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魔王の譚
ちょろい男
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「俺に答えられる事はそんなに多くないと思うが……」
ルークスはそう前置きするが、答える気になってくれただけで十分だ。
「そうだな。まずお前さんが何者なのかを知りたい所なんだが」
「俺か……」
「なまかたってのは名前か?」
「生方(うぶかた)だ。生方蒼甫」
「日本人か」
「ああ」
なかなか埒が明かないな。
「お前とサトシはどういう関係だ?なんだかサトシに知られたくないことがあるようだが?」
「!?」
表情には出ないが、感情の揺らぎがすごいな。わかりやすくてありがたいが。
「今回お前さんだけに話を聞いてるのは一応そこに配慮してなんだが……大きなお世話だったか?」
「……いや。助かる。そうか。何でもお見通しなんだな」
そう言うわけでもないが……むしろお前がわかりやすいだけなんだが。お前カールの次位にわかりやすいよ。
「一応俺の認識から伝えておこうか。さっき「魂持ち」と「魂無し」の話をしたが、俺から見るとお前たち二人はそのどちらにも当てはまらんのだよ」
「は?当てはまらないってどういうことだ」
なるほど。無自覚か。
「そうだな。どちらかと言えば、お前は「魂無し」つまりNPCに見える。挙動が似てるんだよ」
「お前にはどう見えてる?」
「なんていえばいいかなぁ、文字がこうぐるぐると……」
俺が必死に言葉を駆使して今見えているルークスの様子を説明していると、奴は俺の言葉を遮る。
「いや。言葉で説明しなくていいよ。見せてくれればいい」
「見せて?って」
そう言うと、ルークスはしばらく考え込みぶつぶつとつぶやく。そして
「うわぁ。なんだこれ。こんな風に見えてんのかあんた」
ルークスの周囲には「驚愕」の文字が激しく飛び回ってた。
「どういうことだ?俺と同じように見えるって事か?」
「ああ、視界を共有した」
「視界を共有……」
なるほど。そのくらいお手の物ってか。やっぱり俺が知らないことをかなり知ってそうだな。
「で、この表示の何がNPCっぽいんだ?」
「表示されてる文字が光の粒になって飛び回ってるだろ?」
「ああ、俺の周囲をぐるぐる回ってるな」
「「魂なし」はその光の粒が上空に舞い上がっていくんだ。ちょうど通信してるみたいにな」
「ああ、なるほどね。あ、確かに俺のも上空に繋がってんな。おもしれぇ」
なんだか無邪気に喜んでるけど……こいつ大丈夫か?
「で、どうなんだ?」
「ああ、おれか?俺はNPCじゃないよ。人間だ。まあ、この世界の言葉で言うところの「ユーザー」だ」
「ユーザー?」
どういうことだ?
「これも、見てもらった方が早いな。俺から見えるあんたたちのステータスはこんなだよ」
ルークスはそう言うと、またぶつくさと呪文らしきものを唱える。すると
「ユーザー:ルークス 職業:モンク LV:110 HP:17305/17305 MP:550/550 MPPS:1,000 STR:825 ATK:1825 VIT:825 INT:565 DEF:2075 RES:393 AGI:550 LUK:115 スキル:絶対防御(極)無効」
なんだこれ?わかりやっす!
「なんだよ。お前らにはこんな風に見えてたのかよ」
「そう言うことだ。で、その名前の前に出てるだろ?「ユーザー」って。たぶんそれがお前の言う「魂持ち」って事なんじゃねぇのかな」
「カール達も「ユーザー」って表示が出てるのか?」
「ああ。出てるな」
そうか。なるほどね。
「って事は、俺達はゲームのプレーヤー扱いだって事か?」
「……おそらく……な」
ルークスが自信なさげに言う。俺はそこに疑問を持った。
「おそらく?って、お前は知ってるんじゃないのか?」
「いや。わからんのだ。それが」
「どういうことだ」
「正直なところ、俺もユーザーって存在の事が良くわからん」
この回答は予想外だった。少なくともこいつはこの世界の黒幕側の人間だと思ってたからな。
「じゃあ一体お前は何なんだ?」
「俺は……」
しばらくルークスは黙っていたが、観念したのかぽつぽつと話し始めた。
「研究者だ」
「研究者?」
「ああ、AIについて研究してる」
「今も……ってことか?」
「ああ、今研究の真っ最中だ。実験中ってことだな」
「サトシか?」
俺は疑問をぶつける。そう。あいつは特殊だ。ルークスの言葉を借りるなら、NPCでもユーザーでもない。確かにユーザーに近いと言えなくは無いが、どうも違和感がある。
「そうだ。サトシは被検体だ」
「被検体?」
「ああ、あいつはデータなんだよ。被験者から抽出した記憶データだ。それをこのゲーム内で人格として稼働させている」
そう来たか……確かに「魂持ち(ユーザー)」と言い切れない、奇妙な雰囲気があった。
基本的に「魂持ち(ユーザー)」は能力値や感情を表す文字列が周囲をぐるぐる動き回る。その動き方には人それぞれに規則性があり、言ってみればそれが個性だともいえる。感情や能力がどう変化しても、この規則性はほとんど変化しない。
だがサトシの場合は違った。周囲を回る文字列が安定しないのだ。いくつもの人格が混じっているような、いや、外部からの影響を強く受けているような動きをする。ここ数日でさえころころと様子を変えながらサトシの周りをまわっている。他の「魂持ち(ユーザー)」と比較すると一種異様な光景だった。
「なるほどな」
「何か思い当たるような節があるのか?そんなにお前から見たサトシは奇妙か?」
「奇妙って程ではないけどな。違和感はある。まあ、それは良い。で、その実験ってのはなんだ?」
「人間から抽出した記憶データが人工知能として活用できるかどうか……それを評価してる」
「なるほどね。でも、わざわざ研究者本人がその世界に入ってくる必要があるのか?」
「いや。外部から観測しようとしたさ。とろこが色々と問題があってな。結局俺がログインしないといけなくなったんだよ」
「って事は、お前外からアクセスしてるって事か?」
「あ!」
こいつ、やっぱり抜けてるな。むしろちょうどいい。こいつがどのくらい情報を握ってるかはわからんが、情報収集にはもってこいだな。
ルークスはそう前置きするが、答える気になってくれただけで十分だ。
「そうだな。まずお前さんが何者なのかを知りたい所なんだが」
「俺か……」
「なまかたってのは名前か?」
「生方(うぶかた)だ。生方蒼甫」
「日本人か」
「ああ」
なかなか埒が明かないな。
「お前とサトシはどういう関係だ?なんだかサトシに知られたくないことがあるようだが?」
「!?」
表情には出ないが、感情の揺らぎがすごいな。わかりやすくてありがたいが。
「今回お前さんだけに話を聞いてるのは一応そこに配慮してなんだが……大きなお世話だったか?」
「……いや。助かる。そうか。何でもお見通しなんだな」
そう言うわけでもないが……むしろお前がわかりやすいだけなんだが。お前カールの次位にわかりやすいよ。
「一応俺の認識から伝えておこうか。さっき「魂持ち」と「魂無し」の話をしたが、俺から見るとお前たち二人はそのどちらにも当てはまらんのだよ」
「は?当てはまらないってどういうことだ」
なるほど。無自覚か。
「そうだな。どちらかと言えば、お前は「魂無し」つまりNPCに見える。挙動が似てるんだよ」
「お前にはどう見えてる?」
「なんていえばいいかなぁ、文字がこうぐるぐると……」
俺が必死に言葉を駆使して今見えているルークスの様子を説明していると、奴は俺の言葉を遮る。
「いや。言葉で説明しなくていいよ。見せてくれればいい」
「見せて?って」
そう言うと、ルークスはしばらく考え込みぶつぶつとつぶやく。そして
「うわぁ。なんだこれ。こんな風に見えてんのかあんた」
ルークスの周囲には「驚愕」の文字が激しく飛び回ってた。
「どういうことだ?俺と同じように見えるって事か?」
「ああ、視界を共有した」
「視界を共有……」
なるほど。そのくらいお手の物ってか。やっぱり俺が知らないことをかなり知ってそうだな。
「で、この表示の何がNPCっぽいんだ?」
「表示されてる文字が光の粒になって飛び回ってるだろ?」
「ああ、俺の周囲をぐるぐる回ってるな」
「「魂なし」はその光の粒が上空に舞い上がっていくんだ。ちょうど通信してるみたいにな」
「ああ、なるほどね。あ、確かに俺のも上空に繋がってんな。おもしれぇ」
なんだか無邪気に喜んでるけど……こいつ大丈夫か?
「で、どうなんだ?」
「ああ、おれか?俺はNPCじゃないよ。人間だ。まあ、この世界の言葉で言うところの「ユーザー」だ」
「ユーザー?」
どういうことだ?
「これも、見てもらった方が早いな。俺から見えるあんたたちのステータスはこんなだよ」
ルークスはそう言うと、またぶつくさと呪文らしきものを唱える。すると
「ユーザー:ルークス 職業:モンク LV:110 HP:17305/17305 MP:550/550 MPPS:1,000 STR:825 ATK:1825 VIT:825 INT:565 DEF:2075 RES:393 AGI:550 LUK:115 スキル:絶対防御(極)無効」
なんだこれ?わかりやっす!
「なんだよ。お前らにはこんな風に見えてたのかよ」
「そう言うことだ。で、その名前の前に出てるだろ?「ユーザー」って。たぶんそれがお前の言う「魂持ち」って事なんじゃねぇのかな」
「カール達も「ユーザー」って表示が出てるのか?」
「ああ。出てるな」
そうか。なるほどね。
「って事は、俺達はゲームのプレーヤー扱いだって事か?」
「……おそらく……な」
ルークスが自信なさげに言う。俺はそこに疑問を持った。
「おそらく?って、お前は知ってるんじゃないのか?」
「いや。わからんのだ。それが」
「どういうことだ」
「正直なところ、俺もユーザーって存在の事が良くわからん」
この回答は予想外だった。少なくともこいつはこの世界の黒幕側の人間だと思ってたからな。
「じゃあ一体お前は何なんだ?」
「俺は……」
しばらくルークスは黙っていたが、観念したのかぽつぽつと話し始めた。
「研究者だ」
「研究者?」
「ああ、AIについて研究してる」
「今も……ってことか?」
「ああ、今研究の真っ最中だ。実験中ってことだな」
「サトシか?」
俺は疑問をぶつける。そう。あいつは特殊だ。ルークスの言葉を借りるなら、NPCでもユーザーでもない。確かにユーザーに近いと言えなくは無いが、どうも違和感がある。
「そうだ。サトシは被検体だ」
「被検体?」
「ああ、あいつはデータなんだよ。被験者から抽出した記憶データだ。それをこのゲーム内で人格として稼働させている」
そう来たか……確かに「魂持ち(ユーザー)」と言い切れない、奇妙な雰囲気があった。
基本的に「魂持ち(ユーザー)」は能力値や感情を表す文字列が周囲をぐるぐる動き回る。その動き方には人それぞれに規則性があり、言ってみればそれが個性だともいえる。感情や能力がどう変化しても、この規則性はほとんど変化しない。
だがサトシの場合は違った。周囲を回る文字列が安定しないのだ。いくつもの人格が混じっているような、いや、外部からの影響を強く受けているような動きをする。ここ数日でさえころころと様子を変えながらサトシの周りをまわっている。他の「魂持ち(ユーザー)」と比較すると一種異様な光景だった。
「なるほどな」
「何か思い当たるような節があるのか?そんなにお前から見たサトシは奇妙か?」
「奇妙って程ではないけどな。違和感はある。まあ、それは良い。で、その実験ってのはなんだ?」
「人間から抽出した記憶データが人工知能として活用できるかどうか……それを評価してる」
「なるほどね。でも、わざわざ研究者本人がその世界に入ってくる必要があるのか?」
「いや。外部から観測しようとしたさ。とろこが色々と問題があってな。結局俺がログインしないといけなくなったんだよ」
「って事は、お前外からアクセスしてるって事か?」
「あ!」
こいつ、やっぱり抜けてるな。むしろちょうどいい。こいつがどのくらい情報を握ってるかはわからんが、情報収集にはもってこいだな。
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