279 / 321
魔王の譚
独居房
しおりを挟む
クレータ街 カールの工房
「なあ、カール」
サトシと作業準備に取り掛かっているカールに俺は声をかける。
「どうした」
「ルドルフを殺した騎士の事覚えてるか?」
「なんだよ、藪から棒に。タダでさえ忘れたい記憶だ、覚えてねぇよ」
カールはぶっきらぼうに答える。今のはカールの気持ちを考えずに質問しちまったな。俺も余裕がなくなっているのかもしれん。
さっきのカルロスの様子が気になって仕方ない。部下に任せて大丈夫だろうか。こんなことは初めてだった。
「あの。フリードリヒさん」
俺の様子を不思議に思ったのか、サトシが珍しく俺に声をかけてきた。
「ん?どうした」
「カルロスから有益な情報は聞き出せたんですか?」
「いや、まったくだな。奴の思い出話に付き合わされたよ」
「思い出話ですか……」
サトシは顎に手を当てて何やら考え込んでいる。
「サトシ、次バトルアックス仕上げるか?」
カールはテキパキと工具を準備しながら手が止まっているサトシに声をかける。が、サトシからの返事は無い。
「どうした?サトシ。防具の方にするか?」
「いえ。あ、いや。あの。ちょっとカルロスに確認したいことがあるんで、作業一人でやってもらっても良いですか?」
「あ、ああ。別に構わんけど。結構かかりそうか?それ」
サトシはまた顎に手を当て考える。そして、
「そっすね。4時間くらいですかね」
「そうか。わかった。じゃあ、さっきのロングソードに焼入れる段取りだけしとくよ。サトシが帰って来てからロングソードの熱処理しながらバトルアックス仕上げよう」
「わかりました。お願いします。フリードリヒさん。ちょっとカルロスの所に一緒に来てもらっても良いですか?」
「今からか?今はやめた方がいいと思って引き揚げてきたんだが、それに良いのか?作業は」
「ええ、作業は大丈夫です。ちょっと気になるもんですから」
サトシの表情は「ちょっと気になる」という雰囲気ではなかった。カルロスに問い詰めたくてうずうずしているといった様子だ。
「それに、あのままじゃガードが手薄じゃないですか?」
「ガード?」
「ええ、広い空間にカルロス一人でしょ?フリードリヒさんの部下が居るとはいえ、逃がさないためにも防壁というか独居棒というか……そんなのを作っといた方がいいんじゃないですか?」
サトシは理由を無理やり作ったような雰囲気だが、その言い分にも一理ある。もう一度話を聞くのは気乗りしないが、ガードを固めるにはサトシの協力が不可欠だ。ここは折れるか。
「そうか、わかった。このままヨウトに転移するか?」
「はい。そうしましょう」
そう言うが早いか、サトシの足元から転移の魔法陣が広がる。
周囲の景色が一瞬歪み、先ほどまで見ていたカルロスを捕らえている広間に出た。
「独居房作っときましょうね」
サトシはそう言いながら、掌をカルロスの方にかざす。すると、カルロスを囲むように真っ白な壁が立ち上がり、中央には頑丈そうな扉が出来上がった。
『できる限りの情報共有をお願いしたいんですが』
サトシからの念話(チャット)が飛んできた。
『できる限りねぇ』
取捨選択は俺に任せてくれるってか。でも、大した情報が無いことも確かなんだよな。ただ、「仮想現実」って下りはどうだろうな。ルークス的には話してほしくなさそうだったが、今はそのルークスも行方不明だ。さて……
『ちなみに、俺やアイ、それにルークスさんの事は何か話しましたか?』
『話題には出たが、大した話は無かったように思う。お前達を危険視しているようではあったがな』
『危険視……ですか?』
『お前さん、奴と対等以上に渡り合えるんだろ?そりゃ危険視するんじゃねぇのか?』
『対等……ですか。カルロスのスキルがわかった今なら、勝率は五分五分ッて所でしょうか。ルークスさんや、カールさん。フリードリヒさんの誰かが味方に付いてくれればほぼ十中八九勝てるとは思いますが』
『俺たちがついても、必勝ってわけにはいかねぇか?』
『心配ではありますね。やはり、奴の底が知れない不気味さのせいですかね』
「………」
『で、お前が確認したい内容ってのはなんだ?』
『カルロスがこの世界の事について何か知ってるんじゃないかと思って』
『この世界の事?』
「………い」
『ええ、ルークスさんにも何度か話したことはあるんですけど、この世界について気になることが幾つかあって』
『なんだ?そりゃ』
『アイ……との関係です』
『ああ』
なるほどね。そりゃそうだな。最愛の人を殺されてるんだ。思うところも……いや、違うな。
「関係を知ってどうする?』
『……』
サトシは完全に沈黙した。ルークスもアイとサトシの関係についてはある程度気づいていたようだ。やつの記録(ログ)を確認すると、わかってて触れなかったことが見て取れる。
「………………い!」
「………………ぉい!」
「ええ加減にしいや!!無視すんな!!」
独居房の中からわずかに叫び声が聞こえた。
「なあ、カール」
サトシと作業準備に取り掛かっているカールに俺は声をかける。
「どうした」
「ルドルフを殺した騎士の事覚えてるか?」
「なんだよ、藪から棒に。タダでさえ忘れたい記憶だ、覚えてねぇよ」
カールはぶっきらぼうに答える。今のはカールの気持ちを考えずに質問しちまったな。俺も余裕がなくなっているのかもしれん。
さっきのカルロスの様子が気になって仕方ない。部下に任せて大丈夫だろうか。こんなことは初めてだった。
「あの。フリードリヒさん」
俺の様子を不思議に思ったのか、サトシが珍しく俺に声をかけてきた。
「ん?どうした」
「カルロスから有益な情報は聞き出せたんですか?」
「いや、まったくだな。奴の思い出話に付き合わされたよ」
「思い出話ですか……」
サトシは顎に手を当てて何やら考え込んでいる。
「サトシ、次バトルアックス仕上げるか?」
カールはテキパキと工具を準備しながら手が止まっているサトシに声をかける。が、サトシからの返事は無い。
「どうした?サトシ。防具の方にするか?」
「いえ。あ、いや。あの。ちょっとカルロスに確認したいことがあるんで、作業一人でやってもらっても良いですか?」
「あ、ああ。別に構わんけど。結構かかりそうか?それ」
サトシはまた顎に手を当て考える。そして、
「そっすね。4時間くらいですかね」
「そうか。わかった。じゃあ、さっきのロングソードに焼入れる段取りだけしとくよ。サトシが帰って来てからロングソードの熱処理しながらバトルアックス仕上げよう」
「わかりました。お願いします。フリードリヒさん。ちょっとカルロスの所に一緒に来てもらっても良いですか?」
「今からか?今はやめた方がいいと思って引き揚げてきたんだが、それに良いのか?作業は」
「ええ、作業は大丈夫です。ちょっと気になるもんですから」
サトシの表情は「ちょっと気になる」という雰囲気ではなかった。カルロスに問い詰めたくてうずうずしているといった様子だ。
「それに、あのままじゃガードが手薄じゃないですか?」
「ガード?」
「ええ、広い空間にカルロス一人でしょ?フリードリヒさんの部下が居るとはいえ、逃がさないためにも防壁というか独居棒というか……そんなのを作っといた方がいいんじゃないですか?」
サトシは理由を無理やり作ったような雰囲気だが、その言い分にも一理ある。もう一度話を聞くのは気乗りしないが、ガードを固めるにはサトシの協力が不可欠だ。ここは折れるか。
「そうか、わかった。このままヨウトに転移するか?」
「はい。そうしましょう」
そう言うが早いか、サトシの足元から転移の魔法陣が広がる。
周囲の景色が一瞬歪み、先ほどまで見ていたカルロスを捕らえている広間に出た。
「独居房作っときましょうね」
サトシはそう言いながら、掌をカルロスの方にかざす。すると、カルロスを囲むように真っ白な壁が立ち上がり、中央には頑丈そうな扉が出来上がった。
『できる限りの情報共有をお願いしたいんですが』
サトシからの念話(チャット)が飛んできた。
『できる限りねぇ』
取捨選択は俺に任せてくれるってか。でも、大した情報が無いことも確かなんだよな。ただ、「仮想現実」って下りはどうだろうな。ルークス的には話してほしくなさそうだったが、今はそのルークスも行方不明だ。さて……
『ちなみに、俺やアイ、それにルークスさんの事は何か話しましたか?』
『話題には出たが、大した話は無かったように思う。お前達を危険視しているようではあったがな』
『危険視……ですか?』
『お前さん、奴と対等以上に渡り合えるんだろ?そりゃ危険視するんじゃねぇのか?』
『対等……ですか。カルロスのスキルがわかった今なら、勝率は五分五分ッて所でしょうか。ルークスさんや、カールさん。フリードリヒさんの誰かが味方に付いてくれればほぼ十中八九勝てるとは思いますが』
『俺たちがついても、必勝ってわけにはいかねぇか?』
『心配ではありますね。やはり、奴の底が知れない不気味さのせいですかね』
「………」
『で、お前が確認したい内容ってのはなんだ?』
『カルロスがこの世界の事について何か知ってるんじゃないかと思って』
『この世界の事?』
「………い」
『ええ、ルークスさんにも何度か話したことはあるんですけど、この世界について気になることが幾つかあって』
『なんだ?そりゃ』
『アイ……との関係です』
『ああ』
なるほどね。そりゃそうだな。最愛の人を殺されてるんだ。思うところも……いや、違うな。
「関係を知ってどうする?』
『……』
サトシは完全に沈黙した。ルークスもアイとサトシの関係についてはある程度気づいていたようだ。やつの記録(ログ)を確認すると、わかってて触れなかったことが見て取れる。
「………………い!」
「………………ぉい!」
「ええ加減にしいや!!無視すんな!!」
独居房の中からわずかに叫び声が聞こえた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
私の愛した召喚獣
Azanasi
ファンタジー
アルメニア王国の貴族は召喚獣を従者として使うのがしきたりだった。
15歳になると召喚に必要な召喚球をもらい、召喚獣を召喚するアメリアの召喚した召喚獣はフェンリルだった。
実はそのフェンリルは現代社会で勤務中に死亡した久志と言う人間だった、久志は女神の指令を受けてアメリアの召喚獣へとさせられたのだった。
腐敗した世界を正しき方向に導けるのかはたまた破滅目と導くのか世界のカウントダウンは静かに始まるのだった。
※途中で方針転換してしまいタイトルと内容がちょっと合わなく成りつつありますがここまで来てタイトルを変えるのも何ですので、?と思われるかも知れませんがご了承下さい。
注)4章以前の文書に誤字&脱字が多数散見している模様です、現在、修正中ですので今暫くご容赦下さい。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる