上 下
78 / 321
サトシの譚

プライスレス

しおりを挟む
「このきんどうする?」
「どうしましょうか?俺たち金持ちになっちゃいますかね。」
「すげーな。金の生る木を地で行くとは。お前やるな!」
「いやー。まいっちゃいますね。」

 などとはしゃいでいたサトシとルークスだったが、このきんの扱いを考え始めて、はたと高揚した気持ちが覚める。

「これをどうやってこの世界の金に換えるか……」
「直接作っちゃいますか?」
「いや、偽造だろ?それ。さすがにそれは良心の呵責が……」
「ああ、確かに気が引けますね。じゃあ、どうします。」
「ギルド……かなぁ。」
「確かに、ギルドに持っていけば換金してくれそうですね。」
「ただ、そこまでの信用が俺たちにあるかだな。」
「ギルドなら鑑定スキル持ってるんじゃないですか?」
「いや、持ってるだろうけどさ……そういうきん自体の信用じゃなくて、俺たちの信用だよ。」
「俺たちのですか?それこそ、金が本物だと分かってもらえれば、信用なんていらないんじゃ……」
「少しの量ならな。大量に持っていったら、それこそどうやって手に入れたのかって思うんじゃないか?」
「確かに、野党の類だと思われるのもまずいですね。」
 確かに二人の心配も尤もだった。ギルドは信用商売である。当然取引する相手の信用も重要となるため、盗品の類は極力扱わないようにしている。そんな中、出所不明の金銀財宝を持ち込む冒険者が居れば、怪しまれるのも当然だ。最悪マークされ、素性を調べられるかもしれない。そうなればスキルの事もばれてしまう。サトシのスキルは利用価値があるため拉致監禁など身に危険が及ぶ可能性もある。

 二人はしばらく考え込んだ。サトシは何とかして大金を手に入れようと必死に考えを巡らせていたが、ルークスは違う結論に至る。

「ところでサ。大金を手に入れて……何に使う?」
「何にって、そりゃぁ、もちろん……」

 そこまで言って、サトシは口ごもる。
 サトシが欲しい物。当然いろいろとある。日本で食べていた食事や、調味料。PCやゲームにネット環境。エアコンの効いた快適な部屋など、上げて行けばキリがない。が、それらを列挙して初めて気が付いた。
 
『あれ?ほしい物って、金で買える?』

 そう、どれ一つとして金で解決できない物であった。確かに、食事に関しては大金を出せば以前に近いものを食べることはできる。が、大金を出せば出すほど良いものが得られるかと言えば、それは否である。この世界は日本に比べればずいぶん原始的だ。大金を出したところで存在しない物のは買うことができない。
 料理も、食材・調味料・調理器具・レシピ。それぞれが揃わなければどうにもならない。
 PCやゲーム、ネット環境など夢のまた夢である。快適な住環境が唯一手が届きそうだが、これも金だけではいかんともしがたい。

 結局、金で解決できないのである。

「たしかに、かねがあっても役に立たない気がしますね。」
「だな。便利な生活ってのは、汗水たらして得る者であって、金で買えるもんじゃないってことだな。」

「じゃあ、どうすれば。」
「それこそ、おまえのその『創造クリエイション』で作ればいいんじゃないか?」 
「スキルで……ですか。」

「お前のスキルは物質が作れるよな。ってことは、部品も作れるんじゃないのか?」
「ああ、そうかもしれませんね。」
 サトシはルークスにそう言われて、ようやくこのスキルの利用方法が見えてきた。物質を作るだけではなく、形状も作ってしまえばいい。ならばと早速、掌を上に向け、その上にプラスチック製のサイコロを思い浮かべる。
 掌の上に、みるみる四角いサイコロが出来上がって行く。それは水の中に沈んでいたサイコロが浮かび上がるように。

「おお、形作れるじゃないか!って、なんでサイコロ?」
「いや、サンプルにはこのくらいのものが良いかと思いまして。」
「まあ、確かにな。ちょっと見せてくれ。」
 ルークスは、サトシの掌の上に完成したサイコロを手に取ると、下からのぞき込んだり、地面に放り投げて転がしたりと動作を確認した。最後には足で踏みつけ強度を確認している。
「ああ、いきなりなんですか!せっかく作ったのに。」
「いや、強度検査も必要だろ?材質は何のつもりで作った?」
「一応、プラスチックですね。ABSをイメージしました。」
「ああ、ABSか。って、お前材料詳しいのか?」
「あっはい。いちおう工学部なので。」
「そ、そうか。そりゃ好都合だな。」
 ルークスの言葉は多少ぎこちなかったが、サトシは気にしなかった。
「三次元プリンタより随分早く作れそうですね。」
「そうだな。大きさは?どのくらいまで作れそうだ?」
 サトシは掌から立方体を作り出す。掌からはみ出さない大きさの物であれば作れそうだった。
「手よりも大きいサイズは作れそうか?」
「やってみます。」
 サトシはイメージを膨らませてみるが、手より大きいものを作り出すことが出来ないでいた。
「片手しかできないのか?」
「ああ、そうですね。試してみます。」
 両掌を上に向け、小指側を合わせるように手を広げる。すると、両手の間から大きな塊が顔を出し、ぐんぐん成長してくる。
「できますね。結構大きいものまで。」
 そう言いながらサトシは掌でどんぶり茶碗を作り出す。
「だな、あ、作ったものに何か追加することできるか?」
「なるほど、それ出来るとずいぶん大きい物まで作れそうですね。形状も複雑にできるし。やってみます。」
 サトシは、今作りだしたどんぶり茶碗を手に取ると、茶碗の横に手を当てる、すると手を当てた所から取っ手が生えてくるように現れた。
「なんか、光造形の三次元プリンタみたいだな。」
 光造形三次元プリンタとは、液体樹脂(レジン)を紫外線で硬化させ、層状に形状を造形するプリンタである。
「ですね。そんで、後からパーツを継ぎ足せるとなると、かなり自由度高いですね。」
「お前すごいな。そのスキルは大当たりだぞ。」
 ルークスの言う通り「とんでもスキル」である。あらゆる材質で自由に造形できるとなれば、作れないものはほとんど無い。
「これで生活向上を目指せますね!」

 再びはしゃぐサトシとルークスを眺めながらアイが呟く。

「で、何を作るの?」

「「……」」
 サトシ、ルークスの笑顔が固まる。正直何も思いついていない。二人はその場に座り込むと、腕を組み目を瞑って悩み始めた。
「とりあえず何かありますかねぇ?」
「そうだなぁ。何が「無い」のかを先に考えるか。」
「確かにそうですね。」

 二人はうんうん唸りながら考え込んでいたが、先にルークスがあきらめる。

「ま、いずれ思いつくだろ。取り敢えずオークの死体を片付けるか。」
「そうですね。」

 その二人の様子をアイは呆れた様子で見ていたが、食事の準備をするために家に入る。

 その間、サトシとルークスはゴブリンの装備をはがし、死体は墓地に運ぶ。得られた装備はどれもクズ装備だったが、かなりの数を手に入れることが出来た。
 食事ができるまでの間、手に入れた装備を鍛冶スペースに運び入れる。
 そうこうしていると、夕食時になり集落の畑からティックとアンが帰ってきた。家からは良い匂いが漂い始め、食事の準備ができたことをアイが告げる。
「できたよぉ!」

 5人は食事をとりながら日々の暮らしに必要なものについて話始める。

「アイは今何か足りないものある?」
「調味料が欲しいかな。後は特に……」
 チキンソテーを頬張りながら答える。
「ほら。なにかこんなものがあったら便利なものとか、考えたことない?」
「ん~。あんまりないかなぁ。」
 アイはそっけない返事だった。
「まあ、仕方ないんじゃないか?知らないものは気づかないしな。」
 確かに真理だった。人は今あるもので日常を送る。『こんなものがあればいいのに』と想像できる人間は稀なのである。
「そんなもんですかねぇ。じゃあティックとアンは作業してて必要なものってある?」
「そうですね。農機具が痛んで来たので新しいのがあると嬉しいかなと。」
「鍬が結構痛んでますね。」
 出てきた意見は、やはり今ある工具の修理が主だった。
「やっぱり、文明の利器を作るしかないですかね。」
「でも、便利な奴ってほとんどが電動だしなぁ。まずは電気になっちまうだろ?」
「そうですよねぇ。」
 そう言いながらサトシもチキンソテーを頬張る。若干焼き目が付きすぎているような気がした。
「火力か……」
「それもガスが使える事前提じゃないか?」
「そうですよね。」
「あ、そういえば」
 ティックが思い出したように声を上げる。
「なに?」
「畑を広げたいと思うんですが、最近雨が少ないので、魔術で雨を降らせていただけると助かります。」
 農業をするにあたって、サトシは時折魔法で雨を降らせていた。
「雨……水か。」
「インフラ整備が先か?」
「そうかもしれませんね。まずは水でしょうか。」
「そうだな。井戸からポンプで吸い上げて、水路を通すとか……そんな感じかな。」
「そうですね。それなら出来そうですね。」
 サトシとルークスは二人で頷き合っている。
 その様子をアイたち三人は判ったようなわからないような顔で見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

処理中です...