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魔王の譚

諦めた男

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「答えたくなければ、そのまま聞いててくれるだけでもいいよ」
 ここまで反応がわかりやすいと助かる。そして俺は300年以上この世界で暮らしてたどり着いた結論についてルークスにぶつけてみる事にした。
「……ゲームじゃねえか?この世界」

 先ほどの思考停止から一転して、ルークスの周囲には周囲を埋め尽くさんばかりの思考の渦が出来上がっていた。荒れ狂うばかりの感情の渦の中には「欺瞞」や「逃走」、「強行突破」などと物騒な文字も見え隠れしている。

「いやいや。別にお前を如何こうしようってんじゃないんだよ。お前が何かを知ってそうだったんでな」

 この世界に転生したての頃、俺はこの運命を怨んでいた。生活水準も低かったしな。
 俺が生まれたのは親っさんがクレータの中心に集落をつくって数十年たった頃だった。狩猟を中心としたサバイバル生活だったから、文化的生活など営めるはずもなかった。

 それを変えてくれたのが、ある親子だ。そいつらは親っさん同様、王都から逃げ延びてこの集落にやってきた。
 その内の一人がジークムント、初代王ルドルフの生まれ変わりだ。奴がこのクレータ街の発展に大きく貢献してくれた。
 そこからの生活は目を見張る物があった。
 楽しかったよ。昨日できなかったことが、今日はできるようになる。この感動が続くって言うのはある意味麻薬にも近い快感だった。まあ、前世でも麻薬はやったことねぇけどな。おそらく産業革命や文明開化の時代ってのはこんな高揚感にあふれた時代だったんだろうな。
 
 だから今置かれている状況に大きな不満は無い。むしろ今はこの世界に転生させてくれたことに感謝してるくらいだ。この世界を作った黒幕が居るんならあって礼を言いたいとすら思っている。
 で、そう考えると、このルークスってやつは、おそらく黒幕に一番近い位置にいる人間なんじゃないだろうか。
 そういう思いもあって俺は奴に疑問をぶつけてるわけだ。

「たとえゲームであったとしても、俺は今の生活に満足してる。この世界に黒幕が居るんなら、会って礼がしたいくらいだ。が、お前がその黒幕本人じゃねぇことも想像がつく」
 
 俺の言葉で、感情の渦は幾ばくかの落ち着きを取り戻す。しかし、今だ「欺瞞」「逃走」の文字がちらついている。

「あ~。言い逃れとか、逃走とかは必要ないから。なんて言ったらいいかなぁ……俺は、ただ知りたいだけなんだよ」

 そう。300年にもわたって考え続け、たどり着いたこの結論。その回答が得られるかもしれない好機なんだ。

「それじゃあ、俺が推測したこの世界の裏側について少し詳しく話していくよ。聞いていてくれればいい」

 ルークスは観念したのだろう。もう一度俺に正対して座り直し、一つ大きく深呼吸する。奴の周囲を回る感情も落ち着きを取り戻してきている。意外に腹の座った奴のようだ。

「お前も気づいてるだろうが、俺には人の能力や今考えていることが見える。そう言うスキルを持ってるってことだ。で、今まで300年以上周囲の人間……まあ、ここでは人間としよう。そいつらの能力や感情を観察し続けてきたわけだ」

 俺の300年という言葉にいくらかの動揺があったが、その後は落ち着いて聞いてくれている様だ。

「その中で、この世界に居る人間には2種類居ることが分かった。そいつらを便宜上「魂持ち」と「魂無し」と呼んでる。俺の推測では「魂持ち」ってぇのは「転生者」だと思う」
 ここで一度言葉を区切った。ルークスは落ち着いて聞いているようだが、感情にはわずかに揺らぎがあるようだ。
「で、「魂無し」についてなんだが……これは「NPC」なんじゃねぇかと思ってるんだよ」

 俺の「NPC」という言葉を境に、ルークスの思考色が諦めの色に変わった。奴の様子を見るために、俺はしばらく言葉を開ける。

 ……
 
 長い沈黙が続く。
 俺はそのままルークスの様子を観察していた。すると、その沈黙を破ってルークスが重い口を開いた。

「そうだな。何が聞きたい?」
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