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もりひろ

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冬の食卓の風物詩だった

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「もちろん、すぐに拘束されましたよ」
「だよね。やっぱし」
「あなたがレグに連れて行かれた場所は、レグの私邸ではありますが、人の目がないところではありません。あの騒ぎを見ていた人間もいます。政府が一番恐れているのは、いわゆるスキャンダルとして、あの一部始終が世界に広まることです。ただでさえ、最近のレグの挙動は目に余ると嗅ぎ回られていたので、ようやく監視下に置く処置を施したようです」
「じゃあ、もう悪いことできないね」
「そうですね」

 サイズの返事を聞いてとりあえずは安心し、俺は野菜を口に入れた。
 スープはまだ熱い。息を吹きかけて冷ましている中、ふと気づいたことがあった。

「あのさ、あのサイズそっくりのロボット。あれって、結局、少佐の仕業だったんだよな」

 サイズは、食べていたパンを置いた。

「残念ながら、そうなりますね」
「思ったんだけど、あれってなんのため? 俺を欺くだけにしては、やり方が気持ち悪すぎる」
「それが、今回の問題で一番の見過ごせない点です。ヒューマノイドに関する法律は厳重なので、そういう観点からでも、レグを拘束し、尋問する必要があります」
「じゃあ、ほんとのところはまだわかんないんだ……」

 首元をさすってから、俺はずずっとスープを啜った。トロミがあるぶん、思いのほか口の中へ入ってしまったのと、熱さがまだ残っていたのとで、舌先をちょびっとヤケドした。
 ヒーヒーいっていたら、くすっと笑う声が聞こえた。

「そういえば、アキさんは猫舌でしたね」
「……ネコジタ?」

 俺が訊くと、サイズは少し驚くような顔をした。

「熱いものをすぐに食べられない人のことを、そういいます。……まさか、猫もわかりませんか?」
「それはわかる」

 暖炉のほうへ視線を向けた。その前に敷かれているラグで、ずっと丸くなっているビロードを指さす。

「インヘルノを小さくしたやつでしょ。こんなくらいかな」

 フォークをプレートへ残し、俺は両手で、「こんなくらい」を作った。
 サイズが軽く頷く。

「たしかに、インヘルノの『なり』はそれに似ています。ただ、生物学上では、全くべつの系譜を辿ったものとされています」
「あ、そうなんだ。てか、ロボットの存在もあってか、俺はこの世界の生き物がよくわからない。正直、俺の中では、インヘルノの大きさの動物って、人とこういうふうに過ごせるって感じじゃないんだ。サイズが普通に連れてるから、なんとなく触れてもいたけど、そうじゃなかったら、たぶんこうしてられなかったと思う」
「ペットのロボット化は、動物の移動制限が厳しいからなんです。生態系の破壊や疫病の懸念もあって。……と、まあ、世界は広いですから、アキさんが新たに知る事象もたくさんありますよ。記憶うんぬん関係なく」

 記憶、と聞いて、俺は崩していた足を正した。テーブルから、ソファーにいるサイズへと体を向ける。

「こんなこと言ったら、サイズの気を、また悪くさせるかもしれないんだけど……」

 サイズも手を止め、前傾だった姿勢をちょっと戻した。

「サイズは、記憶をなくす前の俺を知ってるわけだろ。さっきのネコジタのことも、前から知ってるふうだった。サイズは、その……モデュウムバリの……」

 俺が言葉に詰まると、サイズはいち早くその理由を察してくれたみたいで、ふっと笑った。

「続けてもらって構いませんよ。さっき、灸を据えられたので、冷静に聞きます」
「……うん」
「むかしから反抗ばかりしてますけど、あの人の言うことは的を射ってるんで、そろそろ素直に聞くことにします。俺も大概ですよね。何度同じことを言われても繰り返す──」

 いや、いまはそんな話、どうでもいいですね。呟くように言って、サイズは、続けてくださいと手を出した。

「うーんと。改まれると困るんだけど。……その、サイズは皇子さまじゃん? 俺ってさ、やっぱ記憶がないせいか、この世界のことぜんぜん理解できてない。ロボットが普通に存在してるのもピンとこないし。だから、俺が認識してる『皇子さま』も、みんながいう『異国の皇子さまのサイズ』とは違うのかもしれない」
「それは、俺自身も違うと思ってますし、世間も別ものと考えてるんじゃないですかね。なにより俺は、モデュウムバリを出ると決めた時点で、皇子であることは捨てたので」
「……捨てた?」

 思わぬ言葉に俺は目を丸くした。
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