上 下
117 / 321
生方蒼甫の譚

観察

しおりを挟む
「さて、まずは宿屋を探すかな。」
 ヨウトに帰ってもいいが、情報収集した雰囲気を出すためにはエンドゥにいたほうがいいだろう。
 ついでに領主の所にもいく予定だしな。と言う訳で、転移で町はずれに移動してから宿屋に向かう。

 すでに日は傾き始めていた。領主の所へ行くのは日を改めたほうがよさそうだ。

 ギルドにほど近いところに宿屋がある。一階は飲み屋を兼ねているようで比較的にぎわっている。

 あの飲み屋が寂れてるだけなのか?

 確かにあそこの女将は無愛想だったからな。

「いらっしゃい!」

「宿屋もここでいいのかい?」
「良いっすよ。素泊まりでいいですか?一泊2リルになりますけど。」

 よくよく考えてみると、冒険者の報酬安すぎない?こないだのオーク討伐とか3リルじゃなかったっけ?
 金目当てでやるような商売じゃない気がするなぁ。このゲームバランスどうにかならんかなぁ。

「ああ、良いよ。ちょっと長めに泊まることになりそうなんだが、先払いかい?」

「そうっすね。何日くらいの予定すか?」

「とりあえず7日かな。」
 サトシのあの様子なら、そのくらいはぐるぐる回ってそうだ。まあ、アイと二人なら何とかなるだろう。いやぁ、レベル上げが自動でできるって結構素敵な生活じゃない?

「じゃあ、14リルっすね。もし延長する場合は、その時にまた前払いしてもらうことになるっすけど……」
「ああ、良いよ。頼む。
 ところで、途中でキャンセルってできるのか?」
「素泊まりなら大丈夫っすよ。言ってもらえればそこまでの日数で清算するっす。」

 なかなか良心的じゃないか。

「じゃあ、これで頼む。」
 懐から14リル出す。まあ、チートできるから研究室に戻りさえすればいくらでも金は増やせるんだけどさ。毎回戻るのがめんどくさいだけで。

「まいどあり!あ、部屋のカギは中からしかかかんないっすから、出かけるときは貴重品置いとかないでくださいね。」
「わかった。」

 カウンターのアンちゃんに教えてもらった部屋に向かう。階段を上った廊下の一番奥にその部屋はあった。

「ふう。」
 部屋の中には、質素な椅子と机。作り付けのベッドもある。ベッドというか板に布を張っただけのような、硬いベッドだ。
 装備を外して、ベッドに横たわる。

「ログアウト」

 HMDなどを取り外し、一息つく。研究室は静まり返っていた。やはり先ほどから時間はほとんど立っていない。職員もまだ出勤してきてはいないようだ。
 研究室の冷蔵庫を開けて、なにか食べられるものがないか探す。

「カニカマか。なんでこんなもんが?」
 まあ、なんでもいい。腹に入れたい。バーチャルで食事はしているが、ここ半日ほど何も食ってない。脳も低血糖になろうと言うモンだ。

 ほかに何かないかなぁ。コーヒー牛乳。あとは学生が置いていった乾き物しかないな。

 手当たり次第に口へ放り込むと、PCの方に向かう。

 また調べものだ。wikiから飛んだページにマンティコアのことが書いてあった気がする。もう一度読み直しだ。

「あ、あいつどのくらいレベル上げるつもりだろう。」

 サトシの執念がどのくらいなのか確かめてみたくなった。

 俺がログアウトすると、基本的にゲーム内の時間は停止する。

 これを再始動すれば、あいつがレベル上げしている様子が確認できるはずだ。

 それも1000倍速で……

 ちょっと興味があるな。


「始動っと」

 うわぁ、チャカチャカ動いてんな。すげースピードでぐるぐる回ってる。残像が見えるほどだ。

 などと言っている間に、ゲーム内では2時間が経過している。

 よかった、付き合わなくて。こんなの精神が壊れるわ。


 ぼんやり見ていると、あっという間に日が暮れる。

 サトシもアイもLvが100に達したからか、レベルアップのペースが驚くほど遅くなった。

 今までは、一周するごとにレベルが最低1つは上がっていたのに、今は4時間回って、ようやく一つ上がった。

 いやぁ。これは心折れるな。俺なら折れる。

 でも、サトシに折れる気配がない。すごいね。ある意味。

「さて、コーヒーでも飲も。」

 
 ……

 うは!マジか。

 外から観察する俺にとってみれば、コーヒーを入れて戻ってくる数分の間にゲーム内では3日が立っていた。

 ぶれないなぁ。そして折れない。強いね。

 コーヒーをすすりながら、その様子を眺めることまた数分。

 やべ、6日たっちゃった。宿屋の追加料金払わなきゃ。

 慌てて、時間停止する。

「ついでだし、演算も止めとこう。」
 以前、何気なく時間を止めて別の作業をしていたら、勝手に再始動していたことが有った。それからは念のため時間停止後、演算も停止するようにしている。

 さあて、調べものっと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界で賢者になったのだが……

加賀 燈夜
ファンタジー
普通の高校生が通り魔に殺された。 目覚めたところは女神の前! そこで異世界転生を決意する 感想とアドバイス頂ければ幸いです。 絶対返すのでよろしくお願い致します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

処理中です...