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カールの譚
ダンジョン攻略とSランク冒険者の憂鬱 ==エリザ視点==
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私はエリザ。坑道でカールの後ろを歩きながら、状況が理解できずに混乱しています。
祖母も母も王宮魔導士で、エルフほどではありませんが、比較的長命な一族です。魔力も強く恵まれた才能を持っている。と、思っていました。ほんのついさっきまで。
オットーとヨハンも同じ気持ちらしく、小声で話しかけてきました。
「なに?あれ」。
「デュラハンでしたよね?確か。」
「……確かにデュラハンだった。」
「デュラハンって、5年くらい前にAランク縛りで討伐依頼出てませんでしたっけ?」
「出てたな。ヨハンも当時討伐に加わったんじゃなかったっけか?」
「……ああ、俺は後方からの足止め役だったがな。」
「総勢15人ほどでようやく倒したんじゃなかったか?結構被害デカかったと思うぜ。」
「……そうだ、参加したAランク冒険者のうち生き残れたのは俺たちみたいな遠距離攻撃班(アーチャー)と、あとは治癒班(ヒーラー)だけだ。近距離攻撃班(アタッカー)はほとんど死んだ」
「で、あのデュラハン、それより弱そうだった?」
「……いや、気配から見てあれよりも上位種だと思う。」
「それを一撃か?」
「……だったな。だが、あの爆散したのは何だ?」
「あれは、剣から魔力を大量に放出したんだと思います。圧倒的な魔力量に耐え切れず爆散した感じですね。初めて見ました。あんな暴力的な魔力の使い方。」
「挙句にデュラハンの斬撃を素手で止めてなかったか?」
「……止めてたな。」
「人間って何にでもなれるんですね。」
「おい、エリザ。気を確かに持て。あんなの無理だ。無茶苦茶だ。」
「……Sランクになっていい気になってたんだな。俺は。」
「ですね。私も自分に実力があると錯覚してました。」
「まてまて、自信を持て。お前らは十分強いよ!あいつがおかしいんだ。」
「そうでしょうか?私はデュラハンの持ってた剣も鎧も業物に見えましたが……」
「いや、ありゃ確かに業物だった。」
「……でも、カールはクズだって。」
「ですよね。審美眼すらないなんて。」
「まてまてまて、あれはカールの基準がおかしいんだよ。あいつの作品はほとんどが伝説級(レジェンダリー)だ!それを基準に考えてるからおかしくなるんだよ。」
「そうでしょうか?自分がどんどん矮小に見えてきました。」
「おいおい、頼むぜ。自信持ってくれよ。お前ら二人の心が折れちまったら、カールの暴走をだれが止めるんだよ?」
「……暴走したままでもいいんじゃないか?」
「そうですよ。このダンジョン一掃できるんじゃないですか?」
「落ち着け。まずは息を吸え。脳に血を送れ。冷静に考えろ!いくら何でもカールひとりで攻略できるわけないだろ?俺たちで支えなきゃいかんだろ!」
「……そうかなぁ?いけるんじゃないかひとりで。」
オットーに慰められながらなんとか自尊心を保っています。
その後、ダンジョンに入り大広間で骸骨騎士の群れと遭遇しました。
「援護はどうする?」
「そうだな、エリザ、俺のヘイト上げれるか?」
ようやくカールに頼られました。Sランクとしての自尊心が復活の兆しを見せます。
「やってみます。」
が、どうやら思い過ごしだったようです。
ヘイトを上げたことで、すべての骸骨騎士がカールへと向かってゆきます。その骸骨騎士たちに対してカールは畑の雑草を鎌で薙ぎ払うように骸骨騎士を切り捨ててゆきます。なんですか?あれ。
「援護とはなんだ?あれを見ることが援護なのか?」
オットーまで自問自答を始めました。なんだか、あまりに骸骨騎士たちをぞんざいに扱うカールに疑問がわいてきました。
あの骸骨騎士たちは自分たちの存在価値を見出せているのでしょうか?カールはどのようなお気持ちで彼らにあのような仕打ちを?
「ええと。ご感想は?」
「いや、特にないかな。ああ、ありがとう、おかげで戦いやすかったよ。ってことかな?」
「そういうわけではなく、いいです。」
たぶん凡人にはあの人の考えていることはわからないのですよね。
「エリザ、気を確かに持て。」
オットーから肘打ちを食らったことで、我に返りました。あまりの出来事に思考がついて行かなくなっていたようです。
その後、いくつかのトラップをオットーと私で回避しました。
「ようやく働いた気がするな。」
「やっとですね。」
これだけ危険なダンジョンに潜りながら、ただ歩いているだけというのは心に堪えます。でも、その後もカール無双続きます。
「今一撃で消し飛んだのは、サイクロプスだよな?」
流石のオットーも疲れ果てた様子です。
「はい。そう見えました。」
「サイクロプスって『サロモンの悲劇』の元凶じゃなかったっけか?」
「……『サロモンの悲劇』ってダンジョンに冒険者ランク縛りが付くきっかけになった事件だよな?」
「ですね。確か最下層の主がサイクロプスだったと聞いています。」
「あんな簡単に倒せるもんなのか?」
「それを言うなら、その前に居たミノタウロスも一撃でしたよ?」
「……ミノタウロスは今も王都の北部で定期的に討伐依頼が出てるな。」
「ギルマスがお若いころに撃退したんでしたっけ?」
「確か倒しきれなかったって聞いたな。追い返すのがやっとだったって。その後も数年おきに出てきてるが、誰も討伐できないんで今は災害認定だ。」
「……災害級を……一撃か」
「規格外ですね。」
「もう考えるだけ無駄だな。」
そして、マンティコアの居る大広間に到着したとき、マンティコアは眠っていました。
これはチャンスです。私の麻痺(スタン)で動きを封じて、ヨハンが遠距離攻撃しつつカールが止めでしょうか?おそらくオットーもヨハンも同じように考えたのでしょう。こちらに目配せしてきます。
今回ばかりはカールも様子を見てくれるでしょう。こちらの意図に気づいたよ……
ズバァーーーーーーーン!
「「「へ?」」」
「カール。」
「なぁ、さっきの目配せなんだった?」
「あれ、一気に行くぜ!ってことだったんだけど、まずかった?」
「あはは、あは。ああ、そうなんですね。」
なんなんでしょう?10mを超える魔物に、剣で切りかかるって普通なんですか?一撃で倒せる自信があるってことでしょ?単におっきいだけのサンドワームでさえ、遠くから爆炎魔術を使わないと倒せない私っていったい?
その後もカール無双は続きます。いつの間にやらオットーも不機嫌になっていました。この状況を見ればそれも当然…と考えていたんですが、そうではなかったようです。
「カール、調子よく進んでるとこすまねぇが、とりあえずここまでだ。エリザ、ちょっと確認したいんだが、俺たちを外まで飛ばせるか?」
「たぶん大丈夫です。干渉はなさそうです。」
今回のダンジョン進攻は、あくまで偵察です。装備も軽装ですし、食料も緊急用しか持ち合わせがありません。いつでも帰れるように転移の準備に抜かりはありませんでした。さすがに、カール無双を見ていたらその必要もないかもと思ってしまいましたが…
「そいつはありがてぇ。正直調子に乗りすぎたからな。それと、エリザ、ここもマーキングしといてくれ。できれば次はここまではすっ飛ばしたい。」
オットーとしては、装備を整えてから再度ダンジョンを攻略する気なんでしょう。マーキングすることで、次回は入り口からここまで転移できます。
「わかりました。じゃあ、外まで行きますか?」
「いや、一旦マンティコアのところに戻ってもらっていいか?」
マンティコアの亡骸がアンデッド化しないように焼却する気でしょうか?
「はい。行きましょう。」
地面に魔法陣を描き転移の魔術錬成を行います。周りが光に包まれ、軽いめまいが過ぎると、マンティコアが居た大広間です。
あれ?マンティコアの死体がありません。
「やっぱりか。」
オットーは何やら気づいていたんですね。
「どういうことだ?」
オットーが地面を確かめています。
「いや、さっき嫌な感覚があったんだよ。なんていうんだろうな。転送にも似た空間がゆがむような感覚だ。それと同時に、マンティコアの死体の気配が消えたんでな。確認したかったんだが。実際消えてるな。」
「確かにな。」
「ただ消えたんじゃないな。完全になかったことになってる。死体がなくなったんじゃなくて、居なかった?って感じか。」
オットーが何を言っているのか今一つよくわかりません。オットー自身も半信半疑ってところでしょうか。
「これは、いったん仕切り直したほうがいいかもな。ちょっと装備も整えてぇ。軽い気持ちで来たが、やっっかいなもんにぶつかったみたいだ。」
「では、町まで戻りますか?」
「そうだな。頼む。」
さて、装備を整えてから再度ダンジョンに潜ったとして、私が役立てることがあるんでしょうか?
魔法陣を起動させ、飲み屋の前にもどりました。
「なあ、エリザとカールは飲み屋の女主人に鉱山の事で他に何か知らないか聞いといてくれ。俺とヨハンはギルドに寄ってから装備を整えてくる。」
「ハイ。承知しました。」
カールと二人で聞き込みですか。普段ならスキップしそうなほど心躍るシチュエーションですが、今は陰鬱です。カールと対等だなんて思っていた自分が恥ずかしい。正直言えばSランクの自分の方が上だと思っていた時期もありました。ああ、恥ずかしい。
「エリザ、とりあえず店に入ろうか。」
ああ、もじもじしているところを憐憫の目で見られてしまいました。今は気持ちを切り替えましょう。
「はい。」
「らっしゃい。って、ああ!あんたたち。大丈夫だったのかい。よかった。」
「大丈夫ってのは?」
「あの飲んだくれは助かったらしかったけどさ、あんたたちがその後、坑道に入っていったって聞いたからさ。」
「ああ、入っては見たんだが、ちょっといろいろあってな。で、聞きてぇことがあるんだけどさ。」
「なんだい。魔物から逃げてきたのかい?」
「まあ、なんだ。逃げたというか、ちょっと変だったんでな。」
「変?変って何だい?魔物が出てるんだから変に決まってるじゃないか?」
「いや、あそこまで強力な魔獣がまとめているのがおかしいんだよ。」
「きょっ強力な魔獣?」
変な声が出てしまいました。カールの口から『強力な魔獣』という言葉が出ると思いませんでした。
「カール!ちょっといいですか?カールにはあれが『強力な魔獣』に見えてたんですか?」
「さすがSランクは違うなぁ。あれはお前さんたちには雑魚だったか。」
「いえ、いや。そういうことではなくて。カールが簡単に屠ってたんじゃないですか?だから私聞いたでしょ?『カールは苦戦したことありますか?』って」
「ああ、そういう意味だったのか。いや、すまん。質問の意味が良くわかんなくてさ。苦戦する前に倒すようにしてるからさ。」
「と言いますと?」
「ん~。言葉では説明しにくいな。戦いの流れってあるじゃん。セオリーっていうの?俺の経験上、魔獣戦うときにそのセオリーをぶった切るように戦うと、奴ら一瞬止まるのさ。」
「止まる?」
「そう、すげぇ短い時間なんだけど、その時間は魔獣動かないんだ。どんな魔獣でも。弱い奴も、強い奴も。で、その間に倒すと楽なんだよ。」
「でも、その「セオリーを切る」ってどうやるんです?」
「戦いの手順から引き離すっていうのかな。そうだなぁ、デュラハンの時は剣を止めたじゃん。」
「あ、あれが狙いだったんですか」
「そうそう、あいつ強いからさ、攻撃手段を失う経験なんてないと思ったんだよね。だから無理やり動きを止めたのさ」
「いや、だからって素手で受け止められる人がデュラハンに苦戦するとは思えませんが。」
「あいつ、結構こっちの斬撃見切るのさ、だから急所を外しちまうんだよね。大体強いやつは結構なスピードで再生するからさ。倒すのに時間かかるんだよね。長引くと厄介だからね。デュラハンとかサイクロプスとかは、前戦った時は結構時間かかったからさ。俺のファイアボール吸収しやがるしさ。大変だったよ。」
「戦ったことがあるんですか?」
「ずいぶん前だけどさ、若いころ素材探しでうろついてた頃にね。」
「でも、魔獣のそんな性質聞いたことありませんが……」
「まあ、自己流だからね。魔獣はほぼ全部と言っていいほど同じ傾向だったよ。」
「それに気づくって、どれだけ討伐したんですか?」
「かなりとしか言えんなぁ。大量討伐依頼勝手にやっちまってたみたいだし」
「一人でですか?」
「うん。ギルマスに愚痴られたけどさ。」
事も無げにカールは言いますけど、ギルドに来る大量討伐依頼は生半可なものではありません。確かに私も戦略級魔術が使えますから、一人で討伐できなくはないですが、カールは素材集めのためにやっていたといっています。つまり、『一匹ずつ倒し続けた』ことになります。その異常性に本人は気づいているんでしょうか?
「で、そん時に気づいたんだよね。流れを切ると止まるなぁって。」
どれだけの研鑽を積めば気づけるのでしょうか?英雄だったご家族から聞いた話でもなさそうですし、底が知れないとはこう言う事なんでしょうね。
「ただ、これ何回も使えるわけじゃないみたいなんだよなぁ。」
カールが独り言のようにつぶやきます。
「と言いますと?」
「ああ、例えばセオリーの切り方思いつくじゃん。」
「はい。」
「で、それでうまくいくとさ。同じ種類の魔獣に使いたくなるでしょ?」
「まあ、それが普通ですね。」
「でもさ、何回も同じ方法使うと、使えなくなるんだよね。その方法。」
「さすがに、魔獣も覚えるんじゃないですか?」
「いや、その方法使われた魔獣は次の瞬間には死んじゃうんだよ?確かに、群れの中で同じ方法使い続ければ他の個体がそれを見ていて覚えるってのはあるだろうけどさ。」
「そうじゃないケースもあるんですか?」
「そう。群れない強めの魔獣がいるじゃん。そうだなぁ、グリフォンとかコカトリスとか。」
「強め……ですか。」
どちらもAランク縛りの討伐依頼で、多くの犠牲者を出していますが……。
「あいつら結構いい素材ドロップするからさ、いろんなところへ討伐に行ってたんだけど……」
グリフォンやコカトリスを追い求める人っていったい……
「何回か倒してるうちに、同じやり方通じなくなるんだよね。動きを止められないだけじゃなくて、対策までされるっていうか……」
「対策?」
「ああ、考えすぎかもしれないけどさ、先読みされた感じになるんだよね。まあ、よくわからんけどさ。失敗する確率が上がるから、同じ相手には2回程度にしてるけど。」
「そうですか。」
「まあ、それはいいとして、女将さんさぁ、鉱山のこと他にも何か聞いたことないかい?」
そうでした、聞き込みするんでしたね。カールとの話に夢中になっていました。
「そこのお嬢さん」
しわがれた…でも心地いい声が背後から聞こえました。
祖母も母も王宮魔導士で、エルフほどではありませんが、比較的長命な一族です。魔力も強く恵まれた才能を持っている。と、思っていました。ほんのついさっきまで。
オットーとヨハンも同じ気持ちらしく、小声で話しかけてきました。
「なに?あれ」。
「デュラハンでしたよね?確か。」
「……確かにデュラハンだった。」
「デュラハンって、5年くらい前にAランク縛りで討伐依頼出てませんでしたっけ?」
「出てたな。ヨハンも当時討伐に加わったんじゃなかったっけか?」
「……ああ、俺は後方からの足止め役だったがな。」
「総勢15人ほどでようやく倒したんじゃなかったか?結構被害デカかったと思うぜ。」
「……そうだ、参加したAランク冒険者のうち生き残れたのは俺たちみたいな遠距離攻撃班(アーチャー)と、あとは治癒班(ヒーラー)だけだ。近距離攻撃班(アタッカー)はほとんど死んだ」
「で、あのデュラハン、それより弱そうだった?」
「……いや、気配から見てあれよりも上位種だと思う。」
「それを一撃か?」
「……だったな。だが、あの爆散したのは何だ?」
「あれは、剣から魔力を大量に放出したんだと思います。圧倒的な魔力量に耐え切れず爆散した感じですね。初めて見ました。あんな暴力的な魔力の使い方。」
「挙句にデュラハンの斬撃を素手で止めてなかったか?」
「……止めてたな。」
「人間って何にでもなれるんですね。」
「おい、エリザ。気を確かに持て。あんなの無理だ。無茶苦茶だ。」
「……Sランクになっていい気になってたんだな。俺は。」
「ですね。私も自分に実力があると錯覚してました。」
「まてまて、自信を持て。お前らは十分強いよ!あいつがおかしいんだ。」
「そうでしょうか?私はデュラハンの持ってた剣も鎧も業物に見えましたが……」
「いや、ありゃ確かに業物だった。」
「……でも、カールはクズだって。」
「ですよね。審美眼すらないなんて。」
「まてまてまて、あれはカールの基準がおかしいんだよ。あいつの作品はほとんどが伝説級(レジェンダリー)だ!それを基準に考えてるからおかしくなるんだよ。」
「そうでしょうか?自分がどんどん矮小に見えてきました。」
「おいおい、頼むぜ。自信持ってくれよ。お前ら二人の心が折れちまったら、カールの暴走をだれが止めるんだよ?」
「……暴走したままでもいいんじゃないか?」
「そうですよ。このダンジョン一掃できるんじゃないですか?」
「落ち着け。まずは息を吸え。脳に血を送れ。冷静に考えろ!いくら何でもカールひとりで攻略できるわけないだろ?俺たちで支えなきゃいかんだろ!」
「……そうかなぁ?いけるんじゃないかひとりで。」
オットーに慰められながらなんとか自尊心を保っています。
その後、ダンジョンに入り大広間で骸骨騎士の群れと遭遇しました。
「援護はどうする?」
「そうだな、エリザ、俺のヘイト上げれるか?」
ようやくカールに頼られました。Sランクとしての自尊心が復活の兆しを見せます。
「やってみます。」
が、どうやら思い過ごしだったようです。
ヘイトを上げたことで、すべての骸骨騎士がカールへと向かってゆきます。その骸骨騎士たちに対してカールは畑の雑草を鎌で薙ぎ払うように骸骨騎士を切り捨ててゆきます。なんですか?あれ。
「援護とはなんだ?あれを見ることが援護なのか?」
オットーまで自問自答を始めました。なんだか、あまりに骸骨騎士たちをぞんざいに扱うカールに疑問がわいてきました。
あの骸骨騎士たちは自分たちの存在価値を見出せているのでしょうか?カールはどのようなお気持ちで彼らにあのような仕打ちを?
「ええと。ご感想は?」
「いや、特にないかな。ああ、ありがとう、おかげで戦いやすかったよ。ってことかな?」
「そういうわけではなく、いいです。」
たぶん凡人にはあの人の考えていることはわからないのですよね。
「エリザ、気を確かに持て。」
オットーから肘打ちを食らったことで、我に返りました。あまりの出来事に思考がついて行かなくなっていたようです。
その後、いくつかのトラップをオットーと私で回避しました。
「ようやく働いた気がするな。」
「やっとですね。」
これだけ危険なダンジョンに潜りながら、ただ歩いているだけというのは心に堪えます。でも、その後もカール無双続きます。
「今一撃で消し飛んだのは、サイクロプスだよな?」
流石のオットーも疲れ果てた様子です。
「はい。そう見えました。」
「サイクロプスって『サロモンの悲劇』の元凶じゃなかったっけか?」
「……『サロモンの悲劇』ってダンジョンに冒険者ランク縛りが付くきっかけになった事件だよな?」
「ですね。確か最下層の主がサイクロプスだったと聞いています。」
「あんな簡単に倒せるもんなのか?」
「それを言うなら、その前に居たミノタウロスも一撃でしたよ?」
「……ミノタウロスは今も王都の北部で定期的に討伐依頼が出てるな。」
「ギルマスがお若いころに撃退したんでしたっけ?」
「確か倒しきれなかったって聞いたな。追い返すのがやっとだったって。その後も数年おきに出てきてるが、誰も討伐できないんで今は災害認定だ。」
「……災害級を……一撃か」
「規格外ですね。」
「もう考えるだけ無駄だな。」
そして、マンティコアの居る大広間に到着したとき、マンティコアは眠っていました。
これはチャンスです。私の麻痺(スタン)で動きを封じて、ヨハンが遠距離攻撃しつつカールが止めでしょうか?おそらくオットーもヨハンも同じように考えたのでしょう。こちらに目配せしてきます。
今回ばかりはカールも様子を見てくれるでしょう。こちらの意図に気づいたよ……
ズバァーーーーーーーン!
「「「へ?」」」
「カール。」
「なぁ、さっきの目配せなんだった?」
「あれ、一気に行くぜ!ってことだったんだけど、まずかった?」
「あはは、あは。ああ、そうなんですね。」
なんなんでしょう?10mを超える魔物に、剣で切りかかるって普通なんですか?一撃で倒せる自信があるってことでしょ?単におっきいだけのサンドワームでさえ、遠くから爆炎魔術を使わないと倒せない私っていったい?
その後もカール無双は続きます。いつの間にやらオットーも不機嫌になっていました。この状況を見ればそれも当然…と考えていたんですが、そうではなかったようです。
「カール、調子よく進んでるとこすまねぇが、とりあえずここまでだ。エリザ、ちょっと確認したいんだが、俺たちを外まで飛ばせるか?」
「たぶん大丈夫です。干渉はなさそうです。」
今回のダンジョン進攻は、あくまで偵察です。装備も軽装ですし、食料も緊急用しか持ち合わせがありません。いつでも帰れるように転移の準備に抜かりはありませんでした。さすがに、カール無双を見ていたらその必要もないかもと思ってしまいましたが…
「そいつはありがてぇ。正直調子に乗りすぎたからな。それと、エリザ、ここもマーキングしといてくれ。できれば次はここまではすっ飛ばしたい。」
オットーとしては、装備を整えてから再度ダンジョンを攻略する気なんでしょう。マーキングすることで、次回は入り口からここまで転移できます。
「わかりました。じゃあ、外まで行きますか?」
「いや、一旦マンティコアのところに戻ってもらっていいか?」
マンティコアの亡骸がアンデッド化しないように焼却する気でしょうか?
「はい。行きましょう。」
地面に魔法陣を描き転移の魔術錬成を行います。周りが光に包まれ、軽いめまいが過ぎると、マンティコアが居た大広間です。
あれ?マンティコアの死体がありません。
「やっぱりか。」
オットーは何やら気づいていたんですね。
「どういうことだ?」
オットーが地面を確かめています。
「いや、さっき嫌な感覚があったんだよ。なんていうんだろうな。転送にも似た空間がゆがむような感覚だ。それと同時に、マンティコアの死体の気配が消えたんでな。確認したかったんだが。実際消えてるな。」
「確かにな。」
「ただ消えたんじゃないな。完全になかったことになってる。死体がなくなったんじゃなくて、居なかった?って感じか。」
オットーが何を言っているのか今一つよくわかりません。オットー自身も半信半疑ってところでしょうか。
「これは、いったん仕切り直したほうがいいかもな。ちょっと装備も整えてぇ。軽い気持ちで来たが、やっっかいなもんにぶつかったみたいだ。」
「では、町まで戻りますか?」
「そうだな。頼む。」
さて、装備を整えてから再度ダンジョンに潜ったとして、私が役立てることがあるんでしょうか?
魔法陣を起動させ、飲み屋の前にもどりました。
「なあ、エリザとカールは飲み屋の女主人に鉱山の事で他に何か知らないか聞いといてくれ。俺とヨハンはギルドに寄ってから装備を整えてくる。」
「ハイ。承知しました。」
カールと二人で聞き込みですか。普段ならスキップしそうなほど心躍るシチュエーションですが、今は陰鬱です。カールと対等だなんて思っていた自分が恥ずかしい。正直言えばSランクの自分の方が上だと思っていた時期もありました。ああ、恥ずかしい。
「エリザ、とりあえず店に入ろうか。」
ああ、もじもじしているところを憐憫の目で見られてしまいました。今は気持ちを切り替えましょう。
「はい。」
「らっしゃい。って、ああ!あんたたち。大丈夫だったのかい。よかった。」
「大丈夫ってのは?」
「あの飲んだくれは助かったらしかったけどさ、あんたたちがその後、坑道に入っていったって聞いたからさ。」
「ああ、入っては見たんだが、ちょっといろいろあってな。で、聞きてぇことがあるんだけどさ。」
「なんだい。魔物から逃げてきたのかい?」
「まあ、なんだ。逃げたというか、ちょっと変だったんでな。」
「変?変って何だい?魔物が出てるんだから変に決まってるじゃないか?」
「いや、あそこまで強力な魔獣がまとめているのがおかしいんだよ。」
「きょっ強力な魔獣?」
変な声が出てしまいました。カールの口から『強力な魔獣』という言葉が出ると思いませんでした。
「カール!ちょっといいですか?カールにはあれが『強力な魔獣』に見えてたんですか?」
「さすがSランクは違うなぁ。あれはお前さんたちには雑魚だったか。」
「いえ、いや。そういうことではなくて。カールが簡単に屠ってたんじゃないですか?だから私聞いたでしょ?『カールは苦戦したことありますか?』って」
「ああ、そういう意味だったのか。いや、すまん。質問の意味が良くわかんなくてさ。苦戦する前に倒すようにしてるからさ。」
「と言いますと?」
「ん~。言葉では説明しにくいな。戦いの流れってあるじゃん。セオリーっていうの?俺の経験上、魔獣戦うときにそのセオリーをぶった切るように戦うと、奴ら一瞬止まるのさ。」
「止まる?」
「そう、すげぇ短い時間なんだけど、その時間は魔獣動かないんだ。どんな魔獣でも。弱い奴も、強い奴も。で、その間に倒すと楽なんだよ。」
「でも、その「セオリーを切る」ってどうやるんです?」
「戦いの手順から引き離すっていうのかな。そうだなぁ、デュラハンの時は剣を止めたじゃん。」
「あ、あれが狙いだったんですか」
「そうそう、あいつ強いからさ、攻撃手段を失う経験なんてないと思ったんだよね。だから無理やり動きを止めたのさ」
「いや、だからって素手で受け止められる人がデュラハンに苦戦するとは思えませんが。」
「あいつ、結構こっちの斬撃見切るのさ、だから急所を外しちまうんだよね。大体強いやつは結構なスピードで再生するからさ。倒すのに時間かかるんだよね。長引くと厄介だからね。デュラハンとかサイクロプスとかは、前戦った時は結構時間かかったからさ。俺のファイアボール吸収しやがるしさ。大変だったよ。」
「戦ったことがあるんですか?」
「ずいぶん前だけどさ、若いころ素材探しでうろついてた頃にね。」
「でも、魔獣のそんな性質聞いたことありませんが……」
「まあ、自己流だからね。魔獣はほぼ全部と言っていいほど同じ傾向だったよ。」
「それに気づくって、どれだけ討伐したんですか?」
「かなりとしか言えんなぁ。大量討伐依頼勝手にやっちまってたみたいだし」
「一人でですか?」
「うん。ギルマスに愚痴られたけどさ。」
事も無げにカールは言いますけど、ギルドに来る大量討伐依頼は生半可なものではありません。確かに私も戦略級魔術が使えますから、一人で討伐できなくはないですが、カールは素材集めのためにやっていたといっています。つまり、『一匹ずつ倒し続けた』ことになります。その異常性に本人は気づいているんでしょうか?
「で、そん時に気づいたんだよね。流れを切ると止まるなぁって。」
どれだけの研鑽を積めば気づけるのでしょうか?英雄だったご家族から聞いた話でもなさそうですし、底が知れないとはこう言う事なんでしょうね。
「ただ、これ何回も使えるわけじゃないみたいなんだよなぁ。」
カールが独り言のようにつぶやきます。
「と言いますと?」
「ああ、例えばセオリーの切り方思いつくじゃん。」
「はい。」
「で、それでうまくいくとさ。同じ種類の魔獣に使いたくなるでしょ?」
「まあ、それが普通ですね。」
「でもさ、何回も同じ方法使うと、使えなくなるんだよね。その方法。」
「さすがに、魔獣も覚えるんじゃないですか?」
「いや、その方法使われた魔獣は次の瞬間には死んじゃうんだよ?確かに、群れの中で同じ方法使い続ければ他の個体がそれを見ていて覚えるってのはあるだろうけどさ。」
「そうじゃないケースもあるんですか?」
「そう。群れない強めの魔獣がいるじゃん。そうだなぁ、グリフォンとかコカトリスとか。」
「強め……ですか。」
どちらもAランク縛りの討伐依頼で、多くの犠牲者を出していますが……。
「あいつら結構いい素材ドロップするからさ、いろんなところへ討伐に行ってたんだけど……」
グリフォンやコカトリスを追い求める人っていったい……
「何回か倒してるうちに、同じやり方通じなくなるんだよね。動きを止められないだけじゃなくて、対策までされるっていうか……」
「対策?」
「ああ、考えすぎかもしれないけどさ、先読みされた感じになるんだよね。まあ、よくわからんけどさ。失敗する確率が上がるから、同じ相手には2回程度にしてるけど。」
「そうですか。」
「まあ、それはいいとして、女将さんさぁ、鉱山のこと他にも何か聞いたことないかい?」
そうでした、聞き込みするんでしたね。カールとの話に夢中になっていました。
「そこのお嬢さん」
しわがれた…でも心地いい声が背後から聞こえました。
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スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
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英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
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おっさんの異世界建国記
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中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
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