夢のゆめ

飛朔 凛

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第二章 起源

第二章 起源(買い物)

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 菜月も側にいたし、俺の【四大元素】を最大に活用した正真正銘の全力だ。
 しかし椎名先輩とマイちゃんは驚いていたが、蘭子さんは然程でもなかったな。
 蘭子さんは銃弾並らしいから、俺のはまだそこまではじゃないのか……。
 だがこれは、あくまで現時点での話だ。
 今から行う訓練は【増幅】らしい。
 これをマスターすれば、俺の【四大元素】は今より数倍強くなるはずだ。

「そして人目を憚ることなく、菜月とわちゃわちゃできると言う優れものだ。実に楽しみだ」
「人目は憚ってくれ。妄想が垂れ流しだ」
「ああぁあぁあああぁぁああぁっ!?」

 何てことだ……! ゆ、油断したっ……!?
 椎名先輩は困った顔をしている……。
 マイちゃんは……何故に変顔!?
 菜月はもじもじして下を向いて、所在なげに手遊びをしている。

「隼人くん……。なっちゃんのことが大好きなのはわかるけど……今のはちょっと……」
「にゃははは! ちぃ姉、仕方ないよ。お兄さんはシスコンだもん」
「お、お兄ちゃん……。あのっ……あの……」

 菜月……無理して何か言う必要はないからな……。
 危うく意識を手放しかけた俺は、ふらふらと次の部屋へ向かう。
 移動した部屋には何もなかった。ただ空間が拡がっているだけだ。
 広さは二十メートル四方ぐらいか。

「ここは?」
「ここは主に実技訓練に使われる部屋のひとつだ」
「隼人くんはここで、なっちゃんとの【増幅】を学んでもらうわ」

 蘭子さんと葛葉さん、椎名先輩とマイちゃん、俺は二組の【増幅】をこの目で見ている。
 今蘭子さんが教えてくれているのは基本姿勢で、【四大元素】の俺が前に立ち、その後ろに蘭子さんが立っている。
 俺が基本姿勢を学ぶと同時に、蘭子さんの動作を見て菜月にも理解させるということらしい。

「そのまま後ろに身を委ねろ。力を抜いてだ」
「本当にいいんですか? 重いですよ?」
「構わん」
「それじゃ……」

 俺は言われるがまま力を抜いて背中を蘭子さんのほうに倒す。
 蘭子さんは後ろから俺を抱きとめた。

 むにゅううううぅ。

「どうだ? わかったか?」
「はい……」

 背中におっぱいの感触がモロにきてます……。
 長老の言ってたとおり、適度な張りと弾力を感じています。

「あたしは【増幅者】ではないから【増幅】にはならないが、この姿勢が一番【増幅】の恩恵が受けやすい」
「はぁ……」
「よし。じゃあ次は菜月だ。あたしと代わろうか」
「は、はい」
「隼人、【増幅者】が菜月のように小柄な場合、今みたいに体重を預けると逆に【異能】の伝播効率が悪くなる。そういう場合は千尋やマイのような姿勢がベストだろう」
「えっと……こうですか?」

 隣で椎名先輩とマイちゃんがお手本を見せてくれている。
 俺と菜月は見よう見まねで基本姿勢を作った。

「ちぃ姉!」
「はあっ!」

 マイちゃんの【増幅】を受けた椎名先輩は正拳突きを放った。
 おお、なるほど!
 椎名先輩が俺の基本姿勢を確認しながら、腕の位置や腰の落とし方などを直してくれている。
 マイちゃんも同じように、後ろの菜月に教えてくれているみたいだ。

「あとはなっちゃんが、隼人くんに【異能】の力を注ぐだけよ」
「なっちゃん、こうやって、んーってやるんだよー」
「う、うん! こう……?」

 急に俺の体にガツンと衝撃が走った。
 あ、何か温かいものが体に流れ込んでくるような感じがする……。
 これが【増幅】なのか……?

「菜月感じるか!? これが俺たちの絆だ!」
「うん! お兄ちゃん! 私も感じてるっ!」

 俺は【四大元素】を右拳に集中させ、しっかりと溜めを作ってから正拳突きとともに一気に放出した。
 暴風が吹きつけたような轟音が部屋に響く。
 【四大元素】のあまりの圧に椎名先輩とマイちゃんも唖然としていた。
 蘭子さんだけはニヤニヤしている。

「やはりな。隼人は【異能】を使うのは初めてではないな?」
「えっ……?」
「【異能】に目覚めてから、独自にトレーニングか何かしてただろう? 菜月もそうだな?」
「わかるんですか……?」
「【異能】覚えたての初心者の【異能】と【増幅者】が初めての【増幅】で上手くいったのを見たことがない」
「それって……俺の菜月の【四大元素】は凄いってことですか?」
「そう言ってる。素直に感心してるんだ。ただ独自にトレーニングを積んだせいで、力の溜め方や動作に変な癖がついてるから、明日からの初心者講習で矯正してもらうといい」

 蘭子さんの話では俺と菜月は明日から三日間、ここで初心者講習というのを受講するらしい。
 一日三時間ほどだ。まるで部活みたいだな。

「感覚が大事だからな。要は慣れだ。今日は時間の許す限り繰り返しやろうか」
「わかりました」
「は、はい」
 
 蘭子さんの助言どおり、回を重ねるごとにコツはわかってきた。
 習得するのに、それほど時間はかからないだろうと思った。
 俺が【四大元素】で菜月は俺の【増幅者】そしてこれが二人の【増幅】だ。
 今俺たち兄妹はひとつになった。
 もう恐いものはない! 今ならどんな【四大元素】にだって勝てそうだ!

 途中で昼食を摂るために休憩を挟んで、俺たちは午後二時過ぎまで訓練施設にいた。
 着替えも済ませて御伽原建設本社ビルから出ると、蘭子さんのスマホが鳴った。
 蘭子さんはスマホを確認すると、怪訝な顔をしてポケットにそれをしまい込んだ。

「出なくていいんですか?」

 俺が訊ねると、蘭子さんが俺と菜月を交互に見て口を開く。

「ん……。これで晴れて入会完了したし、ランク判定も済ませた。明日からは専属の指導者の下で初心者講習が始まる。と言いたいところだが、隼人と菜月の入会に物言いがついてな……」
「え!? 物言い……ですか? 誰かが反対したってことですか……?」
「そうだ」
「そんなっ!? 一体誰が……!?」
「……ああ、本人が来た」

 俺たちの背後を見据える蘭子さんの視線をなぞった俺と菜月は目を丸くした。
 年季の入ったママチャリを猛スピードで漕いで、こちらに向かってくる中年男性がいる。

「ちょぉぉっとっ! 待ったあぁぁあっ!」

 キィィィィィィィィィィッ!

 中年男性はママチャリにブレーキの音を響かせて、俺たちの目の前で急停止させる。
 急いで来たのか肩で息をしている。
 髪はボサボサで服はヨレヨレの中年男性はママチャリから降りると、初めて見せる真面目な顔つきで言い放つ。

「はぁ、はぁ……。こら隼人に菜月。こんな危険なことをするのは、叔父さんが認めないぞ」

 そう言って、忠告したのは俺の叔父さんだった。
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