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下り坂
一
しおりを挟む人生まさかのキスから一ヶ月がたった。
橘さんと俺は、一緒にいる時間も自然と増えていって、気がつくとうちで半同棲みたいになっていた。
家の中のものが着々とペア化している。
食器もそうだし、枕もそう。歯ブラシにゲームのコントローラーに健康サンダル。灰皿と電気カミソリが新たに加わって、食費と光熱費は向こうもちになった。
警察官て、それなりにいいお金をもらってるみたいだ。当たり前か。命がけで、みんなの安全を守っているんだから。
橘さんのマンションも、オートロックのついてる立派なところ。それなのに、なぜうちのほうへ入り浸るのかよくわからない。
「でさー、結局、今度の連休はどこに連れてってくれんの?」
夕ご飯を食べ終わったあと、橘さんの次にお風呂へ入った俺は、上がってすぐ、座卓の前にあぐらをかいた。
しかし、テレビに夢中になっているあの人からはちゃんとした答えが返ってこない。
「もしもーし。聞こえてますかー?」
「……」
やはりなんの反応もなく、俺が思わず舌打ちすると、橘さんは弾かれるようにして、顔をこっちに向けた。
「うん? なに? なんの話してたっけ?」
俺は、じろりと視線を送ってからベッドに寝そべり、かけ布団をかぶる。
「佑」
「もう寝る。おやすみ」
「佑ってば」
強めに揺すられても、知らんぷりを決め込んだ。
だって、橘さんが連休を取れるの、めちゃくちゃ珍しいんだ。遠出ができるかもって楽しみにしてたのに。
「なんの話してたっけ?」は、ありえねえ。
「ああ、ええと。あ、そうか。あれだな、あれの話だ」
自問自答ってフツー、心の中でするものだ。
しかし、この人の場合は違う。仕事以外のことは、大体がだだ漏れ。それがまた憎めないところでもあるんだけど。
「連休だよね、連休。いろいろ考えたんだけど、温泉とかどうかな」
「……」
「じゃなかったら、東京見物にでも行く?」
「ていうか、ちゃんと連休なんだよね?」
俺は布団から顔を出した。
「前みたいにさ、いきなり電話が入ってきて、途中で引き返すなんて絶対にヤだよ」
すべてを言ってしまってから、慌てて口を塞いだ。
警察官である橘さんは、緊急の電話が入ったら、どこにいてもすぐに出動しなければならない。それは本当に承知のうえで、一緒にいるわけなんだけど、ときおり勢い余って意地悪したくなる。
「ええと、俺はやっぱ、温泉がいいかな」
会話の軌道修正を図るべく、ごまかすように言ったら、クスッと笑われた。
カンペキ、読まれている。
橘さんはベッドに腰かけ、自慢の長い髪を掻き上げた。軽いキスを落とす。リモコンでテレビを消すと、布団の中に潜り込んできた。
それから、俺たちはいつものように深く口づけながら、お互いのを触り合う。
ゴムをつけないほうが好きだって、橘さんは言うんだけど、あとあとが大変だ。しぶしぶ、俺のにも自分のにも被せて、激しくかつ巧みに扱った。
俺は、橘さんの欲望がもっと先にあることを知っている。でも、まだ踏ん切りがつかなくて、こうやってお互いのをこすり合うことしかしてない。
だって、橘さんのは想像以上の大物なんだ。
こんなのを入れられたら、俺は真っ二つに裂けて、死ぬかもしれない。
そこは、やっぱり女の子とは違う。こんなのを突っ込まれて、気持ちよくなるとか、絶対にありえない。
そんなふうにぜんぜん違うことを考えていると、咎めるように耳たぶを噛まれた。
吐息混じりの低い囁きが、俺の快感を引き上げてくる。体の奥の、もっと奥のほうから、熱い飛沫を弾け飛ばした。
ああ、サイコー……。
これは、マジで自分でするよりも気持ちいい。
俺は、橘さんのを握ったまま、しばしどこかへイッていた。それから徐々にまぶたを閉じていく。
「じゃ、橘さん。おやすみなさい……」
「は? てか、佑。俺はまだ──」
もちろん、手の中のものが蛇の生殺しだなんて、俺は知ったこっちゃない。
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