デカラバ! アフター

もりひろ

文字の大きさ
上 下
4 / 14
思われ

しおりを挟む


 朝、食事が終わったあと、後片づけをして、俺がゴミをまとめていると、珍しくかちっとした格好の橘さんが現れた。
 ワイシャツにネクタイ。ピンストライプのスラックスという姿。それとおなじ柄のジャケットを羽織っている。
 やっぱり、こういう格好の橘さんもかっこいい。ついつい見とれてしまう。
 この隙のない、できる男感が。

「あ、佑。ゴミは玄関に置いといて。俺が出してくるから」
「え。なんで」
「前に言ってたでしょ。うるさいおばさんに絡まれて困る、って」
「あー……」

 橘さんのマンションは、意外と、幅広い年代の人が住んでいる。俺には、若者向けのいまどきなスタイリッシュな建物に見えていたけど、そのじつ築年数は結構たっている。
 そして、ご近所付き合いが盛んなのも意外だった。示し合わせたように、おなじ時間に、おばさんたちが集積所でたむろしているのだ。
 手前味噌かもしれないけど、橘さんはかなり顔がいい。おばさんたちは、橘さんが警察官であるのも知っているから、なおのこと、いろいろ噂している。
 そんな人たちが、橘さんの家に居候している俺を見逃すわけがない。すかさず掴まえて、ああだこうだ聞き出そうとしてくる。
 始めは俺自身のこと。そのうち、橘さんのプライベートや、本人には聞きにくい仕事のことをガンガン訊いてくるようになった。
 どこの人? 結婚してるの? 彼女は? 警察ではどういう役職なの? どんな事件を扱ってるの? などなど。

「すいません。俺、ただの居候なんで、なにも知りません」

 そう答えるしかなく、集積所から逃げるようにして、俺は部屋へと戻る。
 かなり苦しい言いわけ。
 でも、どんな事件を扱っているかは俺も知らないし、そこは訊かないのが暗黙のルールなんじゃないかと思う。
 だから、いないときを見計らって下りていくのに、おばさんたちはどこからともなく現れ、徒党を組んでずけずけ訊いてくる。
 ちょっと怖い気もしていた。

「佑。じゃあ、行ってくるね」
「うん。ゴミ、ごめん」
「いいよ」

 ゴミを持った橘さんは、玄関の壁に袋をぶつけてまで、律儀に「行ってきますのチュー」をして、出かけていった。
 じつはもう一人、俺には、なるべくなら顔を合わせたくない人がいる。
 お隣さんだ。
 そのお隣さんは、だいたい朝の七時過ぎに出かけて、夕方の五時すぎに帰ってくる。真面目そうな眼鏡をかけていて、いつもスーツ姿で出勤する、独り暮らしの男の人だ。
 俺は、本島さんの一件以来、この「いかにも真面目そうな眼鏡の人」を敬遠するようになった。
 笑顔で挨拶してくれて、いい人そうなんだけど、そのいい人そうというのが、裏がある感じがして怖い。
 しかし、このお隣さんに関しては、橘さんには話していない。最近越してきたばかりの人だし、本島さんに重なるから怖いとは、さすがに言いにくかった。



 昼間、俺は寝室を掃除しながら、橘さんの誕生日になにを贈ろうか考えていた。
 そもそも、あの人の欲しいものってなんだろう。
 掃除機の手を止め、うんうん唸ってみる。
 冬なら、マフラーや手袋なんかの小物系を贈れるんだけど、いまは夏真っ盛りだ。
 アクセサリーがいいかなと思えど、俺はあまり着けないから、なにを選んだらいいかわからない。
 いっそ現金にしようか。俺なら、ヘタなプレゼントより、そっちのほうがいい。
 ただ、そういうのは野暮というか、味気ない気もするから、結局は堂々巡りになる。
 和室へ掃除機を移したとき、橘さんのノートパソコンが目に入って、俺はぽんと手を打った。
 プレゼントのいいアイデアがないか、検索でもしてみよう。
 午後になって、気合いの飲み物を用意して、ローデスクのクッションに腰を下ろす。
 さてと、パソコンを立ち上げる。
 俺としては、年上に贈り物をするというのが、最初の考えどこかもしれない。長く生きているぶん目が肥えているだろうから、それなりの物じゃないとカッコつかなそう。
 これまでフリーターの経験しかなく、いまはニートの俺は予算に余裕もない。お手頃な値段で、橘さんがすごく喜んでくれて、いつも身につける物か、傍に置ける物がいい。
 それを想像してみて、頬も緩む。
 俺が一生懸命選んだプレゼントを、橘さんは毎日身につけてくれる。仕事のときも、家にいるときも。そして、それを横で眺めて、幸せを感じる俺。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

専業種夫

カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。

嫌がる繊細くんを連続絶頂させる話

てけてとん
BL
同じクラスの人気者な繊細くんの弱みにつけこんで何度も絶頂させる話です。結構鬼畜です。長すぎたので2話に分割しています。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

公開凌辱される話まとめ

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 ・性奴隷を飼う街 元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。 ・玩具でアナルを焦らされる話 猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。

指定時間ピッタリ有能スケベ配達員くんの、本日最後のえっちなお届け物タイム♡ ~オレ、彼のお得意様なんデス♡♡♡

そらも
BL
よくある配達員×お客様の、お荷物届けついでにそのまま玄関でおセックスしまくっちゃうというスケベ話であります♡ タイトルにあるお得意様のフレーズ通り、もう二人にとっては日常のひとコマな出来事です♡ ただし中身は受けくんの台詞オンリー(擬音付き+攻めくんのはぁはぁ声は有り)ストーリーとなっておりますので、お読みになる際はどうぞお気を付けくださいませ! いやはや一度受けくんの台詞だけで進むお話書きたかったのよね笑 いつか別シチュになるとは思いますが、今度は攻めくんの台詞オンリーのスケベ話も書いてみたいものでありますぞよ♡ ちなみに今回作中で攻めくんはまだしも受けくんの名前がまったく出ておらんのですが、一応二人はこんなお名前(&年齢とご職業)となっておりますです♪ 攻めくん:光本里史(みつもとさとし)二十二歳、ナデシコ運送(なでしこうんそう)通称、シロウサナデシコの配達ドライバー。 受けくん:阿川未緒(あがわみお)二十八歳、普段は普通の会社員。週に2~3回はシロウサナデシコを利用しているいわゆる『お得意様』。 ※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。 ※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!

処理中です...