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生方蒼甫の譚

地下道

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 洞窟というか、地下室というか。神殿の廊下などに比べれば手入れされていないが、人工的な通路が続いていた。所々分かれ道があるものの探索(シーク)で索敵しながら進む。どの分岐路も片方が行き止まりとなっていて、結局一本道と言った感じだった。
 時折現れるのはスライムの亜種やバグの亜種と言ったところで、鉱山と神殿の様なぶっ壊れステータスの魔獣は居なかった。

「なんか、拍子抜けですね。」
「だな。鉱山と神殿が異常だったんだな。」

 よく考えれば、神殿の骸骨騎士も迂回可能だったし、サイクロプスやミノタウロス、デュラハンも回避できている。

「……もしかしてさ。鉱山入り口の骸骨騎士も、回避できたんじゃね?」
「あ、やっぱりそう思います?」
 サトシも同じことを考えていたらしい。ステータス変更後の俺は別としても、以前の俺やサトシも十分すぎるほどの強者だ。冒険者ランクはCだが。実力的にはS……とまでは言わんが、Aには匹敵するんじゃなかろうか。
 知らんけど。
 それが苦労するって。異常よね?

 それに、この依頼は、自然発生的なものではない気がする。
 飲み屋から飛び出してきた子供や、説明口調の酔っぱらいジジイ。どう考えてもクリエイターが用意した「イベント」に思えて仕方ない。

 まあ、だからどうだと言うことは無いんだけどね。楽しむだけだから。

 いや違う。楽しんでない。楽しんじゃイカン。実験だった。これ。
 アブネェ アブネェ
 
 となると、問題は、サトシが気付いているかどうかだ。
 この世界がゲームだと言うことに。

「そう思うって言うと?」
「いや、また言われるかもしれませんけど、ゲームっぽいなぁって。まあ、異世界ってこんなもんなんでしょうね。なんか都合よくできてますよね。」
 いやいや、単純で助かるよ。
「そうだな。異世界って不思議だな。」
 適当に合わせておく。まあ、俺が言わない限りこれがゲームだなんで気づくわけないけどな。結局のところ、そんな世界なんだと納得するしかないんだろう。ちょっと不憫に思えてきた。
「アイ。君はどう思う?」
 サトシがアイに尋ねる。ほほう。これは俺も興味があるな。アイはどう返す?
 
 しばしの沈黙の後、

「さあ、アタシには良くわかんないし、あんまり興味もない。早く家に帰りたい。」

 おっと、キャラが固定化されてきたな。見事な返しと言うべきか?やるなぁAI。侮れん。
「なに?キモイんですけど。」
 おお~っと。俺何も言ってないのに唐突な罵倒いただきましたぁ!
「いや、どうしたんすか?申し訳ないけどキモイっすよ。なんか。なんでニヤニヤしてるんですか?」
 ありゃー。サトシからも来ちゃったかぁ!

 などとやってる場合じゃないな。
「いや、すまん。何でもない。」
「何でもないことは無いと思うんですが……」
 サトシも困り顔だ。まあ、そうなる気持ちもわかるが、俺も正直困惑してるよ。急に新たな心の扉が開いてしまったからな。

 いやいや、そんなこと言ってる場合じゃなかった。
「先を急ごう。」
 咄嗟にとりつくろうが、とりつくろえてなかったようだ。二人は随分怪訝な目でこちらを見ている。まあ、いい。とても良い。

 と言うのは置いておくとして、話を戻そう。

 これがイベントだとするなら、おそらくクリア条件があるはずだ。

 容易に想像できるのは、邪神「マンティコア」討伐だろうな。

 だが、マンティコアがデュラハンやサイクロプスよりも弱いとは思えない。
 なんせ中ボスでしょ?
 なら、サイクロプス達を倒せるだけの実力が要るってことじゃない?

 あれ?

 無理じゃね?
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