愚痴と黒猫

ミクリヤミナミ

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ブラックホール

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「どうした?今日も難しい顔して。」

「ああ、ちょっと舐めてたかもしれん。」

「何を?」

「ブラックホール。」

「なんだって?」

「いや。まあ、聞くか?」

「ほう。何か頂けるのかな?」

「けっ。やっぱりかよ。」

 スーパーで半額だった刺身を小皿に取り分けて黒猫の前に置く。
 チキショウ。うまそうに食いやがる。

「で、ブラックホールがどうしたって?」
 顔中をなめまわしながら聞いてくる。

「田中だよ。」

「田中……。朱莉か?」

「そ。」

「じゃあ、シャリア・ブルの話か!」

「シャ……ややこしいな。まあそうだ。木星帰りの男だな。」

「で、ブラックホールをぶつけてみたか?どうだった。」

「俺の言い訳が神がかり的だとするなら……」

「何の話だよ」

「田中の男を操る力量は、神そのものだったよ。」

「神?」

「すさまじいぞ。
 いやな。今までも、アイドル然としてうまく立ち回るなぁとは思ってたんだけどさ。」

「なんだよ。認識が間違えてたってか?」

「間違いではないんだけど、低く見積もりすぎてたよ。」

「そんなにか。」

「そんなにだ。
 ペア初日で下僕と化したよ。木星帰りの男は。」

「二人だけで組ませたのか?」

「いや、マンツーはいろいろ危険だと思ってな。朱莉と寧々のツーマンセルだ。」

「最強コンビだな。どちらに惹かれるか……オッズは?」

「いや、俺の中の下馬評ではトントンくらいだったんだけど、全然レベルが違ったわ。」

「初見でか?」

「いや、最初はいい感じでトントンだったと思うよ。俺の読みが当たったと思ってホルホルしてたんだけどさ。
 一応職場では朱莉たちが先輩じゃん?だから、フロアの主導権は朱莉と寧々が持ってんのよ。で、仕事の割り振り二人が決めるんだけどさ。」

「おう、まあ、そこに年齢は関係ないもんな。で?」

「朱莉が、あれこれと木星に頼むんだけどさ、そのたびに木星の動きが活性化するんだよ。」

「活性化?」

「なんていうのかな。完全に恋する男なんだよね。どんどん惚れていくのが見えるんだよ。途中から寧々の事目に入ってないみたいだったよ。」

「木製の木偶出来上がりってか。」

「誰がうまいこと言えと。まあ、木偶は木製だから、腹痛が痛いみたいな感じだが……」
「それはいいよ。で?」

「ああ、でな。初日で下僕。二日目には教祖と信者。で、すでに今では神と信者だよ。朱莉に対して絶対服従だ。」

「朱莉ってドS?」

「いや、わからん。そうかもしれんし、違うかもしれん。」

「そんなに命令できるもん?」

「命令じゃないんだよな。厄介なのが、「お願い」なのよ。」

「頼むのか、木偶に。」

「そう。「次これお願いできますか?」ってくるわけさ。木偶は「わかりました」ってクールに答えてるつもりなんだろうけど、尻にはぶんぶん回る尻尾が見えるようだよ。顔には「喜んで!!」って書いてあるもん。笑顔がすごい。」

「まあ、でもいいんじゃないか。仕事も覚えるし、魔の手にも引っかかってないんだろ?」

「確かにな。そのあと森本女史と会っても、全く反応を示さなかったよ。指示を受けても淡々とこなすだけ。森本女史のことを石像くらいにしか思ってないんじゃないかな。」

「なら、一件落着じゃないか。じゃあ、大友女史への思いも吹っ切れたのか?」

「それはどうだろうな。まだ怖くてぶつけてないんだよ。」

「もう少し落ち着いてからがいいかもな。」

「もう少しすると、完全に朱莉に落ちそうだけどな。」

「今度は朱莉にストーキングか?」

「まあ、朱莉は大丈夫そうだよ。」

「高校生だろ?一番危険じゃないか。ちゃんと対策打たないと。」

「いや、たぶんもう必要ないと思うよ。さっきも言ったろ?信者だって。ストーキングすら恐れ多くてできないよ。あれじゃ。」

「そんなにか?」

「だって、ここ数日朱莉仕事してないもん。「あれお願い。」「これお願い」って言うだけですべて終わるんだぜ。簡単な仕事もあったもんだよ。
 最近は、寧々まで乗っかって、朱莉越しに全部の仕事を木偶にやらせてるよ。」

「ってことはワンオペ?」

「そう。いやぁ、ある意味恋の力ってすごいよね。あの時間帯、大友女史でもワンオペきついと思うぜ。それなのに、木偶が華麗にこなしてるよ。」

「じゃあ結果オーライってやつか。」

「そうだな。ま、問題と言えば……」

「何かあんのか?」

「木偶は、朱莉が居ないと魔法が切れたように動きが悪くなる。」

「使えねぇな。結局ワンオペできねぇじゃねぇか。」

「そうだな。朱莉とワンセットだから、結局朱莉の時給も払ってるからな。」

「まあ、世の中そんなおいしい話ばっかりじゃないってことだな。まあ、頑張れよ。」

 黒猫はつまらなそうに顔をひとなめして窓から出ていった。
 
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