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第五部 晴天帰路
150 創世神の娘
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俺はアダマスにいる時に限って、魔力が無限になる。
アダマス以外の場所では魔力の上限があり、魔力の最大値も場所で上下する。
災厄魔が闊歩するこの時代、まだアダマスという国はどこにもない。魔力が減るのは当たり前なのに、つい、いつもの感覚で魔法を使ったのだ。枯渇するのは仕方ない。
くわえて、光の災厄のニョロニョロは、生命力やら魔力を吸い出すようだ。
精霊に昇華したものの、その厄介な効果は残っており、残りの俺の魔力を吸い出していた。ゼロを下回ってマイナスになる数値。魔力がマイナスになる現象なんて、初めて見たぜ。
「……目が覚めたかい?」
ベッドに横たわる俺をのぞきこんでいる、心菜と……クロノア?
「僕の時間を操る魔法で、君の状態がこれ以上悪くならないよう病状を停止させたよ。君はよほど遠くの未来から来たんだね。自分の時代から離れれば離れるほど、存在は不安定になり魔力は暴走する。覚えておいた方がいい」
「お前に助けられたのかよ……」
「不満そうだね」
クロノアは不思議そうにしている。
不満というか、あまりに予想外過ぎてなんとコメントしていいか分からないだけだ。
俺が上半身を起こすと、クロノアは「ごゆっくり~」と言って部屋を出ていった。
改めて見回すと、そこは木の匂いのする部屋だった。
どうやら世界樹の中にある建物の一部らしく、床や壁に木の根っこが這っている。明かりは光る花だ。窓からは雲をまとう樹海が見渡せた。
「枢たん!」
心菜がひしっと抱きついてくる。
俺はしがみついてくる彼女の頭を撫でた。
視界の端で自分のステータスを確認した。
魔力の数値は100前後で、上がったり下がったりしている。マイナスは脱したものの、まだ予断を許さない状態らしい。
道理で体が重い訳だ。
「ここって聖域か?」
「はい。マナが連れてきてくれました」
心菜いわく、俺が一向に目を覚まさないから色々不安になったらしい。あれから丸一日以上経っているそうだ。
「未来のアダマスに帰れば、自分で状態異常を治せるんだけどな。しかし……」
いつもダンジョンの底の、狭間の扉を利用して時空を移動していた。
その肝心な狭間の扉がどこにあるか分からない。
「枢たんは安静にしていてください! 心菜がマナと一緒に、狭間の扉を探します」
「大丈夫かよ。また間違って扉をぶったぎって漂流しないだろうな?」
「うう、扉を見つけても何もしないと約束しますぅ」
自分が原因で過去に移動してしまったと分かっているらしい。心菜は慎重に行動すると宣言した。
こうなったら任せるしかないか。
あれから数日経った。
相変わらず、俺の魔力は100前後で、それ以上回復する様子はない。
多少だるさは残るものの、俺は起き出してリハビリがてら世界樹を散歩することにした。
心菜は日中、マナと連れだって出掛けている。白い狼に乗って世界中を巡り、狭間の扉を探しているのだ。
俺も行きたいが、魔力が100前後だと得意な光盾も出せない。自動防御スキルも魔力を食うので、今は使っていなかった。モンスターが出たら心菜の足手まといになる。
「考えてみれば今の俺のステータスは、一般人と変わらないんだよな。これはこれで新鮮だ」
世界樹の中腹にある女神が住まう城は、標高が高い。
空中に張り巡らされた通路は、下を見ると空中で、高所恐怖症の奴なら身動きできないこと請け合いだ。
俺も今は魔法が使えないので、ちょっと怖い。
仕方なく吊り橋の先にあるという妖精の街に行くのは諦めて、螺旋階段を登って食堂や屋上を出入りする。
すれ違う神様連中とは適当に挨拶を交わした。
「カナメさん、こっちこっち!」
屋上では勇者アレスが剣の修行をしている。
どさくさ紛れに聖域まで付いてきたらしい。
「毎日、素振りなんてよく続けられるな。俺なら途中で飽きるわー」
「無心になって剣を振るのは楽しいですよ?」
アレスは、女神の膝元である聖域に来られて感激している。
最近は武神に弟子入りしようと頑張っているらしい。
「カナメお兄ちゃん!」
「うわっ」
背後から幼女が飛び付いてくる。
俺はつんのめった。
「びっくりしたー? ねえ、びっくりしたー?」
「……頼むから背後から強襲するのは止めてくれ、テナー」
苦労して幼女を引き離すと、俺は振り返って言い聞かせた。
そこには白い髪の少女がニコニコ笑顔で立っている。
「ねえ、暇なら遊ぼ!」
「俺は暇じゃないし……」
聖域に来てから、なぜか敵のはずのテナーになつかれてしまった。
このテナーは未来で俺と敵対すると知らないから、仕方ないんだが。
「カナメさん、大人げないですよ」
勇者アレスにたしなめらる。
これでテナーを無視したら、俺が悪いみたいじゃないか。
「……なんの遊びだよ?」
「じゃーん、カードゲーム!」
テナーは、カードの束を取り出した。
絵柄はトランプよりかは、タロットみたいな雰囲気だ。
俺は仕方なく、その辺の切り株に腰を落とし、テナーの並べる札を眺めた。
「伏せてあるやつをめくれば良いのか?」
「うん!」
「じゃあこれ」
俺がめくると、カードが表になって、綺麗な花の絵が現れた。
同時にポン! と音を立てて空中に花が咲いた。
「っ!」
ひらひら花びらが舞う。
「いきなり花が出た……?」
後ろで見ていたアレスが仰天していた。
「……それがテナーの能力なんだ」
いつの間にか、クロノアが近くに立っていた。
「テナーは創世神の娘だから、思うだけで色々なものを創造できる」
「えっ、何そのチート能力」
考えたことが本当になる能力か。
普通に欲しいな。
「問題も多くてね。この間、台所を爆発させたのもそうだけど……前は、お月様が欲しいと駄々をこねたんだ。月が地上に落ちてきそうになって、女神様は月を押し上げるのと、地上に影響ないように偽装工作するのでキリキリまいだったよ」
「へ、へえー」
便利な能力も、度がすぎると不便だな。
その時は俺は暢気にそう考えていた。
テナーがいかに危険か、そのとてつもない力が大きな災いを引き起こすのだと、想像もできずにいた。
アダマス以外の場所では魔力の上限があり、魔力の最大値も場所で上下する。
災厄魔が闊歩するこの時代、まだアダマスという国はどこにもない。魔力が減るのは当たり前なのに、つい、いつもの感覚で魔法を使ったのだ。枯渇するのは仕方ない。
くわえて、光の災厄のニョロニョロは、生命力やら魔力を吸い出すようだ。
精霊に昇華したものの、その厄介な効果は残っており、残りの俺の魔力を吸い出していた。ゼロを下回ってマイナスになる数値。魔力がマイナスになる現象なんて、初めて見たぜ。
「……目が覚めたかい?」
ベッドに横たわる俺をのぞきこんでいる、心菜と……クロノア?
「僕の時間を操る魔法で、君の状態がこれ以上悪くならないよう病状を停止させたよ。君はよほど遠くの未来から来たんだね。自分の時代から離れれば離れるほど、存在は不安定になり魔力は暴走する。覚えておいた方がいい」
「お前に助けられたのかよ……」
「不満そうだね」
クロノアは不思議そうにしている。
不満というか、あまりに予想外過ぎてなんとコメントしていいか分からないだけだ。
俺が上半身を起こすと、クロノアは「ごゆっくり~」と言って部屋を出ていった。
改めて見回すと、そこは木の匂いのする部屋だった。
どうやら世界樹の中にある建物の一部らしく、床や壁に木の根っこが這っている。明かりは光る花だ。窓からは雲をまとう樹海が見渡せた。
「枢たん!」
心菜がひしっと抱きついてくる。
俺はしがみついてくる彼女の頭を撫でた。
視界の端で自分のステータスを確認した。
魔力の数値は100前後で、上がったり下がったりしている。マイナスは脱したものの、まだ予断を許さない状態らしい。
道理で体が重い訳だ。
「ここって聖域か?」
「はい。マナが連れてきてくれました」
心菜いわく、俺が一向に目を覚まさないから色々不安になったらしい。あれから丸一日以上経っているそうだ。
「未来のアダマスに帰れば、自分で状態異常を治せるんだけどな。しかし……」
いつもダンジョンの底の、狭間の扉を利用して時空を移動していた。
その肝心な狭間の扉がどこにあるか分からない。
「枢たんは安静にしていてください! 心菜がマナと一緒に、狭間の扉を探します」
「大丈夫かよ。また間違って扉をぶったぎって漂流しないだろうな?」
「うう、扉を見つけても何もしないと約束しますぅ」
自分が原因で過去に移動してしまったと分かっているらしい。心菜は慎重に行動すると宣言した。
こうなったら任せるしかないか。
あれから数日経った。
相変わらず、俺の魔力は100前後で、それ以上回復する様子はない。
多少だるさは残るものの、俺は起き出してリハビリがてら世界樹を散歩することにした。
心菜は日中、マナと連れだって出掛けている。白い狼に乗って世界中を巡り、狭間の扉を探しているのだ。
俺も行きたいが、魔力が100前後だと得意な光盾も出せない。自動防御スキルも魔力を食うので、今は使っていなかった。モンスターが出たら心菜の足手まといになる。
「考えてみれば今の俺のステータスは、一般人と変わらないんだよな。これはこれで新鮮だ」
世界樹の中腹にある女神が住まう城は、標高が高い。
空中に張り巡らされた通路は、下を見ると空中で、高所恐怖症の奴なら身動きできないこと請け合いだ。
俺も今は魔法が使えないので、ちょっと怖い。
仕方なく吊り橋の先にあるという妖精の街に行くのは諦めて、螺旋階段を登って食堂や屋上を出入りする。
すれ違う神様連中とは適当に挨拶を交わした。
「カナメさん、こっちこっち!」
屋上では勇者アレスが剣の修行をしている。
どさくさ紛れに聖域まで付いてきたらしい。
「毎日、素振りなんてよく続けられるな。俺なら途中で飽きるわー」
「無心になって剣を振るのは楽しいですよ?」
アレスは、女神の膝元である聖域に来られて感激している。
最近は武神に弟子入りしようと頑張っているらしい。
「カナメお兄ちゃん!」
「うわっ」
背後から幼女が飛び付いてくる。
俺はつんのめった。
「びっくりしたー? ねえ、びっくりしたー?」
「……頼むから背後から強襲するのは止めてくれ、テナー」
苦労して幼女を引き離すと、俺は振り返って言い聞かせた。
そこには白い髪の少女がニコニコ笑顔で立っている。
「ねえ、暇なら遊ぼ!」
「俺は暇じゃないし……」
聖域に来てから、なぜか敵のはずのテナーになつかれてしまった。
このテナーは未来で俺と敵対すると知らないから、仕方ないんだが。
「カナメさん、大人げないですよ」
勇者アレスにたしなめらる。
これでテナーを無視したら、俺が悪いみたいじゃないか。
「……なんの遊びだよ?」
「じゃーん、カードゲーム!」
テナーは、カードの束を取り出した。
絵柄はトランプよりかは、タロットみたいな雰囲気だ。
俺は仕方なく、その辺の切り株に腰を落とし、テナーの並べる札を眺めた。
「伏せてあるやつをめくれば良いのか?」
「うん!」
「じゃあこれ」
俺がめくると、カードが表になって、綺麗な花の絵が現れた。
同時にポン! と音を立てて空中に花が咲いた。
「っ!」
ひらひら花びらが舞う。
「いきなり花が出た……?」
後ろで見ていたアレスが仰天していた。
「……それがテナーの能力なんだ」
いつの間にか、クロノアが近くに立っていた。
「テナーは創世神の娘だから、思うだけで色々なものを創造できる」
「えっ、何そのチート能力」
考えたことが本当になる能力か。
普通に欲しいな。
「問題も多くてね。この間、台所を爆発させたのもそうだけど……前は、お月様が欲しいと駄々をこねたんだ。月が地上に落ちてきそうになって、女神様は月を押し上げるのと、地上に影響ないように偽装工作するのでキリキリまいだったよ」
「へ、へえー」
便利な能力も、度がすぎると不便だな。
その時は俺は暢気にそう考えていた。
テナーがいかに危険か、そのとてつもない力が大きな災いを引き起こすのだと、想像もできずにいた。
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