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remain
灯る線
しおりを挟む何種類かの料理が大きめのプレートにまとめられ、一人分として出てきた。気持ちが豊かになる匂いをまとった湯気を立ち上らせている。
すぐに手をつけられなかった俺だけれど、フォークは、サイズより先に掴んでいた。
肉と野菜の煮込みがメインらしい。
挽き肉と野菜を混ぜたのを、もちもちの生地で包んで茹で、その上に赤いソースをかけたもの。蒸かした緑色の野菜。丸いパンが二つ。最後に、トロミのきいたスープが出てきた。
メインの肉は厚目なのにだいぶ柔くなっていて、とても食べやすい。野菜も一つ一つがゴロゴロと大きいけど、繊維がちょっと残るくらいまで煮込まれてて、味も染みている。
暖炉もあるように、ここは寒い地方なのかもしれない。体がぬくまる料理が中心だった。
器からスプーンからフォークからすべて木製だ。肉も野菜も柔らかく、ナイフは必要なかった。
アルドで食べたのもそうだけど、これも、懐かしいような初めて口にするような、不思議な感じがする。
じかにラグへ腰を下ろしている俺は、ソファーにいるサイズをちらっと見上げ、噛みごたえのあるパンをかじった。
ルキレナさんとインヘルノは、すでに食事をすませたらしい。
「アキさん、僕の顔になにかついてますか」
「え、なんで」
「手を止めてまでこっちを見ているので」
半月にはなっていたパンを見下ろした。
「べつに……」
なんでもないと、俺は首を振った。
だけど、見つめてしまってもいた。人が食事をする姿は、とくに珍しいものでもないのにだ。
俺は、自分へ言い聞かすように、もう一度首を振った。
サイズはちゃんと眠るし、ものも食べる。俺たちと変わらない「ヒト」なんだ。
「あのさ、ジェノバユノスとビショップはどこにいんの」
口の中を空っぽにし、俺は思いきって話しかけた。
肉を食べようとしていたサイズは、一旦口を閉じてから、答える。
「けさ、ここを発ちました。これから近くの基地を経由して、コムクロムという星へ向かいます」
「コム……クロム?」
「モデュウムバリに縁のある、王政を執っている海洋の星です。大気の、中間より上の広範囲が氷に覆われているため、象牙色に近い、中規模程度の惑星になります」
サイズがまた丁寧な口調になっているのに気づいた。
俺は、さっきのような接し方がいい。ぶっきらぼうだったけど、それが「本来のサイズらしさ」なんだと思う。
「まあ、ジェノバユノスは仕方ないにしても、ビショップまで行っちゃったの? サイズを残して」
俺はそこまで言って、あくまでビショップは、サイズのプログラムの元で行動しているんだというのを思い出した。
ビショップの判断にせよ、勝手で行ったのではなく、そうせざるを得なかったなにかが、サイズにもあったんだ。
「強制的に出されたようです」
「……強制って、だれに」
「だれというより、これ以上のトラブルは避けたいと考えているダーグーニー政府にですか」
サイズはフォークを置いた。とくに表情は変えず、淡々と続ける。
「レグがあのようなことをしたのには、少なからず僕にも原因がありますが、一連のやり方に重大な問題もあります。なにより、関係のないあなたを巻き込んだ。それも、命を脅かすような卑怯な手を使って。そこが最大の問題と、僕は考えています。治安局にとってもダーグーニーにとっても、レグは、たくさんの功績を残した逸材であり、また、将来を有望していた存在ですが、今回の件はさすがに見逃すことのできないものと、当局も捉えています」
「……」
「しかし、第一の先進国というプライドもあるんですかね。僕にはあまり介入されたくないようで、強制退去を言われました」
「でも、今回のことだけを見れば、全部あっちが悪いんじゃん。なのに、それっておかしくね? 俺は、あの少佐とサイズの過去がわからないから、むかしのことについてはなんとも言えないけど、強制退去って……」
妙に腹が立って、フォークを肉に突き刺して食らいついてやった。
「仕方ありません。個人は所詮、組織には敵わない。……というかアキさん、この話、続けても大丈夫ですか」
「あにが」
もぐもぐと口を動かしながらサイズを見上げた。
サイズは表情を緩め、いえ、と首を横に振った。
俺は肉を呑み込み、フォークを、今度は野菜へ向けた。
「ところで、あの少佐っていまどうなってんの。あのあとって……」
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