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魔王の譚

人質

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 エリザはローブから鋭いけりを少女に向けて放つ。
 ほぼ同時にウルフが背中から刀を抜きエリザに斬りかかる。
 エリザは蹴りの体勢からバク転、バク中を繰り返して斬撃を躱しつつ背後に飛び退く。

 少女は目の前を通り過ぎたエリザの蹴りの風圧に押され後ろに倒れこんでいた。

「おい!何やってんだ!?」
 カールがウルフに食って掛かる。
「今の斬撃!殺気がこもってたぞ!?それにエリザもどうした?なんでだ?」
 カールは訳が分からないといった表情で二人に詰め寄る。が、二人はそんなカールのことなど気にも留めず、お互い薄ら笑いのままにらみ合う。

「カール。相変わらずお前は察しが悪いなぁ。脳筋ここに極まれりって感じやな。そんなんやったらモテへんぞ。あ、モテてたらその歳まで独り身ってこと無いワナ」
 エリザはそういいながらカラカラと笑う。しかし、その視線はウルフに注がれていた。

「おい、なんだよ。どうしたんだよ。エリザ!?お前おかしいぞ!!」
 カールは必死に呼びかけるが、それに対するエリザの反応はない。

「カール。お前はじっとしてろ。もうこいつはエリザじゃない。カルロスだ」
 ウルフはそういうと刀を強く握りなおす。

「カルロスって……そんな分けねぇだろ。エリザだよなぁ!?なあ。エリザ!!冗談だよな!?な?ちょっと悪戯心出してみただけだよな?」
 カールは懇願するような目でエリザに訴えかけるが、エリザはにやけた表情のままウルフをじっと見つめて動かない。

「なあってばぁ!!」
「うるさいなぁ!ええ加減に……っつ!」
 エリザの一瞬のスキを突くようにウルフが動く。鋭い斬撃が二度、三度とエリザの急所めがけて繰り出される。

 が、エリザはことごとくそれを躱してゆく。

「っておい。いきなり来るなぁ。にしても、然(さ)しものウルフさんでもちょっと気の迷いがあるんか?なんや温(ぬる)い太刀筋やで」
「減らず口は聞けるみたいだな」
 エリザの言葉にウルフが答える。が、視線から放たれる殺気は先ほどよりも強くなっていた。

「おい!お前確実に殺しに行ってるだろ!?仲間だぞ!エリザなんだぞ!」
 カールは相変わらず喚き散らしている。が、ウルフに全く動じる気配はない。

「だからいい加減あきらめろ!エリザはカルロスの手に落ちた。取り戻す方法はわからん。が、奴を倒さなきゃ始まらんことだけは確かだ」
「そんな。取り戻す方法が分からないって……なんだよ。お前魔王なんじゃねぇのかよ!?」
 カールはわなわなと震えながら視線を地面に落とす。太刀の柄がギリギリと鳴るほど強く握りしめられ、カールの周囲には靄のようなものが立ち上っていた。
 その靄は次第に濃度を増し、周囲に向かって熱気を放ち始める。

 カールを中心として周囲に向かって風が吹き始める。
「おい!カール!?」
 オットーが慌ててカールに駆け寄ろうとする。が、カールの勢いに押されて立ち止まる。

 カールはゆっくり顔をエリザの方に向けた。

 その瞳には魔方陣が浮かび、鈍く紫色に輝き始める。
 
「エリザを……かえせ」
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