった。どこか痛いところはないか?」
「維新っ」

 思わず抱きついていた。
 痛いところはないかって、本当は俺のセリフなのに、その言葉もほっぽりだして。

「……卓」
「維新、維新っ」

 なりふり構わず、維新の胴に巻きつけた腕をぎゅっとした。
 俺を落ち着かせるかのように、維新は優しい手つきで、ぽんぽんと背中を叩いてくれた。
 涙が溢れて止まらない。

「血が、血が……維新の口からいっぱい出てた。だから、俺のせいで維新が死んだらどうしようって思った」
「口の中切っただけじゃあ、人は死なないだろ」
「でも、でも、いっぱい殴られてた」
「お前が思ってるほど大したことじゃない。ゴルフ部だって、ちゃんと鍛えてるんだ」

 維新に肩を掴まれ、それをきっかけに俺は体を離した。

「でも、やっぱりごめん」
「……」
「俺……」

 維新がすっと立ち上がった。俺に背を向け、ガシガシと頭を掻く。
 手を下げても、イライラした感じでグーパーを繰り返していた。
 やっぱり怒っていても仕方ないと思う。あんな目に遭ったんだ。

「一つ、どうしても訊きたいことがある」

 維新の出した言葉で、俺は、いまのいままで忘れていたこうなった元凶を思い出した。
 黒澤の顔が浮かぶ。
 生徒会長の件を吹っかけられさえしなければ、こんなことにはなっていなかったんだ。
 それでもって俺も、維新ないしメイジに正直に話していれば、もっと違った道に進めていたんだ。

「維新、あのさ──」
「なんで、またここに来たんだ」

 低い、意図して感情を押さえたような維新の声。

「二度と行くなって言ったはずだろ?」
「なんだ、ヤキモチかよ。ガキが」

 敷居をすべる障子戸からそんな声が割って入ってきた。大きな体を屈め、ジョーさんが鴨居をくぐる。
 維新に視線をやってから鼻で笑うと、ジョーさんは俺の横に腰を下ろした。

「どうだ? 気分は」
「……まあ、フツーです」

 そうかそうか、と微笑み、また当たり前のように、ジョーさんは俺の頭を撫でた。
 いちいち避けるのも面倒で、されるがままになっていたら、維新に二の腕を掴まれた。
 無理やり立たされ、部屋からも引きずり出される。

「維新、ちょっと待てって」
「松!」

 俺に構わずずんずんと進む維新の肩を、背後から伸びてきた手が掴んだ。
 腕を回して維新は振り払うと、足を止めることなく囲炉裏の部屋へ入った。

「どうもお邪魔しました」
「待て、松。やつらがまだその辺をウロウロしているかもしれない。この時間に出ていくのは危険だ。せめて卓は置いていけ」
「ここに残していくほうがよっぽど危険ですよ。大体、この寮の留守番を、なんで卓に頼んだんですか」

 維新はようやく立ち止まり、しばしジョーさんと視線をかち合わせる。
 二人に挟まれた俺は、どっちつかずでキョロキョロするしかない。維新の言うことにも一理あるし、ジョーさんの言いたいことに賛成もできる。

「卓に留守番を頼んだのは、たしかにうかつだった。それは素直に謝る。悪かったな、卓」
「……あ、いえ」
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