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第三章『地下ダンジョンと禁忌の実験』

十五話『至福の時間』

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「はぁ・・・はぁ・・・」

不思議な奴だ。
オレより遥かに弱ぇ癖に、微塵も諦める気配がねぇ。
魔力も使わねぇ・・・いや、ねぇのか?
これっぽっちも見えねぇ。
・・・奥の手の可能性、か。
警戒するに越したことはねぇな。

「オラオラオラオラ!!!どうしたどうした!!ペットにしてぇんじゃねぇのかよ!!」

「くっははははは!!!」

ただひたすらに笑いながら、血反吐を吐きながら、ただ戦う男。
笑っているようで、泣いているようで、嗤っていた。
・・・この顔だ。
とても、好きな顔だ。
人間から奪った『本』にも書いてあった。
きっと、これが『愛』なんだろう?
きっと、これが『恋』なんだろう?
そうじゃなくても、そうなんだ。
オレがそうと言うんだから、な。

「オレの殺意!!受け取ってくれよ!!!」

「──おらぁ!!!!」

狐と蛇は何かを話しながらこちらを見ている。
オレ達の営みを見られるのは少しイラつくが、アダムが楽しそうだから、いい。
こいつが楽しそうだと・・・なんだか。
オレまで、楽しく──

「ぐふっ!!」

「だはははは!!!!油断してんじゃねぇよ!!」

顎を砕かれる。
瞬間的に治癒を施し、痛みと衝撃を笑みでかき消す。
最初の印象とは真逆の笑い方。
蛇や狐の顔を見ても、その笑い方がいつもと違うのは明らかだった。
──優越感。
自分だけの、特別な。
そんな感情。

「お前、本当に人間かよ」

「半分は辞めてるかもな?」

そう、肩をすくめるアダム。
いい顔だ。
バランスも形も、少し地味だがオレ好みの顔。
身長も同じ程度だろうか。
・・・この男。
やはり、欲しい。

「はぁはぁ・・・クソっ強えなやっぱり・・・」

「なんか隠してんだろ?じゃねーなら、笑えねぇんだろうしな」

「・・・お前も、だろ?」

「──!!いいねぇ!そそるよその顔!!」

オレは、興奮して、狂笑しながら刀を振り上げる。
そして、自分の胸を──

貫いた。

§

何が起きたのか分からなかった。
銀が自ら自分の胸に、錆び付いたなまくら2本で貫いた。
そして気付いたら、僕は空高く打ち上げられていた。

「・・・あぁ、本当に」

月がとても、綺麗だ──
目の前にソレが現れる。
一瞬目の端に映った複数の蝙蝠。
そこから腕と真っ赤な刀が出てきた。
そして避けられない速度で叩き付けられる。
・・・おい。おいおいおい。

『・・・そういう事でしたか』

防御が間に合わず、地面に叩きつけられる。
レヴィは落ち着いた様子で蝙蝠が集まり、元の姿に戻る銀を見て、納得したように目を細めた。

『吸血鬼と狼人のハーフです。見た目には狼人、能力は吸血鬼寄りと言った所でしょうか。アンデットと獣人の血になら、悪魔の血が混じっていてもおかしくありません』

「・・・おぇ・・・ごほっごほっ・・・なる、ほどね」

月を背に、その黒い蝙蝠の翼を広げ、ボサボサたった髪がストレートにまとまり、銀に輝く。
その赤い瞳が僕を獰猛に射抜き、僕はまた、武者震いをする。
美しくて、華やかで。
とても、燃えている。

「・・・人間で勝てる相手ではないぞ。我が主よ」

「・・・そっか。残念だよ」

僕はまだ痛む胸を抑え、銀を見据えた。
その目と目が合い、僕は笑った。
獰猛に、ではなく。
悪魔的に。
耳まで裂けるかのように口を横に延ばし、自慢の白い歯を覗かせ、目に力を込めた。
僕は指輪を全て逆さに付け直す。
指輪の数は、四つ。
全部、乞食の指輪だ。
僕の魔力は普段の100分の1程度まで抑えられるように調整されていた。
うん。ほぼ無いみたいなものだ。
それを全て、逆に。
全ての『貯蓄』を、僕の魔力を。
戻す。

「・・・いいね。殺ろうか」

「最っ高だなお前!!!もうダメだ我慢できない、行くぞ!!!!」

僕は銀と同じように、黒い魔力を纏う。
僕の黒い魔力は、少しだけ雷に侵食されている。
僕も驚いたのだが、雷属性が浸透した、黒い魔力になっているのだ。
だから、例えば。
神雷も、黒くなる。

「──こっちだよ」

銀が驚いた様子を見せずにこちらを見る。
恐ろしい想定力だ。
先読みしていたかのように、僕の方へさらに駆ける。
その速さはつくもに出会う前の僕くらい・・・
今の、半分くらいかな。

「速いな。だが腰が入ってねぇ」

「そりゃね、僕はただ、待ってるだけなんだから」

その言葉に呼応するかのように、それが現れた。
動きながらだと、少し難しいんだ。

「『ケラウノス』」

「・・・すげぇ力だな」

最強の槍。
最強の武器。
最強の、雷。
しかしそれは、前に見たものとは違い、真っ黒な雷と、青い雷で構成されていた。
しかも、黒の割合がでかい。
青い雷がまとわりついてるイメージだ。

「・・・これね、実は操作できないんだ。上手くね」

「・・・え、そうなのか?」

つくもが驚いたように声をあげる。
レヴィは初めて見たものだから興味深そうに、そして忌々しそうに見ている。
まぁ、元はゼウスのだしね。

「手加減が出来ないんだよ。今撃てば・・・ここらは、吹き飛ぶ」

本来なら。
例えば、つくもがこれを使えて、全力の魔力と技術でこれを使うと、世界の表面が全て、マグマになる。
強大な光による熱で、全てが溶けるのだ。
術者によって、威力が変わる。
まぁ、魔力によるということだ。

「・・・決戦、か?」

「力比べかな」

「大得意だぜ。オレはな」

「僕は苦手かな」

お互いに、次の攻撃へ全力を込める。
銀が刀を1本地面へ突き刺し、赤黒くなった1本の刀を上段へ構える。
────え、フール?
一瞬、あの時のフールと姿が被り、戦慄した。
あぁ!!!
なんて、素晴らしいんだ!!
なんでこんなに!!!運がいいんだよ!!!


穿つ奔流ケラウノス

殺す為の一撃マーダーエクスカリバー

そして、2つはぶつかり合った。
それほど激しい攻防はせず、それほど損傷もなく。
ただ、魔力だけがお互いに空っぽで。
ただ、疲れだけがMAXで。

「「いっけえええええええ!!!!!!」」

しかし、2人は。
魂から、叫んだのだった。

「僕が!!!」
「オレが!!!」

──勝つんだ。

§

そこに残ったのは、元々魔物だった『なにか』と、焼け焦げた草原。
そして、膨大な魔力。
オレとアダムは空っぽになった器でそれを吸い込みつつ、オレは辛うじて意識を保っていた。
刀を支えに立ち上がり、アダムへ近付く。
そして、煙に包まれ、世界から遮られている中。
オレは、コイツの唇に──

「・・・お前と見るから、綺麗なんだよ」

煙から覗く月を見上げながら、彼女は呟く。
衝撃と緊張、そして焦燥に倒れたアダムの頭を膝に乗せ、その頭を撫でた。
かつて、本で見たように。
そうして欲しかった、本の内容のように。
優しく、慈愛を込めて。
美しく、想いを込めて。

「・・・よろしくな、旦那様アダム

少女名付けられたモノは、もう一度。
誓いを立てた。
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