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終章

作戦

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『カール……が?』
『ああ』
『いや。あの。なんだ。その』
 ルークスは状況が呑み込めずにいた。
『どうした?』
『いや。カールって。転生者なのか?』
『お前が言ってたんじゃねぇか。「ユーザー」の表示が出てるって』
『あ、ああ。そりゃ確かに言ったけどさ。そこじゃなくて、なんであんたがカールの素性を知ってるんだよ』
『まあ、お前に隠しても仕方ねぇしな。一応話しておこうと思ってよ。
 奴は、以前クレータ街に居たんだよ。居たというより、来たって言うのが正しいだろうな
 ただ、このあたりの事は話すと長いからな。またあとだ』
『なんだよ!そこまで話しておいてお預けかよ!?』
『今カルロス対策の方が大事だろうが!』
『なら、なんで今その話するんだよ!?』
『お前が以前、何も言わずに消えたからだよ』
『な!?』
 その言葉にルークスはびくりと背筋を伸ばした。
 コンセントが抜けてPCが落ちたから仕方なかった……とはなかなか言いづらかった。

『だから、今のうちにある程度は情報を伝えておこうと思ってな』
『なるほどな。わかった。助かる』

 二人は悟られぬように、何食わぬ顔で作業らしきことをしながら念話(チャット)を終える。

「なあルークス。カルロスの弱点みたいなもんは判りそうか?」
 天命の書板を覗き込んでいるルークスに、フリードリヒはそれらしく尋ねる。
「あ~。良い情報は出てこないなぁ。で。カルロスはあんたから見ても強いのか?」
「どうだろうな。カルロスに会ったことが無いからな」
 フリードリヒのその言葉に、サトシがハッとする。
 ルークスとの話に夢中になって、カルロスの話が途中になっていたことをすっかり忘れていたことにようやく気付いた。

「そうでした。作戦を練らないとまずいですよ。で、どうしましょう」
「どうしましょうって……時間遡行(タイムリープ)してきたのお前だけなんだからさ。も少し詳しく話してくれよ。あ、物まねは良いから。別に似せなくてもわかるし」
「いや。なんか気分出ないじゃないですか……似せないと」
「訳が分からんこだわりだな……」
 ルークスは肩をすくめながら再び天命の書板に視線を落とす。

「ところで、どういう作戦だったのさ?」
 ルークスは留守中の情報収集をしようと書板を覗き込むが、目ぼしい情報は出てこない。以前フリードリヒから聞いたカルロスのスキルが表示されているだけだった。
「そうですね。そこを話してませんでしたね」
 サトシはそう言うと、ポケットから業の指輪を取り出す。
「ああ、業(カルマ)の指輪(リング)ね。で、どうしたのそれが」
「カルロスは「ひったくり」が使えるからな。言ってみれば瞬時にソウルスティール出来るようなもんだ。触れられれば最後、自分の能力含めて奪われるのがおちって事だからな。かなり厄介だ」
 フリードリヒが忌々しそうにルークスに説明する。その様子をサトシとエリザは黙って見ていた。
「で、それを業の指輪で防ごうってのか。まあ、スキル無効だもんな。確かに使えるな。でもどうすんの?全員付けとくの?そうするとみんなスキル使えないけど」
「前の作戦では、エリザさんの偽物を作ったんですよ。カールさんエリザさんに惚れてるじゃないですか。だからそこを狙ってくるんじゃないかと踏んだんです」
「な!?そんなこと!……無いです……よ……ね?……ホント……ですか?」

『ああ。メンドクサイ』これが男3人の感想だった。

「いいから。な!エリザ。そこでホルホルしとけ。大丈夫だ。カールはお前に惚れてる。よかったな。じっとしてなさい」
 フリードリヒが子供でもあやすようにエリザを廊下の隅へと追いやる。
「そんな!何ですかその雑な慰め……というか。うれしい意見……というか……」
 
 サトシとルークスがほほえましい物を見る目で、フリードリヒに追い立てられるエリザを眺める。エリザは顔を紅潮させながら廊下の隅っこに追いやられ、そこでしゃがみ込んだ。

「よし。これで話が進められる。で、実際その作戦は上手くいったんだな」
 フリードリヒはエリザから背を向けるとサトシに未来の様子を確認する。
「そうすると、奴が時間遡行(タイムリープ)のスキルを持ってても発動できねぇだろ?」
「いえ。たぶん時間遡行(タイムリープ)はカルロスのスキルじゃないです」
「どういうことだ?」
「カルロスは、スキルを無効化されても俺たちの考えてることが読めるようでした」
「そのくらいはスキル使わなくても俺でもできるぞ。まあ、カール限定になるけど。あ、あとルークスもイケるな」
「どういうことだよ!」
 フリードリヒが茶化すと、ルークスが突っ込む。が、二人ともふざけている訳ではなかった。サトシの絶望感漂う雰囲気に少しでも抗いたかったというのが本音だろう。
 
「たぶん、管理者です。「カルロスは管理者と話ができる」って言ってました。おそらく今も……リアルタイムで管理者から助言や指示が飛んできてるんじゃないですかね?俺たちの念話(チャット)みたいに」
「なるほどな。そうなると厄介だな」
 フリードリヒはそう呟くと顎に手を当て、目を伏せるとそのまま黙り込んだ。
 頭を掻きながら天井を見つめていたルークスがサトシに尋ねる。

「って事は、時間遡行(タイムリープ)も管理者のスキル……いや、仕業って事か」
「でしょうね」
 ルークスもフリードリヒも同じことを考えていた。管理者が敵となれば厄介なんてもんじゃない。当然管理者権限なら何でもありだろう。話を聞く限り、それがリアルタイムで干渉してくる。チート以前の問題だ。

 三人は暗鬱な気持ちでそれぞれ思案にふける。唯一幸せそうなエリザを除き重い雰囲気が漂う。

「あ!」
 その沈黙を破るように、サトシが声を上げた。
 
「どうした?」
 ルークスがサトシに尋ねるが、フリードリヒは今だ俯いたまま動かない。

「いや。だめかぁ~」
 サトシは一転して暗い表情になる。その様子にルークスはもう一度声をかける。
「で、どうしたんだってば?」
「あ、いや。カルロスが最後こういってたんですよ」
「モノまねか?」
「ダメですか?」
「したいだけじゃなくて?」
「そう言う訳じゃないです。まあ聞いてください」
 サトシにはものまねを披露したい気持ちも3割ぐらいはあったが、それは秘密だった。

『この状況なら……なんや?俺を捕らえておけるとでも思たか?

 せやな。最後に……俺のとっておき見せておこうか?まあ、どうせ君ら忘れてしまうやろしな』って」
 サトシ渾身のモノマネは不発に終わったが、ルークスたちに真意は伝わったようだった。

「過去に戻れば、こっちに記憶がないと思ってるって事か?」
「そうです」
「なるほどなぁ」
 ルークスは納得の表情を見せるが、すぐに表情が暗くなる。サトシが先ほど落胆した意味が分かったからだ。

「だとして……どうする?」
「ですよねぇ」
 二人は顔を見合わせため息をつく。そのまま視線を漂わせ、フリードリヒ、エリザを見るが、二人はいまだ動かない。

「弱りましたねぇ」
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