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生方蒼甫の譚

無法地帯

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 結構距離あるな。

 テンスの農場からだいたい5kmと言ったところだろうか。まあ、空を飛んできたからそれほど時間はかからなかったけどね。
 町の中心部は煌々と明かりがついている。だいぶにぎわってるみたいだな。ウサカやエンドゥより随分栄えている印象だ。上空からいきなり町の中心部に降り立つわけにもいかず周辺部からは徒歩移動だ。
 明かりの方に近づいてゆくと、暗闇の中に建物が立ち並んでいることに気づいた。何より臭いがひどい。スラムだな。鼻を覆いたくなるような悪臭があたりに立ち込めている。ウサカの裏路地もスラムっぽかったがここまでひどくはなかった。薄暗い小道に所狭しとバラック小屋が立ち並び、通路は汚物まみれだ。普通に歩くだけで足元が汚れそうなので、10cmほど宙に浮いた状態で進む。なんか猫型ロボットみたいだな。

 バラック小屋からはいびきやらうめき声が聞こえ、前を通ると物乞いが中から這い出して来る。それらを華麗に躱しながら煌びやかな町の中心部を目指す。

 周囲が明るくなると、足元も石畳に変わっていた。
 ふう。ようやく地面を歩けるか。

 通りは随分広くなり、道行く人を店に呼び込む威勢のいい声が響いている。

「お兄さん!こっちで遊んでいかない?一晩1リルでいいよ!」
「食事はお済ですか?うちなら飲み放題付きで6000ミリルですよ!」

 へぇ。歓楽街って感じだな。最近ほとんど出歩いてなかったから懐かしい感覚を覚えるな。

 ドカッ!

 往来の真ん中を歩いていた男と肩がぶつかった。

「おい!ぶつかっておいて詫びの一つも無しか?あぁん!?」

「ああ、悪いな。まあ、混雑してるしお互い気を付けようぜ」
 
「んだと!?てめぇがぼーっと歩いてるからだろうが!!」
 
「ああ、そうか。君どん臭そうだもんな。悪い悪い。俺が避けてあげればよかったね」
 
「おい!舐めてんのか貴様!?」
「なんだ!いい根性シテやがんな?」
「魔導士見てぇな格好しやがって、フカしてんじゃねぇぞ!!」
 
 後ろから腕を回したり、手の指をぽきぽき鳴らしながら男たちが俺に向かってすごんでくる。
 最初に肩がぶつかった男は、額に青筋を立てながらこっちを睨みつけている。ん~。普段なら相手にしないんだけど。ちょうどよさそうだな。ちょいとステータス確認っと。

『ユーザー:モビー 職業:自由業 LV:16 HP:420/420 MP:10/10 MPPS:1 STR:40 ATK:72 VIT:40 INT:20 DEF:60 RES:20 AGI:100 LUK:10』
『ユーザー:アルト 職業:自由業 LV:16 HP:430/440 MP:9/10 MPPS:1 STR:43 ATK:65 VIT:31 INT:8 DEF:58 RES:21 AGI:90 LUK:12』
『ユーザー:ジョエル 職業:自由業 LV:16 HP:422/422 MP:10/12 MPPS:1 STR:30 ATK:48 VIT:22 INT:6 DEF:62 RES:10 AGI:82 LUK:18』
『ユーザー:リュート 職業:自由業 LV:16 HP:413/419 MP:11/11 MPPS:1 STR:25 ATK:28 VIT:15 INT:18 DEF:69 RES:26 AGI:101 LUK:9』

 ビンゴ!!

 全員ユーザーとは恐れ入った。ってか、職業「自由業」って。どういうこと?まあ、想像はつくけどさ。

「おい、ちょっと面貸せや!」
 モビーが俺の胸倉をつかもうと手を伸ばす。

 が、

 グシャ!

 その手は俺の胸倉にたどり着く前に俺に握りつぶされる。

「ぎやぁ!!!」
 大声を上げるモビーの口をもう一方の手で押さえると、そのままにこやかに周囲に笑顔を振りまく。

「うるさい。黙ってくれるかな?」
 あ、やべ。これサトシとやり口が同じだ。いかんいかん。

「このやろぅ!!やっちまえ!!」

 アルト、ジョエル、リュートが一斉に俺に襲い掛かる。まあ、体術のレベル上がりまくってるんでそんな攻撃が当たるはずが無いんだけどね。

 3人が代わる代わる俺に殴りかかるが、その拳はことごとく空を切る。俺は一切手を出さないが、次第に3人は疲れから動きが鈍ってきた。
 逃げられると面倒なので退路を断つことにする。

 俺はしゃがみ込み、蹴りを繰り出しながらぐるりと一周すると3人に足払いをかける。足元を払われた3人はその場で宙返りするように背中から地面に倒れ込む。
 地面に寝転がった3人の足をそれぞれ上から踏み抜き脛をへし折る。

 ボギッ!ボギッ!ボギッ!

「ぐわぁ!!」「ぎやぁ!」「グガッ!」

 三者三様の悲鳴を上げながらその場でもだえ苦しんでいる。さて、ちょっと裏路地に連れて行こうかな。

 周囲からすれば一瞬の出来事だろう。道行く人たちが呆気に取られているうちに、俺は4人の髪の毛を鷲掴みにして、左右に二人ずつ引き摺りながら裏路地へと向かった。

 薄暗い裏路地に4人を放り投げると、4人はその場で呻き続けている。
「あー。もしもし。質問があるんだけど?いいかな」
「うーっ!」
 ああ、やりすぎたかな。仕方ない。
「おい、今治療してやるけどさ。逃げんなよ。逃げたら分かってんだろうな?」
 4人がこちらを見て必死に頷く。その目は恐怖に満ちていた。まあ、そこまでするつもりはなかったんだけど、昼間にサトシのを見てたらなんか俺も引っ張られちまったなぁ。反省しよう。

「治癒(ヒール)」
 4人の体に魔法陣が現れ、折れた手首や脛が元通りになった。

「これで俺の質問に答えられるな?どうだ?」

 4人は治療された部位を摩りながら、俺に向き直り座りなおす。

「おい。返事ぐらいしてくんない?」

「あ、ああ。わかった」「答えるよ」
 二人が返事をしたが、残り二人の返事がない。

「あれ?しゃべれないの?」

「いや。わかった」「話すよ。それでいいんだろ」

「そうそう。素直が一番だからね」
 
 さて、話を聞きたいが、こんな裏路地で話すのもなんだな。せっかくの歓楽街だし。店で飲みながら聞くかな。

「おい。ちょっとその辺の店で話を聞きたいんだけどさ。いい店知らない?」

「「「「?」」」」

 4人ともきょとんとしている。そんなに変な事言っただろうか?

「いや、こんな場所で話しても辛気臭いだけだろ?俺この町初めてなんだよ。なんかいい店紹介してくれよ」
「あ、ああ。わかった。わかったよ」
 そう言うと4人は何やら相談をはじめた。
 どの店が良いか話し合ってくれているようだ。なかなかいい奴らじゃないか。

「あ、じゃあ。ついて来てくれ」
「おう。良いところ頼むぜ。あ、ボルなよ、そん時は判ってるよな?」

「ああ、そんなことはしねぇよ」

 そう言うと、モビーを先頭に4人が表通りに向かう。俺はそれについて行った。

 改めて通りを眺めてみると、町の至る所で喧嘩をしているようだった。治安が悪いなぁ。あ~怖い怖い。そう思うとウサカもエンドゥも治安が良かったんだな。
 
 ドカッ!

「おい!この野郎!どこ見て歩いてんだよ!?」

 またかよ。
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