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生方蒼甫の譚
餌付け
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あたりに広がるシチューのいい匂いに、へたり込んでいたテンスと手下たちが前のめりになる。
「おい、ジェリーナ!ハル!料理と酒をみんなに配ってやってくれ」
「あっはい」
「わかりました」
二人はそういうと寸胴と酒樽の所に駆け寄ってくる。それを見てほかの従業員たちも続く。
この辺りはさすがNPCだな。ちゃんと自分たちの仕事を理解し連携して動いてくれる。従順で助かる。テンスはその様子をただ茫然と眺めていた。
ほどなく皆に食事と酒が行き渡る。目の前に置かれた食事と酒を黙って見つめる様は飼い主の号令を待っていお預け状態の犬みたいだ。
「まあ、気にするな。遠慮なく食べてくれ」
「……なんでこんなことするんだ?」
テンスが怪訝そうにこちらを睨む。
「まあ、なんだ。昼間のサトシは怒りに任せてちょっとやりすぎてる感じがあったからな。あいつも普段はああじゃないんだが……」
「そう言いながら、どうせ毒入りの食事を食わせて、苦しみもだえる俺たちを……」
「いやいや、どんだけ悪逆非道なんだよ。お前思考が後ろ向きすぎねぇか!?」
「あれだけのことをされたんだ!ふつうはそう思うだろ!!」
「まあ、そうか。別にお前らに死んでほしいわけじゃねぇよ。サトシだって、商売敵ではあるがジョイスの仕入れ先としてお前らの存在も認めてはいるからな」
「元はと言えばお前たちが俺の商売の邪魔をしてきたんだろうが!」
ん~。確かにそうだろうな。こいつからすればサトシが先だ。チート使って市場を奪い取ったわけだし。
「水に流せとは言わんが、逆らうとデメリットしかないだろ?俺たちに従えと言ってるわけじゃないんだ。普通に商売すればあいつだって何も言わんさ」
たぶん。しらんけど。
「……」
テンスはシチューの湯気を睨みつけながらわずかに震えていた。
しばらくすると意を決したようにテンスがジョッキをつかみ酒を一気にあおる。
「ぷはぁ!俺が死んでもこいつらが俺の仇を取ってくれる。覚えておけよ!」
?
なんで俺が殺すことになってんの?
「テンスさん。俺たちもお供します!」
そういうと、元従業員たち……ってか、テンスん所の従業員か。そいつらもテンスをまねて酒を一気にあおる。
俺は、テンスと従業員たちの開いたジョッキを酒樽に突っ込んで、お代わりを注いでやる。
「てめぇ!弱毒か!俺たちがじわじわ死んでいくのを楽しむ気か!!」
「ひどい!」
「なんて奴だ!?」
え~と。
どういうこと?
「わかったよ。全部飲み切ってやるよ!」
テンスは今新たに注いだジョッキを手に取り、また一気にあおる。そして、そのまま目を瞑って黙り込んだ。
「「「テンスさん!」」」
しばらくの沈黙。
「ジェリーナ!テンスに酒注いでやってくんない?」
「あたしにとどめを刺せと!?」
ジェリーナは鬼の形相で俺をにらみつける。おいおい、大丈夫かこいつ?
「何言ってんだお前?頭湧いてんのか?酒注げって言ってんだろ!?なんでそうなる?」
「だから、毒を……」
「毒ってなんだよ」
「……このお酒が……」
「なに?お前ら酒飲めないの?下戸?」
「いや、お酒は好きですが……」
「ならいいじゃねぇか」
「「「「?」」」」
全員が疑問顔になる。なんかアスキーアートみたいだな。
「早くシチューも食っちまえ、冷めるぞ」
すると黙り込んでいたテンスが口を開く。
「おい、この毒、効きが遅すぎやしねぇか?せめてもの情けに即効性か強毒にしてくれ。頼む」
テンスは神妙な面持ちで俺に懇願してくる。
「「「「テンスさん!」」」」」
従業員たちも悲痛な顔でテンスを見つめる。
ああ、俺が毒を盛ったと思われてるのね。そうか。確かに奴らからすると不自然だよな。昼間に屋敷と畑をめちゃくちゃにしたやつが、食いモン持って現れりゃ。俺が迂闊だったわ。
「ああ、決死の覚悟の所すまねぇが、別にお前らを殺しに来たわけじゃねぇんだ。ちょっと腹を割って話がしたかっただけなんだ。だからこの飯にも毒は入ってねぇよ」
その言葉を素直には受け入れられないようで、テンスたちはお互いの顔を見合わせながら自分たちの体調を確認する。
「本当か?」
「だから、お前らを殺して何の得がある?」
「商売敵じゃねぇか!」
「そりゃそうだけど、ふつうの商売してりゃサトシん所が大損害受けることはねえだろ。俺たちは幾らでも儲ける方法があるんだからよ」
サトシには鍛冶屋としての才能もある。別に野菜で食っていく必要はない。言ってみりゃ趣味で作ってるみたいなもんだ。雇った従業員がサトシの手を煩わせず自分たちで利益を生み出してくれるんならサトシにとってみればこれほどありがたいことはないからな。
今回はそれを邪魔されたから怒っただけだしな。まあ、怒り方が異常だったけど。それにこいつらは知らないだろうが、俺たちには油田もある。ストーブやランプでも大儲けできるだろうし。
「本当にか?」
テンスは半信半疑と言った雰囲気で俺のことをじっと見つめる。先ほどまでの敵意は薄れてきているようだった。
「ああ、だからシチューも冷める前に食え」
その言葉を聞いて、テンスがシチューに手を付ける。その様子を従業員たちが固唾をのんで見守る。
「う!うめぇ!うめぇぞこれ。お前らも食え!」
その言葉に、従業員たちは一斉にシチューをガッつく。
「ああ、おいしい!」
「うめぇ!うめぇよ!」
ウェスなんか涙を流しながら食ってるよ。腹減ってたんだねぇ。まあ、しっかり食べておくれ。
さて、ようやく本題に入れそうだな。
「おい、ジェリーナ!ハル!料理と酒をみんなに配ってやってくれ」
「あっはい」
「わかりました」
二人はそういうと寸胴と酒樽の所に駆け寄ってくる。それを見てほかの従業員たちも続く。
この辺りはさすがNPCだな。ちゃんと自分たちの仕事を理解し連携して動いてくれる。従順で助かる。テンスはその様子をただ茫然と眺めていた。
ほどなく皆に食事と酒が行き渡る。目の前に置かれた食事と酒を黙って見つめる様は飼い主の号令を待っていお預け状態の犬みたいだ。
「まあ、気にするな。遠慮なく食べてくれ」
「……なんでこんなことするんだ?」
テンスが怪訝そうにこちらを睨む。
「まあ、なんだ。昼間のサトシは怒りに任せてちょっとやりすぎてる感じがあったからな。あいつも普段はああじゃないんだが……」
「そう言いながら、どうせ毒入りの食事を食わせて、苦しみもだえる俺たちを……」
「いやいや、どんだけ悪逆非道なんだよ。お前思考が後ろ向きすぎねぇか!?」
「あれだけのことをされたんだ!ふつうはそう思うだろ!!」
「まあ、そうか。別にお前らに死んでほしいわけじゃねぇよ。サトシだって、商売敵ではあるがジョイスの仕入れ先としてお前らの存在も認めてはいるからな」
「元はと言えばお前たちが俺の商売の邪魔をしてきたんだろうが!」
ん~。確かにそうだろうな。こいつからすればサトシが先だ。チート使って市場を奪い取ったわけだし。
「水に流せとは言わんが、逆らうとデメリットしかないだろ?俺たちに従えと言ってるわけじゃないんだ。普通に商売すればあいつだって何も言わんさ」
たぶん。しらんけど。
「……」
テンスはシチューの湯気を睨みつけながらわずかに震えていた。
しばらくすると意を決したようにテンスがジョッキをつかみ酒を一気にあおる。
「ぷはぁ!俺が死んでもこいつらが俺の仇を取ってくれる。覚えておけよ!」
?
なんで俺が殺すことになってんの?
「テンスさん。俺たちもお供します!」
そういうと、元従業員たち……ってか、テンスん所の従業員か。そいつらもテンスをまねて酒を一気にあおる。
俺は、テンスと従業員たちの開いたジョッキを酒樽に突っ込んで、お代わりを注いでやる。
「てめぇ!弱毒か!俺たちがじわじわ死んでいくのを楽しむ気か!!」
「ひどい!」
「なんて奴だ!?」
え~と。
どういうこと?
「わかったよ。全部飲み切ってやるよ!」
テンスは今新たに注いだジョッキを手に取り、また一気にあおる。そして、そのまま目を瞑って黙り込んだ。
「「「テンスさん!」」」
しばらくの沈黙。
「ジェリーナ!テンスに酒注いでやってくんない?」
「あたしにとどめを刺せと!?」
ジェリーナは鬼の形相で俺をにらみつける。おいおい、大丈夫かこいつ?
「何言ってんだお前?頭湧いてんのか?酒注げって言ってんだろ!?なんでそうなる?」
「だから、毒を……」
「毒ってなんだよ」
「……このお酒が……」
「なに?お前ら酒飲めないの?下戸?」
「いや、お酒は好きですが……」
「ならいいじゃねぇか」
「「「「?」」」」
全員が疑問顔になる。なんかアスキーアートみたいだな。
「早くシチューも食っちまえ、冷めるぞ」
すると黙り込んでいたテンスが口を開く。
「おい、この毒、効きが遅すぎやしねぇか?せめてもの情けに即効性か強毒にしてくれ。頼む」
テンスは神妙な面持ちで俺に懇願してくる。
「「「「テンスさん!」」」」」
従業員たちも悲痛な顔でテンスを見つめる。
ああ、俺が毒を盛ったと思われてるのね。そうか。確かに奴らからすると不自然だよな。昼間に屋敷と畑をめちゃくちゃにしたやつが、食いモン持って現れりゃ。俺が迂闊だったわ。
「ああ、決死の覚悟の所すまねぇが、別にお前らを殺しに来たわけじゃねぇんだ。ちょっと腹を割って話がしたかっただけなんだ。だからこの飯にも毒は入ってねぇよ」
その言葉を素直には受け入れられないようで、テンスたちはお互いの顔を見合わせながら自分たちの体調を確認する。
「本当か?」
「だから、お前らを殺して何の得がある?」
「商売敵じゃねぇか!」
「そりゃそうだけど、ふつうの商売してりゃサトシん所が大損害受けることはねえだろ。俺たちは幾らでも儲ける方法があるんだからよ」
サトシには鍛冶屋としての才能もある。別に野菜で食っていく必要はない。言ってみりゃ趣味で作ってるみたいなもんだ。雇った従業員がサトシの手を煩わせず自分たちで利益を生み出してくれるんならサトシにとってみればこれほどありがたいことはないからな。
今回はそれを邪魔されたから怒っただけだしな。まあ、怒り方が異常だったけど。それにこいつらは知らないだろうが、俺たちには油田もある。ストーブやランプでも大儲けできるだろうし。
「本当にか?」
テンスは半信半疑と言った雰囲気で俺のことをじっと見つめる。先ほどまでの敵意は薄れてきているようだった。
「ああ、だからシチューも冷める前に食え」
その言葉を聞いて、テンスがシチューに手を付ける。その様子を従業員たちが固唾をのんで見守る。
「う!うめぇ!うめぇぞこれ。お前らも食え!」
その言葉に、従業員たちは一斉にシチューをガッつく。
「ああ、おいしい!」
「うめぇ!うめぇよ!」
ウェスなんか涙を流しながら食ってるよ。腹減ってたんだねぇ。まあ、しっかり食べておくれ。
さて、ようやく本題に入れそうだな。
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