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生方蒼甫の譚

激情

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「あぁ、あっ、ああ」
 サトシは言葉にならない声を上げながら、胸を押さえて四つん這いでアイの方へと近づいて行く。
 あと少し、もう少し。サトシが手を伸ばしてアイに触れようとしたその時

「君には渡さん。アイは俺のもんや」
 カルロスがそう冷たく言い放つと、アイの体は青白い炎に包まれる。その熱は俺のところまで届くほど激しかったが、アイは微動だにしない。
 生気のない瞳が炎の中でサトシの事を見つめていた。
 サトシは炎の熱など感じないと言わんばかりに手を伸ばすが、思うように動けない。
 荒い呼吸とも悲鳴ともつかない声がサトシの口から出てくるが、それすらアイには届いていないようだった。


 サトシの手がアイに届いたのはアイが燃え尽きたあとだった。

 アイの居た場所には黒いシミだけが残っていた。そこに突っ伏しながらサトシは地面を掻きむしる。
「あ、ああぁぁぁぁぁぁっぁ、きぃ、きぃ」

 しばらくの間、奇声とも慟哭とも言えない悲鳴に似た声を上げていたサトシだったが、次の瞬間

「貴様ぁ!!!!」
 そう言い放つと、ばね仕掛けの人形のように飛び上がりカルロスに切りかかる。その剣先をカルロスは太刀で事も無げに払いのける。
 それからの戦いは俺には残像しか見えなかった。二人の斬撃は周囲に火花と衝撃波をまき散らしながらぶつかり合う。
 怒りに任せたサトシの攻撃は速度と威力を増してはいるが、カルロスに届くことは無かった。冷静さを欠いたサトシの攻撃をカルロスは易々と受け流す。
 
 俺はその様子を呆然と眺めている事しかできなかった。
 しかし、その眼前には

「新たな脆弱接続を発見しました」
「脆弱接続の修正を行います。13724/8235226」

 見慣れないメッセージが現れる。それは丁度サトシの頭上のあたりに浮かんでいる。バカでかい分母に対して、分子の数がどんどん増えてゆく。ちょうどPCのアップデートやインストールの進捗率を見ているような表示だった。

 が、その数値が進むにつれ、サトシの太刀筋に迷いがなくなって行く。
 それまでは薄ら笑いで攻撃を受け流していたカルロスだったが、次第に表情から余裕が消えてゆく。
 
「8235226/8235226」
 修正とやらが完了した時、サトシとカルロスはほぼ互角と言える状況だった。余裕が消えたカルロスに対して、サトシは怒りの表情から一転して冷静な眼差しでカルロスを見据えて斬撃を放ち続ける。

 これはイケるか?

 そう思った時、頭の中に聞きなれない声のアナウンスが流れる。

「第4|段階(フェーズ)まで脆弱接続の修正に成功しました。現人格における脆弱接続の修正は完了しました。第5|段階(フェーズ)に移行します」

 そのアナウンスが合図であるかのように、今度は目の前が真っ赤になり警報のように点滅する。

「特異個体の発現を確認しました。これより神罰による粛清を開始します」
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