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もりひろ

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remember that

ネオライド 9009

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 白砂を敷き詰めただけにしか感じられなかった。
 窓にまつげをすって目を下げれば、雪で狭められた川が一筋、力なく流れている。ところどころに立つ木々は頭も足も覆われて、茶けた胴しかわからない。
 ルキレナさんの話じゃあ、ゆうべは、結構な雪嵐が通っていったらしい。にも拘わらず、けさの空は、ウソのように晴れ渡っている。
 上着を一枚、とりあえずで借りた。でも、そんなに寒くなかった。
 それもそのはずか。
 暖炉のある部屋から間続きのガレージへ行って、すでに暖められてあった車に乗ったんだ。
 その車は、サイズが操縦している。ハンドルは、飛行機の桿みたいな形だ。ガレージのシャッターが開いた瞬間、車は、上も下もない道路へ飛び出した。
 なんとなく、そんな予想はしていた。だから、車が飛んだことに驚きはしなかったけど、振り返った先に見えた崖には、思わず声が出た。さっきまでいたルキレナさんの家は、大地の下にあった。
 崖の穴が、ゆっくりと閉じられていく。
 朝ご飯を食べながら、きょうの予定を聞いた。これから港へ向かい、船で、ダーグーニーを出る。それから、コムクロム近くの基地で、ジェノバユノスと合流する。
 車内に響くオシャベリがうたへと変わった。言葉がメロディを刻む。
 当然なのか、すれ違う車はない。相変わらず、下は道路もないし、集落もない。
 淡々と目的地へ向かっているだけ。
 車へ乗り込む前から、サイズは難しい顔のままだ。朝ご飯のときは……そうでもなかった気がする。少なくとも、おはようのあいさつまでは普通だった。
 俺は、ズボンのポケットから端末を取り出した。
 サイズからもらったやつ。
 朝ご飯を平らげたあと、港へ向かう準備を、サイズが進めている中、俺は、ルキレナさんから端末の操作を教わった。起動の仕方、落とし方、天井のバーに流れるマークの意味などなど。電話の代わりにもなれば、文字だけでも、相手とやりとりができる。
 起動して、真っ先に画面に出てくるのは、その地域のトップニュースらしい。いまもひっきりなしに替わっている。
 時間や日にちなんかは、その地域へ入ったら、自動的にマッチングされるらしい。
 なにもかもがさっぱりな俺だけど、いつか使いこなせるようになってみせる。そう思いながら、元のポケットに端末をしまった。
 一呼吸置いて、サイズの横顔を盗み見る。思いきって話しかけてみよう。
 俺は、息を吸い込んだ。

「あのさ、ちょっと思ったんだけど、朝ご飯のとき、サイズ言ってたじゃん」
「はい?」

 サイズがちらっとこっちに目をやる。なんですかと、低く、囁きのように言う。

「俺、べつに一人でもいいよ。ほら、インヘルノもいるしさ」

 リアシートでのびのびしているインヘルノを撫でる。手はそのままに、上半身を少し傾けて目でも窺ってみれば、サイズが短く息をついた。

「なんのことですか」
「わかってるくせに。サイズ、ここへ戻ってくるんだろ。だったら、セムって基地へ行くの、俺だけでもいいじゃん。てこと」
「……」

 サイズは、俺をジェノバユノスに預けたあと、とんぼ返りする気でいる。
 どうやら、それを告げずに、ルキレナさんの家から発とうとしていたらしい。けど、朝ご飯のときに、ルキレナさんから問い質された。
 また「アキ」になんの説明もしないのって。
 サイズの言い分じゃ、向こうに着いてから話すつもりだったってことだけど、そのときの俺には、どうでもよかった。
 とにかく、朝ご飯がおいしかったのだ。
 焼き立てのパンとか、そこで溶けるバターの香りとか。スープは濃厚でクリーミーな、なんだろう、とにかくうまいやつ。温野菜にかかっていたドレッシングもおいしかった。
 そうだ。それからだ。
 サイズが遠慮なく、頭のてっぺんから、不機嫌をまき散らしているのは。
 でも、ちょっと。……ほんのちょっとだけ、うれしかった。どんな感情でも、抑えずにいてくれている。あまり長引くと面倒くさそうではあるけれど。

「船はコンピュータ制御で動くんじゃん。セムまでひとっ飛び!」

 もちろん、先の見えない嫌な予感は、頭に残っている。
 サイズは、なにかしらの用事があるからここへ戻り、でもそれは、俺が知ったところで、どうにもできないことだ。
 一人で行動できるかも不安だ。
 俺が不安だからこそ、サイズへの負担は減らしてやりたい。
 サイズの優先順位が、たとえ俺と違っても、無謀でも、がんばってみたい。
 いつかは、どの星へも、一人で行けるようになりたいんだ。

「せっかくの申し出なんですが。これから乗る船は、ダーグーニー政府のものです。そこに、あなた一人だけを乗せる気は、俺にはありません。たとえ警備が万全でも」

「ダーグーニー政府」と聞いて、俺は怯んだ。でも、畏れはすぐに呑み込む。
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