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もりひろ

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humanoid

水面下で手ぐすね引く

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 久しぶりに太陽を見た気がした。
 ジェノバユノスの船から、舗装された地面へと降り立つ。俺は手をかざして青い空を仰いだ。一見暑そうな外気だったけれど、吹き抜ける風は涼しい。
 また一隻、宇宙船が空の彼方へ消えていく。
 辺りを見渡せば、三百六十度、船着き場が広がる場所。建物は見えない。
 ダーグーニー随一というこの船着き場は果てしなく広かった。
 あっちでは、大きな船へ荷物を積んでいたり、あっちでは、もっと大きな船から大勢が降りてきたりしている。

「アキ」

 少し離れたところにいたジェノバユノスが手招きをしている。
「なに?」と、俺は窺いながら近づいた。
 なにかの標識だろう立て札のそばで、ジェノバユノスはマンホールの蓋を開けた。下をちらりと見やり、俺にも目を向ける。
 俺も覗いてみれば、天井から入るタイプの乗り物が置いてあった。ゆらゆらと揺れている。もしかしたら、地面から浮いて進む乗り物なのかもしれない。
 内装は車のそれに似ていた。
 フロントガラスがあって、ダッシュボードがある。前に二席。リアシートはベンチタイプが一席。
 インヘルノが先に乗り込み、リアシートへ長々と収まる。
 ジェノバユノスが右のシートへ座り、俺が左に座った。
 しかし、この車にはハンドルがない。
 ジェノバユノスは携帯用の端末を出し、右側にある差し込み口に入れた。すると、車のフロントガラスが画面になり、文字が映し出された。

「ん? なんだ」

 フロントガラスに映った文字盤を操作しながら、ジェノバユノスは変な声を出した。

「どうしたの」
「入国許可が下りない」
「……でも、船は降りれたじゃん」
「ああ。船自体の越圏と着陸の審査は通っているんだが、俺の入国許可が下りない」
「だと、どうなんの」
「下りるまで、一旦待機だな」

 ジェノバユノスはため息を吐くとシートにもたれた。

「もしかしたら、基地の騒ぎの影響がここまできているのかもしれない」
「思ったんだけどさ、俺って、ジェノバユノスやサイズみたいな身分を証明するもの持ってないじゃん? それでも入国できんのかな」
「お前にはほら、それがあるだろ」

 と言って、ジェノバユノスは俺の首元をさした。
 それは、サイズから預かったあのペンダント。俺は青い石を指で掴んで持ち上げた。

「これ?」
「その結晶の青は、モデュウムバリの皇族か、皇族の血筋を持つ者しか身につけられない、ロイヤルブルーを示している」
「え、そうなの? アース色ってやつじゃなくて?」
「一般にはそうとも言うが、正式にはモデュウムバリの青とされている。……って、身分証の代わりにサイズからもらったんじゃないのか」

 俺は首を横に振った。

「ただ預かっただけ。そんな大それたものだなんて全然聞いてない」
「皇族に由来するものだと言ったら、受け取ってもらえないんじゃないかとサイズは思ったんだな。きっと。まあ、お前の身分証明書は、あいつが発行の申請を出しているだろうし、そのあいだの繋ぎとして、万が一のことも考えて、それを預けたんだろ」

 俺はもう一度ペンダントを見た。
 アルドの兵隊さんがサイズにしたように、これを見つけたお偉いさんたちは一列に並んで、敬礼でもするんだろうか。……想像もつかないけど、めんどくさいことになりそうな予感だけはする。

「ところで、この……車みたいな乗り物、この港の建物まで運んでくれるやつ?」
「ああ」
「やっぱり。ハンドルがないから、目的地は決まってるんだろうなと思ったんだ」

 ジェノバユノスの入国許可が下りるまで、このダーグーニーについて俺はいろいろ訊いた。
 星自体の大きさはモデュウムバリと同じぐらい。ただ、人口は比にならないほど多いらしい。あまりにこまかいことは俺の理解の範疇を超えてしまうから、あらましだけにしておいた。
 なにかを報せる小さな音がした。ジェノバユノスがフロントガラスに指を滑らせ、文字列を操作し始める。

「さて、入国許可も下りたし、ここを出るか」

 天井の蓋が閉まると車内の空気は一度クリーンになった気がした。
 車はまず地下へとしばらく向かい、一旦止まってから滑らかに進み始めた。

「サイズ……大丈夫だよね」

 ここへ来るまでにも訊いたけど、また口にせずにはいられなかった。
 ジェノバユノスは苦笑する。

「まあ、一つ問題があるとしたら、あの騒ぎを起こした人間をサイズが特定できるかだな。あのロボットを停止させても、証拠物件として治安局へ提出しなきゃならない。踏み込まれる前にデータの解析ができればいいが、あそこのコンピュータじゃあ、それも無理だろう」
「そのデータを解析するだけで犯人がわかんの」
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