上 下
80 / 321
サトシの譚

エンドゥのダメおやじ

しおりを挟む
 稲作については今後検討することにして、サトシとルークスはウサカに向かう。アイも誘ったが、
「ハンバーグを作るのに忙しい」
 とのことで、二人だけで向かうことになった。

「こんにちは」
 サトシは冒険者ギルドで受付嬢に声をかける。
「こんにちは。今日はどうされました?」
「あの。鉱山の依頼ってあります?」
「ありますよ。鉱山の探索になりますけど」
「探索ですか?」
「ええ、鉱山に魔獣が出るので、調査依頼ですね。ですから探索のところに張ってあったと思います」
 サトシたちはいつも討伐依頼を中心に探していたため、別の場所にまとめて貼ってある「調査・探索」系の依頼については確認していなかった。
「ああ、これだ。どんな依頼ですか?」
「ちょっと待ってくださいね」
 受付嬢は、掲示板に張ってある依頼札よりも詳しい内容が記載されているファイルを裏から出してきた。
「ええと、依頼主は領主様ですね。2年前から出てるんですが、未達ですね」
「未達ですか。誰が以前に受けてるんですか?」
「最初の頃は、数組のパーティーが受けてますね。ただ、その後音沙汰無しです」
「音沙汰無しって……行方不明ってことですか?」
「そうですね。依頼を受けてはみたものの、割に合わないと判断されて、そのまま放置というケースもありますから。こちらの依頼を以前受けたパーティーはウルサンや王都のギルドに所属するパーティーですね。ですから音信不通になってもおかしくありません」
「ああ、そうですか。別に亡くなったわけではないんですね」
「まあ、そうとも言いきれませんが」
「そうですか」
「まあ、いいじゃないか。取り敢えず受けてみるか?」
 ルークスは気軽に受けてみるつもりらしい。
「これは未達の場合なにかペナルティみたいなものはあるんですか?」
 サトシは受付嬢に確認する。
「いえ、特に未達ペナルティはありません。未達はよくあることですから。できれば未達であきらめる場合には、一言いただけると助かります」
「なるほど」
 それを聞いてサトシは安心した。
「じゃあ、この依頼受けます。ちなみにこの鉱山ってどこになります?」
「鉱山は町の南にあります。目の前の大通りを南に下っていけば半日ほどで鉱山に着きますよ」
「結構距離があるんですね。わかりました。行ってみます」

 二人はギルドを出ると、大通りを南に下って行く。

「どうする、街から出たら飛んでいくか?」
「そうですね。半日かかるとなると、夜中になっちゃいますからね」
 
 話しながら道を進んで行くと、近くの店の扉が勢いよく開く。
「父ちゃんのバカ!!」
 子供が二人、店から飛び出して通りを南に走って行く。
「なんだ?ありゃ」
 サトシは二人が通り過ぎた後に何かが落ちていることに気づく。
「これ、さっきの子が落としたんですかね」
「ぬいぐるみ……か?」
 それは薄汚れたぬいぐるみだった。
「熊?犬?ですかね。なんでしょう。ああ、もう見えなくなっちゃいましたね」
「この店から出てきたから、この店の子なんじゃないか?店の人に渡しとけばよかろ?」
「そうですね」
 二人は子供たちが飛び出してきた店に入る。

「いらっしゃい」
「いや、客じゃないんですが……」
「なんだい。客じゃないのかい」
 右手に長めのカウンターがあり、その奥に主人と思しき女性が頬杖をついている。働く気は無さそうだ。
 店には、丸テーブルが5つほど並んでおり、それぞれに丸椅子が4つずつ。時間帯が悪いのだろうか、客がほとんど居ない。先客は二人だけ。手前の丸テーブルにはガタイのいいおっさんが突っ伏している。酔っぱらいなんだろう。一番奥のテーブルには、木の板をにやにやと眺めている爺が居た。二人は店主らしき女がいるカウンターに向かう。

「さっきこの店から出てった子供たちが落としたんだと思うんだけど」
 サトシがぬいぐるみを女主人の前に置くと、女主人は頬杖をついたままそのぬいぐるみをけだるそうに見る。

「ああ、そこで突っ伏してる飲んだくれの娘だね。これの持ち主は」
「あの、酔っぱらい?」

「ま、せっかく店に来たんだ。なんか飲んでいきなよ」
「いや、俺は……」
「まあ、一杯くらいいいだろ?どんな酒が出てくるのかも興味があるしな」
「ああ、っていうか、俺たぶん未成年だと思うんですが」
「この世界に未成年って概念があるのかね?なあ、女将さんよ。何歳から酒飲んで良いんだ?」
「なんだい?そんなの本人が飲みたきゃ飲みゃいいじゃないか。人に言われて飲むもんじゃないよ」
「俺は飲んでも大丈夫に見えますか?」
 サトシは素朴な疑問をぶつける。実年齢で言えば20を超えているが、この見た目で飲んでよいものか疑問だった。
「気にする必要ないさ。ハーフリングやエルフなんかは人間からすりゃ年齢判らないからね」
「じゃあ、ちょっともらいますか」
 久々の酒に二人とも上機嫌である。
「で、こんな客の入りでやってけるのか?」
 ルークスはストレートに女店主に聞く。
「酷い物言いだね。うちの店だって、ちょっと前までは賑わってたんだよ」
 女主人がけだるそうに返す。
 
「何かあったんですか?」
「あんたたちこの町は初めてかい?いやね。この町の外れには鉱山があってね。以前この店は鉱夫たちで賑わってたんだけどね。みんなほとんど町を出てっちゃったんだよ。魔物が出てさ。もう2年になるかね。それで鉱山は閉鎖さ。鉱夫たちは職を失ってね」
「鉱夫たちはどうなったんです?」
「食って行かないといけないからね、ほとんどは腕っぷしを買われて、用心棒やら冒険者やら、街をでてった奴がほとんどさね」
「冒険者になれるんなら、その魔物を狩ってもよかったんじゃねぇか?」
「冒険者って言っても駆け出しだからね。突っ込んだ奴らはやられちまったよ。いい奴らだったんだけどね。淋しいもんさね。うちは鉱夫のたまり場だったからね。めっきりさびれちまったよ。
 そこで突っ伏してるのは、鉱夫の成れの果てさ。前は良い男だったんだけどね。今は飲んだくれて使い物になりゃしない」

「さっきの子たちの父親?」

「あの子たちも健気なもんさね。以前はあの男も働き者の鉱夫だったんだけどね。飲みに来ても、気さくでみんなと仲良くやってたんだよ。最初に鉱山に魔物が出たときも、あの男は鉱山を護ろうと、魔物と戦ってたんだよ。冒険者ギルドにもなけなしの金で依頼をかけてさ、頑張ってたんだけどね。
 仲の良かった仲間たちが魔物にやられちまってさ、ギルドへの依頼も思うように冒険者も集まらないらしくてね。結局見捨てられた格好になっちまったのさ。あいつにはつらかったろうね。一番頑張ってたからね」

 バン!!
 勢いよく店の入り口のドアが開く。気の強そうな女がずかずかと店に入ってきてあたりを見渡すと、酔いつぶれている男を怒鳴りつける。
 
「このクズ!子供たちをどこへやったんだい!!酒の代金に売り飛ばしたんじゃないだろうね!!」
 さっきの子供の母親のようだ。飲んだくれは、据わった目で女房らしき女をにらみつけている。

「なんだと、あんなもんが金になるかよ!大人しく家にすっこんでろ!!」
「とうとうそこまで落ちぶれちまったかい!早く二人を……」

 バン!!
 また店のドアを勢いよく開く。

「おい、ロッソ! あ、ゲルダも居るのか。お前らここで何してんだ!!お前らの娘たちがハーピーにさらわれたぞ!」

 女房らしき女がその言葉を聞いて青ざめる。ガタ!と椅子が倒れる音とともに、飲んだくれが勢いよく店から飛び出す。さっきまで酔いつぶれていたとは思えないスピードだ。

 サトシは女主人に酒代を渡すと、ルークスと共に酔っぱらいを追って店を飛び出す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~

泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。 女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。 そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。 冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。 ・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。 ・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません ※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした

宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。 聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。 「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」 イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。 「……どうしたんだ、イリス?」 アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。 だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。 そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。 「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」 女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。

処理中です...