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『何回したんだ?』
「二回だよ。一回は口でだけど」
『……そうか。避妊はちゃんとしたんだろうな?』
「したよ! っていうか、言う前にしてくれてた」
『そうか。はぁ……そちらにあいつが向かう前、俺に言ったんだ。お前の素行調査をしに行ってくる、と』
「素行調査……っていうか、身辺確認みたいな感じだったけど」
『あいつはお前が記憶喪失だという事に引っかかっていたみたいだ。怪しまれなかったか?』
「怪しまれてたみたいだけど、無理やり襲ったら信じてくれたよ。オズワルドと同じ理由で」
『俺と同じ理由?』
「うん。気安すぎないかって言われた」
顔までオズワルドそっくりだった、とは流石に言わないでおく。そんな私の言葉を聞いて、オズワルドは小さなため息を落とした。
『ああ、記憶でも失ってない限りお前の俺への態度も相当なものだからな』
「あとオズワルドの事も聞かれたよ」
『俺のこと?』
「うん。どう思ってるの? って聞かれたから、オズワルドは全然冷酷なんかじゃないよ! って言っといた」
『あいつは幼馴染だぞ。俺の事は少なくともお前よりはよく知ってるだろ』
「まぁそうなんだろうけど、私はそんな風には思ってないよって言っといたの。で、それだけ?」
実際オズワルドは守るべき対象に対しては限りなく優しい。口調は冷たいしつっけんどんだし無表情だが、ちゃんと助けてくれる。
『ああ、それだけだ。お前も早く寝ろ』
「は~い」
『じゃあな』
「うん、またね~」
それだけ言って電話を切った私は、着替えを持って従業員用の温泉に向かったのだが、そこには誰も居ない。完全に貸切状態だ。
「ラッキー!」
手早く身体を洗って温泉に浸かって大きく伸びをしながら一日の疲れを癒やしていると、誰かが入ってきた。
振り返ると、そこには同じ歳ぐらいの美少女が立っている。
「あ、ご、ごめんなさい!」
美少女は驚いたように頭を下げてそのまま戻ろうとするので、私はそれを慌てて止めた。
「待って! 全然大丈夫だから一緒に入ろうよ! 私ダリア。元慰み者で昨日からここで働いてるの」
不審がられないように先に全部自己紹介をした私を見て、少女は恐る恐る近寄ってきた。
「……元、慰み者……?」
少女は怪訝な顔をしてこちらをじっと見つめてくる。
「そう。皆そんな顔するの。そんなにも変なのかな?」
「変というか、ここは元貴族が来る所だから……かも」
言いにくそうに言う少女に私は「なるほど」と頷く。元とは言え貴族は貴族だ。そんな人達の所にある日突然娼婦がやってきたら、そりゃ誰でも驚くだろう。
「それに慰み者の人たちは、私達よりも良い暮らしをしてるって聞いたんだけど……」
「あー……らしいね」
「らしいね?」
「うん。私はそれを断ってここへ来た人だから、他の慰み者の人たちがどんな暮らしをしてるかまでは分からないんだ。とりあえず冷えちゃうから入りなよ」
そう言って手招きすると、少女はようやく警戒心を解いたように湯船に入ってくる。りんごのようなほっぺと透けるような肌の少女は、やっぱりどこからどう見ても美少女だ。
「名前はなんて言うの?」
「スノーよ。名字はもう無くなっちゃった」
「そっか。私なんて元々無いけどね!」
元気にそんな事を言った私にスノーが少しだけ微笑む。
「このサロン凄いよね。あんな豪華な個室に温泉まであるんだもん。流石会員制サロンだよ」
「ここは元々王様が幼馴染の方の為に作ったって言われてる所だから。でも、そのおかげで私達は露頭に迷わなくて済んだのよ。ここで働いてる人の中にはこの場所を心底嫌ってる人も居るけど、ほとんどの人が二年ぐらいで皆結婚するの。だから私はこの場所は私達の最後の砦だって思ってる。そういう意味では王に感謝してるの」
「そうだったんだ。ここの事をそんな風に言う人もいるんだね」
「ダリアさんは違うの? 慰み者の報酬を断ってここへ来たのなら、いつかは貴族の人と結婚したいとか?」
「ううん。結婚は別にしたくないかな、今は。特に貴族の人とは絶対に無理! 私、そんな器じゃないもん」
はっきり言い切った私を見てスノーの目が最大限にまで開かれる。
「そ、それじゃあ一体何が目的で……?」
「私の報奨は都にある一番大きな花街を紹介してって王に言ったの。そしたらここを紹介してくれたのよ」
「えっと、よく分からないんだけど……」
「私ね、セックスがすっごく好きなんだ!」
「……え?」
「だから、とにかく色んな人と寝たかったの。まぁ、これ言うと大抵の人にドン引きされるんだけどさ」
実際、スノーの顔が完全に引きつっているのだが、そんな事はもう今さら気にしない。下手に貴族に嫁ぎたいからこのサロンに潜り込んだのだろうと思われる方が困る。
「二回だよ。一回は口でだけど」
『……そうか。避妊はちゃんとしたんだろうな?』
「したよ! っていうか、言う前にしてくれてた」
『そうか。はぁ……そちらにあいつが向かう前、俺に言ったんだ。お前の素行調査をしに行ってくる、と』
「素行調査……っていうか、身辺確認みたいな感じだったけど」
『あいつはお前が記憶喪失だという事に引っかかっていたみたいだ。怪しまれなかったか?』
「怪しまれてたみたいだけど、無理やり襲ったら信じてくれたよ。オズワルドと同じ理由で」
『俺と同じ理由?』
「うん。気安すぎないかって言われた」
顔までオズワルドそっくりだった、とは流石に言わないでおく。そんな私の言葉を聞いて、オズワルドは小さなため息を落とした。
『ああ、記憶でも失ってない限りお前の俺への態度も相当なものだからな』
「あとオズワルドの事も聞かれたよ」
『俺のこと?』
「うん。どう思ってるの? って聞かれたから、オズワルドは全然冷酷なんかじゃないよ! って言っといた」
『あいつは幼馴染だぞ。俺の事は少なくともお前よりはよく知ってるだろ』
「まぁそうなんだろうけど、私はそんな風には思ってないよって言っといたの。で、それだけ?」
実際オズワルドは守るべき対象に対しては限りなく優しい。口調は冷たいしつっけんどんだし無表情だが、ちゃんと助けてくれる。
『ああ、それだけだ。お前も早く寝ろ』
「は~い」
『じゃあな』
「うん、またね~」
それだけ言って電話を切った私は、着替えを持って従業員用の温泉に向かったのだが、そこには誰も居ない。完全に貸切状態だ。
「ラッキー!」
手早く身体を洗って温泉に浸かって大きく伸びをしながら一日の疲れを癒やしていると、誰かが入ってきた。
振り返ると、そこには同じ歳ぐらいの美少女が立っている。
「あ、ご、ごめんなさい!」
美少女は驚いたように頭を下げてそのまま戻ろうとするので、私はそれを慌てて止めた。
「待って! 全然大丈夫だから一緒に入ろうよ! 私ダリア。元慰み者で昨日からここで働いてるの」
不審がられないように先に全部自己紹介をした私を見て、少女は恐る恐る近寄ってきた。
「……元、慰み者……?」
少女は怪訝な顔をしてこちらをじっと見つめてくる。
「そう。皆そんな顔するの。そんなにも変なのかな?」
「変というか、ここは元貴族が来る所だから……かも」
言いにくそうに言う少女に私は「なるほど」と頷く。元とは言え貴族は貴族だ。そんな人達の所にある日突然娼婦がやってきたら、そりゃ誰でも驚くだろう。
「それに慰み者の人たちは、私達よりも良い暮らしをしてるって聞いたんだけど……」
「あー……らしいね」
「らしいね?」
「うん。私はそれを断ってここへ来た人だから、他の慰み者の人たちがどんな暮らしをしてるかまでは分からないんだ。とりあえず冷えちゃうから入りなよ」
そう言って手招きすると、少女はようやく警戒心を解いたように湯船に入ってくる。りんごのようなほっぺと透けるような肌の少女は、やっぱりどこからどう見ても美少女だ。
「名前はなんて言うの?」
「スノーよ。名字はもう無くなっちゃった」
「そっか。私なんて元々無いけどね!」
元気にそんな事を言った私にスノーが少しだけ微笑む。
「このサロン凄いよね。あんな豪華な個室に温泉まであるんだもん。流石会員制サロンだよ」
「ここは元々王様が幼馴染の方の為に作ったって言われてる所だから。でも、そのおかげで私達は露頭に迷わなくて済んだのよ。ここで働いてる人の中にはこの場所を心底嫌ってる人も居るけど、ほとんどの人が二年ぐらいで皆結婚するの。だから私はこの場所は私達の最後の砦だって思ってる。そういう意味では王に感謝してるの」
「そうだったんだ。ここの事をそんな風に言う人もいるんだね」
「ダリアさんは違うの? 慰み者の報酬を断ってここへ来たのなら、いつかは貴族の人と結婚したいとか?」
「ううん。結婚は別にしたくないかな、今は。特に貴族の人とは絶対に無理! 私、そんな器じゃないもん」
はっきり言い切った私を見てスノーの目が最大限にまで開かれる。
「そ、それじゃあ一体何が目的で……?」
「私の報奨は都にある一番大きな花街を紹介してって王に言ったの。そしたらここを紹介してくれたのよ」
「えっと、よく分からないんだけど……」
「私ね、セックスがすっごく好きなんだ!」
「……え?」
「だから、とにかく色んな人と寝たかったの。まぁ、これ言うと大抵の人にドン引きされるんだけどさ」
実際、スノーの顔が完全に引きつっているのだが、そんな事はもう今さら気にしない。下手に貴族に嫁ぎたいからこのサロンに潜り込んだのだろうと思われる方が困る。
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