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生方蒼甫の譚

王都の鍛冶屋

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「なんだ。ここ」
 見渡す限りの田園風景。田んぼだ。いや、奥の方には小麦畑も見えるな。以前見ていた景色と、あまりに違う光景に一瞬転移先を間違えたとさえ思ってしまった。

「やりやがったなぁ」
 サトシだ。稲作に挑戦してやがる。以前サトシは米を創造してた時期があったが、とうとう栽培に着手したか。まあ、毎回手から米出すのもどうかと思うしね。
 いろいろ思うところはあるが、サトシもやはり日本食が恋しいんだろうな。まあ、気持ちはわかる。俺はいつでも日本に戻れるが、サトシも、笹川も……簡単には戻れない、と言うかデータだしな。データ相手にセンチな気分になるのも研究者としてどうかとは思うが……。

 さて、連絡してみるか。

『あ~。サトシ。すまんがストーブとコンロのサンプルもらえるか?王都でも作ってもらおうと思うんだ』

『あ、ルークスさん。ちょっと待ってください。今そっち行きますよ。で、王都どうでした』

 念話(チャット)を飛ばすと、返信とともに田んぼの真ん中から上空に飛びあがる人影が見えた。あそこか。
 サトシがこちらに飛んでくるまで周囲を見渡してみた。いやはや、凄いの一言だな。至る所に水路が走っている。水路を流れる潤沢な水が水車を回している。おそらく粉を挽いているんだろう。小麦粉かな?向こうの方には風車も見える。焼玉エンジンを改良して耕運機みたいなものも作ったようだ。あれはサトシオリジナルかな。どんどん作業が効率化されているようだ。

「お待たせしました。というか、早かったですね。もう王都の用事終わったんですか?」
「いや、これからだ。ちょっと時間が掛かりそうだったから、その合間にストーブとコンロを作らせておこうかと思ってな」
「どうです?王都は」
「いや、凄いぞ。あれ。人口が半端ない。エンドゥの比じゃないよ。あれなら油すげー売れるぞ。で、稲作も始めたんだな。種もみはどうした?」
「「創造」で作ってみました。意外に行けましたよ」
「次はなんだ?大豆か」
「良いですね。大豆。醤油・豆腐。ああ、夢が広がりますね。まあ、その前に畜産もしたいんですけどね」
「牛?豚?」
「どっちもですね。鶏も含めて。卵も欲しいですし。そんなわけで、鶏舎とか牛舎の図面も欲しいです。あと付随する備品も含めて」
「ああ、わかった。後で見せるよ。それにしても、あの耕運機お前オリジナルで作ったのか?凄いな」
「あ、そうなんですよ。わかります?オリジナルで作るのも楽しいですよね。図面があるものを作っていくのも良いですけど。自分で一から作ったり、改造したりって言うのも楽しいですよ」
「人生を謳歌してるね。関心関心。で、アイはどうしてる?」
「あっ。ああ、アイは今田んぼじゃないですかね。作業してると思いますよ」
「そうか。仲良くやってるか?」
 ちゃんとログ取ってるんだろうな、あいつ。
「あ、いや。それはもう。大丈夫です」
 ん?なんだ。ま、いいか。
『アイ!どうだ。調子は?』
『なっ!何よ。急に。ちゃんと働いてるわよ』
『相変わらずだな。サトシをよろしく頼むよ』
『わっ!わかってるわよ』
 ん?やっぱりおかしいな。
「なあ、サトシ。アイになんかあった?」
「へ?あ、いや。何もないですよ。はい。大丈夫です」
 あ、そう?
「そうか、じゃあ、ストーブとコンロのサンプルもらっていい?」
「あっ!ハイ。良いですよ。工房に置いてあります。持って行ってください」
「もしかして焼玉エンジンもサンプルある?」
「はい。あります有ります。どうぞ。いくらでも」

「あ、そう。じゃあ。もらって行こうかな」
「はい。どうぞ。また何かあれば言ってください」
「ああ、わかった。後よろしく」

 なんかサトシもアイも様子がおかしいなぁ。
 まあ、良いか。

 俺は工房に向かいストーブ・コンロを持って再度王都へと転移する。

 あ、図面見せるの忘れてた。

 ま、いいか。なんか、サトシもあわててたみたいだし。

 転移すると、先ほどの薄暗い部屋に到着する。
 両手にストーブとコンロを持ちホールに出ていくと周りでひそひそと話す声がする。

「なんか持って来てる。やっぱり転移できるんだ」

 なにやら多少居心地は悪いが、堂々と転移できるならそれでいい。さて、鍛冶屋に向かうか。
 すでに怪しげな魔導士認定されているので、もう恐れることは無い。歩く必要すらないのではなかろうか。というわけで、「反重力(アンチグラビティ)」でわずかに浮いた状態で移動する。自転車か原付くらいの速度かな。周りの冒険者たちは口を開けて俺の事を目で追っているようだ。そうでしょうとも、奇妙に見えるよね。でも良いの。もうどうでも。笹川に比べれば俺なんて……

 冒険者ギルドから出ると、教えてもらった鍛冶屋まで、通りを「反重力(アンチグラビティ)」で疾走する。周囲から向けられる好奇の目もすでに心地よい。そして何より速い。あっという間に鍛冶屋に到着した。周りの目なんて気にする必要なかったな。最初からこうしておけばよかった。

 さて、王都一との呼び声高い鍛冶屋か。どんなだろうな。

 入り口の扉を開けると、軽やかに鈴がなる。昭和の喫茶店かな?

「ごめんよ」
「いらっしゃい」
 店に入ると、壁には所狭しと武器・防具が飾ってあった。カウンターには誰もいなかったが、奥から声がする。ほどなく20歳前後のイケメンが現れた。ほほう。これが王都一と名高い鍛冶屋の弟子か。
 ステータスを確認してみるとNPCだな。ってことはこいつの師匠もNPCか?まあ、どっちでもいいけど。
 
「何かご入用ですか?」
「ああ、ちょっと作ってほしい物があってね」
「作ってほしい物?」
 鍛冶屋は復唱するがピンと来ていないようだった。

「これなんだが……」
 俺はストーブとコンロを見せる。
「ばらしてもいいから、これと同じものを作ってもらいたい。5個ずつ。で、いずれは、これをこの店で売ってくれないか?」
「この店で売るんですか?」
 何を言ってるんだこの人?って感じになってるな。
「ああ、とりあえず5個作ってもらえれば、俺がこれを王都で売る。そうするとこれを欲しがる奴が結構出てくると思うんだ。そいつらにあんたが売ってくれ。その儲けはあんたが取っていい」
「はぁ」
 わかったようなわからんような返事だなぁ。
「まだよくわからんか?」
「はい」
 素直だな。だが、理解する努力をしてくれよ。お前NPCなんだからさ。もうちょっと理解力あるだろ!
「大丈夫だ、もし売れなければお前が作った分は俺が買い取るから」
「そう言われましても……」
 
 そこから説明すること小一時間。
 ようやく製作してくれる気になったらしい。
 
「わかりました。一応作ってみます。売れなかったら買い取ってくださいね」
「だから買い取るっつってんだろ。わかんねぇ奴だな」
「はい」
 なんでそこで肯定するんだよ。否定するか、理解する努力をしろよ!
 
「まあいいや、で、作ってもらうのはこれだから、よろしく。さっきも言ったが分解しても構わんし、多少構造が違っても機能を果たせばそれで良い」
「じゃあ、ちょっと確認させてください」
 ギルと名乗ったその青年は、ストーブとコンロを持って裏の工房に下がっていった。

 はあ。なんだアイツ。

 どっと疲れが出たな。そう思いながら、壁に飾られた商品を眺める……

 は?

 なに、これ。

 壁には所せましと武器・防具の類が飾られている。絵面だけ見れば普通の鍛冶屋の風景だ。

 が、そこに飾られている商品のどれもが「伝説級レジェンダリー」以上だった。
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