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サトシの譚

自主トレ

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 サトシは横になりながら、先ほどエリザベートから習った魔術錬成の説明を思い返していた。
 横ではアイが寝息を立てており、その傍らには「ヌー」と呼ばれる茶色の毬の様な物が居る。どうやら生き物らしいがよくわからない。先程ステータスを確認してみたが
『ヌー』
 としか表示されない。詳細情報を要求しても同じだった。少々気味が悪いが、アイに懐いている上に、エリザベートの物らしいので不信感を抱きながらもそのままにしている。
 サトシは、「ヌー」の事を考えないようにするために、「サトシが考える最強の魔法陣」を作ることにした。
『さっき見せてもらったのは六芒星と梵字だったからなぁ。六芒星と七芒星、八芒星、九芒星と重ねちゃおうかなぁ。ギリシャ文字もいいけど、ヒエログリフとかでもカッコいいかもなぁ。』
 などとにやにやしながら考えている。「ヒエログリフ」と思いついたときに、
『そういえばさっきの梵字はどんな意味だったんだろう。ヒエログリフにするにしても意味も大事だよなぁ』
 流石に適当に作って作動するほど甘くないとは思うが、残念ながらサトシに梵字やヒエログリフの知識は乏しい。せいぜい「形を見たことがある」程度のものだった。
『Wikiでも見れれば助かるんだけどなぁ』
 そう考えたときだった、目の前に見慣れたブラウザのウィンドウが開く。
「!!」
 サトシは喜びに目を見開くが、すぐに失望する。
「403 Forbidden」
『見れるわけないよなぁ。当然。』
 子供のころから調べ物はインターネット任せだったサトシには酷な状況だ。魔法陣の開発は早々に諦めた。
『そうなると、まずは属性適合かぁ』
 今のサトシに必要なのは、まずもって属性適合だった。これが無ければ魔力の利用もままならない。目の前の役に立たないブラウザを閉じると、自分のステータスを表示した。
 スキルの欄には、グレーアウトした過去のスキルと、新しい『観念動力(テレキネシス)』がある。取り敢えず、観念動力について確認してみることにした。すると、
観念動力テレキネシス:精神力(魔力)を消費して対象を変化させることができる。』
『漠然としてるなぁ。「対象を変化させることができる」かぁ。確かに結晶を変化させたし。ん?』
 サトシは頭の中で何度も『魔力を使って対象を変化させる』という言葉を繰り返す。
『これ、魔法と一緒じゃない?』
 サトシはやおら起き上がり、台所の方に向かう。竈には今朝使った薪が数本燃え残っていた。竈の焚口前にしゃがみ込むと、燃え残りの薪に手をかざしながらサトシは目の前の薪が一気に燃え上がるさまをイメージする。しかし、何も起こらない。
 数分イメージをしてみるが、やはり燃え出す様子はない。
 そこで、体中に魔力を巡らせる。そして、足から地面の魔力を吸い上げ、掌から巻きに向かって放出してみる。すると。

 ボワっ!

 薪が一気に燃え始める。
「!」
 サトシは自分でやっておきながら、驚きのあまり思考停止する。

 テッテレー!
 メロディーが頭の中に鳴り響く。
「属性適合が発現しました。」

 頭の中にメッセージが流れたところで、ようやく思考が追い付いた。
「やったのか?ステータス!」
 アイが眠っていることも忘れて大声で独り言を言い始める。
『属性適合 魔術 火:Lv1 無:Lv1』
 それを見て、サトシは目を瞑って天を仰ぐ。両手を高々と掲げながら頭の中で喜びを爆発させる。
『よっしゃきたぁ!!!』
 一応アイが寝ていることは覚えていた。が、喜びのあまり体が勝手に動き出す。竈の前で一人歓喜の舞を踊り続けた。結局サトシはこの夜一睡もできなかった。
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