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第一章『雷の可能性』

八話『神に名を連ねる存在』

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『空狐』

それは、3000の時を生きた狐に与えられる称号。
神通力を操る、神の如き最強の狐。
白銀に輝くその体の後ろに、尾が見える。
無数に蠢く、100をゆうに超えるであろうその尾。
絶望を体現しているかのような、そんな光景だった。

「・・・・・・空狐、か。3000以上生きてんじゃないのか?」

『その通りだ。だが、残念ながらこの世には──私を指す言葉が存在しない』

この狐は。
間違いなく、全ての神狐より、強い。
数万年、数十万年を生きている筈だ。
1000年で一本の尾が増えると言われている神狐だ。
少なくとも、十万は生きている。

『我が真の姿。見れたことを幸福に思え』

「・・・あぁ、そうだな。ありがてぇや」

『ふん。食えない男だ』

腕は肘から先は既に無い。
足も──もう動かない。
喰われるか──殺されるか。
覚悟を決めた。
そして、僕は──
狐へ、歩を進めた。

死ぬための戦いを殺すための戦いを

始めよう。

§

『ほう。まだ向かうか』

この力量差を見てなお、その瞳から戦意は消えない。
腕が燃え落ち、足が言うことを聞かない筈だ。
なのに。
コイツは──!!
私に!!この『九十九』に!!
向かってくるのか!!

『なんと、なんとなんとなんと!!見事だ!見事だぞ人間!!!』

「──へっ。うるせぇよクソ狐」

不敵な笑みを浮かべる人間。

『貴様の名を聞いていなかった。教えてくれやしないか』

「──アダム」

そう、短く答える。
その名に、震えた。
かつて、私の窮地を救ったあの男──
勇者よりも前に、認めた男。
そいつと、同じ名前。
まさか、こいつは──

『重ねて、面白い!!』

あの男の言うことを聞いて良かった。
この男を待っていて良かった。
私は今。
この魂が叫ぶほどには。
興奮、している。

『手加減は出来ないぞ。人間』

「──望むところだ!化け物!」

一貫して、化け物と呼ぶか。 
自らと同じ土俵だと、断定するか。
その意気やよし。
私も、応えねば──

§

「──くっ」

奥歯を噛み締める。
血が流れている。
身体中が死にかけている。
痛い。死ぬほど痛い。
だがそれよりも。
目の前の絶望が。
目の前の恐怖が。
愛おしくて、たまらない。

「・・・ゼウス。ごめんな」

『──汝、まさか』

「『凶雷』『鳴雷』『纏雷』『神雷』」

腕が無いなら。
痛みで頭が回らないなら。
戦う力がないなら。

「──作ればいい、だろ?」

の腕を掲げ、握る。
で支えた足で、踏みしめる。
を使って、頭を回す。
が、力になる。

『・・・よもや、ここまでとは』

「死ぬ気で行くぜ。化け物」

まだ、負けてない。
まだ、戦える。
まだ、死んでない。

まだ、俺は生きている!!!

「はぁああああ!!!」

駆ける。
駆け抜ける。
先程の比ではない速度で、駆ける。
無数の尾が『俺』目掛けて迫る。
だが、無限ではない。
速度で、抜ける。
その包囲を、その攻撃を、避けない。
通り抜ける。
もはや、反応という次元ではなかった。
もはや、速度という次元ではなかった。
ただ、駆けた。

「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」

『そうまでするか!!化け物め!!!!』

勝つんだ。
誰にも負けないんだ。
僕は、もう。
大切なものを、失わない。
誰にも、何にも負けない。

「『命、雷』ッ!!!」

ゼウスを纏う。
これ以上は・・・死ぬ。
確実に、死ぬ。

『・・・よくぞここまで。見事だ。アダムよ』

ゼウスの声が頭に響く。
あぁ、頑張ったよな。
俺は。頑張ったよな。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあああああぁああああああああああああああぁぁぁああああああああああぁぁぁああああああああああぁぁぁああああああああああぁぁぁああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!」

駆けた。
駆け抜けた。
走り、走り、走り。
終わりの時は、来る。

『おおぉおおおお!!!』

狐の尾が全て、収束する。
捕まえられない。
受け止めるつもりだ。

どうでもいい。

何より早く。
何より強く。
それはまさに。
その輝きはまさに。







──『雷の魔法最弱の魔法










世界から音が消えた。
世界から闇が消えた。
それは、きっと。
彼の光。
彼の命。
彼の、戦意。
眩き、生命の咆哮。

「つくもおおおおお!!!」
『──来るがいい!!!アダム!!!』

そうしてそれは。
終わりを迎える。

§

『俺達で、俺達を守ろう!』
『うん!私も・・・ボクも、守る!』
『僕も守る!!』

僕らは、3人だった。
僕らは山奥で、3人で暮らしていた。
僕らは、幸せだったんだ。

『なぁなぁ!12歳になったら、街へ行こうか!』
『でも、街は怖いんじゃないの?』
『そんなことないよ!大丈夫!俺がついてるから!』
『僕もいるよ!フールは僕達で守るから!』

彼は──とても、強かった。
誰よりも僕達を想ってくれていた。
僕は彼を、兄のように、父のように、慕っていた。
フールもきっと、そうだろう。
そして、その幸せは。
呆気なく、消え去った。
彼は、あの、ドラゴンに──

『強くなるんだアダム!フールを!大切なものを守れるように!』

そう、笑顔で言った親友。
そう言って、死んで逝った親友。
僕を庇い、喰われてしまった親友。
──僕は。

守ると、決めたんだ。
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