ギャルとロボットアーム

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ブルースプリング

ブルースプリング 11ページ目

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 その後、購買で売れ残っていたコロッケパンを買った俺は教室に戻って昼食を始める。

 ちらりと視線を横に向けるとどこか楽しそうにスマホの画面を見つめている星川がいた。

『アタシには夢がある』
 
 1限目の終わり、彼女が言っていた言葉を思い出す。それを叶えるために俺を利用するつもりだと口にしたことも。

 金髪義手ギャル、星川泉美の夢とは一体何なのだろうか。そしてそれに俺はどう関係しているのだろうか。

 今なら直接聞けるかもしれないと声をかけようとした時、それを遮るように前の席の石上がこちらに振り返ってきた。

「お、なんだよ月島。結局購買でパン買ってきたのか」

 星川に話しかけるのは後でもいいか。ちょうど石上にも聞きたいことがあったのだ。

「そのコロッケパン外見美味そうなのに不味いだろ~。コロッケの中身がスッカスカなのがせこいよなー」

「そうかな? 俺は結構この味好きだけど。それより石上、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「ん? なんぞや」

「お前ってどこか部活入ってるか」

 こちらの質問に対して無言で首が横に振られる。その返事は俺にとってかなり意外なものだった。

 こいつ帰宅部だったのか。こんなに爽やかでガタイの良いイケメンが帰宅部なんて世の中何か間違ってるんじゃないのか。

「なんか、意外だな。石上は絶対どこかの技術系部活に入ってると思ってた」

 毎日のように2075年ロボバトル世界王者である光月ツバサの話をするもんだから、てっきりロボットを扱う部活に所属しているものだとばかり思っていたのだが。

 それをそのまま口に出すと、石上はどこか恥ずかしそうに頭の後ろをぼりぼりと掻いてこう言った。

「確かにロボットは好きなんだけどさ、俺って絶望的に操作センスがないんだよね。それに家の仕事の手伝いもしてるから部活やってる暇なくてさ」

「家の仕事って?」

「ロボットパーツの生産とか組み立てしてる工場。まぁ俺は軽トラ運搬専門なんだけどね」

 そう言って財布から取り出された車の免許証が机の上に置かれる。

 うざったいくらい爽やかスマイルの石上の写真が貼られたその免許証の下部には『自動運転限定』という表記がされていた。

 令和初期と違い、今は16歳から車の免許が取れる。ただしその年齢で取得出来るのは自分で運転するのではなく車が自動で走るオートドライブ限定免許のみ。石上が持っているのもそれだ。

 手動運転の免許とは違い、必要なのは車内に積まれたAIの修理技術と知識、そして万一の為に車を車道端に寄せる程度の運転技術さえ認められれば簡単に取得することが出来るが自分は持っていないので何だか羨ましい。

「へぇー、お前も色々大変なんだな」

「って言ってもしっかりお駄賃頂いてるからあんま苦じゃないけどさ」

「それにしても残念だな。石上に種島学園の部活についていろいろ聞こうと思ってたのに」

「お、だったらこの石上君に声をかけたのは間違いじゃないぞ。これでも色んな部活の奴と友達だし、たまに大会の応援とかも行ってるからな」

 俺が石上に聞きたかった事とはこの種島学園の部活動についてだった。いつまでも憂鬱で陰気な青春は送っていられない。

 変わらなくてはならない。そのためには昔熱中していた事を忘れるほど夢中になれる何かを見つけなくては。

「で、何部について聞きたいんだ? ロボサッカー部、ロボ野球部、ロボ陸上、ロボバスケにロボバレー部のことまで何でも聞いてくれよ」

「ちょっと待て、どうして技術運動部ばかり勧める気満々なんだ」

 こちらは至って当然な質問を投げかけたはずだが、何故か石上は不思議そうな表情で首を傾ける。

「え、えーとゴメン。それじゃ文科系の部活を紹介するよ。書道部、文芸部、美術部に吹奏楽と放送部があるけどどれがいい?」

「だから何で文科系で固定なんだ!? 俺は普通にスポーツ系の部活を紹介してほしいんだけどな」

 そう口にした瞬間、隣の星川が小さく噴き出す。顔をそちらに向けると彼女は白々しく視線を背けた。

 前席の石上も何と言葉をかけようか言葉に迷っているような雰囲気を醸し出している。

「あのさ月島。お前中学での運動部経験は……?」

「特に無し」

 やっぱりなという失礼なため息が一つ、目の前のクラスメイトから零れた。

 なんなんださっきから。確かに俺は他の男子に比べればチビで細身かもしれないがそれでも運動くらい出来るぞ。

「この種島学園の運動部はどれもきついぞ。ロボの道を捨て、己の肉体の極限を目指す奴らが入るのが運動部だ。あれを見てみろ」

 そう言って石上は窓際にある一番後ろの席を指差した。釣られる様にそちらへ目を向ける。

「なん……だと……」

 そこにいたのは鬼神。いやよく見れば人間だった。

 俺と同じサイズの席に座っているはずなのに机がやたらと小さく見える。髪の毛一本すら生えていないスキンヘッドに人を殺したかのような威圧感のある目、そして学ランが上下パツパツになるほどの筋骨隆々な悪魔が、いや同級生がそこにはいた。

 あんな奴の存在に今まで気づかなかったとは。

「いいい石上……なななんだあいつは……人間か……?」

「人間だよ。同じクラスの田中太郎君だ」

「名前と外見のギャップ!」

「おーい、田中君! ちょっとこっち来てくれー!」

「ば、バカ! 呼ぶんじゃねーよ!」 

 名前を呼ばれた田中太郎君は立ち上がると無言のまま立ち上がりずんずんと音を立てながら、こちらに近づいてきた。

「呼んだかい、石上君?」

 あ、この声聞いたことがある。金曜ロードショーとかで次回予告とかしてる野太い声だ。

 体格、雰囲気、声質、どれをとってもとても同い年とは思えない。

 というか一体こいつは何部なんだ。プロレス部か。

「ああ。ここにいる転入生が我が校の運動部について聞きたいって言ってるんだけど教えてやってくれないかな、野球部の1日のメニュー」

「野球部!? この外見でか!?」

 驚きの声を発したと同時に鋭い眼光でギロリと睨まれる。

 あ、もしかして俺殺されるかな。そう覚悟した次の瞬間、田中君はそっと大きな手をこちらに差し出してきた。

「やぁ月島君。ちゃんと挨拶するのは初めてだね、田中太郎です。よろしく」

「あばば……ここここちらこそよよよよろしく……よろしくお願いいたしますハイ」

 握手した瞬間に感じ取ることが出来た。生物としてどちらが狩る側で狩られる側なのかを。

 心底ビビっている俺の事に気付く様子もなく紳士な笑みを浮かべた田中君は野球部の1日のメニューを教えてくれた。
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