上 下
128 / 229
冬休み[クリスマス]

第108話 クリスマスイブ (9)

しおりを挟む
 ――クリスマスイブ カフェ&ライブハウス BURN

 駿、幸子、ジュリア、ココア、キララの五人は、ライブハウスで開催されているクリスマスパーティに参加している。

「さっちゃん、ゴメンって~」

 幸子に、両手を合わせて謝っている駿。

「駿くんは、レイカさんのところにでも行けばイイんじゃないですか?」
「さっちゃ~ん」

 幸子は、そっぽ向いてしまう。

「ご、ごめんね、さっちゃん、ちょ、ちょっと調子乗っちゃった……」
「あーしもつい余計なことを……」
「えへへ、さっちゃんのオッパイ揉んじゃった~」
「ココア!」

 キララとジュリアがココアを叱る。

「ご、ごめんなさ~い……」
「ココアさんたちもヒドいです! もう!」

 ご機嫌斜めなままの幸子。

「あ! じ、じゃあ、私ケーキ持ってくるよ! 新しいのが出てたから!」
「あーしも! キララ、あ、あーしも一緒に行く!」
「わ、私、飲み物取って来る~」

 三人は幸子のご機嫌を伺うべく、デザートコーナーへと向かっていった。
 テーブルでふたりきりになる駿と幸子。

「あの……さっちゃん……」
「なんですか……」

 幸子は、駿をじとーっと見つめた。

「ちょっとだけ、お話が……」

 幸子の顔色を伺い、モジモジしている駿。

「ぷっ……まったくもう! はい、なんでしょうか?」

 そんな駿を見て思わず吹き出し、幸子は笑顔で駿と向かい合った。

「あのね、さっちゃん……その……」

 幸子は笑顔が見られると思っていたが、なぜか駿はまだモジモジしている。

「えーと……」

 顔がどんどん赤くなっていく駿。

「駿くん……?」

 駿は、ポケットから小さな包みを取り出した。
 ピンクのリボンで飾られた、白いかわいい包みだ。

「あの……もらってくれないかな……」
「えっ……?」

 チラチラとデザートコーナーを確認する駿。
 キララたちは、まだ向こうでワイワイやっていた。

「さっきのリングは、友達としてのプレゼントでね……その……」

 意を決したように顔を上げ、幸子を見つめる駿。

「これはオレの個人的なさっちゃんへのプレゼント……」
「わ、私に……?」
「気に入ってくれるか分からないけど……もらってくれたら嬉しい」
「あ、開けていいですか……?」
「うん」

 リボンを解き、包みを開けると、高級ブランドのリップが入っていた。
 しかも、ケースに『SACHIKO』と刻印までされている。

「駿くん、これ……」

 苦笑いした駿。

「ゴメンね、リップが精一杯なんだ。そのうち、もっといいのを――」

 幸子は、首を左右に振り、言葉を被せる。

「これ以上いいものなんて無いよ……私なんかのために、本当にありがとう……」

 声を震わせて涙を浮かべる幸子に、駿は優しく微笑んだ。
 そして、幸子も意を決したように顔を上げる。

「駿くん!」
「は、はい!」
「あのね……わ、私も……」

 自分のポシェットからスカイブルーの小さな包みを取り出した。
 白いリボンがかけられている。

「どうしても勇気が出なくて……渡すのは諦めようって、思っていました……」
「さっちゃん……」
「駿くん……私からのクリスマスプレゼント、もらっていただけませんか……?」
「喜んで! 開けていいかな?」
「はい、喜んでいただければいいのですが……」

 リボンを解き、スカイブルーの包装紙を開くと、無地の白い箱が出てきた。
 そして、箱の中には、小さな木の箱が入っている。
 そこには『SHUN』と刻印されていた。

「オレの名前!」

 手に取り、そっと蓋を開ける。
 そこには木製のピックが三枚入っていた。
 そのすべてに『SHUN』の刻印がされている。

「木製ピックだ……! さっちゃん、ありがとう!」
「お小遣いで買える範囲のものなので、良いものかどうか分かりませんが……」
「そんなの関係ないよ! さっちゃんからのプレゼントだもの! これ使わせてもらうね! あっ、その時は、さっちゃんにも聴いてもらうからね!」
「はい! 楽しみにしています!」

 ふと、デザートコーナーに目をやる駿。

「や、やばい、アイツらが帰ってくる……さ、さっちゃん!」
「はい! か、片付けましょう……!」

 ふたりは、慌ててお互いのプレゼントをしまった。

「はい、さっちゃん! お待たせー……って、随分ご機嫌ね」

 鋭いツッコミを入れるキララ。

「そ、そんなことないですよ……」
「ね、キララ、言った通りでしょ?」
「そうね、ジュリアの言った通りね」
「えっ? 何がですか?」
「うふふ~、駿とふたりきりにしとけば、さっちゃんの機嫌良くなる~って」
「だから、中々帰ってこなかったんですか⁉」

 ニヤニヤしながら幸子を見つめるジュリア。

「なんかふたりでコソコソしているから、お邪魔しちゃ悪いかなぁって」
「だって、近寄れない雰囲気だったもんね」
「そのまま帰っちゃおうかと思っちゃった~」

 駿は、何とも言えない表情をしながら頭を抱えた。

「え……あの……と、とにかく、ケーキ食べましょう!」

 照れる幸子の様子を見て、ケラケラ笑っている三人。

(まさか、さっちゃんもオレのために用意してくれていたとは……まぁ、オレもプレゼント渡せたからいっか……)

 幸子は、また三人から揉みくちゃにされていた。

(こんなフニャチン野郎でも、勘違いしちゃっていいのかな……)

 じゃれ合う幸子たちを見て、駿はひとり複雑な表情で微笑んだ。

 ◇ ◇ ◇

「みんな、もう八時になるけど、時間は大丈夫?」
「うん、私は大丈夫だよ」
「あーしも」
「私もOKです~」
「さっき、お母さんに連絡入れたので、まだ大丈夫です」

 デザートもたくさん食べ、みんなコーヒーで一息ついているところだ。

「じゃあ、どうしよっか。カラオケでも行く? イブだし、混んでるかな……?」

 ニヤリと笑うジュリア。

「ねぇ、駿。さっき、ウチらでこの後のことをちょっと話したんだけど……」
「うん、ステージワン(複合大型娯楽施設)でもいいぞ。ダーツでもやるか?」
「みんなでダラダラとダベりたいなぁと……」

 キララがリクエストを出した。

「んじゃ、いつものカフェレストランでドリンクバーがいいかな? ここにいてもいいし」

 にっこり笑ったココアが顔を近づけてくる。

「駿の部屋に行きたいなぁ~」

 驚く駿。

「えっ、ウチ⁉」
「ほら、イブの夜を男の子の部屋で過ごすって、ステキじゃない」

 キララは、夢見る少女だった。

「い、いや、男の子ったってオレだし、しかもあの狭い部屋だぞ……」
「そこは我慢すっから」

 ジュリアは、現実的だった。

「我慢するくらいなら来んなっつーの……」

 苦笑する駿。

「でも、ステキな思い出になるよね~……駿、ダメ~……?」
「う~ん……あっ! でも、ほら、さっちゃんはボウリングとかの方が――」
「駿くんのお部屋に行きたいです!」

 幸子は即答した。

「ほーら、あーしたちだけじゃなくて、さっちゃんも行きたいって!」
「マジか……」

 頭を抱える駿。

「わかったよ……そんじゃ、ウチ行くか」
「やった~っ!」

 四人は歓声を上げた。
 小さくため息をつく駿。

「ちょっと、駿! あーしたちみたいな美少女が、アンタの部屋に遊びに行くんだから! ちょっとは喜びなさいよ!」
「ばんざーい……」
「何かムカつくんですけどー……」

 ジュリアは、人差し指を駿の頬に押し当てて、グリグリした。

「まぁまぁ、ジュリアいいじゃない。駿も快諾してくれたんだし」
「そうそう、気の変わらないうちに早く行こう~」
「二回目ですけど、やっぱりドキドキしちゃいますね!」

(四人が喜んでくれるなら、いっか……)

「よし! みんな支度しておいて!」
「は~い」

 帰り支度を始める四人。
 駿は、そのすきにテーブルの食器類を片付け始めた。

「あっ、いいよ、私やるから……」

 駿の行動を察して、キララは席を立とうとしたが、駿はそれ制止する。
 三人は気付いていないようだったので、コソッと話した。

「こっちは大丈夫だから……」
「いや、だって……」
「今日はそういう日ですよ、キララお嬢様……」

 駿は、クククッと笑い、食器類を乗せた銀トレイを持ってバーカウンターへ向かっていく。

(まったく、あの天然女たらしは……まいったわね……)

 頬を赤く染めつつも、複雑な表情を浮かべるキララ。

「キララさん……?」

 幸子が心配そうな顔をして、キララを見ていた。

「ん? 何でもないよ! さ、早く支度しちゃお」
「はい!」

しおりを挟む

処理中です...