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魔王の譚

ルドルフ

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「ルドルフ……」
「知ってんねやろ?」
「……」
「別にええよ。君がこの世の理の事知らんわけないもんな。王都で鍛冶屋をやってたルドルフに会(お)うたよ。いやぁ。おどろいたねぇ。あんなバケモンが普通に生活してるやなんてな。周囲は全くの知らん顔や。あり得んやろ?普通。バケモンやで、真正の。あれが何食わぬ顔して王都で鍛冶屋をやっとる。あまつさえ良(え)え父親気取りや。あり得んで。当時はカールもかわいらしい少年やったけどなぁ。あんなむさ苦しいおっさんになってまうとは……時間は残酷やな」
 ルドルフとカール。二人に会ってたのか。こいつは。
「で、あのルドルフは初代王の生まれ変わりや。どうせそう言う理屈も知ってんねやろ?俺は初めて会(お)うた時、そのことは知らんかった。単なるバケモンとして認識しただけやけやった」
 ?ということは、ルドルフが初代王の生まれ変わりだと誰かから聞いたことになるな。誰だ?ルドルフが「混乱」を受けるとは思えない。カールか?いや、カールはその事実を知らなかった。当然ルドルフの親兄弟、妻に至るまでそのあたりは話していないはずだ。それは本人がそう言っていた。

「なんか随分思案顔やなぁ、でも、君の事詮索するのは今は置いとこう。俺の話を聞いてくれたらええ。でや。王都であんな「理不尽」が服を着て歩いてるような奴に会(お)うたんや。俺は正気では居(お)れんかった。せやろ?俺は自分に少なからず自信があったんや。能力的に優れてるってな。それがあんなん見せられてみ?今までの自信が音を立てて崩れてったで。君もそう思わんか?……って。そうか、君も「理不尽」が服着て歩いてる系やもんな。同類やとしか思わんかったか」
 失礼な奴だな。
「そうか、ルドルフとはすでに会(お)うてるんやな。なら話は早い。でや、打ちひしがれた俺は王都の周りを彷徨うたよ。日がな一日魔物に会(お)うては討伐して少しでも強(つよ)なりたいと思てな」
 そのあたりは前向きなんだな。
「なんか失礼なこと考えてへんか?まあええ。俺は少しでも奴に追いつきたい、いや。追い越したいと思て努力した。いや努力したなんてもんやないよ」
 どっちだよ。
「そらもう必死や。来る日も来る日も強い魔物を探し回っては、その魔物を討伐して……いやぁ。どんだけ駆逐したかわからんわ。そのおかげもあってある程度は強(つよ)なったんやけどな……それでもルドルフのようにはなれんかった。いや、当時のカールにすら劣るレベルやったやろうな。その事で何もかもがいやんなってしもてな。自暴自棄っちゅうやっちゃ。」
 その気持ちは理解できる。確かに俺は最初からステータスも高かったしチート級のスキルも持っていた。こいつのような苦労はしていないが、現実世界では何度もそんな気分を味わったもんだ。いくら努力しても越えられない壁、認められない無力感……
「なんや。そんな恵まれた能力持ってる君にもわかるんか?あ、そうか。以前の記憶か。君も転生者やもんな。昔の日本も理不尽っちゃぁ理不尽やしなぁ。むしろ実力主義のこの世界の方が平等かも知らん。でもな。あの能力は異常や。当時俺が会(お)うたんが君でも同(おんな)じやったかもしれんが、あのスキル、能力値は不公平やと思たねぇ」
 ルドルフ・カールの親子は確かに異常だ。俺のスキルもチート級だし能力値も半端なかった。これは親父も親っさんも同様だ。「魔王」と呼ばれるのも致し方ないことかもしれん。が、本物の魔王はルドルフとカールだろう。あそこまでのステータスは「恩寵」というよりは「呪詛」に近いな。
「君も思うところがありそうやな。そんなハイスペックな君でさえが感じる理不尽さや。凡人の俺がどんだけ打ちのめされてたか想像出来るか?いや、出来んやろなぁ」
 一人でごちゃごちゃ言いながら楽しそうにケタケタ嗤っている。当時を思い出して気でも触れたんではなかろうか?
「おい、また失礼なこと考えてるやろ!俺はマトモや!」
「自分の事をマトモという奴にマトモな奴は居ねぇけどな」
 すると、カルロスの表情が一瞬抜け落ちる。
 そして次の瞬間はじけたように嗤い出した。

「はははは!ああ、そうやな。確かにそうや。俺はマトモやない。もうあの頃にはオカシなってたんやろうな。いや。昔からか。はは!なぁ。みんなオカシイもんな!昔偉い教授も言(ゆ)うてはったやろ?「この世に『正気と狂気』など無い。あるのは一千の貌(かお)の狂気だけです」て」
「昔じゃなくて、設定上は未来じゃねぇか?」
「なんや!?君も読んでたんかあの漫画。そうか。同世代か……知らんけど。あはは。でも君もマトモやないで。その事は覚えときぃや」
「言われなくてもわかってるよ」
 俺の言葉を聞いてカルロスはまた感情をそぎ落としたような表情に戻る。そして一転して優し気な表情に切り替えると、今度は語りかけるように呟く。
「ならええ。そしたら君にもわかるはずや、こんな不条理、理不尽が詰まっていながら訳の分からん秩序に守られてるこの世界がいかに異常かって事が」
 カルロスは言葉を区切って俺の顔をじっと見つめる。しばらくの沈黙が流れた後、優し気な表情のまま再び話始めた。

「俺がその事に気ぃ付いたとき、天啓が下りてきたんや」
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