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終章

神罰

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「三度目とは……いやはや」
 サトシは相変わらず軽薄な対応で、肩を回しながら虹色の天使たちの到着を今や遅しと待ち構える。

「随分余裕だな」
 そう言うルークスも今回は余裕があった。

「エンリルの加護がありますもんね。結構直接攻撃に使えそうな呪文がありますよ。ほら」
 そう言いながらサトシはルークスと視界を共有する。

 そこには

『太陽嵐(ソーラーストーム)』
『ガンマ線バースト』
『|事象の地平線(イベントホライゾン)』
『特異点(シンギュラーポイント)』

「えーと。全部人類滅亡する系の奴じゃない?」

「『太陽嵐(ソーラーストーム)』あたりなら大丈夫じゃないですかね?電磁パルスに丁度良さそうですよ」

 ルークスは『丁度良い』の認識に齟齬を感じたが、深掘りしないことにした。

「で、どれで行く?」

「そっすね。最初っからクライマックスってのも惹かれますけど……まずは四天王最弱から行きますか」
 さっきの「丁度良い」とはは何だったのかと問い詰めたい衝動にかられたが、時間が掛かりそうなのでルークスは流すことにした。
 
「それで行っちゃってくれ。俺は本体を物理攻撃してみるよ」
「お願いします」
 
 アズラーイールは余裕の表情で二人のやり取りを眺めていた。ルークスが戦闘態勢に入ったところでにこやかに語りかける。
「相談は終わりましたか?」
 
「おかげさんで……」
 ルークスはそう答えると多重にかかったヘイストを利用し、不規則に再度ステップを挟みながらアズラーイールとの距離を詰める。

「イケそうな気がしてきたよ」
 残像を残しながらアズラーイールの懐に飛び込むと、脇腹に短勁を叩き込む。

 アズラーイールの表情が僅かに歪んだことを確認すると、高速で周囲を回りながら短勁を打ち続ける。

 アズラーイールは短勁を躱そうと身を捩るが、ルークスは先読みして逆サイドから攻撃を加える。ほぼ「はめ技」に近い形でアズラーイールのHPが削られてゆく。
 が、規格外の防御力のためダメージ自体は僅かなものだった。

 その状況に、ルークスは一旦距離を取る。
「大山鳴動して……って奴かな。全然効いてる気がしねぇな」
「マッサージは終わりですか?」
 アズラーイールの軽口に、ルークスは僅かばかりの希望を抱く。

『意外に聞いてるのかもな』
『数は大事ですよ。奴、スキル使えませんからね。魔法も封じてますから、長期戦になれば有利だと思いますね』
『おい!魔王さんよ。カールの方はどうだ?』
 ルークスはフリードリヒの様子を確認するが、返答はない。
『おい!』

『聞こえてるよ!今集中してるんだ。まだ時間が掛かる』
『そうか』
 
 ルークスとフリードリヒとのやり取りにサトシが割って入る。
『転移したほうがよくないですか?何ならクレータ街に飛ばしましょうか?』

 そのサトシの問いかけに、フリードリヒはしばらく考えてから答える。

『いや、それは無理だな。奴のデータがまだこの周辺に漂ってる。それを全部回収しないと不完全な蘇生になっちまう』
『でも、もうじきあのレインボー天使軍団が来るぞ!?そんなトコでじっとしてたらやられちまうじゃないか』
『……』
 フリードリヒは蘇生を続けながら必死に考えを巡らす。
『とりあえず、シェルター作っときますか』
 サトシの軽い言葉にルークスが疑問をぶつける。
『シェルター?っておい』
『イモータライトで作りますから大丈夫ですよ。まあ、電磁パルスは通過するかもしれませんが、そこは問題ないんじゃないかと』
『……助かる』
 フリードリヒの返答を聞くや否や、二人の周りにドーム状の壁が出来上がる。

「おや?弐拾號と七拾八號を守るんですか?自分たちの心配をしなくても大丈夫ですか?」
 アズライールはルークスの短勁で乱れた衣を治しながらサトシに問いかける。
 その背後には虹色の天使軍団がこちらへと近づいているのが見えた

「おいでなすったぜ。サトシ。イケるか?」
「まずは先制攻撃してみましょうか。距離があった方がこっちに被害少なそうですもんね」
 サトシも技の威力を十分理解している。出来る限り遠方で天使軍団を叩くつもりだ。

「煉獄の守護者たるハルシとその眷属神たるマミ・アシンよ、……」

 サトシはそこから眷属神の名前を読み連ねる。その様子にルークスは一抹の不安を覚えた。

「ちょっと欲張りすぎじゃないか?俺たちまで吹っ飛ばない?」
 そんな心配をよそに、つらつらと眷属神を読み上げたサトシは呪文を締めくくる。

「……我魂(わがたましい)を糧として、まつろわぬ者どもに御力の鉄槌を!太陽嵐(ソーラーストーム)!」

 呪文を詠唱し終わると一瞬にしてあたりは闇に包まれる。
 その闇の中央。ルークスたちの頭上には、瞬きながら光る点が見えた。

 その点は徐々に大きくなり、周囲に熱をまき散らしながら近づいて来る。

「……ってか、太陽風……なんだよね?サトシ。これ、太陽が落ちてきてない?」
「あ~。そんな気がしますね。やり過ぎましたかね」
「いやいや。太陽のメテオストライクって……むしろ地球の方が太陽に落ちてるんじゃない!?どうすんだよコレ!?」
「まあ、やっちまったモンは仕方ないですよ。状況を見守りましょう」

 死んだな。とルークスが思ったその時。太陽は動きを止め、その発する熱線が天使軍団へと集中する。

 フィキャァ!!!!
 すさまじい光と熱量で天使軍団は瞬時に消滅する。

 その後周囲を襲う暴風。瓦礫や砂塵と共にサトシたちは後方へと吹き飛ばされた。

 

 砂塵が落ち着き視界が開けると、そこには巨大なクレーターが出来上がっていた。
 瓦礫の間からルークスとサトシが這い出てくる。

「やっぱ、やり過ぎだろ?」
「ちょっとやり過ぎましたか」
「ちょっとって……まあ、電磁パルス関係なく蒸発させたっぽいから……良しとするか」
「あ」
 サトシが頓狂な声を上げると、その視線の先には地面から這い出して来る手があった。

 ステータスを確認すると、アズラーイールだ。

「無傷に近いですね」
「直撃したわけじゃないしな。でも、あいつにあれを狙い撃つの無理じゃね?近いからかなり絞らないとこっちもやられるぞ」
「ですね。どうしましょう」
 
 二人が相談している間にアズラーイールは地上へ這い出し、体についた砂埃を丁寧に叩(はた)いていた。

「なるほど。やりますね。かなりの力技ですが、わが軍の最新兵器をいとも簡単に屠るとは。流石と言うべきでしょうね。

 では。これならどうです?神罰発動」

 アズラーイールが再び神罰を発動させる。また頭の中に流れるアナウンスを聞きながらサトシとルークスは周囲を見渡し敵の気配を探る。
 しかし天使軍団の気配は消えたままだった。

 その時、サトシたちの視界に赤色で「警告(caution)」と点滅するダイアログが表示され、エンリルの声が聞こえた。

『不味いぞ。『神の杖』が来る』 
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