上 下
255 / 321
魔王の譚

書き換える男

しおりを挟む
 結果としてルークスが情報を得られるなら大きな問題は無い。ちょっとめんどくさくはあるが……
 少なくともルークスは俺に対して隠し事が出来ない状態になっている。
 まあ、そんなことを本人に伝える必要もないし、言えば余計に「魔王だ!」と騒ぎ立てるだけだしな。

 ありがたく利用させてもらおう。

 理由はどうあれ、ユーザーによって天命の書板から得られる情報に違いがあることは判った。
 今はそれがわかっただけでも良しとしておくか。

「それじゃ、セ〇ィロス復活させるか」
「どうやるんだ?」
 ルークスは興味津々の様子で俺に聞いてくる。
「まあ、どうもこうも、さっき言ったとおりだよ。死亡フラグを上書きするだけだ」
「なるほどね。で、どこにある?その死亡フラグ」
「お前の見方だとそこまでは確認できないだろうな。俺と同じ見方にしないと」
 ルークスたちが普段確認しているステータスでは表示項目が少なすぎる。俺に見えている能力値ならある程度の所までは弄ることが出来る。
 ちなみに、さっきの死亡「フラグ」と言うのはプログラミング用語だ。条件が揃ったところで、特定の変数に数値を代入する。これの事を「旗(フラグ)が立った」という。「条件が整った」合図って事だな。今回は本当の意味で「死亡フラグ」が立っているのでセ〇ィロスは死んでいるということだ。
 別に、「この戦争が終わったら田舎に待たせてる彼女と結婚しようと決めた」とか、「ゾンビの群れから逃げ延びて『ここまでくれば大丈夫だろう』と口走った」という訳ではない。

「あ~。なるほどね。こうするとコードらしきものが見えるね。確かに」
 ルークスは天命の書板とセ〇ィロスを交互に見ながら一人ごちる。
「ん?どういうことだ?」
 俺も天命の書板を覗き込んでみる。すると
『人々の天命は周囲を巡る光により決定される。光は時に文字となり、その者の精神を表す鏡となる……』
 などと、訳の分からないことが書かれている。めんどくせえな。
「で、お前から見るとなんて書いてあるんだ?」
 どうやらまた表示がおかしくなっている様だ。ルークスに確認するしかないだろう。

「あ、また変な表示になってる?なんだろうね」
「何だろうね?じゃねぇよ。良いから教えろ!」
 流石に俺もこいつの緊張感の無さにはイライラしてきた。

「まあそうカッカしなさんな。今読み上げますよ~。え~と。
『NPCのステータス確認には「パラメータ表示」「光学可視化表示」「詳細表示」の3種類が用意されている。パラメータ表示は能力数値のみの簡易表示となる。光学可視化表示および詳細表示はキャラクター固有値の変更も可能となるが、光学可視化表示の場合変更できる固有値が制限される。光学可視化表示の場合は「ステータス」コマンドの後ろに「-L」オプションを付与する。詳細表示は「-all」オプションを付与することで対応可能』
 だってさ」

「は?何言ってんの?」

「いやいや。そのまんまだよ。書いてあることそのまま読んだだけだって」
「お前マジで言ってんのか?」
 そこまでか。いや。確かにこの世界がゲームであることは理解したが……

 論より証拠だ。まずはやってみよう。

「ステータス -all」
 言っててばかばかしいな……などと考えながら口にすると、今までセ〇ィロスの周囲に漂っていた光の粒や文字が一斉に動き出す。そして、目の前には整然と並ぶ「コード」が現れた。これは完全にプログラムだ。

「これは……」
 表示されたコードに俺は言葉を失った。するとルークスがそのコードを読みながら呟く
「Pythonっぽいな」

 確かに、俺もPythonは転生前よく使ってた。基本はC言語やJavaを使うことが多かったが、AI関連はPythonの方がコードを書き易かったこともあり馴染みがある。

「なるほどね。本当にゲームって事だな」
「だから、そう言ってるじゃないか。まあ、俺も本当かどうかわからなくなる時はあるけど……」
 ルークスはそう言いながらセ〇ィロスの前に浮かぶコードを目で追う。
「そう言えば、お前なんだか特殊なログイン方法でダイブしてるって言ってたな」
「ああ、神経節接続な」
「なんだ?それ。なんとなく想像はつくけどよ」
 なんだか違法な香りがプンプンする接続方法だが、大丈夫なんだろうか?
「まあ、あんたの想像通りだと思うよ。後頭部……というか、うなじ辺りにある神経節に直接センサーを差し込むんだよ。だから現実と区別がつかないほどだ。五感に直接入力されるからな」
「そんなもん良く国の認可が下りたな」
「実際まだ下りて無いんじゃないかな。実験用として限定使用が認められてるだけだ。実際は臨床試験の|第三相試験(フェーズ3)だったと思うぜ」
「大丈夫なのか?それ」
「大丈夫なんじゃない?たぶん。だめだとしても今更だよね」
 おいおい、こいつホントに大丈夫か?一応教育者でもあるんだろ?コンプラ的にNGじゃないか?

 まあ、俺が心配する事でもないか。
「にしても、これ便利だな。後は天命の書板が正しく読めれば言うことないんだけどな」
「読めない理由ねぇ」
 ルークスはそう言いながら腕を組み考え始めた。まあ、そこを考えても仕方ない。俺はルークスの事を放っておくことにした。まずはセ〇ィロスからだ。

 セ〇ィロスの死亡フラグを上書きし、そのほかのパラメータについても確認する。どうやら能力値に関してはカルロスのパラメータで上書きされているらしい。奴のしっぽを掴んだな。思わぬ収穫だ。

 カルロスの能力値は思いのほか高い。スキルも厄介な物ばかりだ。「人心掌握」「まねっこ」「ひったくり(スナッチャー)」
 特に「ひったくり(スナッチャー)」は気を付けないとな。抜かりが多そうなカールやサトシが狙われると一気にこちらが不利になる。

「なあ」
 ルークスが緊張感のない声で話しかける。なんでこいつは、俺が真剣に悩んでいるときに限って思考を邪魔するトーンで来るかなぁ……

「あんたが天命の書板で読めない内容って、権限が無いからなんじゃない?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

処理中です...