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生方蒼甫の譚

確認

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 エレミヤが消えた地下牢を後にし、館の台所まで戻ってきた。
「これ勝手口ですかね」
 おう、和風だね。表現が。

 確かに、台所の奥に裏庭へ通ずる扉があった。裏庭は荒れ放題だったがウィンドカッターで伸び切った草木を切り散らかすと開けたスペースが顔を出した。

「あれですかね?」
 サトシが指さす方に洞窟らしきものが見える。

「あれっぽいな。エレミヤが言ってた奥の間に続く洞窟ってのは」
 そう言えば、途中で分岐路を行くと最奥の間につくって言ってたな。

「なあ、最奥の間に先に行ってみるか?」
「へ?順番的には奥の間からじゃないですか?マンティコア倒してから……」

「まあ、そうなんだろうけどさ。ちょっと興味ない?マンティコア倒す前に最奥の間に行ってエンリルにあったら、なんて言うかなぁって」
「ゲームとかなら……物理的に行けなくなってますよね。そういう場合。
 ん~。確かに考えてみると、ちょっと興味ありますね」

「だろ?ちょっと探してみようぜ。な?で、分岐路が無ければそのままマンティコアのところ行けばいいしさ」

 と言うのは言い訳だ。さっきまでのお涙頂戴ストーリーもイベント感満載だった。ゲーム慣れしていない俺でさえが、何とも鼻につくストーリ展開にイラついていた。サトシのあのレベル上げを見ればオフラインタイプのゲームをかなりやり込んでいることは明らかだ。そんな経験豊富なサトシがこの状況を疑似空間だと疑っているのか確認しておきたかった。

 だが、諸刃の剣でもある。ここで本当にエンリルのところに物理的に行けなくなっていれば、サトシもゲームだと気づく可能性がある。結果的に俺の選択がサトシの疑念にとどめを刺すことになりかねない。が、それがあっても確認したかった理由がもう一つある。

 エンリルだ。

 正直なところ、ゲームにしては胡散臭いことが多すぎる。エンリルには酒場で会っている。これは間違いない。俺の記憶にしっかり残っているし、何よりアイが「ヌー」をもらったことからも明らかだ。
 しかし、ログには残っていない。それに加えてあの会話だ。ログに残っていない以上確認のし様が無いが、あいつと会話した時のあの「心地の良さ」。この世界では違和感と言った方がいいだろうか。
 出会った当初のサトシと話している感覚。いや、それ以上に人間と話している感覚に近かった。むしろ今のサトシの方がAIに近づいている気がする。とんでも発言多いし……

 これは実際に話してみないと気づかないだろう。字面だけ追えば、おそらくシナリオライターが書いたプロットをもとに生成されたセリフだ。当然人間臭くて当たり前なんだが、それをAIが読み上げた途端に人間臭さが消え、自動音声と会話している気分になる。おそらく話の抑揚や間の取り方の違いによるものだろう。言ってみれば会話での「不気味の谷」だと思う。やり取りがリアルになればなるほど、人間ではない何かと会話している不気味さが際立ってくる。

 それに対して、エンリルとの会話は自然だった。時折NPCとの事務的な会話になりはしたが、要所要所で人間臭かった。
 俺はこの世界に「俺」「サトシ」「NPC」「|観察用AI(アイ)」しか居ないことを知っている。だからNPCとのやり取りもゲーム内の会話として楽しんではいるがAIのそれだと分かるし不自然でも気にならない。が、あのエンリルとの会話だけはそういう意味で逆の違和感を感じずにはいられなかった。
 なので、ストーリー進行を歪めた上でエンリルと会話し、その様子を確認したいと思った。

「分岐路ありますかね。」
「どうかなぁ。そのあたりをもっと詳しく聞いておくべきだったなぁ。」

 狭い洞窟をライトボールの光を頼りに進んで行く。位置関係からすると随分歩かないとたどり着かないだろう。
 足場の悪い中、数十分歩き続けるとサトシが不意に立ち止まる。
「どうした?」

「いえ、今こっちから風を感じたんですよね。なんだろう」
 サトシが岩肌を確認する。すると、壁の凹凸に紛れるように、人が一人通れる程度の裂け目がある。

「これか!」
「あたりですね。」

 裂け目に体を滑り込ませ、進んで行く。裂け目の入り口こそ狭いが、その先は大人三人が横一列でも通れるほど広くなっていた。

 しばらく歩くと洞窟には不釣り合いな、神殿で見慣れた扉が現れた。サトシは俺の方を一度見て確認すると、ゆっくりと扉を開ける。
 中から光が漏れだしてきて、聞き覚えのある声がする。

「よくここがわかったな。まあ、入ってくつろぎなさい。」
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