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魔王の譚

ひったくる男

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 ようやく王宮から出ることが出来た。
 シャルロットが変態小僧(ルークス)に興味を持ったせいで、帰ろうとする俺たちを衛兵が引き留めようとひと悶着も二悶着もあった。
 が、まあそれは終わったことだ。取り敢えず平和的に帰ってくることが出来たので良しとしよう。
 で、今はルークスの経営する販売店へ向かうため王都中央大通りを西に向かって歩いている。

「で、「まねっこ」ってスキルはどんな効果があるんだ?とりあえず天命の書板で調べてくれ」
「ああ、わかった」
 ルークスは俺の指示に素直に従い、天命の書板を俺に見やすいように出現させた。

『スキル「まねっこ」:自身を中心とした一定範囲内にいる人物が持つスキルを模倣可能。熟練度により模倣できるスキル内容とスキャン範囲が拡大される』

 ふーん。俺が思ってたスキルとはちょっと違うな。ただ、こっちが強力なスキルを持っていればその分危険な相手って事は判った。
 そう考えると俺やサトシとは相性が悪そうだな。直接対決するのは避けたほうがよさそうだ。

 それにしても便利な道具だよなぁ。何でも答えてくれるんだから……


 ……なんでも?

「おい、ルークス」
「なんだ?」
「それでカルロスを調べられないのか?」
「ああ、やってみるよ」
 そう言うとルークスは天命の書板を覗き込む。が、何やら眉間にしわを寄せて小首をかしげている。
「どうした?」
「何も映らん」
「何も?」
 俺も天命の書板を覗き込んでみるが、そこには磨きあげられた漆塗りの様な漆黒の板に俺たちの間抜けな顔が映っているだけだった。

 なるほど。何でもかんでも答えてくれるわけではなさそうだ。思うようにはいかねぇな。

 と、思っていると左手に着けているブレスレットが点滅する。

「なんだ?それ」
 ルークスが点滅に気づいて聞いてくる。

「ああ、これか。通信機器だ。お前達みたいに便利に通信できないんでな」
 念話(チャット)の事は以前ルークスに聞いて、部下たちに使ってみた。しかし、ユーザー同士でないと使えないらしくNPCの俺の部下たちには通信が届かなかった。なので、今まで通り魔力に頼った通信方法で対応することにしている。

「なんだ?」
「フリードリヒ様。セフィ〇スが見つかりました」
「見つかったか。で、様子は?」
「フリードリヒ様の推測通り抜け殻となっております」
「そうか。わかった。これからそちらに向かう。現場の保全を頼む」
「承知しました」

「なあ。なんだ?今のやり取り。だいたいセフィ〇スって?」
 ブレスレットの通信は便利なんだが、周囲に通話が筒抜けなのがいただけない。念話が良いなぁ。
 部下に指示を出すところまでは、さっきのどさくさで秘密裏にできたんだけどなぁ。まあバレちまったモンは仕方ねぇ。
 
「いや。お前の話を聞いてな、気になることがあったから部下に調べさせてたんだよ」
「どういうことだ?」
「シャルロットにも言ったろ。俺の部下にもセフ〇ロス風が居るって」
「ああ、言ってたな」
「ありゃ「セフ〇ロス風」なんてもんじゃねぇんだよ。俺が覚えてる限り忠実に再現してキャラメイクしたんだよ」
「ああ、あんたNPC弄れるもんな。なるほど。そう言う事か。ってか、名前がセフィ〇スなのか。まんまだな」
「名前つけるのもめんどくさくなるんだよ。何千人も命名してみろ。お前もわかるから」
「あ~。なんか聞いたことあるわ。そんな話。一遍あんたに紹介した方が良いかもな」
「誰を?」
「リザードキング」
「は?リザードキング?なんで?」
「転生者なんだよ。それも現役の。あんたより長命かもしれねぇな」
「マジか……。多少興味はあるが、まあ、今はそれどころじゃねぇな。で、予定変更だ。ちょっと急ぎで飛ぶぞ」
「どこに?」
「ウルサンだ」
 
「ウルサンへ?なんで?」
「セフィ〇スが見つかったからだよ」
「へ?セフィ〇ス風の部下?それともカルロス?」
「今のところ分かってるのはセフィ〇ス風の部下って事だ。が……まあ、そこからは見てみないとな。じゃあ、飛ぶぞ」
「ここでか?」
「ああ。何か問題でもあるか?」
「いや。目立つだろ!?」
「そんなもん気にしてる場合じゃねぇって事だよ。良いから飛ぶぞ!」
 俺はそう言うと、転移呪文を詠唱する。周囲に魔法陣が広がり俺とルークスは次元のはざまに入り込む。
 ゆがんだ空間を抜けると、そこはウルサンの事務所だ。

「お待ちしておりましたフリードリヒ様」
「ああ」
 事務所の広い会議室には3人の部下が跪いている。その後ろに横たわる……遺体。

「これか」
「はい。セフィ〇スに間違いないかと」
 うつぶせになっている遺体を部下たちが仰向けにする。

「あ!?こいつ。カルロスだ!」
 ルークスがセフィ〇スの顔を見て叫んでいる。

 やっぱりか。

「どういうことだ!?あんたがカルロスを操ってたのか!?」

 セフィ〇スの遺体を調べる俺の後ろでルークスが喚き散らしている。
 が、そんなことよりこの遺体だ。完全にやられたな。

「おい、お前この遺体のステータス確認できるか?」
「ステータス!?何言ってんだ」
「良いから見てみろ」
「ただの死体じゃないか」
「お前にはそう見えるのか?」
「あ、ああ。『へんじがない、ただの屍のようだ』って出てる」
「!?嘘つけ!!ンなわけあるかぁ!!」
「いや。出てるよ」
 俺は慌ててルークスと視界を共有する。すると

『ユーザー:カルロス 職業:??? 返事がない、ただの屍のようだ』
 ザケやがって。俺への挑戦所のつもりか!?

「どういうことだってばよ!?」
「今度は俺の視界を共有してみろ」
 ルークスは恐る恐ると言った表情で俺の視界を共有する。そして

「!?」

「わかったか?」

 遺体の周囲には「カルロス」が残した魔力の残渣と共に奴の裏スキル跡が残されていた。

『スキル:ひったくり(スナッチャー)(極)』

 厄介だぞ。こいつは
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