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魔王の譚

独演会

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 俺が言葉を発しなくても、奴は俺の表情からあらゆる情報を読み解き肯定や否定を判断していく。
「で、魔王の伝承が今の形になったのが、だいたい300年くらい前からや。君もそのくらいは生きてるんちゃうかと思うんやけど……。なるほどね。なら話は早い。
 君は数百年の生活の中で、この世界の色んな事を学んできたはずや。この世界は理不尽なことが多い。それは政治的に不安定やからとか、文明のレベルが低いからとかそんなんやない」
 カルロスはあえてそこで言葉を区切った。俺の様子を観察しながら同意を得ようとしている。おそらく俺と同意見なんだろうな。
「根本的に世界の仕組みが「雑」なんや。わかるやろ?君なら」

 俺の表情から回答は得られるだろうが、あえてカルロスは言葉での肯定を待っている。

「ああ、そうだな。無秩序ってのとは違う。お前の言う通り。「雑」ってのがしっくりくるよ」
 
 カルロスは満足そうに表情を崩す。それは同意してくれる仲間を得られた安心感ともいえる表情だった。

「正直、俺の人生もかなり長いけどな。なかなかこの意見に賛同してくれるモンはおらんかった」
 カルロスは目を閉じ大きくため息をつく。しばしその満足感に浸っているようだった。
 そうだろうな。長く生きるってのは周囲が思うほど良いもんじゃない。ある程度歳を重ねれば死の恐怖が付きまとう。周囲の者たちは次々と寿命を終えて去って行く。ただ一人この世界に取り残されていく感覚は喜びや満足感など微塵もなかった。
 何か没頭できることを見つけなければ気が狂いそうになる。初代王のルドルフが街づくりに必死になった事、シャルロットが魔術研究にのめり込む事。そして俺はクレータ街の発展に心血を注ぎ続ける。そうしなければ自分を見失ってしまう。いや。すでに見失っているのかもしれない。
 そんな中にで、この世界の仕組みはあまりに「雑」過ぎる。

 そんなことを考えていると、カルロスは俺に語り掛けてきた。
「君もいろいろと没頭できる物を探してきたはずや。そうせんと気が触れてしまいそうになる。やろ?」
 俺の沈黙を肯定と判断したのか、カルロスは話を続ける。
「けどな。あまりに「雑」やねん。この世界。君もどうせ日本人の転生者やろ?ほんならわかるやろ?普通に日本語が使われてて、漢字もある。英語表記も使われてる。そんなけったいな世界有るか?そりゃ日本がそうやから、異世界でもあると言われればそれまでかもしれん。でもな、そんな特殊な環境、現代日本以外に存在するわけないねん」
 カルロスの表情に軽い怒りが見て取れる。理不尽な世界に振り回された男……だか女だかよくわからんが。振り回された人間の怒りと悲しみ。それがわずかに見えていた。
「せやから、君も同じ結論に達してるんちゃうかと思うんや。この世界の真実に」
 そこでまたカルロスは言葉を区切る。
「この世界……仮想現実なんちゃうかってな」

 やはり俺と同じか。そりゃそう言う結論に達するよな。あまりに不自然過ぎるもんな。この世界。

「それに気づいてから、全部が腑に落ちてん。自分が置かれた環境も、今まで起きた理不尽な出来事も。全部や、全部仮想現実やったら起こりうるってな」

 カルロスはそう言いながら、俺の方は一切見なくなった。俺の表情から俺が知るこの世界の裏側を覗こうと考えているのかと身構えたが、どうや奴には確信があるようだ。

「で、ある時、創造神様が俺んトコに来はってん」
 は?
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