デカラバ! アフター

もりひろ

文字の大きさ
上 下
10 / 14
つがれ

しおりを挟む


 松宮さんから渡された地図をよくよく見ると、その場所は、田んぼに囲まれたところにあることがわかった。
 警察署近くの停留所からバスに乗る。
 橘さんがいるらしい場所の近くで降りて、そこまでは歩いて行った。
 ここら辺は何度か通ったことはある。街と街のつなぎの区間みたいなところだ。
 田んぼが広がっていて、前に住んでいたアパート近辺も静かだったけど、ここはのんびりとした雰囲気がある。
 遠くに住宅の群れが見える。しかし、ここら辺は、家がポツンポツンとしかない。そして、大抵木々に覆われている。
 橘さんがいるらしいところを発見した。ここも、平屋の家を覆うかのように大きな木が伸びていて、幹のそばには車庫もある。
 あまり新しい感じはしない白い家だった。
 ちょっと中へ進むと、庭に橘さんの姿があった。
 スーツ姿の男の人と話をしている。五十代くらいか。その人がまず俺の存在に気づいて、その目の動きで橘さんも振り返った。

「佑」

 橘さんは目を見開いて、それでも、やっぱり来たねって感じの表情をした。
 もしかしたら、俺がそっちへ行くと、松宮さんが連絡したのかもしれない。
 俺は思わず立ち止まって、わざと暗い顔をしてみせた。
 橘さんは、スーツの男の人に軽く頭を下げると、こっちへ駆け寄ってきた。

「ごめん。佑」
「……なんで謝んの? ていうか、どういうこと? なんなんだよ、ここ」
「うーん。早い話が、新しい愛の巣候補って感じかな」
「は?」

 橘さんは、きょとんとなるしかない俺と、自分の胸、背後の平屋を順に指さした。

「ここ、借りようかなって」
「借りる? 住むの?」
「そう。いや、まだ正式なサインはしてないよ」
「待って。ほんとにわからない。意味が」
「だからさ、俺ときみでここに住もうよってこと」

 俺は目をしばたたいて、橘さんの後ろにある白い家を視界に入れた。
 そこへ、あの男の人が、ちょっと申し訳なさそうにして、あいだに入ってきた。
 心の中で首を傾げつつ、とりあえずは会釈する。
 橘さんは、その人に俺のことをルームシェアの相手だと紹介した。そして俺には、不動産屋のなんとかさんだと言った。けど、この耳に、その名前は入ってこなかった。
 だって、橘さんは東京に住むための家を探してるんだと思っていたのに、こんなところの、しかも一軒家を借りようとしている。
 平屋だけど、庭もあるし車庫もある。
 ちょっと古っぽいけど、白いから、今どきふうな外観だ。
 家一軒を借りるって、どのくらいのお金がかかるのか、俺には想像つかない。それに、そこまでの経済力もない。
 俺は相当な困惑に陥った。
 いや、その前に東京はどうなった?

「──佑?」

 橘さんに肩をトントンされ、我に返った。
 あの男の人の姿もなく、橘さんに訊くと、次の約束があるということで会社に戻った、と言った。

「佑。もしかしてきょう、エリカに会った?」
「エリカ? あ、そうだ。俺、その人のこと訊こうと思って、警察署に行ったんだ。そしたら、あんた帰ったって言うし」
「会ってないの?」
「エリカさん? うん、会ってない。てか、そのエリカさんて、俺と同じくらいの背で、黒髪のボーイッシュな人だよね?」
「そうそう」
「だったら、あんたの家から出てくるの見かけただけ」

 それから俺は、エリカさんが家に置いていった書類と手紙を、勝手に見たことは一応謝った。
 でも、俺にだって、あれはどういうことかと咎める権利はあると思う。

「妹なんだよ」
「え?」
「江梨香。その書類、ほんとはポストに入れとけって俺は言ったんだけどね。きみに挨拶したいとか言い出してさ。もし、変な心配させたならごめん」
「変な心配って、東京のアパートのこと?」
「それね、妹の部屋を探してたんだ。ほら、俺は東京に住んでたことあるし」
「ねえ、ちょっと待って」

 橘さんは埼玉の人だ。もちろん、妹さんも埼玉の人ってことになる。それがなぜ、わざわざこっちで会うことにしているんだろう。
 橘さんが実家に行けば話は簡単に済む。向こうのほうが東京に近いんだし。橘さんの休みが不規則だからというのもあるかもしれないけど、休みがないわけでもない。

「俺、じつはもう一つきみに謝らなきゃいけないことがあるんだ」
「な、なに?」
「あのマンション、ほんとは妹と住んでたんだ。最初は」

 橘さんが言うには、妹さんは、東京に本社のある会社の、こっちの営業所に勤めているらしい。警視庁から橘さんに異動の話が来たときに、どうせならと、妹さんのいるここを真っ先に選んだんだそう。その妹さんが、九月から東京の本社勤めになるために、部屋を探すのを手伝っていたらしい。
 ……全身の力が抜けた。
 一度は、なにあいつと思ってしまった江梨香さんに、心中で手を合わせる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

専業種夫

カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。

嫌がる繊細くんを連続絶頂させる話

てけてとん
BL
同じクラスの人気者な繊細くんの弱みにつけこんで何度も絶頂させる話です。結構鬼畜です。長すぎたので2話に分割しています。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

公開凌辱される話まとめ

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 ・性奴隷を飼う街 元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。 ・玩具でアナルを焦らされる話 猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。

指定時間ピッタリ有能スケベ配達員くんの、本日最後のえっちなお届け物タイム♡ ~オレ、彼のお得意様なんデス♡♡♡

そらも
BL
よくある配達員×お客様の、お荷物届けついでにそのまま玄関でおセックスしまくっちゃうというスケベ話であります♡ タイトルにあるお得意様のフレーズ通り、もう二人にとっては日常のひとコマな出来事です♡ ただし中身は受けくんの台詞オンリー(擬音付き+攻めくんのはぁはぁ声は有り)ストーリーとなっておりますので、お読みになる際はどうぞお気を付けくださいませ! いやはや一度受けくんの台詞だけで進むお話書きたかったのよね笑 いつか別シチュになるとは思いますが、今度は攻めくんの台詞オンリーのスケベ話も書いてみたいものでありますぞよ♡ ちなみに今回作中で攻めくんはまだしも受けくんの名前がまったく出ておらんのですが、一応二人はこんなお名前(&年齢とご職業)となっておりますです♪ 攻めくん:光本里史(みつもとさとし)二十二歳、ナデシコ運送(なでしこうんそう)通称、シロウサナデシコの配達ドライバー。 受けくん:阿川未緒(あがわみお)二十八歳、普段は普通の会社員。週に2~3回はシロウサナデシコを利用しているいわゆる『お得意様』。 ※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。 ※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!

処理中です...