上 下
145 / 321
生方蒼甫の譚

墓地での相談

しおりを挟む
 ゴードンと向かい合い、強めの酒を酌み交わす。いやはや、神経節接続恐るべしですな。酔いまであるよ。泥酔ってわけじゃないけど、程よく酔える。これは「ゲーム界の革命だ」と言われてた理由もうなずける。そんなことに感動しながら、ゴードンの様子を窺う。
 それほど酔ってはなさそうだが上機嫌だ。ちょいと探りを入れてみるか。

「なあ、あんたココに入ってログインして長いのかい?」
「ん?あ、ああ。ギルドに登録したのは15の時だなぁ。あの頃は王都の冒険者にあこがれてな。当時王宮英雄騎士団を辞めて冒険者になった奴が居るって騒ぎになったんだよ。奴は……」
 ずいぶん饒舌に話してくれるが、今一つ俺の意図は伝わらなかったみたいだな。

「……ミノタウロスを撃退して北方に追いやっちまってナ。当時えれえ騒ぎになったもんさ。

 ……
 
 いやぁ、でもお前さんたちはそのミノタウロスを倒しちまったんだもんな。世の中にはすげえ奴が居るもんだ」

 そんなことを言いながらしみじみと酒をあおる。

 ん~。もっと直接的に聞いてみるか。

「なあ、あんたの生まれは何処だ?俺は大阪生まれなんだが……」

「おお!お前もウサカか。実はな、俺もウサカ生まれなんだよ。俺が子供の頃はあんまり大きな町じゃなくてよ。王都にあこがれたもんだよ」

 ああ、ウサカと勘違いされたか……。でも、日本人なら大阪って聞き取れるよな。日本人じゃないのか?自動翻訳入ってるのか?直球で聞いてみるか。
 
「あんた日本人か?」
「ん?ニュホンジュン?なんだ。それ?」

「いや、何でもない」
「なんだよ。もう酔ったのか。これからだぞ!」

 その後も酒盛りは続いたが、ゴードンからそれらしい話を聞くことはできなかった。どうやらプレーヤーと言うわけでもなさそうだ。

 ひとしきり呑んで盛り上がったところで、受付嬢がゴードンの部屋に怒鳴り込んできた。

「マスター!飲みすぎです!!いい加減にしてください!」

「あ、お、おう。すまねぇな。わかった。これでやめるよ」
 なんだ?受付嬢の方が強いのか?

「ルークスさんもいい加減にしてください。いくらこの町を救った恩人と言っても、ギルドの二階で飲んで騒ぐのは感心できません」
「はい。すいません」
 まあ、職場の上で酒盛りされちゃぁ迷惑だよな。すんません。


 というわけで、シュンと縮こまったゴードンの部屋を後にする。
 1階の受付まで来ると、冒険者でにぎわっていた。鉱山に財宝が出たことが噂になっているんだそうだ。

 ま、そう言う設定なんだろう、と思いながら周囲を眺めると……

「ユーザー:キース 職業 Dランク冒険者 LV:11 HP:252/265 MP:26/26 MPPS:2 STR:38 ATK:55 VIT:54 INT:20 DEF:34 RES:29 AGI:16 LUK:63 スキル:連撃☆ 剣:Lv12 体術:Lv6』

「ユーザー:ジョナサン 職業 Dランク冒険者 LV:12 HP:212/225 MP:25/28 MPPS:2 STR:28 ATK:65 VIT:64 INT:30 DEF:64 RES:19 AGI:26 LUK:96 スキル:必中☆ 弓:Lv18』


 ここに居る冒険者の半分以上、8人ほどがユーザーだった。ステータス自体はそれほど高くないが、MPとスキルを持っていて、NPCとは明らかに違っている。

 酔いに任せてユーザーたちに話しかけようとしたら、さっきの受付嬢に怒られた。

「ルークスさん!酔ってみんなに絡まないでくださいよ!」
 はぁい。すいませぇん。

 まあ、話しかけたところでゴードンと同じ反応をされるのがオチだろう。なんだかそんな気がしていた。酔いの心地よさとは裏腹にもやもやした気分のまま冒険者ギルドを後にする。

 外はもうすっかり日が暮れていた。俺は町の外れまで行くと、そこからヨウトに転移する。

 ……


 ヨウトも静まり返っていた。従業員のほとんどが居なくなり、すっかり淋しくなった街並みを眺めながら墓地へと向かう。

「おう。ルークスか。久しいな」
「モース。久しぶり!」
 この町に住むようになってすぐにサトシに紹介された。まあ、紹介されたというより、サトシは俺の事をなんやかんやで疑ってたんだろう。魔法を教えてやったのに酷い奴だ。モースに会わせて俺が信頼に足るか確認したんだと思う。

 まあ、俺もパラメータは弄れるから、不可視属性パラメータの「NPCとの好感度」を限界まで上げていて事なきを得たけどな。

「なんじゃ、浮かぬ顔だな」
「さすが。鋭いね」

 モースはNPCだが、他とは少々毛色が異なる。メタAIと直接やり取りができるようになっている。メタAIはゲーム進行にあたって全体を統括するAIだ。モース自身はその事を創造神だと思っているが……

「いやね。どーも俺の知らないところでいろいろと世界がいじられてるみたいなんだよな」
「人間風情には詮無き事よの。至高の御方のお考えはワシらにはわからんよ」
「至高の御方ときたか。」
 そう言いながら、俺は天命の書板タブレットを取り出す。
「ほう。おぬしは天命の書板タブレットを授かったのか。至高の御方からの信頼が厚いんじゃの」
「そう言うもんかね。随分気に入らなそうだったけどな」
「そのような事はあるまい。そうでもなければ過ぎた代物じゃ、それは」
「ふーん」
 そう言いながら天命の書板タブレットを覗き込む。今俺が望んでいるモノが何なのかわからない。それを見透かしたように書板タブレットには何も映っていなかった。磨きあげられた書板タブレットは鏡のように俺の顔を映すだけだ。書板タブレットを揺らすと周囲の景色も映り込む。ふいにモースの顔が映り込んだ。
「モース。お前鏡に映るのな」
「なんじゃ、人を化け物みたいに」
「違うのか?」
「まあ、人では無いから化け物と言われれば否定はできんが」
「ふっ」
 その物言いが無性におかしくて笑みがこぼれた。
「少しは気が晴れたのか?」
「どうかな。結局何もわからん。俺にはサトシの事もわからなきゃ、今の研究がうまく行ってるのかもよくわかんよ」
 そうつぶやいたとき、不意に書板タブレットに映ったモースの顔が不気味にゆがむ。

 口角がつり上がり、口元からは不規則な牙が無数に見える。

 マンティコア!

 そう。マンティコアの顔だ。

 俺は背筋に冷たい物を感じて書板タブレットに映るモースの顔から目が離せなくなっていた。
 不気味な笑顔のモースは俺に語り掛ける。

「まあ、そう言わずに。全て順調ですよ。生方先生」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~

草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★ 男性向けHOTランキングトップ10入り感謝! 王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。 だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。 周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。 そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。 しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。 そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。 しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。 あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。 自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。

処理中です...