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本気の愚痴
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「お、今日はえらく不機嫌だな」
「ん、
ああ、そうな。」
「かなりだな」
「まあな
・・・・
聞いてくれるか?」
「まあ、地獄の沙汰もってやつかなぁ」
「〇ル缶だ。奮発した。」
「ほほう。聞かせてもらおうじゃないか。」
「現金だな、相変わらず」
「さあ、どうぞ」
「じゃ、お言葉に甘えて・・・
・・・
今日は店長会議だったんだ。」
「本当に?」
「そ、本当に・・・ってなんで知ってんだよ?」
「なにが?」
「いや、本当にって」
「なんとなく行ってみただけだけど、なんかあるのか?」
「いや、いつもサボる時は、大友さんに『店長会議行ってくる』って言ってんだよね。」
「クズ全開だな」
「たしかに、今日はちょっと言いづらかった。」
「なんで?」
「こないだ一人バイトが増えた話したろ?」
「ああ、最低な大岡裁きを下したヤツな」
「言うねぇ。…あんとき、『店長会議行ってくる』って茶店行ってたのよ」
「ああ、そういうことか。たしかにそんなに頻繁にあるのかって思うよな。」
「そうなんだよな。エリアマネージャーも空気読めよと思うんだよ。
だいたいさぼる時は、同じパートには2週に1回になるように使ってたんだよ。この理由」
「なんだよ。高校生が親戚殺しまくってるのと一緒じゃねぇか」
「いやいや、その辺俺は抜かりないよ。だからちゃんと同じ人にそんな頻繁に理由が被らないようにちゃんと計算して・・・」
「クズな言い訳は良いよ。話を進めろ」
「いや、ちょっとは聞けよ。たけぇんだぞ『カ〇缶』!お前もまっしぐらじゃねぇのか?」
「ん~。じゃあ聞こうか。」
「俺も、ちょっと・・・素面じゃ無理だ。今日は徹底的に呑む」
「どうぞ」
コンビニで買ってきたストロング系の酎ハイを開ける。
炭酸の子気味良い音が心地よい。
一気に三分の一ほどを喉に流し込むと、一息ついた。
「で、ちゃんと計算してんだよ。特に大友女史はフルに近いから気を使ってたんだが・・・
大友さんの信頼は重要だからね。まあ、多少さぼっても特に何も言わないと思うが、
ちゃんと仕事してくれてる人には敬意を払って、こちらもちゃんとな・・」
「ちゃんとの意味が、君と僕で違うようだが・・・」
「ちゃんと嘘は墓場まで持っていくくらいの気持ちってことだよ」
「お、おう
なんかよくわからんが、とりあえず話を進めようか・・」
「まあいいや。
で、店長会議ってのは、そう頻繁にやるもんじゃないんだよ。
せいぜい月イチかなぁ。最近はメールで済ますことが多いから、そのくらいなんだよ対面のは」
「なので、それをさぼりに利用していたと・・」
「まあ、そうなるな。
でもな。実際そのくらいの息抜きがあってもいいだろうよ。結構つらいんだぜ、この仕事」
「まあ、見事な中間管理職だもんな。店長とはいえ」
「そ、
で、急にエリマネが呼び出しが来たんだよ。」
「襟真似?」
「エリアマネージャーのことだ、
まあ、そりゃいいんだけど。奴と会わないんだよね。俺」
「どんな奴?」
「ん~。なんていえばいいのかなぁ
基本人の言うこと聞いてないし、言葉尻を取って否定してくる。
二言目には『エビデンス』だよ。
なんだよ。エビデンスって。横文字使うとえらいとでも思ってんのか?
甲殻類に謝れよ。エビの何が悪いんだよ。」
「何を言ってるんだ。お前は、もう酔ったのか?」
缶に残った酎ハイを一気にあおり、次の缶を開ける。
この程度では今日は酔える気がしない。
「これからだ。ちょっとエンジンかかってきたぞぉ」
「〇ル缶じゃ足らんな。こりゃ。」
「なんだ、マタタビでもいるか?今なら何でも買うちゃるぞ!」
「パパ活やってんじゃないんだよ。いいよもう。とりあえず話せ」
「なんだよ。気難しいなぁ。
まあいい。
で、今日は緊急でエリア内の店長呼び出されたんだ。
正直、めんどくさいなぁ位にしか思ってなかったんだが・・・
俺がターゲットだったらしい。」
「ターゲット?」
「店長会議っていうと聞こえはいいんだよ。なんか、地域の店長が今後のマネジメントの話し合いする感じじゃん?」
「まあ、普通はそう思うな。意見交換やら、好事例を話し合って、多店舗でも生かすみたいな」
「そうだよなぁ、普通そうなんだよ。
社員時代にお世話になった店長が、隣のエリアのエリマネなんだけど、そこではそんな感じでやってるらしい。
あの人、部下を使うのうまいんだよなぁ・・・結構やる気ださせるんだよ。」
「いい上司だな」
「そうなんだよ。あの人の下で働いてた時は楽しかった。できれば、あの人がうちのエリアだったら・・・」
「で、君の上司はどうなのさ?」
「まあ、ひどいな。」
「どんなふうに?」
「マウントを取りたがる」
「マウント?」
「そ、自分が上だと知らしめたいんだよ。基本的に。
だから、相手の揚げ足を取ろうとするんだよ。
で、『君には経験がないからわからないだろうけど、こんなやり方があるんだよ』的なことを言ってくる」
「なんか、ヤな奴だな」
「あぁ、単純にヤな奴なんだよなぁ。」
「でも、指導してくれてるんならいいんじゃないか?」
「指導できるんならね。」
「は?」
「基本、なんでエリマネなのかがわからないくらい無能なのさ」
「いやいや、さすがに無能でその地位に行かないんじゃないか?」
「たぶん、店長時代の実績だな。
奴の部下だった社員、かなりできるのが多いんだよね。」
「じゃあ、指導力あったんじゃねぇ?」
「いや、その社員たちは別店長の下で育ったメンツなんだよ。
特に、うちみたいな弱小地域密着ファミレスは、イベントだとかメニュー頼りのところがあるんだよね。
で、メニューに関しては、結構自由度が高い。
大手は全部本部がメニュー決めるんだけど、うちは組み合わせとかアレンジも店に任されてるんだよ。」
「〇将みたいだな」
「よく知ってんな?
そう、そんな感じ、あそこまで自由度高くないんだけど、地域店舗で比較的自由なメニューとかランチ作れるんだよ。
酒のつまみ的な奴をサイドメニュー組み合わせて作ってみたりさ。
で、それが売れたら水平展開する感じなんだ。
それで伸びてきたんだよ。」
「ボトムアップな企業なんだな」
「そ、だからこそ社員の質が店舗でモノを言うんだよね。
たまにパートがいいメニュー考えてくれることもあるけど、高校生アルバイトは意見しないし・・・
だからメインは社員が出した新メニューの良し悪しで店舗の人気が決まるんだよね。」
「お前んとこは・・・・難しそうだな」
「よくご存じで。
そうなんだよ。で、以前エリマネが店長やってた店舗は、結構いい社員が多かったんだ。
特に、前の店長が社員を育てるのがうまくて、結構新メニュー提案してたんだよね。」
「なら、その店長結構出世したんじゃないのか?」
「いや、その時は、新メニュー出すんだけど、今一つだったんだよね。
でも、やっぱりこういうのは数を出すことが大事だからさ。だんだん洗練されて来てたんだけど
その前に、店長替えられたんだよね。その店長が、さっき言った隣エリアのエリマネだよ。
結局実績が上がんなかったから、不採算店舗に飛ばされてさ、まあ、そこで俺と会ったんだけど。」
「お前を店長に推薦してくれたのがその人か・・・」
「そ。すげー働きやすかった。
基本、俺らのやること否定しないのさ。でも、大きく間違ってたら修正してくれる。それもやんわりと。
だから、安心して自分で考えて、意見して、仕事できるのさ。」
「なんで、評価されてなかったんだ?」
「なんでだろうなぁ、まあ、でもエリマネになれたからよかったともうよ。」
「で、その今の君の上司はどうなのよ?」
「その店舗の社員が育って、いいメニューを連発するようになったタイミングで店長になったもんだから、評価が鰻登りだったらしい。」
「ほう、運が良かったのか・・・、その人が伸ばしたってことはないのか?」
「ないなぁ、何人か、その店舗に知り合いいるけど・・・ひどいぜ、さっきも言ったが、マウント取りたがるくらいだからな」
「無能っていってたな、で、無能なのか?」
「まあ、俺も人の事は言え・・・」
「言えんな」
「いや、かぶり気味に言うなよ。ってか、フォローするところだろ?違う?」
「まあ、現実は見ろ。で、それは良いとしてどう無能なの?」
「・・・ まあ、いいか、
そうな、なんて言うか、
『人の話を聞かない。』
『聞いていても理解してない。』
『マウント取ってるつもりだがとれていない』
って感じかな。」
「なんか、悲惨な感じだなぁ
・・・具体的には?」
「今日の会議で、桜ヶ丘店の店長が現状報告したのさ、
『新メニューについてはパートの意見を聞きながら開発しています』ってさ」
「パートのおばさんたちの意見を聞くのか?」
「そう。結構いい案だと思うよ。客層として特に昼ピークと夜ピークの間の、マダム連中がマッタリとドリンクバーだけで居座る時間帯に稼ぐことを考えると」
「たしかに、その層は金落とさないな。」
「そうなんだよね。客単価を下げてるのはそこだからね。そうすると、PTAだの町内会だので話し合ってるつもりで時間をつぶしてるマダムたちが食べたいものを開発するのは良い案だと思うんだよ
・・・がだ、エリマネは違ったらしい。」
「なに、何が違うの?」
「いやあ、明後日の方向だったよ。
『パートに意見を求めるのは、責任転嫁じゃないですか?社員や店長が率先して考えるべきでしょ?そこに責任を押し付けてどうなりますか?』
と、来たよ。」
「?そんな話だっけ?」
「と、思うよな。みんなそんな反応だったよ。一瞬止まったもん。」
「もう一度整理してみようか?」
「おう、桜ヶ丘店店長は、『パートの意見を聞きながら開発している』と言ってる。当然『店長や社員が』、だ。普通に聞けばそう思うよな。」
「そうか、俺は間違えてなかったか。」
「そう、集まってた店長は全員そう思ってた。が、エリマネだけが、パートが作ると思ってたらしい」
「小学校からやり直した方がいいな」
「そう思うよな。結構有名な国立大の修士号持ちだぜ・・・」
「ああ、無駄に学歴が高いタイプか・・・残念だなぁ」
「そう、かなり残念なのさ、で、そのあと続けて『私が店長だったときは、社員に対して私の方から新メニューの提案をしていました!』ってさ。」
「それは、実際そうだったんじゃないの?」
「いやいや、さっきの発言する奴が提案できると思う?
いったろ?知り合いが奴の下で働いてたって・・・ひどかったらしいよ。」
「どんなふうに?」
「いや、全然部下の話聞かないし、手柄は全部自分のものみたいな。
ジャイアニズムの塊みたいなやつだってさ」
「お前のものは俺のものってか」
「そ、新メニューを提案すると、とりあえず、難癖付けるのよ。パンチが効いてないだの、後味が悪いだの。」
「意見としては良いんじゃないのか?」
「いや、適切ならね。基本味についてもよくわかってないのさ。
『何が足りないと思いますか?』的なことを聞くと、逆切れするらしい。『自分で考えろ!!』って
参考にならないこと限り無し、って感じ。最初は、その意見も大事だからっていろいろ調整してたらしいんだけど、
あるとき面倒臭くなったらしくて、時間もなかったからそのまま何も変えずもう一回出したらしいんだよ。そしたら
『前よりパンチは聞いてるけど、今度は辛すぎる』ってさ。何も変えてないのに」
「いや、おかしいだろ。味覚が」
「結局アジ音痴っぽいんだよね。雰囲気で答えてたらしくて。で、それからは適当にあしらうようになったらしい。」
「これまた悲しいな。」
「結局その程度なんだよ。この手の話知ってる店長結構多いんだよね。だから、今回の会議でも『またか』って感じなんだけど・・・
・・・まあ、イラつくよね」
「いるんだな。現実にそんな奴。」
「だよなぁ。そう思うよな。普通ドラマとか漫画の中だけかと思うじゃん。そんなの。いるんだよねぇ。驚いちゃった。」
「まあ、でも店長たちが味方でよかったじゃないか。」
「まあね。会議後、知り合いで集まって近くの茶店に言ってさ、情報交換したよ。そっちの方がよっぽど有益だった。」
「そこでも愚痴の言い合いか?」
「いや、結構有意義だった。とりあえず、あのエリマネが居るうちは実績上げないでおこうぜって」
「いやいや、後ろ向きすぎるだろ。」
「とっとと変わってほしいんだよ。ほんと。あいつのために働きたくない。」
「そこまで嫌われるのも才能だな。」
「それは言えるな。」
「いやいや、今日は本気の愚痴気化されたから疲れた。もう帰る。」
「しっかり食ってるじゃないか
・・・・まあ、すっきりしたよ。なんやかんやで、愚痴りたかったんだと思う。ありがとう」
「気持ち悪いな」
「ひでーな」
「ところで、お前がターゲットだったってのは?」
「あ、そうだ。そこだよ。本題は…」
「じゃ、おやすみ。」
「おい、や、ま……」
ひと鳴きして、黒猫はそそくさと、いつも通り窓から出て行った。
「ん、
ああ、そうな。」
「かなりだな」
「まあな
・・・・
聞いてくれるか?」
「まあ、地獄の沙汰もってやつかなぁ」
「〇ル缶だ。奮発した。」
「ほほう。聞かせてもらおうじゃないか。」
「現金だな、相変わらず」
「さあ、どうぞ」
「じゃ、お言葉に甘えて・・・
・・・
今日は店長会議だったんだ。」
「本当に?」
「そ、本当に・・・ってなんで知ってんだよ?」
「なにが?」
「いや、本当にって」
「なんとなく行ってみただけだけど、なんかあるのか?」
「いや、いつもサボる時は、大友さんに『店長会議行ってくる』って言ってんだよね。」
「クズ全開だな」
「たしかに、今日はちょっと言いづらかった。」
「なんで?」
「こないだ一人バイトが増えた話したろ?」
「ああ、最低な大岡裁きを下したヤツな」
「言うねぇ。…あんとき、『店長会議行ってくる』って茶店行ってたのよ」
「ああ、そういうことか。たしかにそんなに頻繁にあるのかって思うよな。」
「そうなんだよな。エリアマネージャーも空気読めよと思うんだよ。
だいたいさぼる時は、同じパートには2週に1回になるように使ってたんだよ。この理由」
「なんだよ。高校生が親戚殺しまくってるのと一緒じゃねぇか」
「いやいや、その辺俺は抜かりないよ。だからちゃんと同じ人にそんな頻繁に理由が被らないようにちゃんと計算して・・・」
「クズな言い訳は良いよ。話を進めろ」
「いや、ちょっとは聞けよ。たけぇんだぞ『カ〇缶』!お前もまっしぐらじゃねぇのか?」
「ん~。じゃあ聞こうか。」
「俺も、ちょっと・・・素面じゃ無理だ。今日は徹底的に呑む」
「どうぞ」
コンビニで買ってきたストロング系の酎ハイを開ける。
炭酸の子気味良い音が心地よい。
一気に三分の一ほどを喉に流し込むと、一息ついた。
「で、ちゃんと計算してんだよ。特に大友女史はフルに近いから気を使ってたんだが・・・
大友さんの信頼は重要だからね。まあ、多少さぼっても特に何も言わないと思うが、
ちゃんと仕事してくれてる人には敬意を払って、こちらもちゃんとな・・」
「ちゃんとの意味が、君と僕で違うようだが・・・」
「ちゃんと嘘は墓場まで持っていくくらいの気持ちってことだよ」
「お、おう
なんかよくわからんが、とりあえず話を進めようか・・」
「まあいいや。
で、店長会議ってのは、そう頻繁にやるもんじゃないんだよ。
せいぜい月イチかなぁ。最近はメールで済ますことが多いから、そのくらいなんだよ対面のは」
「なので、それをさぼりに利用していたと・・」
「まあ、そうなるな。
でもな。実際そのくらいの息抜きがあってもいいだろうよ。結構つらいんだぜ、この仕事」
「まあ、見事な中間管理職だもんな。店長とはいえ」
「そ、
で、急にエリマネが呼び出しが来たんだよ。」
「襟真似?」
「エリアマネージャーのことだ、
まあ、そりゃいいんだけど。奴と会わないんだよね。俺」
「どんな奴?」
「ん~。なんていえばいいのかなぁ
基本人の言うこと聞いてないし、言葉尻を取って否定してくる。
二言目には『エビデンス』だよ。
なんだよ。エビデンスって。横文字使うとえらいとでも思ってんのか?
甲殻類に謝れよ。エビの何が悪いんだよ。」
「何を言ってるんだ。お前は、もう酔ったのか?」
缶に残った酎ハイを一気にあおり、次の缶を開ける。
この程度では今日は酔える気がしない。
「これからだ。ちょっとエンジンかかってきたぞぉ」
「〇ル缶じゃ足らんな。こりゃ。」
「なんだ、マタタビでもいるか?今なら何でも買うちゃるぞ!」
「パパ活やってんじゃないんだよ。いいよもう。とりあえず話せ」
「なんだよ。気難しいなぁ。
まあいい。
で、今日は緊急でエリア内の店長呼び出されたんだ。
正直、めんどくさいなぁ位にしか思ってなかったんだが・・・
俺がターゲットだったらしい。」
「ターゲット?」
「店長会議っていうと聞こえはいいんだよ。なんか、地域の店長が今後のマネジメントの話し合いする感じじゃん?」
「まあ、普通はそう思うな。意見交換やら、好事例を話し合って、多店舗でも生かすみたいな」
「そうだよなぁ、普通そうなんだよ。
社員時代にお世話になった店長が、隣のエリアのエリマネなんだけど、そこではそんな感じでやってるらしい。
あの人、部下を使うのうまいんだよなぁ・・・結構やる気ださせるんだよ。」
「いい上司だな」
「そうなんだよ。あの人の下で働いてた時は楽しかった。できれば、あの人がうちのエリアだったら・・・」
「で、君の上司はどうなのさ?」
「まあ、ひどいな。」
「どんなふうに?」
「マウントを取りたがる」
「マウント?」
「そ、自分が上だと知らしめたいんだよ。基本的に。
だから、相手の揚げ足を取ろうとするんだよ。
で、『君には経験がないからわからないだろうけど、こんなやり方があるんだよ』的なことを言ってくる」
「なんか、ヤな奴だな」
「あぁ、単純にヤな奴なんだよなぁ。」
「でも、指導してくれてるんならいいんじゃないか?」
「指導できるんならね。」
「は?」
「基本、なんでエリマネなのかがわからないくらい無能なのさ」
「いやいや、さすがに無能でその地位に行かないんじゃないか?」
「たぶん、店長時代の実績だな。
奴の部下だった社員、かなりできるのが多いんだよね。」
「じゃあ、指導力あったんじゃねぇ?」
「いや、その社員たちは別店長の下で育ったメンツなんだよ。
特に、うちみたいな弱小地域密着ファミレスは、イベントだとかメニュー頼りのところがあるんだよね。
で、メニューに関しては、結構自由度が高い。
大手は全部本部がメニュー決めるんだけど、うちは組み合わせとかアレンジも店に任されてるんだよ。」
「〇将みたいだな」
「よく知ってんな?
そう、そんな感じ、あそこまで自由度高くないんだけど、地域店舗で比較的自由なメニューとかランチ作れるんだよ。
酒のつまみ的な奴をサイドメニュー組み合わせて作ってみたりさ。
で、それが売れたら水平展開する感じなんだ。
それで伸びてきたんだよ。」
「ボトムアップな企業なんだな」
「そ、だからこそ社員の質が店舗でモノを言うんだよね。
たまにパートがいいメニュー考えてくれることもあるけど、高校生アルバイトは意見しないし・・・
だからメインは社員が出した新メニューの良し悪しで店舗の人気が決まるんだよね。」
「お前んとこは・・・・難しそうだな」
「よくご存じで。
そうなんだよ。で、以前エリマネが店長やってた店舗は、結構いい社員が多かったんだ。
特に、前の店長が社員を育てるのがうまくて、結構新メニュー提案してたんだよね。」
「なら、その店長結構出世したんじゃないのか?」
「いや、その時は、新メニュー出すんだけど、今一つだったんだよね。
でも、やっぱりこういうのは数を出すことが大事だからさ。だんだん洗練されて来てたんだけど
その前に、店長替えられたんだよね。その店長が、さっき言った隣エリアのエリマネだよ。
結局実績が上がんなかったから、不採算店舗に飛ばされてさ、まあ、そこで俺と会ったんだけど。」
「お前を店長に推薦してくれたのがその人か・・・」
「そ。すげー働きやすかった。
基本、俺らのやること否定しないのさ。でも、大きく間違ってたら修正してくれる。それもやんわりと。
だから、安心して自分で考えて、意見して、仕事できるのさ。」
「なんで、評価されてなかったんだ?」
「なんでだろうなぁ、まあ、でもエリマネになれたからよかったともうよ。」
「で、その今の君の上司はどうなのよ?」
「その店舗の社員が育って、いいメニューを連発するようになったタイミングで店長になったもんだから、評価が鰻登りだったらしい。」
「ほう、運が良かったのか・・・、その人が伸ばしたってことはないのか?」
「ないなぁ、何人か、その店舗に知り合いいるけど・・・ひどいぜ、さっきも言ったが、マウント取りたがるくらいだからな」
「無能っていってたな、で、無能なのか?」
「まあ、俺も人の事は言え・・・」
「言えんな」
「いや、かぶり気味に言うなよ。ってか、フォローするところだろ?違う?」
「まあ、現実は見ろ。で、それは良いとしてどう無能なの?」
「・・・ まあ、いいか、
そうな、なんて言うか、
『人の話を聞かない。』
『聞いていても理解してない。』
『マウント取ってるつもりだがとれていない』
って感じかな。」
「なんか、悲惨な感じだなぁ
・・・具体的には?」
「今日の会議で、桜ヶ丘店の店長が現状報告したのさ、
『新メニューについてはパートの意見を聞きながら開発しています』ってさ」
「パートのおばさんたちの意見を聞くのか?」
「そう。結構いい案だと思うよ。客層として特に昼ピークと夜ピークの間の、マダム連中がマッタリとドリンクバーだけで居座る時間帯に稼ぐことを考えると」
「たしかに、その層は金落とさないな。」
「そうなんだよね。客単価を下げてるのはそこだからね。そうすると、PTAだの町内会だので話し合ってるつもりで時間をつぶしてるマダムたちが食べたいものを開発するのは良い案だと思うんだよ
・・・がだ、エリマネは違ったらしい。」
「なに、何が違うの?」
「いやあ、明後日の方向だったよ。
『パートに意見を求めるのは、責任転嫁じゃないですか?社員や店長が率先して考えるべきでしょ?そこに責任を押し付けてどうなりますか?』
と、来たよ。」
「?そんな話だっけ?」
「と、思うよな。みんなそんな反応だったよ。一瞬止まったもん。」
「もう一度整理してみようか?」
「おう、桜ヶ丘店店長は、『パートの意見を聞きながら開発している』と言ってる。当然『店長や社員が』、だ。普通に聞けばそう思うよな。」
「そうか、俺は間違えてなかったか。」
「そう、集まってた店長は全員そう思ってた。が、エリマネだけが、パートが作ると思ってたらしい」
「小学校からやり直した方がいいな」
「そう思うよな。結構有名な国立大の修士号持ちだぜ・・・」
「ああ、無駄に学歴が高いタイプか・・・残念だなぁ」
「そう、かなり残念なのさ、で、そのあと続けて『私が店長だったときは、社員に対して私の方から新メニューの提案をしていました!』ってさ。」
「それは、実際そうだったんじゃないの?」
「いやいや、さっきの発言する奴が提案できると思う?
いったろ?知り合いが奴の下で働いてたって・・・ひどかったらしいよ。」
「どんなふうに?」
「いや、全然部下の話聞かないし、手柄は全部自分のものみたいな。
ジャイアニズムの塊みたいなやつだってさ」
「お前のものは俺のものってか」
「そ、新メニューを提案すると、とりあえず、難癖付けるのよ。パンチが効いてないだの、後味が悪いだの。」
「意見としては良いんじゃないのか?」
「いや、適切ならね。基本味についてもよくわかってないのさ。
『何が足りないと思いますか?』的なことを聞くと、逆切れするらしい。『自分で考えろ!!』って
参考にならないこと限り無し、って感じ。最初は、その意見も大事だからっていろいろ調整してたらしいんだけど、
あるとき面倒臭くなったらしくて、時間もなかったからそのまま何も変えずもう一回出したらしいんだよ。そしたら
『前よりパンチは聞いてるけど、今度は辛すぎる』ってさ。何も変えてないのに」
「いや、おかしいだろ。味覚が」
「結局アジ音痴っぽいんだよね。雰囲気で答えてたらしくて。で、それからは適当にあしらうようになったらしい。」
「これまた悲しいな。」
「結局その程度なんだよ。この手の話知ってる店長結構多いんだよね。だから、今回の会議でも『またか』って感じなんだけど・・・
・・・まあ、イラつくよね」
「いるんだな。現実にそんな奴。」
「だよなぁ。そう思うよな。普通ドラマとか漫画の中だけかと思うじゃん。そんなの。いるんだよねぇ。驚いちゃった。」
「まあ、でも店長たちが味方でよかったじゃないか。」
「まあね。会議後、知り合いで集まって近くの茶店に言ってさ、情報交換したよ。そっちの方がよっぽど有益だった。」
「そこでも愚痴の言い合いか?」
「いや、結構有意義だった。とりあえず、あのエリマネが居るうちは実績上げないでおこうぜって」
「いやいや、後ろ向きすぎるだろ。」
「とっとと変わってほしいんだよ。ほんと。あいつのために働きたくない。」
「そこまで嫌われるのも才能だな。」
「それは言えるな。」
「いやいや、今日は本気の愚痴気化されたから疲れた。もう帰る。」
「しっかり食ってるじゃないか
・・・・まあ、すっきりしたよ。なんやかんやで、愚痴りたかったんだと思う。ありがとう」
「気持ち悪いな」
「ひでーな」
「ところで、お前がターゲットだったってのは?」
「あ、そうだ。そこだよ。本題は…」
「じゃ、おやすみ。」
「おい、や、ま……」
ひと鳴きして、黒猫はそそくさと、いつも通り窓から出て行った。
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