30 / 40
30
しおりを挟む
それからしばらくして――。
私は宰相の部屋の中で、爽やかイケメンに壁ドンされていた。
「えっとー……はじめまして」
宰相は私を見下ろし、柔和に微笑みながら尋ねてくる。
「はい、はじめまして。名前は?」
「ダリア(仮)です」
「(仮)って?」
「記憶喪失なので。本名かどうかは分かりません」
「そうなんだ。年齢は?」
「20代前半ぐらい?」
「うん、で、慰み者からこのサロンへの就職希望をした理由は?」
「色んな人とセックスしたいから」
「……なるほど。それ以外の理由は?」
「それ以外に理由、あります?」
宰相は私の質問にとうとう黙り込むと何故か大きなため息を落とし、私から離れた。
「聞いてた通りだし、調べた通りみたいだね。あ、宰相のアーノルドだよ。王とは主従関係でもあるけど、友人でもあるんだ」
「そうなんですね。あの人、友達居るんだ……」
思わず素直な感想を言った私に、アーノルドは苦笑いを浮かべる。
「あまりレディの事を根掘り葉掘り調べたりするのは嫌なんだけど、君のことは流石に色々と調べさせてもらったよ。まずは一旦座ろうか」
「はい」
一見気安そうに見えるアーノルドだが、さっきから目の奥が少しも笑っていない。アーノルドに従って勧められるがままソファに座ると、アーノルドは長い脚を組んで大きなため息を落とした。
「まず初めに、王が慰み者をここに連れて来たのは初めてなんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。そもそもこの三年間、王は誰も抱かなかった。それは知っているよね?」
「はい」
「けれど今回から王は何故かまた女性を抱きだした。その理由を君は知っている?」
「それはお客様の守秘義務に反するのでお教えできません」
きっぱりと言いきった私を見て、アーノルドは深く頷く。
「……なるほど。では、知っているということだね」
何かを探るように尋ねてくるアーノルドに、私は頷いた。
「もちろん」
「随分と潔いね。すぐに認めるんだ」
「だって、ここで嘘ついても私に何の利益もありませんから」
「欲が無いね。それで王を脅すなり何なりすれば良いのに」
「脅す? そんな事しなくても王はちゃんと朝まで抱いてくれますよ?」
「うん?」
「ん?」
私の答えが想定外だったのか、アーノルドの顔が引きつる。
「えっと、脅すって言うのは、いわゆる金品をせびるとかそういうのなんだけど」
「金品だけあってもセックス出来ませんから。私、誰かを買いたいんじゃないんです。誰かに買われたいんです」
「……ん?」
「これは私の単なるこだわりなんですけど、お金ってそんなにいらなくて、ただ腹上死したいんですよね。今度こそ」
「えっとー……何を言っているのかな?」
「脅さない理由、金銭を要求しない理由を話しています」
「そ、そうなの?」
「はい。誰かから聞いてるかもしれませんけど、私、記憶喪失で前世の記憶があるんです。その時、死因が刺殺だったんですよ。で、目が覚めたらこの世界に居て、奇しくも同じような仕事をしてた。だからこれは神様から私へのプレゼントだって思ったんです。だって前世の夢だった腹上死が、もしかしたらこの世界で叶うかもしれないじゃないですか」
熱く語る私を見るアーノルドの目が、どんどん冷たい物からヤバい人を見る目に変わっていく。それでも私は続けた。誤解はされたくなかったのだ。
私は金が欲しい訳では無い。満足がいくまでセックスがしたいだけなのだと!
「その点王は凄いんですよ。何回イッてもすぐ勃つし、何なら出した直後でもすぐ中で勃つし、あの人自体性欲凄いから私についてこられるし、ちゃんと満足もさせてくれるし!」
「へ、へぇ」
「こんな人は初めて会いました。身体の相性もすこぶる良いから、私も何回もイけちゃうんですよ」
「……ごめん、もう大丈夫だよ。なるほど、やっぱり話に聞いていた通り君はサキュバスとかなのかな?」
「それは違います。人間です。ただ、三度の飯よりセックスが好きなだけです」
「……」
言い切った私を見てとうとうアーノルドは黙り込んで頭を抱えてしまう。もしもここにオズワルドが居たら、また頭を叩かれて「正直が過ぎる!」などと叱られていたのだろうが、幸いな事にここにオズワルドは居ない。居るのは爽やかイケメンな宰相だけだ。
「他にも質問ありますか?」
「いや、大丈夫……うん、ありがとう。もう行っていいよ」
それを聞いて今度は私が顔を歪める番だった。
「は?」
思ったよりも低い声が出てしまったが、そんな私を見てアーノルドは驚いたように目を丸くしている。
「さっきの私の話、聞いてました?」
「どれの事?」
「私、買われたいんです。そして買われたからには必ず相手を満足させます。これが私の流儀です」
「いや、この流れで僕が君に手を出すとでも?」
「出さなくても良いですよ、別に。出させるようにするのが、私の仕事ですから」
私は宰相の部屋の中で、爽やかイケメンに壁ドンされていた。
「えっとー……はじめまして」
宰相は私を見下ろし、柔和に微笑みながら尋ねてくる。
「はい、はじめまして。名前は?」
「ダリア(仮)です」
「(仮)って?」
「記憶喪失なので。本名かどうかは分かりません」
「そうなんだ。年齢は?」
「20代前半ぐらい?」
「うん、で、慰み者からこのサロンへの就職希望をした理由は?」
「色んな人とセックスしたいから」
「……なるほど。それ以外の理由は?」
「それ以外に理由、あります?」
宰相は私の質問にとうとう黙り込むと何故か大きなため息を落とし、私から離れた。
「聞いてた通りだし、調べた通りみたいだね。あ、宰相のアーノルドだよ。王とは主従関係でもあるけど、友人でもあるんだ」
「そうなんですね。あの人、友達居るんだ……」
思わず素直な感想を言った私に、アーノルドは苦笑いを浮かべる。
「あまりレディの事を根掘り葉掘り調べたりするのは嫌なんだけど、君のことは流石に色々と調べさせてもらったよ。まずは一旦座ろうか」
「はい」
一見気安そうに見えるアーノルドだが、さっきから目の奥が少しも笑っていない。アーノルドに従って勧められるがままソファに座ると、アーノルドは長い脚を組んで大きなため息を落とした。
「まず初めに、王が慰み者をここに連れて来たのは初めてなんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。そもそもこの三年間、王は誰も抱かなかった。それは知っているよね?」
「はい」
「けれど今回から王は何故かまた女性を抱きだした。その理由を君は知っている?」
「それはお客様の守秘義務に反するのでお教えできません」
きっぱりと言いきった私を見て、アーノルドは深く頷く。
「……なるほど。では、知っているということだね」
何かを探るように尋ねてくるアーノルドに、私は頷いた。
「もちろん」
「随分と潔いね。すぐに認めるんだ」
「だって、ここで嘘ついても私に何の利益もありませんから」
「欲が無いね。それで王を脅すなり何なりすれば良いのに」
「脅す? そんな事しなくても王はちゃんと朝まで抱いてくれますよ?」
「うん?」
「ん?」
私の答えが想定外だったのか、アーノルドの顔が引きつる。
「えっと、脅すって言うのは、いわゆる金品をせびるとかそういうのなんだけど」
「金品だけあってもセックス出来ませんから。私、誰かを買いたいんじゃないんです。誰かに買われたいんです」
「……ん?」
「これは私の単なるこだわりなんですけど、お金ってそんなにいらなくて、ただ腹上死したいんですよね。今度こそ」
「えっとー……何を言っているのかな?」
「脅さない理由、金銭を要求しない理由を話しています」
「そ、そうなの?」
「はい。誰かから聞いてるかもしれませんけど、私、記憶喪失で前世の記憶があるんです。その時、死因が刺殺だったんですよ。で、目が覚めたらこの世界に居て、奇しくも同じような仕事をしてた。だからこれは神様から私へのプレゼントだって思ったんです。だって前世の夢だった腹上死が、もしかしたらこの世界で叶うかもしれないじゃないですか」
熱く語る私を見るアーノルドの目が、どんどん冷たい物からヤバい人を見る目に変わっていく。それでも私は続けた。誤解はされたくなかったのだ。
私は金が欲しい訳では無い。満足がいくまでセックスがしたいだけなのだと!
「その点王は凄いんですよ。何回イッてもすぐ勃つし、何なら出した直後でもすぐ中で勃つし、あの人自体性欲凄いから私についてこられるし、ちゃんと満足もさせてくれるし!」
「へ、へぇ」
「こんな人は初めて会いました。身体の相性もすこぶる良いから、私も何回もイけちゃうんですよ」
「……ごめん、もう大丈夫だよ。なるほど、やっぱり話に聞いていた通り君はサキュバスとかなのかな?」
「それは違います。人間です。ただ、三度の飯よりセックスが好きなだけです」
「……」
言い切った私を見てとうとうアーノルドは黙り込んで頭を抱えてしまう。もしもここにオズワルドが居たら、また頭を叩かれて「正直が過ぎる!」などと叱られていたのだろうが、幸いな事にここにオズワルドは居ない。居るのは爽やかイケメンな宰相だけだ。
「他にも質問ありますか?」
「いや、大丈夫……うん、ありがとう。もう行っていいよ」
それを聞いて今度は私が顔を歪める番だった。
「は?」
思ったよりも低い声が出てしまったが、そんな私を見てアーノルドは驚いたように目を丸くしている。
「さっきの私の話、聞いてました?」
「どれの事?」
「私、買われたいんです。そして買われたからには必ず相手を満足させます。これが私の流儀です」
「いや、この流れで僕が君に手を出すとでも?」
「出さなくても良いですよ、別に。出させるようにするのが、私の仕事ですから」
11
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
曰く付きの家に嫁いだら、そこは龍神さまのお屋敷でした~恋を知らなかった私達が愛にたどり着くまで~
あげは凛子
恋愛
※ただいま休載中です。ご迷惑をおかけしております。
時は大正時代。まだ明治時代が色濃く残るそんな時代。
異国で生まれ育った鈴は幼い頃に両親を亡くし、たった一人の親戚である叔父を頼って日本へやってきた。
けれど親戚達は鈴に当たりが強く、とうとう曰く付きで有名な神森家にお見合いに行く事に。
結婚が決まるまではお試し期間として身柄を拘束させてもらうと言う神森家の掟に従って鈴はその日から神森家で暮らすことになったのだが、この家の住人は皆どうやら人間ではなかったようで……。
龍と少女の現代恋愛ファンタジー。
※こちらの作品はもんしろ蝶子の名義で『龍の箱庭』というタイトルでアマゾン様とがるまに様で発売中です。本でしか読めないイチャラブやおまけがありますので、そちらも是非!
※このお話はフィクションです。実在している団体や人物、事件は一切関係ありません。
※表紙はACサイト様からお借りしたものを編集しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる