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サトシの譚
決戦前夜
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夜だった。サトシは状況が理解できずにいる。ここ数日間で見慣れたこの粗末な天井。
「アイは?」
咄嗟に起き上がる。あたりを見回すと少し離れた所に少女が横たわっている。四つん這いになりながら慌てて駆け寄り肩を揺する。
「アイ!助かったのか?」
「ん~?なにぃ?」
少女は寝ぼけている様子だが、アイではない。声には聞き覚えがあった、ジルだ。
「明日早いんだから、しっかり寝なさいよ。」
ジルはめんどくさそうにそう言うと、呆然とするサトシを横目に寝息を立てはじめる。
『夢か?なんでジルが居る?』
周りを見渡すと他にも人影がある。母親と、死んだはずの父親だ。二人とも寝息を立てているところを見ると生きている。
『なんでだ?なんで母さんと……父さんまでいる?何があった。』
頭の中が整理できなままサトシは立ち上がり外に出る。サトシはふらふらと井戸の方に歩いて行き、井戸の積み石に腰掛ける。頭の中が整理できないままぼんやりと周囲を見渡す。
「俺をを母さんとジルが助けてくれた……それは無いな。父さんも寝てたもんな。」
小屋の中では、母親の隣に父親も寝ていた。父親の遺体はサトシが丘に埋めている。ここは揺るぎのない事実だ。
ついさっきまでゴブリンと死闘を繰り広げたこの小屋の前には、それらの痕跡は全くない。井戸の中にロープのついた手桶を放り投げ水を汲む。顔を洗い、もう一度周囲を見渡す。やはり小屋にも畑にもゴブリンに荒らされた形跡はない。今回だけでなく、前回、つまり父が殺され母とジルが連れ去られた時の痕跡も見当たらない。一番最初にサトシが見た集落の様子だ。
「タイムリープ?」
ラノベによくある奴だ。とサトシは思ったが、本当にそうなのか自信はなかった。だが、そうとでも思わなければ納得ができなかった。そこでハタと気づく。
「ステータス!」
『ユーザー:サトシ 職業:剣士見習い LV:16 HP:582/582 MP:32/32 MPPS:20 STR:48 ATK:178 VIT:38 INT:19 DEF:138 RES:20 AGI:181 LUK:118 EXP:3134806
スキル:観念動力 剣:Lv42 棍棒:Lv3 属性適合 魔術 火:Lv12 水:Lv10 風:Lv11 土:Lv10 無:Lv12 損傷個所 無し』
「つよくてニューゲームってやつか。……異世界転生で、タイムリープって……詰め込みすぎだろ。」
獲得した能力を失っていないことがわかってサトシは安堵する。が、素直に喜べない。まだタイムリープについては半信半疑だ。
「実際、今はいつなんだ?」
サトシがこの世界に最初に来たのは朝だった。そして、その日の夜にゴブリンに襲われた。しかし今は夜だ。次の夜にゴブリンが襲ってくるのか、それとも、この世界線ではゴブリンが襲ってこなかったのか。状況を確認するため畑を見に行く。すると、畑の芋はまだ収穫されていなかった。最初にゴブリンに襲われた時、畑の小屋側二割ほどは収穫が終わったはずだ。そこからサトシは最初のゴブリン襲撃の前だと判断する。
「となると、今できる事は……」
前回はカールと鍛えた武器があったが、今回はそれがない。鉈で戦うしかない。まずは装備の調達が必要だ。2回目の襲撃では300以上のゴブリンに囲まれたが、何とか持ちこたえた。かなり運が味方してくれたこともあるが、装備が整えば何とかなる手ごたえをサトシは感じていた。
また、前回はアイを守る必要があった。守りながらの戦いは不利になる。今のステータスなら父親すら足手まといだとサトシは考えていた。であれば、家族はどこかに隠れていてもらった方が戦いを有利に進めることができる。
「装備と拠点だな。」
サトシはこの小屋でゴブリンを待つことは悪手と考えていた。もっと守りやすく戦いやすい場所が必要だ。サトシはその場所にあたりをつけていた。それは、スケルトンが湧き出る墓地がある廃村である。あそこにはいくつもの廃墟があるが、この集落にある小屋よりもよほど立派で守りやすいと判断した。確かに夜な夜なスケルトンが闊歩するという厄介な場所であるが、サトシには自信があった。
「光の属性が使えれば何とかなりそうだな。」
そう、光属性の魔法である。アンデッドに破壊的ダメージを与えることができる上に、夜間の戦闘においても光属性の魔法は有用だ。
そうと決まればサトシの行動は早い。そして、前回の轍は踏まないと小屋の中に戻る。
「ステータス」
『ダン 職業:農夫 LV:5 HP:128/128 STR:105 ATK:10 VIT:300 INT:110 DEF:150 RES:0 AGI:40 LUK:0』
『アンヌ 職業:農夫 LV:4 HP:100/100 STR:35 ATK:2 VIT:250 INT:100 DEF:130 RES:0 AGI:30 LUK:0』
『ジル 職業:子供 LV:1 HP:2/2 STR:1 ATK:1 VIT:1 INT:1 DEF:1 RES:0 AGI:1 LUK:0』
「パーティーを選択しますか? Yes or No」
目の前にメッセージが現れる。
『Yes』
「誰とパーティーを組みますか? ダン・アンヌ・ジル」
『全員』
「ダンがパーティーに加わりました。」
「アンヌがパーティーに加わりました。」
「ジルがパーティーに加わりました。」
「これでよし。」
アイで失敗した悔しさを晴らすべく、今回はしっかりとパーティーを組み、全員のレベル上げも行うことにした。
「じゃあ、まずは。」
サトシはそういうと、武器も持たず集落の外に出る。
「さて、この辺でいいか。いでよゴブリン」
数十メートル先にゴブリンを呼びだす。不良高校生がパシリを呼ぶようにお構いなしである。
「さっき、ちょっと気になったんだよねぇ。」
独り言が多くなっている。実際転生前の彼は一人の方がテンションが上がるタイプだった。
「燃え上れ!」
炎の竜巻がゴブリンを襲う。ゴブリンは全身にやけどと切り傷を負いながら、サトシの方を睨む。
「燃えろ!」
再度の炎でゴブリンは絶命する。
「経験値1600獲得」
ファンファーレは成らなかった。
「さっきのでミュートがかかったのかなぁ。まあこっちの方がいいな。よし、もう一匹」
また数十メートル先に可哀そうなゴブリンが呼び出される。
「ファイアストーム!」
先ほどの倍はあろうかというほどの炎の竜巻が巻き起こる。ゴブリンは切り刻まれ骨も残らず消え去る。
「やっぱりか。」
サトシの予想は正しかった。魔法は発動の際の呼び方によって威力が変化するようだった。
ただ、サトシの理解は少々独特で、「かっこよければいい」というものであったようだ。
「さてと。装備をいただきましょうか。」
サトシはゴブリンの装備品を物色する。しかし、目論見は外れ、今回のゴブリン達が着けていたのはクズ装備だったようで跡形もない。
「ようし、もう一度。いでよゴブリン!」
ついさっきゴブリンに殺されたとは思えないほどの気安い呼び方。ある意味恨みが募っていると言えなくもない。
「煉獄の炎よ…荒れ狂う風と共にかの物を焼き尽くせ!」
厨二病心をくすぐる単語を並べて呪文風にしてみる。自分で言っておきながら、若干耳が赤い。しかし、羞恥心を犠牲に発動した呪文の効果は今一つだった。すかさず。
「ファイアストーム!!」
今度も派手な火柱が上がる。
「経験値1640獲得」
「なかなか難しいな。お、いい装備ゲット。」
先ほどの恥ずかしい呪文をなかった事にするかのように、焼け残った装備を拾う。
ところどころ溶けてはいるが、機能的には問題なかった。十分「名品」と言える装備だ。サトシは拾った鎧を着込み、片手剣を手に取る。
サトシは剣に魔力を流しながら、結晶の様子を確認する。先程のファイアストームで熱が入ったせいか若干焼きが戻り、硬さが失われ切れ味が鈍っているようだった。
「まあいいか、魔力流せば切れ味は増すし、折れない方が都合がいいしな。」
とりあえず、そのまま使用することにした。
しばらく街道沿いを歩き、廃村に入って行く。
裏手の墓地に近づくと、墓場からスケルトンが次々と這い出して来る。その様子を眺めながら、サトシは光の弾が全体に降り注ぐイメージを頭に浮かべ魔術錬成を行う。サトシは魔力を流しながら、両手を前に突き出す。
「ライトボール!」
突き出した両手から10㎝ほどの光の弾が機関銃のようにスケルトンめがけて飛んで行く。光の弾はスケルトンを貫通し、後ろの墓石に当たって消える。打ち抜かれたスケルトンは動きを止め、砂像が崩れるように消えてゆく。
目の前にはい出してきた20体ほどのスケルトンが見る間に消えていった。
「経験値5060獲得 属性適合が発現しました。」
「いよぉし!」
光属性の取得と、スケルトンの大量撃破。サトシの狙い通りであった。まだ目の前には今せん滅した数以上のスケルトンが蠢いているが、サトシには養分にしか見えていなかった。
「ライトボール!ライトボール!」
スケルトンが這い出すたびにせん滅する。すべてのスケルトンを倒したところで、いつものように一旦墓地から離れる。そして再度墓地に近づくとスケルトンが復活する。そこからはサトシの無双が始まる。ライトボールで殲滅しては、墓地を離れリセット、再度墓地に近づきライトボールで殲滅。コツコツと経験値を稼ぐが、なかなかレベルが上がらない。しかし、サトシは焦らなかった。10度目の殲滅を行った頃には、別の事を考えながら魔術錬成を行うという器用なことまでできるようになっていた。
『一回殲滅すると、リセットしない限り出てこないんなら、毎晩1回殲滅したら生活できるんじゃない?ある意味変な事故物件よりいい生活できるんじゃないかなぁ』
と、常人とは思えない思考に至っていた。
……
そんな気楽なことを考えながらスケルトンを殲滅してたサトシだったが、空腹や眠気とも違う妙な飢餓感と軽いめまいを感じ始める。サトシは咄嗟にステータスを確認する。
『ユーザー:サトシ 職業:剣士見習い LV:17 HP:511/643 MP:1/34 MPPS:25 STR:51 ATK:78 VIT:40 INT:20 DEF:55 RES:21 AGI:197 LUK:125 EXP:7196506
スキル:観念動力 剣:Lv42 棍棒:Lv3 属性適合 魔術 火:Lv12 水:Lv10 風:Lv11 土:Lv10 光:Lv9 無:Lv12 損傷個所 無し』
いくら周囲の魔力を利用していると言ってもこれだけ使うと魔力が枯渇しかかっていた。
「まずいなぁ。あと5回くらいかなぁ」
と、その時。
「経験値7630獲得 サトシのレベルが18に上昇、体力の最大値が上昇しました、腕力が向上しました。攻撃力が向上しました。生命力が向上しました。知性が向上しました。防御力が向上しました。素早さが向上しました。運が向上しました。」
一気に体力、魔力とも回復する。
「おお、ラッキー。って言うか、さすがに疲れたな。キリもいいし今日はこのくらいにしておくか。」
空も白み始めている。サトシは廃屋に剣と鎧を置いて小屋へ変えることにした。
帰り道でこれからの作戦を練っているときに、ふと気づく。アイとパーティーを組んだ時は、敵を倒すたびにレベルアップの表示がいつも出ていた。が、今回は何も表示が現れていない。
「なんだか嫌な予感が……」
「ステータス」
嫌な予感は的中する。
『ダン 職業:農夫 LV:5 HP:128/128 STR:105 ATK:10 VIT:300 INT:110 DEF:150 RES:0 AGI:40 LUK:0』
『アンヌ 職業:農夫 LV:4 HP:100/100 STR:35 ATK:2 VIT:250 INT:100 DEF:130 RES:0 AGI:30 LUK:0』
『ジル 職業:子供 LV:1 HP:2/2 STR:1 ATK:1 VIT:1 INT:1 DEF:1 RES:0 AGI:1 LUK:0』
「……なんでだよ……」
サトシは絶句した。一ミリも上昇していない。僅かでもパラメータが上昇していないか、期待を込めて小数点以下も確認する。が、0や9が並ぶ。全く上昇している様子はなかった。
「意味がわかんないよ。あぁぁ、これじゃぁ戦力にならないかぁ。」
サトシはその場に崩れ落ちる。が、時間的猶予はなかった。今日の夜にはゴブリン達が襲撃してくる。膝に手を当てながらなんとか立ち上がり、作戦を練り直す。
「やっぱり、さっきの廃屋のどれかに隠れてもらうしか方法がないなぁ。」
重い足取りで小屋に戻った時、両親は農作業の準備を始めていた。
「サトシ、どこ行ってたの?」
「ああ、あんまり眠れなくてさ。ちょっと散歩してた。」
「そう、夜で歩くと危ないからね。あまり出ない方がいいよ。」
「うん。気を付けるよ。」
当たり障りのない返事をし、農作業の準備を手伝いながらサトシは思う。
『今度は守って見せる。』
「アイは?」
咄嗟に起き上がる。あたりを見回すと少し離れた所に少女が横たわっている。四つん這いになりながら慌てて駆け寄り肩を揺する。
「アイ!助かったのか?」
「ん~?なにぃ?」
少女は寝ぼけている様子だが、アイではない。声には聞き覚えがあった、ジルだ。
「明日早いんだから、しっかり寝なさいよ。」
ジルはめんどくさそうにそう言うと、呆然とするサトシを横目に寝息を立てはじめる。
『夢か?なんでジルが居る?』
周りを見渡すと他にも人影がある。母親と、死んだはずの父親だ。二人とも寝息を立てているところを見ると生きている。
『なんでだ?なんで母さんと……父さんまでいる?何があった。』
頭の中が整理できなままサトシは立ち上がり外に出る。サトシはふらふらと井戸の方に歩いて行き、井戸の積み石に腰掛ける。頭の中が整理できないままぼんやりと周囲を見渡す。
「俺をを母さんとジルが助けてくれた……それは無いな。父さんも寝てたもんな。」
小屋の中では、母親の隣に父親も寝ていた。父親の遺体はサトシが丘に埋めている。ここは揺るぎのない事実だ。
ついさっきまでゴブリンと死闘を繰り広げたこの小屋の前には、それらの痕跡は全くない。井戸の中にロープのついた手桶を放り投げ水を汲む。顔を洗い、もう一度周囲を見渡す。やはり小屋にも畑にもゴブリンに荒らされた形跡はない。今回だけでなく、前回、つまり父が殺され母とジルが連れ去られた時の痕跡も見当たらない。一番最初にサトシが見た集落の様子だ。
「タイムリープ?」
ラノベによくある奴だ。とサトシは思ったが、本当にそうなのか自信はなかった。だが、そうとでも思わなければ納得ができなかった。そこでハタと気づく。
「ステータス!」
『ユーザー:サトシ 職業:剣士見習い LV:16 HP:582/582 MP:32/32 MPPS:20 STR:48 ATK:178 VIT:38 INT:19 DEF:138 RES:20 AGI:181 LUK:118 EXP:3134806
スキル:観念動力 剣:Lv42 棍棒:Lv3 属性適合 魔術 火:Lv12 水:Lv10 風:Lv11 土:Lv10 無:Lv12 損傷個所 無し』
「つよくてニューゲームってやつか。……異世界転生で、タイムリープって……詰め込みすぎだろ。」
獲得した能力を失っていないことがわかってサトシは安堵する。が、素直に喜べない。まだタイムリープについては半信半疑だ。
「実際、今はいつなんだ?」
サトシがこの世界に最初に来たのは朝だった。そして、その日の夜にゴブリンに襲われた。しかし今は夜だ。次の夜にゴブリンが襲ってくるのか、それとも、この世界線ではゴブリンが襲ってこなかったのか。状況を確認するため畑を見に行く。すると、畑の芋はまだ収穫されていなかった。最初にゴブリンに襲われた時、畑の小屋側二割ほどは収穫が終わったはずだ。そこからサトシは最初のゴブリン襲撃の前だと判断する。
「となると、今できる事は……」
前回はカールと鍛えた武器があったが、今回はそれがない。鉈で戦うしかない。まずは装備の調達が必要だ。2回目の襲撃では300以上のゴブリンに囲まれたが、何とか持ちこたえた。かなり運が味方してくれたこともあるが、装備が整えば何とかなる手ごたえをサトシは感じていた。
また、前回はアイを守る必要があった。守りながらの戦いは不利になる。今のステータスなら父親すら足手まといだとサトシは考えていた。であれば、家族はどこかに隠れていてもらった方が戦いを有利に進めることができる。
「装備と拠点だな。」
サトシはこの小屋でゴブリンを待つことは悪手と考えていた。もっと守りやすく戦いやすい場所が必要だ。サトシはその場所にあたりをつけていた。それは、スケルトンが湧き出る墓地がある廃村である。あそこにはいくつもの廃墟があるが、この集落にある小屋よりもよほど立派で守りやすいと判断した。確かに夜な夜なスケルトンが闊歩するという厄介な場所であるが、サトシには自信があった。
「光の属性が使えれば何とかなりそうだな。」
そう、光属性の魔法である。アンデッドに破壊的ダメージを与えることができる上に、夜間の戦闘においても光属性の魔法は有用だ。
そうと決まればサトシの行動は早い。そして、前回の轍は踏まないと小屋の中に戻る。
「ステータス」
『ダン 職業:農夫 LV:5 HP:128/128 STR:105 ATK:10 VIT:300 INT:110 DEF:150 RES:0 AGI:40 LUK:0』
『アンヌ 職業:農夫 LV:4 HP:100/100 STR:35 ATK:2 VIT:250 INT:100 DEF:130 RES:0 AGI:30 LUK:0』
『ジル 職業:子供 LV:1 HP:2/2 STR:1 ATK:1 VIT:1 INT:1 DEF:1 RES:0 AGI:1 LUK:0』
「パーティーを選択しますか? Yes or No」
目の前にメッセージが現れる。
『Yes』
「誰とパーティーを組みますか? ダン・アンヌ・ジル」
『全員』
「ダンがパーティーに加わりました。」
「アンヌがパーティーに加わりました。」
「ジルがパーティーに加わりました。」
「これでよし。」
アイで失敗した悔しさを晴らすべく、今回はしっかりとパーティーを組み、全員のレベル上げも行うことにした。
「じゃあ、まずは。」
サトシはそういうと、武器も持たず集落の外に出る。
「さて、この辺でいいか。いでよゴブリン」
数十メートル先にゴブリンを呼びだす。不良高校生がパシリを呼ぶようにお構いなしである。
「さっき、ちょっと気になったんだよねぇ。」
独り言が多くなっている。実際転生前の彼は一人の方がテンションが上がるタイプだった。
「燃え上れ!」
炎の竜巻がゴブリンを襲う。ゴブリンは全身にやけどと切り傷を負いながら、サトシの方を睨む。
「燃えろ!」
再度の炎でゴブリンは絶命する。
「経験値1600獲得」
ファンファーレは成らなかった。
「さっきのでミュートがかかったのかなぁ。まあこっちの方がいいな。よし、もう一匹」
また数十メートル先に可哀そうなゴブリンが呼び出される。
「ファイアストーム!」
先ほどの倍はあろうかというほどの炎の竜巻が巻き起こる。ゴブリンは切り刻まれ骨も残らず消え去る。
「やっぱりか。」
サトシの予想は正しかった。魔法は発動の際の呼び方によって威力が変化するようだった。
ただ、サトシの理解は少々独特で、「かっこよければいい」というものであったようだ。
「さてと。装備をいただきましょうか。」
サトシはゴブリンの装備品を物色する。しかし、目論見は外れ、今回のゴブリン達が着けていたのはクズ装備だったようで跡形もない。
「ようし、もう一度。いでよゴブリン!」
ついさっきゴブリンに殺されたとは思えないほどの気安い呼び方。ある意味恨みが募っていると言えなくもない。
「煉獄の炎よ…荒れ狂う風と共にかの物を焼き尽くせ!」
厨二病心をくすぐる単語を並べて呪文風にしてみる。自分で言っておきながら、若干耳が赤い。しかし、羞恥心を犠牲に発動した呪文の効果は今一つだった。すかさず。
「ファイアストーム!!」
今度も派手な火柱が上がる。
「経験値1640獲得」
「なかなか難しいな。お、いい装備ゲット。」
先ほどの恥ずかしい呪文をなかった事にするかのように、焼け残った装備を拾う。
ところどころ溶けてはいるが、機能的には問題なかった。十分「名品」と言える装備だ。サトシは拾った鎧を着込み、片手剣を手に取る。
サトシは剣に魔力を流しながら、結晶の様子を確認する。先程のファイアストームで熱が入ったせいか若干焼きが戻り、硬さが失われ切れ味が鈍っているようだった。
「まあいいか、魔力流せば切れ味は増すし、折れない方が都合がいいしな。」
とりあえず、そのまま使用することにした。
しばらく街道沿いを歩き、廃村に入って行く。
裏手の墓地に近づくと、墓場からスケルトンが次々と這い出して来る。その様子を眺めながら、サトシは光の弾が全体に降り注ぐイメージを頭に浮かべ魔術錬成を行う。サトシは魔力を流しながら、両手を前に突き出す。
「ライトボール!」
突き出した両手から10㎝ほどの光の弾が機関銃のようにスケルトンめがけて飛んで行く。光の弾はスケルトンを貫通し、後ろの墓石に当たって消える。打ち抜かれたスケルトンは動きを止め、砂像が崩れるように消えてゆく。
目の前にはい出してきた20体ほどのスケルトンが見る間に消えていった。
「経験値5060獲得 属性適合が発現しました。」
「いよぉし!」
光属性の取得と、スケルトンの大量撃破。サトシの狙い通りであった。まだ目の前には今せん滅した数以上のスケルトンが蠢いているが、サトシには養分にしか見えていなかった。
「ライトボール!ライトボール!」
スケルトンが這い出すたびにせん滅する。すべてのスケルトンを倒したところで、いつものように一旦墓地から離れる。そして再度墓地に近づくとスケルトンが復活する。そこからはサトシの無双が始まる。ライトボールで殲滅しては、墓地を離れリセット、再度墓地に近づきライトボールで殲滅。コツコツと経験値を稼ぐが、なかなかレベルが上がらない。しかし、サトシは焦らなかった。10度目の殲滅を行った頃には、別の事を考えながら魔術錬成を行うという器用なことまでできるようになっていた。
『一回殲滅すると、リセットしない限り出てこないんなら、毎晩1回殲滅したら生活できるんじゃない?ある意味変な事故物件よりいい生活できるんじゃないかなぁ』
と、常人とは思えない思考に至っていた。
……
そんな気楽なことを考えながらスケルトンを殲滅してたサトシだったが、空腹や眠気とも違う妙な飢餓感と軽いめまいを感じ始める。サトシは咄嗟にステータスを確認する。
『ユーザー:サトシ 職業:剣士見習い LV:17 HP:511/643 MP:1/34 MPPS:25 STR:51 ATK:78 VIT:40 INT:20 DEF:55 RES:21 AGI:197 LUK:125 EXP:7196506
スキル:観念動力 剣:Lv42 棍棒:Lv3 属性適合 魔術 火:Lv12 水:Lv10 風:Lv11 土:Lv10 光:Lv9 無:Lv12 損傷個所 無し』
いくら周囲の魔力を利用していると言ってもこれだけ使うと魔力が枯渇しかかっていた。
「まずいなぁ。あと5回くらいかなぁ」
と、その時。
「経験値7630獲得 サトシのレベルが18に上昇、体力の最大値が上昇しました、腕力が向上しました。攻撃力が向上しました。生命力が向上しました。知性が向上しました。防御力が向上しました。素早さが向上しました。運が向上しました。」
一気に体力、魔力とも回復する。
「おお、ラッキー。って言うか、さすがに疲れたな。キリもいいし今日はこのくらいにしておくか。」
空も白み始めている。サトシは廃屋に剣と鎧を置いて小屋へ変えることにした。
帰り道でこれからの作戦を練っているときに、ふと気づく。アイとパーティーを組んだ時は、敵を倒すたびにレベルアップの表示がいつも出ていた。が、今回は何も表示が現れていない。
「なんだか嫌な予感が……」
「ステータス」
嫌な予感は的中する。
『ダン 職業:農夫 LV:5 HP:128/128 STR:105 ATK:10 VIT:300 INT:110 DEF:150 RES:0 AGI:40 LUK:0』
『アンヌ 職業:農夫 LV:4 HP:100/100 STR:35 ATK:2 VIT:250 INT:100 DEF:130 RES:0 AGI:30 LUK:0』
『ジル 職業:子供 LV:1 HP:2/2 STR:1 ATK:1 VIT:1 INT:1 DEF:1 RES:0 AGI:1 LUK:0』
「……なんでだよ……」
サトシは絶句した。一ミリも上昇していない。僅かでもパラメータが上昇していないか、期待を込めて小数点以下も確認する。が、0や9が並ぶ。全く上昇している様子はなかった。
「意味がわかんないよ。あぁぁ、これじゃぁ戦力にならないかぁ。」
サトシはその場に崩れ落ちる。が、時間的猶予はなかった。今日の夜にはゴブリン達が襲撃してくる。膝に手を当てながらなんとか立ち上がり、作戦を練り直す。
「やっぱり、さっきの廃屋のどれかに隠れてもらうしか方法がないなぁ。」
重い足取りで小屋に戻った時、両親は農作業の準備を始めていた。
「サトシ、どこ行ってたの?」
「ああ、あんまり眠れなくてさ。ちょっと散歩してた。」
「そう、夜で歩くと危ないからね。あまり出ない方がいいよ。」
「うん。気を付けるよ。」
当たり障りのない返事をし、農作業の準備を手伝いながらサトシは思う。
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『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
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