165 / 321
生方蒼甫の譚
リザードマンの悲哀
しおりを挟む
「この世界での俺の父親は人間だ。母親がワニだった」
え~と。いきなりぶっこんで来るなぁ。
「そうだよな。そんな顔になるよな。流石に俺も最初は意味が分かんなかったよ。異世界物のアニメやらラノベはよく見てたから耐性自体はあったんだがな」
「お、おう。大変だったんだな笹川さん」
正直何も言えなかった。結構ハードモードな気がするな。
「そういや、生方さん西暦何年生まれだ?」
「ああ、1996年だ」
「そうか。生方さん俺より年上だったんだな。まあ、同じ世界線かはわからないけどな。俺は2002年生まれだ。ところで生方さんはいつまで日本に居たんだ?俺がはっきり覚えてるのは2029年あたりまでなんだが……」
「2033年だな。俺がこの世界に来たのは」
今もそうだけど……
「そうかぁ、あ、あんたは最近来たって言ってたな。こっちに転生……あんたの場合は転移か。その時の様子は覚えてるかい?」
「いや、あんまり覚えてないなぁ。気が付いたらこの世界に居た感じだな。最初は戸惑ったよ。ただ、魔法が使えたんで重宝してるがな」
「確かに魔法は便利だよなぁ。でもなぁ。」
「どうした?魔法に何か嫌な思い出でもあるのか?」
「いや、魔法どうこうではないんだ。結局この体のせいなんだよ。最初異世界に転生したと分かった時は期待してた部分もあったんだ」
「期待?」
「ああ、冷静に考えればすぐわかる事なんだけどな。生まれてすぐは、『転生だ!』って結構浮かれてたんだよ。なんとなく仕事にも行き詰ってた覚えもあるし。クライアントからぼろくそ言われてさ、俺に向いてないんじゃないかって、夜の街で飲み歩いてはストレスを発散してる毎日だったように思うんだよ。それから思えば、新しい人生がやり直せるってのはある意味希望だったんだよな」
そうなのか?
「それと、これは理解してもらえないかもしれないが、生まれてすぐの頃は母親や兄弟の容姿がワニだったことに気づいてなかったんだ」
ああ、刷り込みって奴か
「生まれたばかりにもかかわらず、結構力もあるし、体も驚くほど軽い。日本に住んでいた時よりもある意味快適に感じてたんだ。
ところがだ、しばらくたった頃に母親の所に人間がやってきたんだ。その姿を見てとんでもない違和感を感じたんだよ。それまでは、兄弟や母親の姿が普通だったのに、人間の姿を見たとたんに記憶がよみがえったみたいに自分の体が醜いものに思えてさ。そこで初めて俺がワニ人間になってることに気づいたんだよ」
「その親父さんは?」
「そいつは俺の母親に背後から近づいて来たんだが、その時俺たち兄弟に気づいたんだよ。で『ああ、これは俺の子供か!?』って言いだしたんだ。一瞬何の事かよくわからなかったよ。そしたらそいつ嬉しそうに母親の所に近づいて行って、服を脱いで母親に掴みかかったんだ」
「は?」
母親って、ワニだよね?
「そうなるよな。普通の反応だよ。俺もそうなったよ。どうやらその男は怪力だったらしくてな、威嚇する母親をものともせずに、開いた顎を片腕で締め上げて、無理やり閉じさせたうえで後ろから抱き着く形でしがみ付いたんだよ。
その時に状況が理解できたんだ。こいつだ。こいつのせいで俺はワニ人間になったんだってな」
いやいや、変態レベル高すぎるだろ!変態番付横綱間違いなしじゃん!
「こういうのを親ガチャに失敗したって言うんだろうな」
わぉ!そう言う事じゃないと思いますけど。でもこれほど的確に表した用語は無いな。かける言葉が見つからん。
「気が付いたら、俺はその男に掴みかかってたんだよ。まだ小さかったからその怪力男を母親から引きはがせるほどの力はなかったけど、首元にかじりついてやったサ。そしたら俺の兄弟たちもその男に跳びかかってな。男が堪らず母親から離れた所で、母親と、周りにいた数匹のワニがその男にかみついて沼の中に引きずり込んだんだ。結局男を見たのはそれが最後だったよ」
「そうか、壮絶な親子初対面だったんだな」
「あ、あははは、あははは。ああ、そうだ。そうだな」
笹川は膝を打ちながら笑い始め、何かに納得したように頷いていた。
「どうした?」
「いや、俺はこんな他愛もない話をしたかったんだ」
他愛もない?
へ?
他愛もないって、こういう話?重すぎない?
「いや、あの男が消えてから、自分や兄弟たちが言葉を話せることに気づいてな。そこからいろいろ会話はしたんだ。だが、この境遇に共感してもらえる人と話すことが出来なかった。兄弟たちと会話はできるが、どうも話がかみ合わなかったんだ。まあ、ワニ人間だからな。仕方ないんだろうと思うよ。本能のままの会話だ。口を開けば「腹が減った」だの「うまそう」だのと、まともな会話にならん。俺が教育をしながら2代、3代と世代が進むにつれてようやくまともな会話ができるようになってきた。
それでも、そのころには俺は長老になっていたからな。皆俺には付き従うばかりで本当の会話をすることはできなかったんだ。」
「そうか、そんなことでよければ俺がいつでも話を聞いてやるけどな。ところで、質問良いか?」
「質問なんて、久しぶりだな。ああ、何でも聞いてくれ」
「あのリザードマンたちはお前の子孫か?」
「いや、正確には子孫ではないな。俺に子供は居ない。あれは俺の兄弟たちの子孫だ」
笹川は俺の質問の意図に気づいたようで、少々険しい顔になりながら続ける。
「俺がワニに欲情すると思うか?変態扱いはやめてくれ。まあ、この姿だからな。欲情してもおかしくないんだろうけど、さすがになぁ。だからと言って、人間に欲情できるかと言うとそうでもないんだよ。たまにこの森にも人間が入って来る。その中には女も居るが……なんていうんだろうなぁ、たぶんお前たちが爬虫類を見てる感覚に近いんだと思うぞ。正直男女の区別も怪しいくらいだ。日本人だった頃の知識から服装で区別できるだけで、とてもじゃないが性欲なんて湧かんよ」
「そんなもんか。でも辛くないか。独身ってことだろ?まあ、俺も独りもんだから言ってて悲しいが。流石に何百年もってのはなぁ」
「そりゃ淋しいさ。だから生まれてくる子供たちに毎回確認するよ。転生者が居ないかってな」
「ああ、そりゃそうなるわな。じゃあ、日本の物で何か恋しく思うものはあるか?」
「どうだろうなぁ。最近記憶もおぼろげになってきてるからなぁ……和食……には多少未練があるが、ただ、俺の味覚は変わっちまったからな。今は旨いとか不味いとかもよくわからないよ。甘い辛いすらわからないんじゃないかな」
「そうか。特に困ってることは無いのか?」
「別にないなぁ。満足してるわけではないが、不満があるわけでもない。まあ、しいて言うならこんな思い出話がしたかったってことくらいか。だからそれも叶ったことになるな」
笹川の顔がにやりとゆがむ。おそらく笑ってるんだろう。よくわからんが。
「ああ、そう言えばあんたはこの森に何しに来たんだ?」
お!そう言えばこの答えを準備してなかった。なんてごまかそう。
「いや、俺も転生者を探して方々を旅してるんだよ。まあ、旅するにも金は必要だから冒険者としていろんな依頼を受けてはいるんだけどさ。で、今回はこの湿地帯のリザードマン討伐に来たってわけだ」
「なんだ!?俺たちを滅ぼしに来たのか?」
「まあ、当初の目的はそうなんだが、転生者となれば話は別だ。だいたいなんであんたらに討伐依頼が出てるんだ?」
「そうか、討伐依頼が出てたのか。どおりで……
いや、昔から人間はこの森に入って来てはいたんだよ。別に何をしてたわけでもないんだろうが、単に通り抜けるためだろうな。俺が小さい頃はよく行きかう人間を見たよ。だが、俺たちが成長して人間と似た容姿になったあたりから、人間が俺の兄弟をさらうようになったんだ。たぶん見世物か何かに使うつもりだったんだろうな。俺たちも誘拐されちゃ堪らんと武器を使って自衛してたわけだ。
すると、向こうも武装するようになってきてな。それに合わせてこっちも武装を強化する……ってな具合で、今に至るってわけだ」
「誘拐の自衛から始まったってことか?」
「そうだな。こちらとしては別に人間に敵対心は無いし、俺たちの生活を脅かしさえしなければ危害を加える気はないよ」
「じゃあなにか?人間がこの森を通りたいって言ったら通してくれる?」
今回の依頼は商業ギルドからの物だった。王都南にある都市国家群と交易するためにはこの森を突っ切るのが最短ルートだが、リザードマンに襲われるため現在は迂回しているらしい。
いずれは街道も整備したいんだろうなぁ。
「別にいいさ、自由に通れば。俺たちに危害を与えなければそれで。何か恩恵があるならなお良いけどな」
「街道を整備するって言いだしたら?」
「別にいいんじゃない?」
軽いな。
「大切な森じゃないのか?」
「まあ、俺たちの住処だしな。そりゃ大切だよ。でもちゃんと俺たちにも利益があるんなら使ってもらっても構わんさ」
「利益?金か?」
「今のところ金は使い道が無いなぁ。便利な道具とか、エサ……と言うか食事かな。森の一部を街道にすれば、エサが減るからな。その分を補填してもらえるんなら別に構わんよ」
「神聖な森だったりしないの?」
「森に神聖もくそも無いだろ。神が居るならこんな姿で産み落とすか?そんな神なら打ち滅ぼしたいくらいだよ」
「でも、キナコは大切な森を傷つけるなって言ってたぜ」
「ああ、あいつらを教育するときに、いろいろ言ってるからな。「神様は見てる」とか「どんなものにでも神様は宿ってる」とか。だって、あいつらほっといたらどこでも排泄するし。せっかく作った道具を噛んで壊すし。だから教育のための方便だよ」
「なんか、その姿(なり)でそんな現実的な事言われるとは意外だな」
「俺元商社マンだよ。現実的じゃないとやっていけないっつーの」
「なんか口調変わってきたな」
「ああ、会話してるうちに昔の記憶が戻ってきた気がするよ。…… ありがとう」
「いや、俺も貴重な話が聞けたよ。討伐の件は冒険者ギルドと商業ギルドに交渉してみる。場合によっちゃぁ一緒に来てもらうかもしれんが良いか?」
「ああ、良いよ。人間の生活も見てみたいしな。
あ、ところで、生方さん転生者探してるって言ってたな。他にもいるのか?転生者」
「ああ、居るよ。一人。後、他にも居そうなんだ。で、それを探してる」
「なんだ?帰る方法でも見つけようってのか?」
「いや、そう言うわけじゃないんだ。なんでこの世界に来たのかを知りたいんだよ」
「そうか、それは難しそうだな。まあ、俺も協力するよ。何かわかったら俺にも教えてくれ」
「わかった。よろしく頼む」
結局のところ大したことは判らなかったが、いろいろ参考にはなったように思う。
さて、王都に帰ってギルドと交渉してこようか。
え~と。いきなりぶっこんで来るなぁ。
「そうだよな。そんな顔になるよな。流石に俺も最初は意味が分かんなかったよ。異世界物のアニメやらラノベはよく見てたから耐性自体はあったんだがな」
「お、おう。大変だったんだな笹川さん」
正直何も言えなかった。結構ハードモードな気がするな。
「そういや、生方さん西暦何年生まれだ?」
「ああ、1996年だ」
「そうか。生方さん俺より年上だったんだな。まあ、同じ世界線かはわからないけどな。俺は2002年生まれだ。ところで生方さんはいつまで日本に居たんだ?俺がはっきり覚えてるのは2029年あたりまでなんだが……」
「2033年だな。俺がこの世界に来たのは」
今もそうだけど……
「そうかぁ、あ、あんたは最近来たって言ってたな。こっちに転生……あんたの場合は転移か。その時の様子は覚えてるかい?」
「いや、あんまり覚えてないなぁ。気が付いたらこの世界に居た感じだな。最初は戸惑ったよ。ただ、魔法が使えたんで重宝してるがな」
「確かに魔法は便利だよなぁ。でもなぁ。」
「どうした?魔法に何か嫌な思い出でもあるのか?」
「いや、魔法どうこうではないんだ。結局この体のせいなんだよ。最初異世界に転生したと分かった時は期待してた部分もあったんだ」
「期待?」
「ああ、冷静に考えればすぐわかる事なんだけどな。生まれてすぐは、『転生だ!』って結構浮かれてたんだよ。なんとなく仕事にも行き詰ってた覚えもあるし。クライアントからぼろくそ言われてさ、俺に向いてないんじゃないかって、夜の街で飲み歩いてはストレスを発散してる毎日だったように思うんだよ。それから思えば、新しい人生がやり直せるってのはある意味希望だったんだよな」
そうなのか?
「それと、これは理解してもらえないかもしれないが、生まれてすぐの頃は母親や兄弟の容姿がワニだったことに気づいてなかったんだ」
ああ、刷り込みって奴か
「生まれたばかりにもかかわらず、結構力もあるし、体も驚くほど軽い。日本に住んでいた時よりもある意味快適に感じてたんだ。
ところがだ、しばらくたった頃に母親の所に人間がやってきたんだ。その姿を見てとんでもない違和感を感じたんだよ。それまでは、兄弟や母親の姿が普通だったのに、人間の姿を見たとたんに記憶がよみがえったみたいに自分の体が醜いものに思えてさ。そこで初めて俺がワニ人間になってることに気づいたんだよ」
「その親父さんは?」
「そいつは俺の母親に背後から近づいて来たんだが、その時俺たち兄弟に気づいたんだよ。で『ああ、これは俺の子供か!?』って言いだしたんだ。一瞬何の事かよくわからなかったよ。そしたらそいつ嬉しそうに母親の所に近づいて行って、服を脱いで母親に掴みかかったんだ」
「は?」
母親って、ワニだよね?
「そうなるよな。普通の反応だよ。俺もそうなったよ。どうやらその男は怪力だったらしくてな、威嚇する母親をものともせずに、開いた顎を片腕で締め上げて、無理やり閉じさせたうえで後ろから抱き着く形でしがみ付いたんだよ。
その時に状況が理解できたんだ。こいつだ。こいつのせいで俺はワニ人間になったんだってな」
いやいや、変態レベル高すぎるだろ!変態番付横綱間違いなしじゃん!
「こういうのを親ガチャに失敗したって言うんだろうな」
わぉ!そう言う事じゃないと思いますけど。でもこれほど的確に表した用語は無いな。かける言葉が見つからん。
「気が付いたら、俺はその男に掴みかかってたんだよ。まだ小さかったからその怪力男を母親から引きはがせるほどの力はなかったけど、首元にかじりついてやったサ。そしたら俺の兄弟たちもその男に跳びかかってな。男が堪らず母親から離れた所で、母親と、周りにいた数匹のワニがその男にかみついて沼の中に引きずり込んだんだ。結局男を見たのはそれが最後だったよ」
「そうか、壮絶な親子初対面だったんだな」
「あ、あははは、あははは。ああ、そうだ。そうだな」
笹川は膝を打ちながら笑い始め、何かに納得したように頷いていた。
「どうした?」
「いや、俺はこんな他愛もない話をしたかったんだ」
他愛もない?
へ?
他愛もないって、こういう話?重すぎない?
「いや、あの男が消えてから、自分や兄弟たちが言葉を話せることに気づいてな。そこからいろいろ会話はしたんだ。だが、この境遇に共感してもらえる人と話すことが出来なかった。兄弟たちと会話はできるが、どうも話がかみ合わなかったんだ。まあ、ワニ人間だからな。仕方ないんだろうと思うよ。本能のままの会話だ。口を開けば「腹が減った」だの「うまそう」だのと、まともな会話にならん。俺が教育をしながら2代、3代と世代が進むにつれてようやくまともな会話ができるようになってきた。
それでも、そのころには俺は長老になっていたからな。皆俺には付き従うばかりで本当の会話をすることはできなかったんだ。」
「そうか、そんなことでよければ俺がいつでも話を聞いてやるけどな。ところで、質問良いか?」
「質問なんて、久しぶりだな。ああ、何でも聞いてくれ」
「あのリザードマンたちはお前の子孫か?」
「いや、正確には子孫ではないな。俺に子供は居ない。あれは俺の兄弟たちの子孫だ」
笹川は俺の質問の意図に気づいたようで、少々険しい顔になりながら続ける。
「俺がワニに欲情すると思うか?変態扱いはやめてくれ。まあ、この姿だからな。欲情してもおかしくないんだろうけど、さすがになぁ。だからと言って、人間に欲情できるかと言うとそうでもないんだよ。たまにこの森にも人間が入って来る。その中には女も居るが……なんていうんだろうなぁ、たぶんお前たちが爬虫類を見てる感覚に近いんだと思うぞ。正直男女の区別も怪しいくらいだ。日本人だった頃の知識から服装で区別できるだけで、とてもじゃないが性欲なんて湧かんよ」
「そんなもんか。でも辛くないか。独身ってことだろ?まあ、俺も独りもんだから言ってて悲しいが。流石に何百年もってのはなぁ」
「そりゃ淋しいさ。だから生まれてくる子供たちに毎回確認するよ。転生者が居ないかってな」
「ああ、そりゃそうなるわな。じゃあ、日本の物で何か恋しく思うものはあるか?」
「どうだろうなぁ。最近記憶もおぼろげになってきてるからなぁ……和食……には多少未練があるが、ただ、俺の味覚は変わっちまったからな。今は旨いとか不味いとかもよくわからないよ。甘い辛いすらわからないんじゃないかな」
「そうか。特に困ってることは無いのか?」
「別にないなぁ。満足してるわけではないが、不満があるわけでもない。まあ、しいて言うならこんな思い出話がしたかったってことくらいか。だからそれも叶ったことになるな」
笹川の顔がにやりとゆがむ。おそらく笑ってるんだろう。よくわからんが。
「ああ、そう言えばあんたはこの森に何しに来たんだ?」
お!そう言えばこの答えを準備してなかった。なんてごまかそう。
「いや、俺も転生者を探して方々を旅してるんだよ。まあ、旅するにも金は必要だから冒険者としていろんな依頼を受けてはいるんだけどさ。で、今回はこの湿地帯のリザードマン討伐に来たってわけだ」
「なんだ!?俺たちを滅ぼしに来たのか?」
「まあ、当初の目的はそうなんだが、転生者となれば話は別だ。だいたいなんであんたらに討伐依頼が出てるんだ?」
「そうか、討伐依頼が出てたのか。どおりで……
いや、昔から人間はこの森に入って来てはいたんだよ。別に何をしてたわけでもないんだろうが、単に通り抜けるためだろうな。俺が小さい頃はよく行きかう人間を見たよ。だが、俺たちが成長して人間と似た容姿になったあたりから、人間が俺の兄弟をさらうようになったんだ。たぶん見世物か何かに使うつもりだったんだろうな。俺たちも誘拐されちゃ堪らんと武器を使って自衛してたわけだ。
すると、向こうも武装するようになってきてな。それに合わせてこっちも武装を強化する……ってな具合で、今に至るってわけだ」
「誘拐の自衛から始まったってことか?」
「そうだな。こちらとしては別に人間に敵対心は無いし、俺たちの生活を脅かしさえしなければ危害を加える気はないよ」
「じゃあなにか?人間がこの森を通りたいって言ったら通してくれる?」
今回の依頼は商業ギルドからの物だった。王都南にある都市国家群と交易するためにはこの森を突っ切るのが最短ルートだが、リザードマンに襲われるため現在は迂回しているらしい。
いずれは街道も整備したいんだろうなぁ。
「別にいいさ、自由に通れば。俺たちに危害を与えなければそれで。何か恩恵があるならなお良いけどな」
「街道を整備するって言いだしたら?」
「別にいいんじゃない?」
軽いな。
「大切な森じゃないのか?」
「まあ、俺たちの住処だしな。そりゃ大切だよ。でもちゃんと俺たちにも利益があるんなら使ってもらっても構わんさ」
「利益?金か?」
「今のところ金は使い道が無いなぁ。便利な道具とか、エサ……と言うか食事かな。森の一部を街道にすれば、エサが減るからな。その分を補填してもらえるんなら別に構わんよ」
「神聖な森だったりしないの?」
「森に神聖もくそも無いだろ。神が居るならこんな姿で産み落とすか?そんな神なら打ち滅ぼしたいくらいだよ」
「でも、キナコは大切な森を傷つけるなって言ってたぜ」
「ああ、あいつらを教育するときに、いろいろ言ってるからな。「神様は見てる」とか「どんなものにでも神様は宿ってる」とか。だって、あいつらほっといたらどこでも排泄するし。せっかく作った道具を噛んで壊すし。だから教育のための方便だよ」
「なんか、その姿(なり)でそんな現実的な事言われるとは意外だな」
「俺元商社マンだよ。現実的じゃないとやっていけないっつーの」
「なんか口調変わってきたな」
「ああ、会話してるうちに昔の記憶が戻ってきた気がするよ。…… ありがとう」
「いや、俺も貴重な話が聞けたよ。討伐の件は冒険者ギルドと商業ギルドに交渉してみる。場合によっちゃぁ一緒に来てもらうかもしれんが良いか?」
「ああ、良いよ。人間の生活も見てみたいしな。
あ、ところで、生方さん転生者探してるって言ってたな。他にもいるのか?転生者」
「ああ、居るよ。一人。後、他にも居そうなんだ。で、それを探してる」
「なんだ?帰る方法でも見つけようってのか?」
「いや、そう言うわけじゃないんだ。なんでこの世界に来たのかを知りたいんだよ」
「そうか、それは難しそうだな。まあ、俺も協力するよ。何かわかったら俺にも教えてくれ」
「わかった。よろしく頼む」
結局のところ大したことは判らなかったが、いろいろ参考にはなったように思う。
さて、王都に帰ってギルドと交渉してこようか。
0
お気に入りに追加
14
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる