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生方蒼甫の譚

接触

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 ああ、入ってしまった。これがVRMMORPGってやつか。正直RPGなんで小学校以来じゃなかろうか。
 
 だが、入ってすぐに目の前に広がる世界に圧倒された。

 神経節接続ユニットの効果とは言え、これはとんでもないな。
 まさに現実。CGと言われても信じられない。
 ただのVRゴーグルでのログインなら、現実世界との違いを感じることが出来るだろうが、直接脳に信号を送ると言うことがここまで違うとは……

 メーカーが神経節接続ユニットにこだわった理由が理解できた。

 完全に別次元だった。

 目の前に広がる世界は大気の揺らぎすら見えるほど緻密だ。
 風を肌で感じることが出来るし、手には杖の重さもずしりと響く。

 前に歩き出せば、足の下に舗装されていない凹凸の激しい地面を感じるし、仕立ての悪い下着の擦れる感覚まである。

 これが仮想現実バーチャルだと気づけと言う方が無理だ。

 始めこそ、
「1000倍なんて脳に負担がかかる」
 とか、
「ゲームして遊んでると思われると嫌だ」
 とか考えていたが、
 この世界に放り出されて、今は不思議なほどの解放感と、魔法と暴力の世界に居るという高揚感に包まれている。

 やばい。

 これ楽しい。

 何もやってないけど、チョー楽しい。

 ……
 
 いかんいかん。仕事だ。仕事。そう、研究である。

 というわけで、のんびりRPGを楽しんでいるわけにはいかないので、能力値はいじらせてもらった、ゲームマスターだもん。えへ。

 やっぱりある程度はカンストしときたいよね。
 弱いと舐められるし。

 というわけで、能力値は基本FFhです。255に設定させてもらいましました。

 いやぁ。強くてごめん。

 さて、サトシを探しに行くかな。ゲームマスターと言えば深紅のローブと相場は決まっている。
 キャラメイクもできたが、あんまり男前にすると……ねぇ。なんか、ちょっと恥ずかしいし。
 魔導士なのに、ガチムチスキンヘッドにしました。えへ。


 さて、サトシを探すか。

 まあ、さっきアイのログを確認したから、行動筒抜けなんですよね。
 あいつ従業員探してるらしい。農業やるって……、まあ、頑張ってほしいもんです。

 で、商業ギルドに従業員募集依頼出してるので、応募することにした。

 俺の名前は、ルークスとした。まあ、たいした意味は無い。


 さて、商業ギルドに向かおうか。

「ようこそ商業ギルドへ。」
「すまないが、従業員募集依頼が出てると聞いたんだが。」
「はい。いくつか出ておりますが、どちらに応募なさいますか?」
「何がある?」
「そうですね。お客様ですと酒場の用心棒ですとか、借金回収人、宝石商の金庫番などがございますが……」
「お前、俺の顔見て仕事勧めてない?」
「いえいえ、今出ている仕事がこのようなものが多くありますので。」
「ホントに?農業関係はない?」
「農業ですか?え~と。お花屋……は無いですね。(笑)」
 いや、鼻で笑われたんだけど。どういうこと?ってか、定型文じゃないのこういうセリフ。すげーなゲームAI。ここまで進化してたのか。
 サトシ……勝てるのか?
「農業関係の従業員募集があるだろうが!」
「ああ、一件ございます。でも……ねぇ。」
「ねぇ、じゃねぇよ。応募するから。な。」
「はい。承知しました。」

 なんだよ。普通に会話できるじゃないかAIなのに。

 というより、結構楽しいな。これ。仕事なのを忘れそうだ。
 ギルドの受付嬢に案内されて、二階の商談スペースで待たされる。多少審査があるようだ。

「こちらの書類にサインをお願いします。依頼主がいらっしゃった場合の連絡先を……」
 ん?急に動きが止まったな。
「……いま、依頼主がお越しになりました。今しばらくこちらでお待ちください。」
 なんだよ。エスパーか?感じるのか?人類の革新か?
 ってのは冗談で、このあたりがゲーム用AIらしいところだな。近くにサトシたちが来たんだろう。
 というわけで、しばらくここでサトシが来るのを待つことにする。

 椅子に座って、周囲を見回すと、やはりAIだなぁという動きをするNPCが多い。何か商談をしているようだが、動きがぎこちない。いくつかのルーチンを組み合わせて人間らしく動かしているだけだ。
 だが、俺がもし、これをゲームだと知らなければ、NPCだと気づけるだろうか?正直難しそうだな。

 そんなことを考えていると、目の前の階段をサトシが上がってきた。

 さて、声でもかけるか。
 見当はずれの場所を探すサトシの肩を軽く叩く

「どうも、ルークスです。」

「応募ありがとうございます!」
 そう言いながらサトシが振り返る。それに対して俺はさわやかな微笑みで返す。

「なんでだよ!!」
 なにがだよ!
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