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カールの譚

エンドゥのダメおやじ ==ヨハン視点==

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「どんな魔物が出るか知ってるか?」
「閉鎖される前に聞いた話だから、今はどうなってるかわかんないけど…
 骸骨騎士なんかのアンデットとか、あ、首のない騎士が出たって騒いでた鉱夫が居たね。あと、顔は人間なんだけど胴がライオンで翼があってしっぽには毒針がある魔物に襲われたとかなんとか。それと、たまに町までハーピー……だっけ?空飛ぶ人型の奴が来ることがあるね。そんな時は子供や家畜を外へ出さないようにしてるよ。」
「そりゃぁ、あれだな。掘り進んで古代遺跡とつながっちまったな。」
「じゃあ、ダンジョンですか?」
「たぶんそうだろうな。ギルドもまだダンジョン指定してないみたいだが」
「……ダンジョンか。」
 オットーも乗り気だな。ただの魔物の討伐依頼なら興味は無いが、ダンジョンとなれば話は別だ。ここ10年ほど新たなダンジョンは発見されてない。ダンジョン踏破は全冒険者の夢だ。
「とりあえず、街の冒険者ギルドに一声かけてから覗いてみるか。」
「じゃあ、気をつけてな。」
 あれ、カールは乗り気じゃないのか?
「あ?なに他人事みたいに言ってんだよ?」
「なんで俺も行くていになってるの?」
「だって、狭いダンジョンでは私とヨハンだけでは少々心もとないですし。」
 エリザの言うとおりだ。狭いダンジョンでは投擲系の攻撃は射線が限られるため俺もエリザも相性が悪い。タンク役のカールが不可欠だ。
「そんなことないだろ?鉱山事吹き飛ばせるんじゃない?」
 どういう理屈だ?やっぱり英雄の親族は根本的に考え方が違うのか?
「人を化け物みたいに……、それに吹き飛ばしちゃダメでしょ?」
「いや、別に俺たちが行かなくてもいいじゃん?」
「そうだなぁ。玉鋼あるんじゃねぇ?」
 さすがオットーだな。カールを理解してる。

「……」
「行こうか。」
「良い顔だ。」

 いい意味で単純で助かる。

 バン!!
 勢いよく店の入り口のドアが開く。気の強そうな女がずかずかと店に入ってきた。あたりを見渡すと、酔いつぶれている男を怒鳴りつける。
 
「このクズ!子供たちをどこへやったんだい!!酒の代金に売り飛ばしたんじゃないだろうね!!」
 さっきの子供の母親か。飲んだくれは、据わった目で女房らしき女をにらみつけている。

「なんだと、あんなもんが金になるかよ!大人しく家にすっこんでろ!!」
「とうとうそこまで落ちぶれちまったかい!早く二人を……」

 バン!!
 また店のドアを勢いよく開く。
 
「おい、ロッソ! あ、ゲルダも居るのか。お前らここで何してんだ!!お前らの娘たちがハーピーにさらわれたぞ!」

 女房らしき女がその言葉を聞いて青ざめる。ガタ!と椅子が倒れる音とともに、飲んだくれが勢いよく店から飛び出す。

 ハーピーは獲物をさらうと巣に帰る。おそらく鉱山に向かうだろう。あのロッソとかいう飲んだくれを追えば鉱山に行けるはずだ。
 ロッソは酔っているとは思えないほど確かな足取りで走り続ける。町の通りを人込みをかわしながら走り抜け、町はずれに向かっている。
 目的地の鉱山は、おそらくあの街並みの向こうに見える山にあるのだろう。かなりの距離がある、ハーピーにさらわれたのがついさっきだとしても、人の足で追いつくのは無理だ。
「おい、お前。このままじゃ間に合わんぞ。」
「誰だ!お前は。」
「子供がさらわれたんだろ!急ぐぞ。俺に掴まれ」
「なんだ!」
 ロッソの襟元を左手でつかみ、足に魔力を込めると、周りの景色が一気に後ろに流れる。みるみる山が近づいてくる。

「あぁぁ、おい。なんだよ。なんなんだよお前!」
 しゃべるな。下を噛むぞ。
「だから、なんなんでびゅ!」
 ほら、噛んだじゃないか、
「……黙ってろ」
 エリザが居れば転移が使えるが、俺は使えない。だから魔力で進むしかない。微妙なラインだな。追いつけるか?

 森を抜けてゆくと、採掘用トロッコのレールが見えた。坑道に近づいた。

 上空から降りてくるハーピーが見えた。坑道に向かってくる。
 間に合ったか。ロッソを放り投げる。
「あば!!」
 ちょっと強く放り投げすぎたか。まあいい。それ何処じゃない。今はタイミングが重要だ。ハーピーが坑道に向かって降下してくる。まだ高い。今打つと子供たちは怪我では済まない。が、遅れれば坑道の中に逃げ込まれる。
 ボウガンを構えてチャンスを待つ。あと3m。ボウガンの弦と矢に魔力を込める。2匹のハーピー、その足首と頭を同時に狙う。今だ!
 2匹のハーピーの足首と頭がはじける。子供たちはそのまま地面に転げ落ちる。あの高さなら怪我は無いはずだ。
「おい、ロッソ!子供たちを助けろ!あそこにトロッコがある。あの中に子供を隠して、できるだけ遠くに逃げろ。」
「わ、わかった。」
 ロッソは子供たちに駆け寄ると、二人を抱きしめると、抱え上げトロッコの中に子供たちを匿う。そのままトロッコを押して坑道から遠ざかる。
 背後の坑道から何やら出てくる。まずいな。アンデットだ。それも骸骨騎士か。最悪だ。俺と相性が悪い。が、そうも言ってられない。骸骨騎士のパーツを正確に狙わなければならない。奴らは魔力で各パーツがつながっている。攻撃を受けると、パーツの接続を切り、一旦ばらけて被害を最小限にする。その後、パーツを再構築して復活する。
 だから、ハンマーなどでパーツを粉々に破壊する必要がある。カールのように斬撃に打撃を乗せる攻撃や、エリザの爆撃が効果的だ。
 俺の場合は、パーツをそれぞれ狙わないといけない。敵が多くなってくるとまずいな。トロッコを押すロッソに向かって骸骨騎士が10匹以上向かっている。それぞれの骸骨騎士のパーツを破壊する。俺が一度に打てる矢は7本だ。それだけでは一匹すら再起不能にはできない。ロッソたちを守るのが精いっぱいだ。おそらくカールたちはギルドに行ってからこちらに合流するだろう。それまで持ちこたえられるか?

「ロッソ、急げ。」
「わかってる!あ!」

 ちっ!ハーピーか。まずいな。
 ようし、覚悟を決めるか。

 まずはハーピーだ。6匹か。頭を狙う。
 六匹の頭が吹き飛ぶ。

 次はロッソの後ろに居る3匹だ。足を狙う。
 
 足を失った骸骨騎士は四つん這いになりながら前に進む。残りも同様に足を止める。
 
 四つん這いにもう3匹追加。6匹の頭を狙う。
 よし、ロッソとの間が空いた。今だ。

 「ミリオンダラー!」
 後ろの骸骨騎士たちに魔力の矢を乱れうちにする。これで今いる20匹ほどをせん滅できた。

 骨がはじけ飛ぶ。ひとまずは安心できそうだ。

「ロッソ!大丈夫か!」
「ああ、すまない。」
「父ちゃん!!」
「よかった。ああ、よかった。」

「ここから一旦町に戻るぞ、ロッソ。早く。」
「わかった。」
 坑道から骸骨騎士がこちらの様子をうかがっている。ロッソたちを守りながらでは分が悪い。安全な場所に3人を非難させるのが最優先だ。
 トロッコを押すロッソを追いかけながら、追手を射貫く。この森を抜ければ街の入り口だ。後少し…

 ギヤァァァァ!!!

 この鳴き声は!
 空を見上げると、ハーピーの群れの中心に、ひときわ大きな影が見える。
 グリフォンだ!

 ハーピーも20匹は居る。行けるか?

「待たせた!」
 上空のハーピーたちの群れを影が突き抜けた。途端に、グリフォンもハーピーも区別なく真っ二つになり、肉塊が上から降ってくる。影は着地と同時に坑道へと飛び込む。どんな跳躍力だ。坑道の入り口から砂煙が上がっている。少し遅れて轟音が響く。

「いやいや、やりすぎだな。」
 いつの間にか後ろに居たオットーが呆れがちにつぶやく。
 ふう。ようやく一息つける。やはりこいつらが居るだけで安心感が段違いだ。
「ヨハンお疲れ。相性の悪い相手にここまでやるとは流石だな。」
 オットーが俺の肩をポンと叩く。
 坑道の入り口では、砂煙の中からカールが悠然と歩いてきた。もう片付けたのか。やっぱり化け物だな。
 
「ロッソさんでしたっけ?まずは安全なところまで行きましょう。オットー、3人を町に送ってきますね。」
「ああ、頼む。送り届けたら、またここに来てくれ。取り敢えず全員で中に入ろう。カールに任せると、ダンジョン全部壊しかねんしな。」
 同感だ。
 泣きじゃくる子供たちと、二人をきつく抱きしめるロッソが落ち着くのを待って、エリザが転移魔法で家に送り届ける。
 4人の足元に転移の魔法陣が現れ、4人の体はまばゆく光りかき消える。その様子にカールが質問をぶつける。
「なあ、ここに来るのも転移魔術使えば早かったんじゃねぇか?」
 カールは魔術に関しての知識がほとんどないようだ。オットーが面倒くさそうに答える。
「転移魔術は行き先の状態がわからないと危なくて飛べないんだよ。」
 そう。転移魔術で行き先を間違えて、壁の中に転移したり、底なし沼にはまったりして死亡するケースもある。ましてや今回は初めての場所だ。転移を使わずに飛行魔術を使うのがセオリーだろうな。
「フーン。そんなもんか。」
 あ、カールのやつ考えることを放棄したな。オットーも詳しく教えてやればいいのに、カールに対しては対応が雑だ。まあ、仲がいいからなのかもしれないが。うらやましい限りだ。
「でもヨハンすげーな。あそこに転がってた骸骨騎士、きっちり骨を破壊してるな。さすがだよ。」
「……ああ、そうか。」
 さっきのカールの戦い方を見せつけられた後だと、褒められても素直には喜べないな。

「……で、ギルドはどうだって?」
「ああ、依頼主は領主だった。やっぱり街の財源だからなこの鉱山は。ほっとくわけにはいかなかったんだろうな。こちらとしては一石二鳥だ。エリザが来たら行ってみるか。」
 カールは興味なさそうに聞いている。カールほどの実力があればダンジョン攻略は腕が鳴るもんだと思うがそうでもないんだろうか?ここまで冒険者としての才能に恵まれた人間は居ないと思うが、やはり英雄の家系に生まれた者は、他の一般人とは考え方が違うのだろうか。

「お待たせしました。3人は無事送り届けてきました。じゃあ、行きましょうか。」

 さあ、久々のダンジョン攻略だ。
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