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第二章『学園と黒竜』
八話『その鼓動』
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それは、とてつもなく大きく、禍々しく、美しいモノだった。
かつてこの『竜』は、望まぬ敗北を喫し『そこ』へ連れて行かれた。
そこに自由はなかったが、そこには安寧があった。
定期的に広い空間での『食事』があり、段々と力をつけていった。
そのうち、知性を手に入れた『竜』は、己の不自由を作り出している人間に怒りを感じた。
カゴに捕らわれ、自由を奪われ、しかし食事はとらされる。
明らかな『飼い慣らし』は、その竜にとって果てしなく苦痛であった。
産まれて直ぐに捕まり、力の無い状態では抵抗すら許されなかった。
何故か反逆の意思を持つと、意識が乗っ取られるような感覚がした。
「────?」
「──!──!?」
「──」
「────」
透明な壁の向こう側。
そこで、こちらを眺めながら何かを言う人間達。
竜は知らない。
それが、己の自由を決定付ける会話だと。
そして、竜は。
『・・・・・・?』
自由を、手に入れた。
その心中は計り知れない。
怒り、困惑、恨み、恐怖。
そして、歓喜。
震えるほどの、歓喜。
心の臓腑が、高らかに鳴り響いた。
§
「いやー楽勝だったね!」
「そうだね。手応えはなかったなぁ」
『早く来い!クッキーサンドとやらを食べるぞ!』
全ての試合が終わり、僕達は寮へ戻っていた。
クラスごとに寮は別れ、Sクラスにはそれなりに広い部屋が宛がわられる。
そして、僕とフールはほぼ一緒に暮らしていた。
まぁ、良いんだけど?
荷物持ってきて「泊めて!4年くらい!」とか言うものだから、びっくりしてしまった。
泊まるのは別に禁止されていないし、他の男の人の部屋に女の人が出入りしてる所も見ている。
問題は無いだろう。
「ほらこれ!キャラメルクッキーサンドと、チョコクッキーサンド!凄くない!?わざわざ買ってきて研究したの!」
素直にすごい。
僕はそれを食べ、感心しながら目を丸くする。
つくもも気に入っているようだ。
「凄い!さすがフールだ!」
「貴様は才能があるな・・・」
「えへへ~そう~?」
照れながら3人分コーヒーを淹れるフール。
それを僕達が座っている丸い木の机に置き、一緒に食べ始めた。
サクサクとしたクッキーに、濃い甘さのキャラメルやチョコレート。
普段の料理も美味しいのに、間食まで完璧とは・・・
やはり、フールは最高だ。
そんなことを思ってると、こんな事を言われた。
「アダム、生徒会の人の話聞いてきたんだけど、なんか私じゃなくて、アダムを推薦したかったらしいよ?」
「?じゃなんで直接僕に話を持ってこなかったの?」
「私達が行っても断れるだろうから、だってさ」
なるほど、キチンと分かっている。
あの日僕の実力はその場に居た全員にバレているし、その噂だって生徒や先生からも広まっているだろう。
あの場に生徒会のメンバーが居てもおかしくない。
しかしまぁ、フールを使うとは・・・
恐らく、他国からの留学生だし、皇魔騎士団のメンバーでもあるから、少し目を付けていたんだろう。
で、僕と行動しているのを見た、とかかな。
「やっぱり、フールも誘われた?」
「うん!でもやっぱり2人で考えないとなぁって!」
「そうだね・・・」
生徒会。
それは、学園の風紀を守ったり、他国の学園との連絡やイベントの誘いをしたり、受けたりする業務が殆どらしい。
他にも学園の予算に応じた必要な道具を買い揃えたり・・・などなど。
来賓の方への連絡なども業務のうちだ。
正直入る意味がわからない。
ただ、一つだけ利点がある。
「・・・下層への通行許可、か」
「やっぱり気になる?別に行っちゃいけない訳じゃないけど、それが一番の近道だとは思うんだよね~」
生徒会には原則Aクラス以上が入ることになっている。
それも、Aクラスに至っては序列3位までしか入れない。
つまり、その戦力の高さは約束されているのだ。
だから、ここの地下に眠る地下ダンジョンの現在発見されている最下層までの『近道』を許されているのだ。
現在見つかっている層は37層。
かなりの近道は間違いない。
・・・まぁ暇だし、やってもいいかもね。
「僕はやってみてもいいと思うよ。地下迷宮には結構興味あるし」
「うーん・・・アダムが入るならボクも入るけど・・・」
少し悩ましい顔をする。
この前言っていた『僕との時間』が減るのを嫌がっているのだ。
全く。可愛い奴め。
「この迷宮に名はあるのか?」
ふと、思い付いたようにつくもが聞いてきた。
今は人間形態でクッキーサンドを食べていた。
「たしか、無限迷宮?だったかな。ここまで深いダンジョンもそんなに無いし、最下層が見つかってないってことは『成長』しているのかもしれない」
「なるほどな。なれば貴様らの魔具も新層ならば見つかりやすい訳だ」
「それもあるけど、新層を見つけると武神祭の参加権が得られるんだよね。戦わなくても」
武神祭とは、各国の学園から強者を集め、数々の来賓の前でその武勇を競うもの。
そこでの優勝は、将来の安定へ繋がる。
「さてと、そろそろ寝よ──」
ドクン、ドクン。
音が、聞こえた。
鼓動が、聞こえた。
そして、強大な魔力・・・
これは、これはまさか・・・!
「黒、竜・・・!」
その名を呼んだ瞬間。
遠くの方から、返事が聞こえた気がした。
かつてこの『竜』は、望まぬ敗北を喫し『そこ』へ連れて行かれた。
そこに自由はなかったが、そこには安寧があった。
定期的に広い空間での『食事』があり、段々と力をつけていった。
そのうち、知性を手に入れた『竜』は、己の不自由を作り出している人間に怒りを感じた。
カゴに捕らわれ、自由を奪われ、しかし食事はとらされる。
明らかな『飼い慣らし』は、その竜にとって果てしなく苦痛であった。
産まれて直ぐに捕まり、力の無い状態では抵抗すら許されなかった。
何故か反逆の意思を持つと、意識が乗っ取られるような感覚がした。
「────?」
「──!──!?」
「──」
「────」
透明な壁の向こう側。
そこで、こちらを眺めながら何かを言う人間達。
竜は知らない。
それが、己の自由を決定付ける会話だと。
そして、竜は。
『・・・・・・?』
自由を、手に入れた。
その心中は計り知れない。
怒り、困惑、恨み、恐怖。
そして、歓喜。
震えるほどの、歓喜。
心の臓腑が、高らかに鳴り響いた。
§
「いやー楽勝だったね!」
「そうだね。手応えはなかったなぁ」
『早く来い!クッキーサンドとやらを食べるぞ!』
全ての試合が終わり、僕達は寮へ戻っていた。
クラスごとに寮は別れ、Sクラスにはそれなりに広い部屋が宛がわられる。
そして、僕とフールはほぼ一緒に暮らしていた。
まぁ、良いんだけど?
荷物持ってきて「泊めて!4年くらい!」とか言うものだから、びっくりしてしまった。
泊まるのは別に禁止されていないし、他の男の人の部屋に女の人が出入りしてる所も見ている。
問題は無いだろう。
「ほらこれ!キャラメルクッキーサンドと、チョコクッキーサンド!凄くない!?わざわざ買ってきて研究したの!」
素直にすごい。
僕はそれを食べ、感心しながら目を丸くする。
つくもも気に入っているようだ。
「凄い!さすがフールだ!」
「貴様は才能があるな・・・」
「えへへ~そう~?」
照れながら3人分コーヒーを淹れるフール。
それを僕達が座っている丸い木の机に置き、一緒に食べ始めた。
サクサクとしたクッキーに、濃い甘さのキャラメルやチョコレート。
普段の料理も美味しいのに、間食まで完璧とは・・・
やはり、フールは最高だ。
そんなことを思ってると、こんな事を言われた。
「アダム、生徒会の人の話聞いてきたんだけど、なんか私じゃなくて、アダムを推薦したかったらしいよ?」
「?じゃなんで直接僕に話を持ってこなかったの?」
「私達が行っても断れるだろうから、だってさ」
なるほど、キチンと分かっている。
あの日僕の実力はその場に居た全員にバレているし、その噂だって生徒や先生からも広まっているだろう。
あの場に生徒会のメンバーが居てもおかしくない。
しかしまぁ、フールを使うとは・・・
恐らく、他国からの留学生だし、皇魔騎士団のメンバーでもあるから、少し目を付けていたんだろう。
で、僕と行動しているのを見た、とかかな。
「やっぱり、フールも誘われた?」
「うん!でもやっぱり2人で考えないとなぁって!」
「そうだね・・・」
生徒会。
それは、学園の風紀を守ったり、他国の学園との連絡やイベントの誘いをしたり、受けたりする業務が殆どらしい。
他にも学園の予算に応じた必要な道具を買い揃えたり・・・などなど。
来賓の方への連絡なども業務のうちだ。
正直入る意味がわからない。
ただ、一つだけ利点がある。
「・・・下層への通行許可、か」
「やっぱり気になる?別に行っちゃいけない訳じゃないけど、それが一番の近道だとは思うんだよね~」
生徒会には原則Aクラス以上が入ることになっている。
それも、Aクラスに至っては序列3位までしか入れない。
つまり、その戦力の高さは約束されているのだ。
だから、ここの地下に眠る地下ダンジョンの現在発見されている最下層までの『近道』を許されているのだ。
現在見つかっている層は37層。
かなりの近道は間違いない。
・・・まぁ暇だし、やってもいいかもね。
「僕はやってみてもいいと思うよ。地下迷宮には結構興味あるし」
「うーん・・・アダムが入るならボクも入るけど・・・」
少し悩ましい顔をする。
この前言っていた『僕との時間』が減るのを嫌がっているのだ。
全く。可愛い奴め。
「この迷宮に名はあるのか?」
ふと、思い付いたようにつくもが聞いてきた。
今は人間形態でクッキーサンドを食べていた。
「たしか、無限迷宮?だったかな。ここまで深いダンジョンもそんなに無いし、最下層が見つかってないってことは『成長』しているのかもしれない」
「なるほどな。なれば貴様らの魔具も新層ならば見つかりやすい訳だ」
「それもあるけど、新層を見つけると武神祭の参加権が得られるんだよね。戦わなくても」
武神祭とは、各国の学園から強者を集め、数々の来賓の前でその武勇を競うもの。
そこでの優勝は、将来の安定へ繋がる。
「さてと、そろそろ寝よ──」
ドクン、ドクン。
音が、聞こえた。
鼓動が、聞こえた。
そして、強大な魔力・・・
これは、これはまさか・・・!
「黒、竜・・・!」
その名を呼んだ瞬間。
遠くの方から、返事が聞こえた気がした。
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