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サトシの譚

墓場での稽古

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「脆弱接続の修正を行います。13350/13723」
「脆弱接続の修正が完了しました。」

 機械的なアナウンスが頭の中を流れる。心なしか気持ちがすっきりしたようにサトシは感じた。

「では参るぞ!」
 モースは杖を地面に強く打ち付ける。

 地面が盛り上がり、無数のアンデッドが這い出てくる。骸骨戦士スケルトンウォリアーとゴブリンゾンビだった。

「さあ、まずは小手調べだ!」

 サトシは魔術錬成を行う。
「ライトボール!!」
 サトシの掌からまばゆい光の弾がアンデッドに向けて放たれる。光の弾を受けたアンデッドがその場に倒れ込む。その様子を見てサトシは畳みかける。

「ライトボール!」
 先ほどより若干弱い光の弾がアンデッドに向かって飛んで行く。喰らったアンデッドは砂像のようにその場で崩れた。
「経験値288405獲得」

 
「ほほう。其方腕を上げておるな。
 だが、魂の使い方が良くないな。」

 サトシはモースに向き直る。

「どういうことですか?」
「其方の魂の動かし方じゃ。周りの魂が減っておるじゃろう。魔術を放った際に周囲の魂が枯渇して威力が半減しておる。」
「どうすればいいんですか?」
「おぬしは自分の魂を絞り過ぎだ。その少ない魂では狭い範囲の魂しか動かせん。だから足元の魂だけを使ってしまって、そこだけ魂が無くなってしまう。もっと自分の魂を多く使って、広い範囲の魂を動かす事じゃ。」
『なるほど』とは思ったが、問題があった。
「俺の『魂』はそこまで潤沢じゃないので、多量に動かすとすぐに枯渇するんですが……」
「確かに。あの威力の魔術じゃと、打てて数発じゃな。」
 モースは顎に手を当てしばらく考え込む。

 そしてサトシの顔を見つめると何やら気が付いたように告げる。
「其方闇の適正も持っておるな。こちらに参れ。」
「はあ。」
 何のことかよくわからないまま、サトシはモースの元に行く。モースはサトシの額に手を当てるとしばらく黙り込む。
 サトシの頭の中に闇の神々を名を刻んだ十三芒星が浮かび上がる。
 
「属性適合が発現しました。」
「おわぁ!」
「これで闇の魔術『ドレイン』が使える。周囲から魂を集めることができるハズじゃ。試してみるがよい。」

「はい!

 ドレイン!」

 大地や大気から魔力がサトシに流れ込む。その熱さにサトシは一瞬悶える。

「魔力の最大値が向上しました。瞬間魔力放出量が向上しました。」

「これは!」
 サトシは以前とは比べ物にならないほど自分の体に魔力があふれていることを感じた。

「さて、試してみるか?」
「はい!」
 モースはまた杖を地面に強く打ち付ける。
 地面が盛り上がり、先ほどの倍以上のアンデッドが這い出てくる。今度はホブゴブリンゾンビも混じっていた。

 サトシはモースに言われた通り、自分の魔力を絞らずに流し、周囲からの魔力を引き寄せる。自分の魔力が枯渇することを防ぐため『ドレイン』と『ライトボール』を同時に発動する。
「ライトボール!」
 サトシの両手から今までとは比較にならないほどの強烈な光が放たれる。それは弾と呼ぶより光線と呼ぶにふさわしい物だった。
 目の前のアンデッドは一瞬で蒸発する。

「経験値321522獲得
 魔術の熟練度が向上しました。魔法剣士にジョブチェンジしました。それに伴いパラメータ再計算が行われます。」」

「おいおい!ちょっとまて!其方。それはどういうことだ!」
 モースが慌てふためいている。
「は?」
 サトシは頓狂な返事をする。
「其方、光の魔術を使いながらドレインも使っておったじゃろ!」
 確かに、サトシは魔力の枯渇を防ぐためにドレインも使っていた。
「まずかったですか?」
「まずいとかそう言う問題ではない。なぜそんなことができる?」
「へ?」
「闇の魔術と光の魔術は相反するモノじゃ。そんなものが同時に発動できるなぞ聞いたことがないぞ!」
「はぁ、そうなんですか。」
「『そうなんですか。』じゃない!其方がやっておることはとんでもないことなんじゃぞ!」
「ダメですか?」
「だから、ダメとかそう言う事では……。もう良い。なんだか事の重大さが良く理解できておらんようじゃのう……。」
 モースは疲れたようにうなだれた。

「やめた方がいいですか?」
「いや、出来るならそれで良い。まあ、闇に仕えるワシからすれば、闇と光どちらにも魂を捧げることを良しとは思わんが、人ならば好きにすればよかろう。」
 意外と理解がある人なんだな。とサトシは思った。
「だが、普通はそんなこと出来はせん……
 ……
 そうか、そう言う事なのかもしれんな。」
 モースは一人で納得したようにつぶやいていた。サトシはその言葉が気になったが、質問してよいものかどうか、判断がつかず、そのまま聞かなかったことにした。

「では、次は少々手ごわい相手と戦ってみるか?」
 サトシは一瞬ためらったが、覚悟を決めた。
「はい。お願いします。」
「良い心がけだ。参るぞ!」
 モースは杖を地面に2度打ち付ける。すると、一か所だけ地面が盛り上がり土の中から骸骨が顔を出す。
 サトシは魔術錬成の準備をするが、出てきた骸骨はフルプレートを着込んでいた。骸骨騎士スケルトンナイトだ。慌ててステータスを確認する。

骸骨騎士スケルトンナイト Lv17 HP:2870/2870 ATK:1339 DEF:579 弱点:火 光」
 かなりの強敵だった。サトシはすかさず魔術錬成の態勢に入る。
「ライトボール!」
 サトシの掌から強烈な光線が放たれる。それは1体の骸骨騎士スケルトンナイトめがけて収斂される。先程までと比べ物にならない閃光と熱を受けるが、骸骨騎士スケルトンナイトは怯まずサトシの方に近づいてくる。

「マヂっすか!」
 二撃、三撃と加えるが骸骨騎士スケルトンナイトはずんずんサトシの方に近づいてくる。
「ライトボール!!」
 四撃目の照射でようやく骸骨騎士スケルトンナイトは砂塵と化す。

「低級な骸骨騎士スケルトンナイトとはいえ、それを無傷で倒すとはなかなかどうして。より高位なものと手合わせするか?」

「いや、ちょっと待ってもらっていいですか?いまの骸骨騎士スケルトンナイトの獲物もらってもいいですか?ちょっと装備がないと心許ないっス。」
「ああ、それは構わんが。」

 サトシはスケルトンナイトが着こんでいた鎧を拾い上げると、中の砂塵を払い落とす。そして非結晶アモルファスのスキルを使って装備を鍛えなおす。

「なに!?其方その魔術……」
「え?また何か……まずかったですか?」
「いや、何でもない。」
 やはりモースは何かを納得したかのように黙り込んでいる。サトシは気にせずに、剣も鍛えなおす。装備が整ったところで気合を入れなおし構えると、
「では、お願いします!」
「よし、参る!」
 そこからは骸骨騎士スケルトンナイトによるサトシの互角稽古が始まった。

 それからサトシは剣術と魔術を使い分けながら骸骨騎士スケルトンナイトに立ち向かう。モースは徐々に高位の骸骨騎士スケルトンナイトを召喚してゆく。
 

 夜明けに近づくころには、Lv20を超える骸骨騎士スケルトンナイト3体を同時に撃破できるようになっていた。
 
「うむ。見事だ。今の其方ならゴブリン程度であれば大群で攻めてきても難なく撃破できるであろう。」
「ありがとうございます。」
 サトシは肩で息を切りながら礼を言う。

「ああ、それとな。言い忘れておったが、生者に『ドレイン』を使うときは気をつけよ。いろんなものを吸い取ってしまうからな。」
「いろんなもの!?って、なんです。どういうことですか?それ。」
 空が明るくなり、モースは言いたいことだけ言って消えていった。
「ねえ。モースさん!……」

 尋ねても答えは返ってこなかった。
「いや、なんかすごい気になるなぁ。」
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