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サトシの譚
エンドゥのダメおやじ
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稲作については今後検討することにして、サトシとルークスはウサカに向かう。アイも誘ったが、
「ハンバーグを作るのに忙しい」
とのことで、二人だけで向かうことになった。
「こんにちは」
サトシは冒険者ギルドで受付嬢に声をかける。
「こんにちは。今日はどうされました?」
「あの。鉱山の依頼ってあります?」
「ありますよ。鉱山の探索になりますけど」
「探索ですか?」
「ええ、鉱山に魔獣が出るので、調査依頼ですね。ですから探索のところに張ってあったと思います」
サトシたちはいつも討伐依頼を中心に探していたため、別の場所にまとめて貼ってある「調査・探索」系の依頼については確認していなかった。
「ああ、これだ。どんな依頼ですか?」
「ちょっと待ってくださいね」
受付嬢は、掲示板に張ってある依頼札よりも詳しい内容が記載されているファイルを裏から出してきた。
「ええと、依頼主は領主様ですね。2年前から出てるんですが、未達ですね」
「未達ですか。誰が以前に受けてるんですか?」
「最初の頃は、数組のパーティーが受けてますね。ただ、その後音沙汰無しです」
「音沙汰無しって……行方不明ってことですか?」
「そうですね。依頼を受けてはみたものの、割に合わないと判断されて、そのまま放置というケースもありますから。こちらの依頼を以前受けたパーティーはウルサンや王都のギルドに所属するパーティーですね。ですから音信不通になってもおかしくありません」
「ああ、そうですか。別に亡くなったわけではないんですね」
「まあ、そうとも言いきれませんが」
「そうですか」
「まあ、いいじゃないか。取り敢えず受けてみるか?」
ルークスは気軽に受けてみるつもりらしい。
「これは未達の場合なにかペナルティみたいなものはあるんですか?」
サトシは受付嬢に確認する。
「いえ、特に未達ペナルティはありません。未達はよくあることですから。できれば未達であきらめる場合には、一言いただけると助かります」
「なるほど」
それを聞いてサトシは安心した。
「じゃあ、この依頼受けます。ちなみにこの鉱山ってどこになります?」
「鉱山は町の南にあります。目の前の大通りを南に下っていけば半日ほどで鉱山に着きますよ」
「結構距離があるんですね。わかりました。行ってみます」
二人はギルドを出ると、大通りを南に下って行く。
「どうする、街から出たら飛んでいくか?」
「そうですね。半日かかるとなると、夜中になっちゃいますからね」
話しながら道を進んで行くと、近くの店の扉が勢いよく開く。
「父ちゃんのバカ!!」
子供が二人、店から飛び出して通りを南に走って行く。
「なんだ?ありゃ」
サトシは二人が通り過ぎた後に何かが落ちていることに気づく。
「これ、さっきの子が落としたんですかね」
「ぬいぐるみ……か?」
それは薄汚れたぬいぐるみだった。
「熊?犬?ですかね。なんでしょう。ああ、もう見えなくなっちゃいましたね」
「この店から出てきたから、この店の子なんじゃないか?店の人に渡しとけばよかろ?」
「そうですね」
二人は子供たちが飛び出してきた店に入る。
「いらっしゃい」
「いや、客じゃないんですが……」
「なんだい。客じゃないのかい」
右手に長めのカウンターがあり、その奥に主人と思しき女性が頬杖をついている。働く気は無さそうだ。
店には、丸テーブルが5つほど並んでおり、それぞれに丸椅子が4つずつ。時間帯が悪いのだろうか、客がほとんど居ない。先客は二人だけ。手前の丸テーブルにはガタイのいいおっさんが突っ伏している。酔っぱらいなんだろう。一番奥のテーブルには、木の板をにやにやと眺めている爺が居た。二人は店主らしき女がいるカウンターに向かう。
「さっきこの店から出てった子供たちが落としたんだと思うんだけど」
サトシがぬいぐるみを女主人の前に置くと、女主人は頬杖をついたままそのぬいぐるみをけだるそうに見る。
「ああ、そこで突っ伏してる飲んだくれの娘だね。これの持ち主は」
「あの、酔っぱらい?」
「ま、せっかく店に来たんだ。なんか飲んでいきなよ」
「いや、俺は……」
「まあ、一杯くらいいいだろ?どんな酒が出てくるのかも興味があるしな」
「ああ、っていうか、俺たぶん未成年だと思うんですが」
「この世界に未成年って概念があるのかね?なあ、女将さんよ。何歳から酒飲んで良いんだ?」
「なんだい?そんなの本人が飲みたきゃ飲みゃいいじゃないか。人に言われて飲むもんじゃないよ」
「俺は飲んでも大丈夫に見えますか?」
サトシは素朴な疑問をぶつける。実年齢で言えば20を超えているが、この見た目で飲んでよいものか疑問だった。
「気にする必要ないさ。ハーフリングやエルフなんかは人間からすりゃ年齢判らないからね」
「じゃあ、ちょっともらいますか」
久々の酒に二人とも上機嫌である。
「で、こんな客の入りでやってけるのか?」
ルークスはストレートに女店主に聞く。
「酷い物言いだね。うちの店だって、ちょっと前までは賑わってたんだよ」
女主人がけだるそうに返す。
「何かあったんですか?」
「あんたたちこの町は初めてかい?いやね。この町の外れには鉱山があってね。以前この店は鉱夫たちで賑わってたんだけどね。みんなほとんど町を出てっちゃったんだよ。魔物が出てさ。もう2年になるかね。それで鉱山は閉鎖さ。鉱夫たちは職を失ってね」
「鉱夫たちはどうなったんです?」
「食って行かないといけないからね、ほとんどは腕っぷしを買われて、用心棒やら冒険者やら、街をでてった奴がほとんどさね」
「冒険者になれるんなら、その魔物を狩ってもよかったんじゃねぇか?」
「冒険者って言っても駆け出しだからね。突っ込んだ奴らはやられちまったよ。いい奴らだったんだけどね。淋しいもんさね。うちは鉱夫のたまり場だったからね。めっきりさびれちまったよ。
そこで突っ伏してるのは、鉱夫の成れの果てさ。前は良い男だったんだけどね。今は飲んだくれて使い物になりゃしない」
「さっきの子たちの父親?」
「あの子たちも健気なもんさね。以前はあの男も働き者の鉱夫だったんだけどね。飲みに来ても、気さくでみんなと仲良くやってたんだよ。最初に鉱山に魔物が出たときも、あの男は鉱山を護ろうと、魔物と戦ってたんだよ。冒険者ギルドにもなけなしの金で依頼をかけてさ、頑張ってたんだけどね。
仲の良かった仲間たちが魔物にやられちまってさ、ギルドへの依頼も思うように冒険者も集まらないらしくてね。結局見捨てられた格好になっちまったのさ。あいつにはつらかったろうね。一番頑張ってたからね」
バン!!
勢いよく店の入り口のドアが開く。気の強そうな女がずかずかと店に入ってきてあたりを見渡すと、酔いつぶれている男を怒鳴りつける。
「このクズ!子供たちをどこへやったんだい!!酒の代金に売り飛ばしたんじゃないだろうね!!」
さっきの子供の母親のようだ。飲んだくれは、据わった目で女房らしき女をにらみつけている。
「なんだと、あんなもんが金になるかよ!大人しく家にすっこんでろ!!」
「とうとうそこまで落ちぶれちまったかい!早く二人を……」
バン!!
また店のドアを勢いよく開く。
「おい、ロッソ! あ、ゲルダも居るのか。お前らここで何してんだ!!お前らの娘たちがハーピーにさらわれたぞ!」
女房らしき女がその言葉を聞いて青ざめる。ガタ!と椅子が倒れる音とともに、飲んだくれが勢いよく店から飛び出す。さっきまで酔いつぶれていたとは思えないスピードだ。
サトシは女主人に酒代を渡すと、ルークスと共に酔っぱらいを追って店を飛び出す。
「ハンバーグを作るのに忙しい」
とのことで、二人だけで向かうことになった。
「こんにちは」
サトシは冒険者ギルドで受付嬢に声をかける。
「こんにちは。今日はどうされました?」
「あの。鉱山の依頼ってあります?」
「ありますよ。鉱山の探索になりますけど」
「探索ですか?」
「ええ、鉱山に魔獣が出るので、調査依頼ですね。ですから探索のところに張ってあったと思います」
サトシたちはいつも討伐依頼を中心に探していたため、別の場所にまとめて貼ってある「調査・探索」系の依頼については確認していなかった。
「ああ、これだ。どんな依頼ですか?」
「ちょっと待ってくださいね」
受付嬢は、掲示板に張ってある依頼札よりも詳しい内容が記載されているファイルを裏から出してきた。
「ええと、依頼主は領主様ですね。2年前から出てるんですが、未達ですね」
「未達ですか。誰が以前に受けてるんですか?」
「最初の頃は、数組のパーティーが受けてますね。ただ、その後音沙汰無しです」
「音沙汰無しって……行方不明ってことですか?」
「そうですね。依頼を受けてはみたものの、割に合わないと判断されて、そのまま放置というケースもありますから。こちらの依頼を以前受けたパーティーはウルサンや王都のギルドに所属するパーティーですね。ですから音信不通になってもおかしくありません」
「ああ、そうですか。別に亡くなったわけではないんですね」
「まあ、そうとも言いきれませんが」
「そうですか」
「まあ、いいじゃないか。取り敢えず受けてみるか?」
ルークスは気軽に受けてみるつもりらしい。
「これは未達の場合なにかペナルティみたいなものはあるんですか?」
サトシは受付嬢に確認する。
「いえ、特に未達ペナルティはありません。未達はよくあることですから。できれば未達であきらめる場合には、一言いただけると助かります」
「なるほど」
それを聞いてサトシは安心した。
「じゃあ、この依頼受けます。ちなみにこの鉱山ってどこになります?」
「鉱山は町の南にあります。目の前の大通りを南に下っていけば半日ほどで鉱山に着きますよ」
「結構距離があるんですね。わかりました。行ってみます」
二人はギルドを出ると、大通りを南に下って行く。
「どうする、街から出たら飛んでいくか?」
「そうですね。半日かかるとなると、夜中になっちゃいますからね」
話しながら道を進んで行くと、近くの店の扉が勢いよく開く。
「父ちゃんのバカ!!」
子供が二人、店から飛び出して通りを南に走って行く。
「なんだ?ありゃ」
サトシは二人が通り過ぎた後に何かが落ちていることに気づく。
「これ、さっきの子が落としたんですかね」
「ぬいぐるみ……か?」
それは薄汚れたぬいぐるみだった。
「熊?犬?ですかね。なんでしょう。ああ、もう見えなくなっちゃいましたね」
「この店から出てきたから、この店の子なんじゃないか?店の人に渡しとけばよかろ?」
「そうですね」
二人は子供たちが飛び出してきた店に入る。
「いらっしゃい」
「いや、客じゃないんですが……」
「なんだい。客じゃないのかい」
右手に長めのカウンターがあり、その奥に主人と思しき女性が頬杖をついている。働く気は無さそうだ。
店には、丸テーブルが5つほど並んでおり、それぞれに丸椅子が4つずつ。時間帯が悪いのだろうか、客がほとんど居ない。先客は二人だけ。手前の丸テーブルにはガタイのいいおっさんが突っ伏している。酔っぱらいなんだろう。一番奥のテーブルには、木の板をにやにやと眺めている爺が居た。二人は店主らしき女がいるカウンターに向かう。
「さっきこの店から出てった子供たちが落としたんだと思うんだけど」
サトシがぬいぐるみを女主人の前に置くと、女主人は頬杖をついたままそのぬいぐるみをけだるそうに見る。
「ああ、そこで突っ伏してる飲んだくれの娘だね。これの持ち主は」
「あの、酔っぱらい?」
「ま、せっかく店に来たんだ。なんか飲んでいきなよ」
「いや、俺は……」
「まあ、一杯くらいいいだろ?どんな酒が出てくるのかも興味があるしな」
「ああ、っていうか、俺たぶん未成年だと思うんですが」
「この世界に未成年って概念があるのかね?なあ、女将さんよ。何歳から酒飲んで良いんだ?」
「なんだい?そんなの本人が飲みたきゃ飲みゃいいじゃないか。人に言われて飲むもんじゃないよ」
「俺は飲んでも大丈夫に見えますか?」
サトシは素朴な疑問をぶつける。実年齢で言えば20を超えているが、この見た目で飲んでよいものか疑問だった。
「気にする必要ないさ。ハーフリングやエルフなんかは人間からすりゃ年齢判らないからね」
「じゃあ、ちょっともらいますか」
久々の酒に二人とも上機嫌である。
「で、こんな客の入りでやってけるのか?」
ルークスはストレートに女店主に聞く。
「酷い物言いだね。うちの店だって、ちょっと前までは賑わってたんだよ」
女主人がけだるそうに返す。
「何かあったんですか?」
「あんたたちこの町は初めてかい?いやね。この町の外れには鉱山があってね。以前この店は鉱夫たちで賑わってたんだけどね。みんなほとんど町を出てっちゃったんだよ。魔物が出てさ。もう2年になるかね。それで鉱山は閉鎖さ。鉱夫たちは職を失ってね」
「鉱夫たちはどうなったんです?」
「食って行かないといけないからね、ほとんどは腕っぷしを買われて、用心棒やら冒険者やら、街をでてった奴がほとんどさね」
「冒険者になれるんなら、その魔物を狩ってもよかったんじゃねぇか?」
「冒険者って言っても駆け出しだからね。突っ込んだ奴らはやられちまったよ。いい奴らだったんだけどね。淋しいもんさね。うちは鉱夫のたまり場だったからね。めっきりさびれちまったよ。
そこで突っ伏してるのは、鉱夫の成れの果てさ。前は良い男だったんだけどね。今は飲んだくれて使い物になりゃしない」
「さっきの子たちの父親?」
「あの子たちも健気なもんさね。以前はあの男も働き者の鉱夫だったんだけどね。飲みに来ても、気さくでみんなと仲良くやってたんだよ。最初に鉱山に魔物が出たときも、あの男は鉱山を護ろうと、魔物と戦ってたんだよ。冒険者ギルドにもなけなしの金で依頼をかけてさ、頑張ってたんだけどね。
仲の良かった仲間たちが魔物にやられちまってさ、ギルドへの依頼も思うように冒険者も集まらないらしくてね。結局見捨てられた格好になっちまったのさ。あいつにはつらかったろうね。一番頑張ってたからね」
バン!!
勢いよく店の入り口のドアが開く。気の強そうな女がずかずかと店に入ってきてあたりを見渡すと、酔いつぶれている男を怒鳴りつける。
「このクズ!子供たちをどこへやったんだい!!酒の代金に売り飛ばしたんじゃないだろうね!!」
さっきの子供の母親のようだ。飲んだくれは、据わった目で女房らしき女をにらみつけている。
「なんだと、あんなもんが金になるかよ!大人しく家にすっこんでろ!!」
「とうとうそこまで落ちぶれちまったかい!早く二人を……」
バン!!
また店のドアを勢いよく開く。
「おい、ロッソ! あ、ゲルダも居るのか。お前らここで何してんだ!!お前らの娘たちがハーピーにさらわれたぞ!」
女房らしき女がその言葉を聞いて青ざめる。ガタ!と椅子が倒れる音とともに、飲んだくれが勢いよく店から飛び出す。さっきまで酔いつぶれていたとは思えないスピードだ。
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